仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

77 / 163
次回でこの話は終わりとなります。


アナザーギンガ✕✕✕✕

 アナザーギンガ。もしかしたら、と思っていたアナザーライダーがジオウⅡたちの前に現れる。

 

「誰だ? お前……?」

 

 アナザーザビーがアナザーギンガにそう声を掛けた。協力関係ではなく、アナザーザビーも初めて会う態度である。

 

「……」

「無視か……まあ、いい。どうせ、俺なんかそこら辺に転がる石ころ以下だ……」

 

 アナザーギンガが沈黙したまま。アナザーザビーはそれ以上の追求はせず、卑屈な自己完結をする。

 

「あいつもアナザーライダーって奴なのか……?」

「恐らく。そして、あのアナザーライダーが隕石を引き寄せている元凶であり、ワームたちを招いている存在だろうね」

「何!? ならお前もワームか!?」

 

 ガタックが怒声で詰問するが、やはりアナザーギンガは答えない。力尽くでも聞こうとガタックがアナザーギンガに一歩踏み出した瞬間、アナザーザビーの右拳がガタックの頬を打ち抜いた。

 

「お前も俺を無視するのか? 加賀美……!」

「くっ、そんなことを言っている場合か!」

 

 しかし、アナザーザビーは聞く耳を持たず、今度は左腕の針でガタックを貫こうとする。

 

「くっ!」

 

 一対の双剣──ガタックダブルカリバーで挟む様にして針を受け止めたガタック。発射音と共に止めた筈の針が射ち出される。咄嗟に顔を横に倒して回避するが、その隙を狙ったアナザーザビーも右拳がガタックの脇腹に突き刺さる。

 

「うっ!」

 

 呻くガタック。右拳の一撃で体勢が傾くと、アナザーザビーは止められていた左腕を振り払い、ガタックの胸部に前蹴りを打ち込み、距離を離す。

 仰け反りながら後退させられるガタックは見た。アナザーザビーの左腕がまた突き出されていることに。

 ガタックの考え通りアナザーザビーの左腕から針が連射される。ガタックは不安定な体勢のままでガタックダブルカリバーで針を打ち落としていく。

 しかし、何発目かを落した時、針が左のカリバーの側面に当たってしまい手放してしまう。右のカリバーで残りの針を叩き落すが追い付かず、針の一本がガタックの右腕を掠める。

 装甲を削るだけかと思いきや、一瞬激痛が走りガタックは右手からもカリバーを放してしまう。痛みはすぐに消え、右手が動く様になる。掠った箇所が青白く光り、明滅している。針に毒の様なものが含まれていると思われる。掠めただけ激痛ならば刺さったらどんな痛みが来るのか、想像するだけで恐ろしい。

 無手となってしまったガタック。アナザーザビーは、それを見て左腕のスズメバチがガタックに見える様に胸の前まで掲げる。

 

「──ライダースティング」

 

 染み付いてしまった癖なのか技の名をボソリと呟きながら刺さるピンを叩く。本来のゼクターならばアナザーザビーの呟いた声が返って来るが、代わりに返ってきたのはスズメバチが悲鳴の様な音。

 ピンとスズメバチの間から大量の体液が溢れ出し、腹の先端にある針を塗らす。滴る体液には漏電しているかの様な青白い光が点滅している。

 その姿を見て、ガタックは戦いの最中でありながら複雑な気持ちになる。外見も中身も姿形が変わり果てているのに、嘗ての矢車と重なる。

 仮面ライダーザビー、アナザーザビーの元となったライダーの最初の変身者は矢車であった。隊を率いて完璧な戦いでワームたちを圧倒する姿に尊敬の念を抱いたこともあった。

 そして、加賀美もガタックの力を手にする前に短い期間だがザビーに変身したこともあった。影山もまたザビーの元変身者である。

 何の因果か矢車は再びザビーとなり、加賀美はそのザビーと戦う。運命があるとしたら、酷い嫌がらせそのもの。

 刹那の感傷の後、ガタックは自分に向けられているアナザーザビーの毒針の先端を見ながら、ガタックゼクターに設けられたスイッチを三度押す。

 

1、2、3(ワン、ツー、スリー)

 

 ガタックゼクターが三度ボタンを押したことを認証すると、百八十度開いていたガタックゼクターの顎を元に位置に戻す。

 

「ライダーキック!」

 

 閉じた顎を再度開く。

 

『RIDER KICK』

 

 ガタックゼクターに蓄積されていた電流に似たエネルギーが体内を通じてガタックの両角に流れ、そこから右足へ伝わっていく。

 アナザーザビーは踏み込みながら左腕を真っ直ぐ突き出す。ガタックは跳躍と共に右の回し蹴りを繰り出す。

 互いの技がぶつかり合い、そして──

 

 

 ◇

 

 

 時間は少しだけ遡り、ガタックとアナザーザビーが戦い合う前、アナザーギンガとジオウⅡたちが対峙していた時間まで戻る。

 

「まさか、アナザーギンガが居るなんて……ギンガは倒した筈だよね?」

「間違いない。どうやら私とスウォルツは、お互いに一杯食わされたみたいだ」

 

 ウォズはスウォルツがギンガミライドウォッチを奪ったが、スウォルツがウォズからアナザーギンガウォッチを隠し通した。痛み分けの結果、ギンガの力同士が衝突する事態となる。

 アナザーギンガは無言のまま両手を上下入れ替えながら回す。関節など一切無い岩作りの腕が、人の腕の様に滑らかに動き多色の光で出来た仮面ライダーギンガと同じ円を生み出す。

 アナザーギンガが両手を突き出すと、光の円は球体となり破壊の力を秘めたままジオウⅡたちへ飛んでいく。

 ジオウⅡは咄嗟にサイキョーギレードを構えるが、それが振るわれるよりも先にウォズがジオウⅡの前に立つ。

 

「ウォズ!」

 

 ウォズは渦巻く力に対し、片手のみを突き出す。

 触れれば全てを吹き飛ばす力に、ウォズの掌が触れた。

 爆発も衝撃も起こらない。ウォズの掌の中で光は円を描き続け、それが段々と小さくなっていき、最後にはウォズが掌を閉じたことで消失してしまった。

 アナザーギンガの力を弾くでも相殺するでもなく無効化するという離れ技をやってのけたウォズ。技の威力を身を以って知っているジオウⅡからすれば驚嘆に値する。

 

「ウォズ、凄ッ!」

「お褒めに預かり光栄だ、我が魔王──が、今はこんなことよりももっと驚くことがある」

 

 ウォズはそう言って上を指差す。ジオウⅡは顔を上げた。

 

「何あれ!? でっか!?」

 

 破壊された天井から見える青空。そこに浮かび上がる様に見える大きな岩の塊。間違いなく隕石である。

 

「今までとは比べ物にならない程の隕石だ。落ちればどれだけの被害が出るか分からない。中にどれだけのワームが蠢いているかは考えたくもないな」

 

 アナザーギンガの能力で引き寄せられた隕石。当然、その中にもワームが潜んでいる。隕石による破壊とワームによる侵略。二重の危機が迫っていた。

 

「我が魔王。ここは私が引き受ける。君はあの隕石の方を」

「分かった!」

 

 ジオウⅡはフォーゼライドウォッチを出し、フォーゼアーマーに換装する。

 

『スリー! ツー! ワン! フォーゼ!』

 

 宇宙へ行く為の準備がこれで整う。

 

「君は隕石に向かって真っ直ぐと飛び給え。大丈夫、私がきちんとサポートする」

「任せたよ! ウォズ!」

 

 フォーゼアーマーはロケット形態となり、巨大隕石に向かって飛び立つ。

 アナザーギンガは空へ向けて手を伸ばす。すると、青空に輝く無数の光の点。それら全ては隕石であり、ジオウを宇宙に行かせない為に降り注ぐ。

 

「言った筈だ。私がきちんとサポートすると」

『ファイナリー! ビヨンド・ザ・タイム!』

 

 ウォズの頭上が歪み、そこに星雲が誕生。様々な光が輝き、廻る。

 

『水金地火木土天海エクスプロージョン!』

 

 星雲から打ち上げられた惑星型の光球が、飛翔するジオウの後を追う。

 空気抵抗摩擦で燃え上がった岩の塊がジオウのすぐ側まで迫り、白い装甲を赤色で照らすがジオウは速度を緩めることも、方向を変えることもしない。

 起こる爆発音。砕け散る隕石。だが、ジオウを無傷。ジオウを追い越した隕石が爆発したのは、ジオウを追い越した惑星型の光球によるもの。

 それらが次々と隕石を迎撃していき、ジオウの為の道を作っていく。

 

「宇宙へ! 行くッ!」

 

 隕石群をジオウは、大気圏は青空の彼方へ消えていく。

 ジオウを無事宇宙まで飛ばす事が出来たウォズ。次なる役目はアナザーギンガ。

 

「君が存在する限り、延々と隕石を降らされる。早々に退場してもらうよ。あれ以上大きな隕石が落ちてきたら困るからね」

 

 ウォズの言葉を聞き、アナザーギンガに僅か変化が起こる。両肩を小さく揺らす動作。それが意味することは──

 

「笑っている……?」

 

 アナザーギンガはまた手を空に向け、指揮者の様に指を振るう。すると、空から幾つもの隕石がアナザーギンガ目掛けて落下してきた。

 

「あれは!」

 

 ウォズが破壊しようとするが間に合わず、アナザーギンガに隕石が落下──かと途中で隕石が急減速し、落ちずにアナザーギンガの周囲を漂う。

 隕石が割れ、中からワームたちが孵化するように出てくる。厄介なことに全部が成虫したワームたちであった。

 

「面倒なことを……」

 

 仮面の下でウォズが顔を顰める。瞬きをする暇無くワームたちがクロックアップし、姿を消した。同時に四方八方からウォズに攻撃が浴びせられる。

 

「全く、遠慮が、無いな!」

 

 見えない攻撃に晒されながらもウォズはギンガミライドウォッチを外して操作し、ミライドウォッチに描かれていた顔を変える。

 

『タイヨウ!』

 

 それをビヨンドライバーに挿す。

 

『アクション!』

 

 描かれた顔がビヨンドライバーに映し出される。

 

『投影! ファイナリータイム!』

 

 胸の太陽の紋章から炎が飛び出し、ウォズを覆う太陽と化す。

 

『灼熱バーニング! 激熱ファイティング!  ヘイヨー! タイヨウ! ギンガタイヨウ!』

 

 胸だけでなく額にも太陽の紋章が付け、灼熱を連想させる橙色の『タイヨウ』の文字がウォズの顔に填め込まれた。

 仮面ライダーウォズギンガタイヨウフォーム。自身を太陽の化身へと変えたウォズは、その力を一気に解放すると、ウォズを中心として熱波が発せられた。

 クロックアップをしていたワームたちは、超高熱の波から身を守る術を持たず、炎上。

 クロックアップも解かれ、ウォズの周囲に燃え盛るワームたちが姿を現し、悶え、最期には炭と化す。

 

「イカロス然り、古代よりこの地球では太陽に近付くことは危険であるとを教えられてきた。ワームである君たちも身を以って知るといい」

 

 タイヨウフォームの高熱で成虫ワームたちを一掃したウォズ。ワームたちに意識を割かれていたことに気付き、すぐにアナザーギンガの方を見るが、既に居なくなっていた。

 

「逃げられたか……」

 

 ワームたちを囮にしたウォズとの戦闘を避けたアナザーギンガ。敵ながら冷静な判断だと言える。

 その直後、ウォズの耳に大きな音が届く。

 視線をそちらへ向けるとガタックとアナザーザビーが互いに吹き飛んでいた。

 ウォズは見ていなかったが、互いの技が衝突し合い、互角の結果である。

 アナザーザビーはすぐに立ち上がる。ガタックは運悪く資材が置かれていた場所に突っ込んでしまった為、それをどかす作業でもたついてしまっていた。

 アナザーザビーが針でガタックを指しながらベルト側面を叩こうとした時、アナザーザビーの足元が爆発。噴き上げた炎の中にアナザーザビーを閉じ込めた。

 

「させないよ」

 

 掌を突き出したウォズ。クロックアップを発動させる前に攻撃して封じる。

 

「──何?」

 

 ウォズが上げる戸惑いの声。炎の中からアナザーザビー──ではなく別のライダーが出て来たのだ。

 姿はパンチホッパーと似ているが、色と細部が違う。装甲は緑、複眼は赤、ベルト中央のゼクターは向きが反転しており、バッタの脚に似たジャッキ機構が左脚に付いている。

 

「──クロックアップッ!」

『CLOCK UP』

 

 姿を変えたことで生まれた一瞬の隙を衝いてクロックアップする緑のライダー。

 ウォズが動揺している内にその懐へ飛び込んでいた。

 未だに高熱を発しているウォズだが、装甲を纏う緑のライダーは短時間ではあるがその熱に耐え、ウォズを下から蹴り上げる。

 

「うっ!」

 

 宙へ舞い上がるウォズ。緑のライダーは高速で移動し、資材を跳ね除けて現れたガタックの前に立つと、ガタックもまた蹴り上げた。

 

「うわっ!」

 

 二人のライダーが空中に浮き上がる。

 

『ザビィ……』

 

 アナザーザビーに再変身をし、羽で飛び立つと二人を落ちるまでの間にその針で突く。

 三百六十度から繰り出される高速の刺突。突くだけでなく、針の鋭さを生かして斬り付けてもいた。

 ガタックにクロックアップをさせる猶予を与えず、高速且つ連続で繰り返されるアナザーザビーの攻撃に、ウォズたちは手も足も出せない。

 

「ぐっ!」

「くっ!」

 

 二人が地面に背を付けた時、アナザーザビーから受けた攻撃は数え切れない程であった。

 それでも立ち上がる二人。アナザーザビーは変身を解除し、また緑のライダーと成る。

 

「ライダージャンプ……!」

 

 ベルトのゼクターの脚部を持ち上げる。

 

『RIDER JUMP』

 

 ゼクター内のエネルギーが緑のライダーの左脚へ流れ、空中高く跳び上がる。

 

「ライダーキック!」

『RIDER KICK』

 

 ゼクターの脚部を元に位置に戻すことで左脚から足へとエネルギーが充填された。

 急降下する緑のライダーのキックがウォズを狙う。ウォズは腕を持ち上げ、咄嗟にガード。

 左足が直撃すると同時にジャッキが変形。撃ち出す様に衝撃を放つと緑のライダーはその反動で跳躍。今度はガタックにライダーキックを放つ。

 

「おおおっ!」

 

 ガタックは腕を交差しそれを防ぐが、機構の衝撃で蹴り飛ばされる。

 ウォズとガタックは緑のライダーのキックの衝撃で僅かの間、視線を外してしまった。視線を戻した時には緑のライダーは消えていた。

 

「今のは……?」

「キックホッパー……矢車が使うライダーシステムの名前だ」

「アナザーライダーと仮面ライダー、二つのライダーの持ち主か……手強いな」

 

 

 ◇

 

 

 宇宙へ辿り着いたジオウ。向かって来る巨大隕石を見事に打ち砕いてみせたが、その後ろには巨大隕石が小石に見える程の超巨大隕石が隠れていた。

 超巨大隕石を撃破する手段は今のジオウには無く、仕方なく一旦地上に帰還し作戦を考えることとなる。

 超巨大隕石を破壊する為、ジオウがフォーゼアーマーでウォズと共に宇宙へ上がり、タイヨウフォームの力で内部から隕石を破壊し、脆くなった所で外部から破壊するという作戦が立てられた。ただし、それを行う前にアナザーギンガを倒す必要が出てくる。アナザーギンガが存在する限り、いくらでも隕石を呼び寄せることが出来る。だが、一番の問題はソウゴたちがアナザーギンガの変身者を知らないということであった。

 しかし、そこで影山からの連絡が入る。

 何と影山によって加賀美が捕まってしまったのだ。指示された場所にソウゴたちは行き、そこで加賀美を人質にし、フォーゼライドウォッチとギンガミライドウォッチを要求する影山。

 人質とウォッチを交換するが、ソウゴたちは機転を効かせ、影山の意識がウォッチに集中している隙に加賀美を救出。加賀美はガタックに変身し、ウォッチも取り返そうとするが、そこにアナザーザビーが介入。

 加賀美は救出出来たもののウォッチは奪われてしまった。

 絶体絶命と思いきや、そこで思わぬ手助けが入る。

 隕石が落ちることを快く思っていないウールによって矢車たちからウォッチが奪還された。そのままソウゴたちに返すと思いきや、今度はスウォルツによって何かの思惑の為にウォッチが奪われた。

 一方で門矢士と共に行動するツクヨミは銀色のオーロラを通り、とある荒廃した世界へ辿り着いていた。

 そこは2058年の世界。そこでツクヨミたちは幼い頃のツクヨミと出会う。幼い頃から時間停止の能力を見せるツクヨミ。

 そこに幼いツクヨミが兄と呼ぶ青年も現れる。自分に兄がいることを初めて知り、動揺するツクヨミ。

 そんな彼女たちの前に時を超えてスウォルツもまた現れる。

 スウォルツはツクヨミにフォーゼライドウォッチとギンガミライドウォッチを渡し、その力とツクヨミ自身の力が無ければ隕石は破壊できないと言う。

 

「お前と時の王の力が共鳴する時、新たな時代が誕生する」

 

 その言い残しスウォルツは去っていった。ツクヨミたちもまた隕石の破壊する為に元の時間へ戻る。一つの疑問が解消するかと思えば、新たな謎が増える結果となりながら。

 

 

 ◇

 

 

 隕石のせいで薄暗くなった世界の中加賀美は一人歩いていた。人質にされ、そのせいでウォッチが取られてしまった。その失態に加賀美は消沈していたのだ。

 そんな加賀美を追ってソウゴが現れる。

 

「……こんな時に天道が居てくれたなら、って思ってしまう」

「天道?」

「天道総司。もの凄くプライドが高くて、偉そうで、色々と気に入らない所があるが……強くて頼りになる奴で……俺の友達だ」

 

 天道を語る加賀美は少し誇らしげに見える。

 

「俺はカブトになりたかった……でも、カブトゼクターが選んだのは天道だったんだ。まあ、その時は落ち込んだりしてけど俺はガタックに成れた。──きっと、その時のことがあったからこそガタックに成れたんだと今では思う。でも……」

 

 ガタックの力を以てしても勝てないこと、負けることが幾度もあった。その度に心の何処かで思ってしまう。天道なら勝てていたのではないか、と。

 

「俺はあのザビー擬きにすら勝つことが出来なかった。だが、天道だったら……」

「そんなことをないよ。あんたなら次は勝てる!」

 

 後ろ向きな言葉を遮って、ソウゴは言い切る。

 

「どれだけ体を張って戦ったのか俺はちゃんと見ている。あんたは間違いなく戦士だ! 俺が保証する!」

「戦士、か……」

「あんたなら俺の王国の守護を任せられると思うんだよねー」

「お、王国?」

「俺、王様になるのが夢なんだ。未来の王様の人を見る目を信じてよ」

「王様か……ははははははははは!」

 

 ソウゴの途方も無い夢を聞き、加賀美は笑う。馬鹿にした笑いでは無く、吹っ切れた爽やかな笑いであった。

 

「あいつもそこまでは言わなかったな」

「本当?」

「天の道を往き総てを司る男、とまでは言っていたけど」

「おお、何それ、カッコいい……俺もそういうのやろうかな……?」

 

 真剣に考え始めるソウゴに、加賀美はまた笑う。

 

「ソウゴ!」

 

 そこに急いで駆け付けてくるツクヨミ。その両手には二つのウォッチ。

 それは彼らの反撃を告げる合図でもあった。

 

 

 ◇

 

 

 その頃、とある建物の屋上でウォズとゲイツがアナザーザビーとパンチホッパーと戦闘を繰り広げていた。

 仕掛けて来たのはアナザーザビーたちの方から。ウールによって奪われたウォッチが彼らの下へ返って来たと思い、戦いを挑んで来た。

 

「あの隕石が落ちたら地球がどうなるか分かっているのか!」

「俺には相棒さえ居ればいい。地球がどうなろうと知ったことか…」

 

 自暴自棄に等しいアナザーザビーの解答。ワームの擬態である影山の言葉に従い続ける彼は、傀儡そのものであった。

 

「随分と弟思いの兄の様だ。彼の心を利用して君は心が痛まないのかな?」

「ふん」

 

 パンチホッパーは鼻で笑う。それはウォズに向けたものか、アナザーザビーに向けたものか、或いは両方か。

 ゲイツの拳がアナザーザビーの胸を打ち、アナザーザビーの刺突がゲイツの肩を掠める。

 ウォズの膝がパンチホッパーの腹に刺さり、パンチホッパーのフックがウォズの顔面に叩き付けられる。

 互いの攻撃を受け、後退する。自然と開けられる距離。必殺の一撃を放つには十分な時間を生む。

 ゲイツとウォズはドライバーを操作。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『ビヨンド・ザ・タイム!』

 

 パンチホッパーはホッパーゼクターの脚を上げ、アナザーザビーは左腕のスズメバチに掌を叩き付ける。

 

「ライダージャンプ!」

『RIDER JUMP』

 

 パンチホッパーが高く跳躍。

 

「ライダーパンチ!」

『RIDER PUNCH』

 

 ゼクターの脚を戻し、落下しながら拳を振り上げる。

 

「……ライダースティング」

 

 パンチホッパーの落下のタイミングに合わせ、アナザーザビーも駆け出す。

 

『タイムバースト!』

『タイムエクスプロージョン!』

 

 激突する技と技。だが、相手を倒すには至らず、これもまた互角であり、彼らは再び飛ばされて距離を置くこととなる。

 

「俺たちの邪魔はさせない……!」

 

 パンチホッパーは何を思ったのかホッパーゼクターを引き抜き、変身を解除して影山へ戻る。そして、ある物を取り出した。

 

「それは……!」

「やはり、君だったか……」

 

 ゲイツは驚き、ウォズは納得する。影山が出したのはアナザーウォッチ。

 

『ギンガァ』

 

 アナザーウォッチの力で影山がアナザーギンガと化す。アナザーギンガを初めて見るゲイツは、その異様な姿に仮面の下で顔を顰めた。

 

「こいつがアナザーギンガか……」

「正体を明かすということは自信の表れかな? ここで私たちを倒すつもりのようだ」

 

 アナザーギンガの正体を今知ったアナザーザビーは、少し驚いた素振りを見せていたが、すぐに切り換える。

 

「お前だったのか……まあ、いいさ」

「これで兄貴とお揃いだ」

「ああ、そうだな。どうせ俺たちなんて地獄の住人だ。こんな姿が丁度いい」

「どこまでも卑屈な奴め……」

 

 アナザーザビーの性格に、ゲイツは呆れ果ててしまう。と同時に説得では耳を貸さないことを確信する。止めるには力尽くしかない。

 

「あいつらを止めるぞ、ウォズ」

「勿論だよ、ゲイツ君」

 

 

 ◇

 

 

 日中でも薄暗く染まる世界。地球の危機を前に人々は混乱し、慌てふためく。

 その混乱に便乗し、潜んでいる者たちが動き出す。

 

「う、うああああ……」

「いやああああ!」

 

 幼い兄妹は逃げ場の無い袋小路に追い込まれていた。兄妹を追い詰めるのは数体のワームたち。

 混乱の中で兄妹たちを葬り、彼らに成り代わるつもりである。

 

「お、お兄ちゃん……!」

「や、止めろ! お前ら! あ、あっち行け!」

 

 声を恐怖で震わせながらも妹の前に兄は立ち、守ろうとする。

 だが、ワームたちからすればその声も恐れる必要が無い耳障りな威嚇程度のもの。幼い命を引き裂く為に魔の手が伸ばされる。

 兄は妹に覆い被さる。ほんの僅かの間でも妹を守る為に。

 だが、ワームたちの手が兄妹たちに届くことは無かった。

 

『CLOCK OVER』

 

 その音声の後に、ワームたちが一斉に爆散する。

 

「……え?」

 

 兄が恐る恐る見ると、ワームたちは消え、代わりに別の人物が立っている。

 赤い装甲。青い複眼。額から伸びる先端が二又に分かれた角。その姿はまるで──

 

「カブトムシ……?」

 

 赤いカブトムシはゆっくりと兄妹の前に近付いてくる。

 

「──妹を守ったか。立派なお兄ちゃんだ」

 

 ワームたちから身を呈して妹を守ろうとした兄を褒める。

 

「もうすぐこの騒動も終わる。それまでの間、妹を守れるか?」

「……うん」

「いい返事だ」

 

 その言葉に満足すると、赤いカブトムシはベルト側面を叩く。

 

『CLOCK UP』

 

 あっという間に姿が消え、赤いカブトムシはどこかへ行ってしまう。

 夢の様な出来事。しかし、兄妹の目にはしっかりと焼き付いていた。

 まるで太陽を思わせるその姿を。

 




アナザーギンガの正体はあっさりと明かしましたが、まあ簡単に予想が出来る人物だったですね。
最後に彼を出しましたが、これは個人的な理由で『加賀美はやっぱりガタック』という思いで出しました。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。