「またその姿か……」
『おい! 一体どうなってやがんだ!』
いきなりジオウトリニティが右手を突き上げながら叫ぶ。その声はソウゴのものではなく、ゼロノスが良く知る者の声。
『ちょっとここ薄暗いねー。それに狭いし、男の人ばっかだし……』
荒々しく突き上げられた右手が急に科を作り、ジオウトリニティからまた別の声。
『ぐごおおおお』
かと思いきや両手を組んでいびきをかき始め──
『うわー! 何ここー! おっきな時計があるー!』
──子供の様な無邪気な声を発しながら、ダンスのステップの様な軽やかな足運び。
『おい! いい加減にしろ!』
怒鳴り声をジオウトリニティが上げる。
『君たちは、遠慮という言葉を知らないのか?』
若干の苛立ちを含んだ声が、見えない誰からに説教をする。
「もう、皆落ち着きなよー」
一周してようやくソウゴの声がジオウトリニティから聞こえたが、途方に暮れた様な声であった。
「野上のイマジン! お前らも一つになっているのか!?」
ソウゴたちだけでなく、モモタロスたちも一体化していることに驚く。
『俺もいるぞー』
くたびれた声。フータロスのものであった。
「お前!? フータロスか!? 待ち合わせ場所に居ないと思ったら……! 何でそんな所に居るんだよ!」
『俺だって知りてーよー』
「早く出て来い!」
『その方法も知りてーよー』
ゼロノスは知らないが、ジオウトリニティ内でウォズに拘束されているフータロスは、文字通り手も足も出せない。
『んなことより! おい、侑斗! いくら良太郎が言ってたからって勝手に俺の物を盗るんじゃねぇよ! 返しやがれ!』
「断わる。そいつにこれを渡す訳にはいかない」
『だったら力尽くで行くぜぇ!』
「あ、ちょっと!」
モモタロスに呼応してジオウトリニティが動き出す。内部の意思はまだ統一されていないというのに。
「うおらっ!」
右拳を繰り出すジオウトリニティ。ゼロノスは跳躍してそれを躱すと、そのままジオウトリニティの頭上を超え、背後に回る。
『そらっ!』
振り向き様に腕を振るうジオウトリニティ。その手にいつの間にか武器が握られている。赤い刀身に黒い線の紋様が入り、峰の部分に返しの様な刃が付いた柳葉刀。モモタロスの専用の武器であるモモタロスォード。
「くっ!」
ゼロガッシャーで咄嗟にそれを受け止めようとするゼロノス。その力を受け流して相手の体勢を崩すつもりであったが、モモタロスォードがゼロガッシャーに触れた瞬間、ゼロガッシャーの刃が目の前まで迫って来た。
「なっ!?」
重い。とにかく重い一撃。ジオウトリニティの力は想像以上のものであり、受け流すことが不可能だとすぐに理解すると、同時にゼロノスは足から力を抜く。途端足が地面を離れ、数メートルも飛ばされる。
爪先が地面に触れ、急ブレーキを掛けるが止まらず、そこから五メートル以上滑ってようやく止まった。
『侑斗! 今すぐ返せば痛い目を見ずに済むぞ!』
『先輩、まるで悪人』
『やーい! モモタロスの悪者ー!』
『ぐごおおおお……』
『うるせぇぞ! お前ら!』
『うるさいのはお前だ!』
『いい加減、早く出てってくれないかな……?』
「本当、とんでもないことになってる……」
手足が独立した様にそれぞれ動き、腹話術でもやっているかの様に喋る度に声も口調も変わるジオウトリニティ。傍から見れば、その言動は不気味そのものであった。
だが、それと相対するゼロノスはジオウトリニティを不気味とは思わず、脅威と見ている。元からこれ程までに強いのか、或いはイマジンを五体も内に取り込んでいるからこれ程強いのかは分からないが、ゼロノスのまま戦うには厳しい相手であった。見た目は大声で独り言を喋りながら踊り狂う姿だが。
「──俺はまだそいつを信じていない」
ゼロノスはゼロガッシャーを構え、戦う意思を見せる。
「どうやったら信じてくれる?」
モモタロスを押し退けたソウゴがゼロノスに問う。
「口だけじゃなんとでも言えるって言ったよな? 最高最善の魔王を目指すっていうのなら、野上のイマジンたちの手綱をちゃんと握って、俺に勝つぐらいやってみせろ!」
『ならやってやろうじゃねぇか!』
意気込んで前に出ようとするジオウトリニティであったが、突然足が急停止し、前のめりで倒れそうになる。
『おい! 何すんだよ!』
「ストップストップ。侑斗も言った様に、モモタロスだけが一人で戦っても駄目だよ」
『ああん!? なら馬みてぇに俺たちを操ってみるってか!?』
「それも違うなー。っていうか侑斗の考えている王様と俺の考えている王様は違う気がする」
イマジンたちの手綱を握る。それは支配に近い。だが、ソウゴの目指す王様は人々が幸福を願うもの。支配とは対極であった。
『どう違うんだよ? というか王様とか魔王とか一体何だ?』
「違いがあるとすれば、モモタロスに任せっきりじゃなくて俺もちゃんと戦うって所かな?」
『はあ?』
ドライバー中央が光り、『ケン』という文字が飛び出すとそれはジカンギレードに変換され、ジオウトリニティは左手で柄を掴む。
「こっから先は一緒に。付いて来れる?」
『付いて来れるだぁ? 面白れぇ! そっちこそ俺に付いて来られるんだろうなぁ? 言っておくが、俺は最初からクライマックスだぜぇ!』
ジカンギレードとモモタロスォードの二刀流を構えるジオウトリニティ。ゼロノスもまた構えて何時でも反応出来る様にしておく。
ジオウトリニティが一歩踏み込んだ。直後、ジオウトリニティは既に目の前まで移動していた。
(速いっ!?)
横薙ぎのジカンギレード。ゼロガッシャーで防ぐ。受けたゼロノスが横に流れていく。体幹ごと崩されるゼロノス。
『行くぜ! 行くぜ! 行くぜ!』
モモタロスォードによる二撃目が上から迫って来る。半ば勘でゼロガッシャーを振り回す。運良く剣と剣が接触し、軌道を逸らすことが出来たが、代償としてゼロノスは斬撃の衝撃で背中から倒れてしまう。
(強い……!)
八人が一つの体に収まっているから八人分の強さ、などという足し算の様な単純な計算では無い。掛け算の様に相乗し合い、ジオウトリニティの性能を爆発的に向上させている。
『まだやるか?』
命の取り合いでは無い為、ジオウトリニティはモモタロスォードを突き付けて降参を促してくる。
圧倒的な実力差。今のゼロノスでは歯が立たない。
「侑斗!」
ジオウトリニティの足元に銃弾が撃ち込まれ、土煙を上げる。ジオウトリニティは反射的に弾痕から下がる。
人差し指をジオウトリニティに向けながらデネブがゼロノスに駆け寄っていた。
「侑斗! これは一体……?」
「話は後だ。行くぞ、デネブ」
デネブが困惑する中、ゼロノスがベルトからカードを引き抜く。
「──分かった!」
何故ジオウトリニティと戦っているかなど、聞きたいことは山ほどあるデネブだが、侑斗にも何か考えがあってのことと信じ、ゼロノスの背後に立つ。
『VEGA FORM』
裏返したカードをベルトに挿し込むと、ゼロノスとデネブは一体化しベガフォームへと変わる。
「最初に言っておく!」
覇気ある声と共にゼロガッシャーを振り回す。その勢いで剣風が起き、ジオウトリニティの体に風が当たる。
「侑斗のことを嫌わないで欲しい!」
『そういうのはいいって何時も言っているだろうがっ!』
こんな状況でも侑斗のフォローをするデネブ。
『戦う前から気が抜ける様なこと言うんじゃねぇよ、おデブ!』
ジオウトリニティが動こうとした瞬間、デネブの両手が変化した肩のキャノン砲が光弾を撃ち出す。
『うおっ!』
「あぶなっ!」
中のモモタロスとソウゴの反応のおかげで光弾を打ち落とせたが、一発では済まず連射される。
『はいはい、先輩。替わって替わって』
『我が魔王、ここは私が』
内部で入れ替わったことでジオウトリニティの表層にウラタロスとウォズの人格が浮かび上がる。
モモタロスォードとジカンギレードが消え、ジカンデスピアと両端に六角形の刃が付いた棒──ウラタロッドが握られると、片手でそれらを器用に旋回させ、撃ち込まれる光弾を回転の勢いで弾く。
『凄いパワーを感じるね。絶好調って感じ』
『口では無く手を動かしたらどうだい?』
『それは無理な注文だね。お喋りは僕のチャームポイントの一つだから』
一方は真面目に、もう一方は不真面目に様子だが、手を抜くことはなく、光弾を弾きながら前進し始める。
『もう少し仲良くしない? 君とは気が合いそうだ』
『私は君の様な嘘吐きでは無い』
『でも、大事なことは隠しておくタイプでしょ?』
『──さあね』
ウラタロスの洞察力が戦いながらウォズの内面も見極めようとする。
「うーん……強い!」
キャノン砲の光弾を真っ向から弾き、それどころか光弾の中を突き進んでくるジオウトリニティ。その強さにゼロノスは唸る。
『感心している場合か! 全力で行け!』
「分かった!」
ゼロガッシャーを組み直し、ボウガンモードにするとキャノン砲の光弾と一緒に光矢まで合わせた一斉発射を行う。
『フィニッシュタイム!』
集束された弾幕に対し、ジオウトリニティはジカンデスピアの出力を最大まで上げる。
『爆裂DEランス!』
振るわれたジカンデスピアから横一文字の緑の線が飛ばされ、光弾と光矢を纏めて相殺する。
「くっ!」
相殺の余波が爆風となってゼロノスに当たり、その強さに身を庇う動きをしてしまう。
その時、ゼロノスは悪寒の様なものを感じ取り即座にその場から一歩後退。足元にウラタロッドが突き刺さる。下がっていなければ命中していた。
目の前のウラタロッドに気を取られていたゼロノスは、ジオウトリニティから目を離していることに気が付き、視界に収めようと顔を動かそうとし、そこで止まった。
ジオウトリニティは今まさに刺さっているウラタロッドを引き抜いている最中。ゼロノスの至近距離まで来ていた。
『さて、ウォッチを渡して貰おうかな?』
『僕の武器を勝手に投げないでよ』
余裕のあるウォズの言葉と、自前の武器を投擲されたことを愚痴るウラタロス。特に意味の無い言葉であったが、ある人物にとってそれは別の意味と化す。
『ぐごぉぉ……投げない?』
ジオウトリニティ内でイビキをかいていたキンタロスが突然言葉を発する。
『なげない……なけない……』
そこで言葉を区切り──
『泣けるでぇ!』
──一気に覚醒すると共に、強烈な張り手をゼロノスに打ち込む。
「かっ!」
頑丈で力も有るゼロノスのベガフォームが、ジオウトリニティの張り手一発で数十メートルも突き飛ばされる。
『──ん? 何や戦いの真っ最中やったか? すまんすまん』
『何だこいつ……』
当のキンタロスは今やっと目を覚ました様で自分が行ったことを反省。ゲイツはキンタロスの奇行に戸惑うしかなかった。
「こほっ、こほっ、もの凄い力だ……!」
ゼロノスも立ち上がり、軽く咳き込む。あれだけの一撃を受けてそれだけで済んでいる辺り、こちらも規格外と言える。
『よっしゃ! 詫びにここから先は俺が戦ったる!』
『おい! 何でそうなる!』
暴走し出すキンタロスをゲイツが内部で止めようとするが、それぐらいではキンタロスは止まらない。
『何や? お前も一緒に戦いたいのか! おっしゃ! 一緒に行くでぇ!』
『だから何でそうなる! って待てぇぇ!!』
猪突猛進で動き出すジオウトリニティ。内なるゲイツの制止など無意味。
「ゲイツ! 止めてもダメみたいだし、ここは一緒に頑張って!」
『何だそのアドバイスは!?』
翻弄されるゲイツに、ソウゴなりの助言を送るが、ゲイツにとっては殆ど意味不明なもの。
走るジオウトリニティは、巨大な鉞──キンタロアックスを出して肩に担ぐ。
『おお! 何か軽いでぇ!』
身体能力が上がったことにより、キンタロアックスを軽く感じ、上機嫌そうに持ち上げたりするジオウトリニティ。
『──ああ、こうなったら付き合ってやる!』
半ばヤケクソ気味に叫び、ゲイツはジカンザックスを召喚させる。ソウゴにも散々振り回されているゲイツ。今更これぐらいで音を上げることも無い。
ジオウトリニティが走って来るのを見て、ゼロノスがゼロガッシャーを構えようとし、その姿を見失う。
「居ない!?」
『上だ! デネブ!』
その声に従って上を見ると、高々と飛び上がったジオウトリニティの姿。
この時のゼロノスは迎撃することも防ぐことも選択肢として浮かばず、地面に飛び込む様に横へ回避する。
落下と共に鉞と斧が叩き付けられ、大地を割れて捲り上がる。
『──ダブルダイナミックチョップ』
『何故、後で言う……』
キンタロスの独特な性格とセンスにゲイツも中々付いていけない。
『みんなばっか遊んでズルーい! 僕もやるー! 良いよね?』
キンタロスたちを押し退けてリュウタロスが表層へ現れた。
「いや、遊んでいる訳じゃないんだけど……」
ソウゴは駄々を捏ねるリュウタロスを宥めようとするが、リュウタロスは聞く耳を持たない。
『答えは聞いてない!』
両手で抱える必要があるほどの巨大な紫色の拳銃──リュウボルバーとジュウモードとなったジカンギレードの二丁拳銃を構えたジオウトリニティ。
ストリートダンスの様な軽やか且つ不規則な足運びをしながらゼロノスへ接近し出す。
近付いてくるジオウトリニティを見て、ゼロノスは光矢を撃つ。
命中した、と思った瞬間ジオウトリニティを貫いていく光矢。そこに居た筈のジオウトリニティは居らず、そこから数歩隣にいる。
『外れー』
再びステップを踏み出すジオウトリニティ。その体が徐々にブレて見え始め、遂にはジオウトリニティの姿が複数に見え始める。
残像すら生み出す程の高速ステップ。ゼロノスはそれに惑わされ、狙いを定められない。
『それ!』
二丁拳銃から撃ち出される光弾。広範囲にばら撒かれるそれを何とか避けようとするゼロノス。大半を回避出来たが、足と肩に一発ずつ当たってしまう。光弾一発の威力はそこまで有るほどではない。
『それそれー!』
しかし、それが一度に十を超える程撃たれれば脅威と化す。
一発、二発はゼロガッシャーの光矢で相殺出来たが、それ以上撃ち落とす前に光弾がゼロガッシャーに命中し、ゼロノスの手から飛ばされてしまう。
武器を失ったゼロノスは、両肩のキャノン砲で牽制しようとするが、狙う先にジオウトリニティはいない。
『おーわり』
硬い感触が後頭部に突き付けられる。背後に立つジオウトリニティが、二丁の銃口をゼロノスに押し当てている。
「侑斗……」
『……ちっ』
軽々とあしらわれてしまったゼロノス。後は敗北を認めるしかないと思われた時──
「あれ?」
──ジオウトリニティライドウォッチがバチバチと音を立てながら色彩豊かな火花を散らす。
「何? 何?」
その現象に戸惑うジオウトリニティ。一際大きな音を発したかと思えば、ジオウトリニティライドウォッチがジクウドライバーから外れ、変身が強制的に解除させられてしまう。
「うあっ!」
内部にいた八人が飛び出し、そのまま地面を転がっていく。
「一体何で!?」
「恐らくは……」
ソウゴの疑問にウォズが推測を語る。
「ジオウトリニティライドウォッチに負担が掛かり過ぎたんだ。本来は私たち三人が一つとなる為の物。──八人は多過ぎた……」
「力の代償という訳か……」
通常時の倍以上の力を扱えたが、制限時間付きというデメリットが追加されてしまったことには気付かなかった。
変身解除したソウゴたちを見ながら、ゼロノスもまた変身解除。そのまま無言でユキヒロの下に行き、ライダーチケットを翳す。
モールイマジンの絵柄と転移した日付が浮かび上がる。
「2017年5月11日」
ライダーチケットの日付をわざわざ読み上げる侑斗。
「おい、フータロス! 行くぞ!」
地面に横たわっているフータロスに声を掛ける。
「あー、やっと解けた」
フータロスは起き上がりながら、ライドウォッチホルダーを指差す。
「──あれはいいのか?」
「これがあるからもういい」
電王ライドウォッチを懐にしまい、フータロスが合流するとゼロライナーが現れ、彼らを乗せて過去に走り去ってしまった。
「おい! 俺のもん返せっ!」
モモタロスが叫ぶが、当然返事もウォッチも返って来ない。
「やられたね……」
「ううん。続きは過去でやろうって侑斗は思っているみたい」
「何故、そう思う?」
「だって、イマジンが跳んだ日を教えてくれたし」
ソウゴの言う様に邪魔だと思っているなら日付など教えない。タイムマジーンの存在も知らないとも思えなかった。オーマジオウについて色々と調べている口振りであったので。
「過去に行って、イマジンを倒して、叔父さんを助け出して、ライドウォッチも手に入れて、そして最強の力も手に入れる!」
「欲張りだな……」
「流石我が魔王」
「俺のもん返せー!」
「あーあ。何か体中痛いよ」
「ぐごぉぉぉ……」
「僕、まだ遊び足りない!」
意気込むソウゴたちとは対照的に、イマジンはそれぞれ自由に振る舞っている。
「ああ、もう……」
足並みの揃わない彼らを見て、不安からツクヨミは頭を悩ませるのであった。
仮面ライダージオウトリニティ・イン・イマジンズ
■身長:203.6cm
■体重:116.4kg
■パンチ力:37.4~74.8t
■キック力:86.8~173.6t
■ジャンプ力:98.5~197.0m(ひと跳び)
■走力:1.6~0.8秒(100m)
〈Point〉
仮面ライダージオウトリニティにイマジンたちも取り込まれた姿。
イマジンたちと息が合えばスペックが上昇していくが、イレギュラーな姿なので短時間しか活動出来ない。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ