その日、常盤ソウゴは世にも奇妙な体験をした。
ライダーアーマーの力でアナザーライダーを倒した。ここまでは良かった。
倒した瞬間、世界が溶ける様に回り始め、気付けば見たこともない場所へ飛ばされていた。
虹の様に流れる滝。宙を漂う神殿。ゆっくり形を変えていく塔。空に浮かぶ大きな惑星たち。
非現実的な光景が広がっていた。
そこに現れる金と白の中間の様な髪色をした青年。その青年の顔にソウゴは見覚えのある気がした。
青年は言う。
「確かに奴を倒せば、君の大事な仲間を救い出せることが出来る。だが、それでいいのか? 全てを一人で解決するのが君の言う王様なのか?」
青年の問いに、ソウゴは即答出来なかった。王様は一人では出来ない。アナザーバースとの戦いの時に、『王様は一人ではいけない』という一つの答えを出していたからである。
だが、今も危機に陥っているかもしれない仲間を助けたいという気持ちを捨てることなど出来ない。
「君の助けたい男は、そんなに弱い男なのかい?」
青年の言葉は全てを見透かしている様であった。事実、全部分かっているのかもしれない。アナザーライダーのせいで仲間が危険に冒されていることを、その仲間のことすらも分かっている口振りであった。
「信じてみるといい。その男のことを」
青年のその言葉を合図に、世界が光に包まれる。
その光が収まると全てが巻き戻っていた。倒した筈のアナザーライダーも自身に何が起こった混乱していたが、そのまま逃げてしまう。
一人残されたジオウ。白昼夢の様な光景とその中であった青年の言葉を思い返し、ある決断する。
◇
その日、ツクヨミは奇妙な体験をしていた。
ソウゴがゲイツを探しに出掛けたかと思えば、すぐに戻って来て唐突に置かれていた雑誌に喰い付く。
そこにはある有名なダンスユニットのメンバーが次々に失踪していると書かれたもので、それをアナザーライダーの仕業かもしれない、そして、ゲイツも居るかもしれないと言ってツクヨミは半ば強引に連れ出されてしまった。
そして、ダンスユニット──チームバロンが収録を行っている現場に向かうと、ソウゴの言う通りゲイツ、そしてアナザーライダーを発見する。
鉄仮面の様な頭部には、側頭部を貫く矢の様な飾り、目の部分には横のスリットが入っており、そこから円形の目を覗かせている。仮面の一部は砕けており、そこから歯を食いしばっている口が見える。
右手は
腰部には肉体と同化しているベルトが巻かれ、小刀らしきパーツが付いているが、刃が上向きになっており自らの腹を裂く様な形になっている。
両肩が湾曲し、西洋の騎士を彷彿とさせる黒ずんだ鎧。右肩には『BARON』、左肩には『2013』の文字が刻まれていた。
アナザーライダーのアナザーバロンは、ゲイツに向けて手を翳す。空間がジッパーの様に開き、ゲイツはその開いた空間の中に入れられ姿を消してしまった。
邪魔者を全て消し去って満足したのかアナザーバロンは立ち去る。
残されたソウゴたちは、今後何をするべきか話し合うが、そこでソウゴは何故かアナザーバロンの正体や生まれた年を知り、あまつさえそれを倒す為のライドウォッチすら手にしていた。
度重なるソウゴの不審な行動にツクヨミの疑念が強まるが、ソウゴはアナザーバロンのせいで負傷した人を病院に送るといって、追求を逃れる様に去っていった。
腑に落ちない様子でツクヨミはクジゴジ堂へと戻るが、そこには一足先に戻っているソウゴの姿。
そのソウゴは先程まであったことを知らない様にゲイツは見つからなかったと言って来るのを見て、混乱するツクヨミ。
ソウゴは再びゲイツを探しに行き、すぐに戻って来た。それもアナザーバロンの変身者の情報を持って。
◇
2013年。一人の男があるチームバロンから追放された。その男の名はアスラ。
チームバロンのリーダーの座を狙い、まずは周りを懐柔しようと暗躍していたが、それがバレてチームバロンから追い出された。
リーダーの冷めた目、周りのメンバーの蔑んだ目。それがアスラのプライドを大きく傷付ける。
「ふざけんなぁぁ!」
その瞬間、未知なる感覚がアスラの背部を貫く。
「が、あ……」
首だけ後ろに向けると、そこには一人の男が、アスラに何かを埋め込んでいる。
タイムジャッカーのスウォルツは、アスラを見下ろしたながら問う。
「邪魔者を退ける力、欲しくないか?」
問うと言ってもスウォルツの中では既に答えは決まっていた。相手の意思など関係無く。
「意見は求めん」
『バロン……』
アナザーウォッチの力がアスラの中で解放され、アスラをアナザーバロンへ変身させる。
「今日からお前が仮面ライダーバロンだ。そして──」
◇
あまりに詳細に語るソウゴに、遂にツクヨミの疑念が爆発。強く追及しようとするが、その前に逃げられてしまい──すぐに帰ってきた。
戻って来たソウゴは、やはり先程までの会話を全く覚えていない。
あまりに多い話の食い違い。その積み重ねが、ツクヨミにある解答を与えた。
そして、行動に移る。
チームバロンのダンスイベントにソウゴを連れて行き、その真っ最中にソウゴを乱入させるという強引な作戦に出る。
当然ながら盛り上がっていた場の空気は一気に冷え込んだものとなるが、そんな空気に呑まれるソウゴでは無く、皆の前で堂々とジオウへと変身してみせた。
ジオウの姿に危機感を覚えたのか、衆目が集まる中でアスラもまたアナザーバロンへ変身する。
ヒーローと怪人の出現に、会場は一気にパニックとなり、観客や他のチームバロンのメンバーも一目散に逃げ出してしまう。
閑散とした場でジオウとアナザーバロンの戦いが始まった。
自ら築いた地位を守る為、執念を滾らせるアナザーバロンの突き。連続して放たれるそれを、ジオウはジカンギレードの刃によって受け止め、あるいは受け流す。
「誰にも邪魔はさせない!」
突き、突き上げ、振り回し、振り下ろし。右手と一体化した突撃槍を文字通り手足の如く操り、ジオウを攻める。
苛烈な攻撃を耐え、反撃の機会を窺うジオウ。
やがてその機会が巡ってくる。
アナザーバロンの突撃槍による払いをジカンギレードで打ち落とす。突撃槍の先端が地面に突き刺さる。
この隙を狙うジオウ。すると、アナザーバロンはベルト中央にある小刀パーツ、それも刃の部分を左手で掴み、素早く三回上下させる。
地面を突き破って、バナナ状の黒いエネルギーが現れ、ジカンギレードを振り下ろそうとしていたジオウを直撃する。
「くうっ!」
突き飛ばされ、地面を転がる中でジオウはライドウォッチを手にし、起動させる。
『オーズ!』
立ち上がると同時に、ジクウドライバーへオーズライドウォッチを填め込み、すぐにベルトを一回転させる。
『アーマーターイム!』
『タカ! トラ! バッタ! オーズ!』
タカ、トラ、バッタの三つの形態に分かれたアーマーは、ジオウの前で変形して人を模ったものとなり、そのままジオウに装着される。
オーズアーマーを纏ったジオウは、跳躍でアナザーバロンとの距離を詰め、右手の爪で斬り裂く。
「があっ!」
怯んだ隙に左手にジカンギレードを持ち、爪と剣の二刀流で連続して斬りかかるジオウ。
アナザーバロンは突撃槍で最初は防いでいたものの、徐々に手数に押されていき、遂に追い付けなくなり、胴体に爪と剣の乱れ斬りを受け、飛ばされる。
「俺は、頂点に、なったんだ!」
アナザーバロンは叫び、ベルトの小刀を二回上下させる。突撃槍の穂先に黒く反り上がったバナナ状のエネルギーが纏う。
ジオウはドライバーからオーズライドウォッチを外し、ジカンギレードに填める。
『フィニッシュタァァイム!』
『オーズ!』
突撃槍が振り下ろされると同時に、ジオウもまたジカンギレードを横薙ぎに払った。
「せいやぁぁぁぁぁ!」
『ギリギリスラッシュ!』
ジカンギレードから放たれた斬撃は、剣の軌道に沿って世界そのものに斬り跡を残す。その斬れ跡がずれ、何事もなかった様に元の位置へと戻ったとき、振り下ろされる筈のバナナ状のエネルギーは切断され、アナザーバロンもまた爆発した。
爆炎の中で、アナザーバロンの鎧が崩れ落ちていく。時間も力も違うので倒せていないことはジオウも分かっていた。しかし、この後のことは彼にとって予想外のことである。
アナザーバロンが倒されたことで、体内のアナザーウォッチが停止する。それを条件に、もう一つのアナザーウォッチが起動する。
『バロン……』
「え?」
アナザーライダーの変身音。ジオウが見ている前で、アナザーバロンが変わっていく。
湾曲の鎧は剥がれ落ち、その下から現れる黒ずんだ黄色い装甲。重厚感のある鎧では無く動き易い軽鎧の様な見た身で、装甲も右肩から胸部にまでしか纏っておらず左右対称であった。
頭部はほぼ変わらないが、側頭部に突き刺さっていた矢の代わりに先端に突起がある耳当ての様なパーツが追加される。
ベルトも小刀パーツが無くなり、代わりに押し込む様なレバーが装着された。
そして、剥がれ落ちた装甲、パーツは右手の突撃槍に纏わっていき、その形を変える。
突撃槍は元の長さから半分ほど縮み、細長く伸びる三日月状の刃が上下に付加される。
三日月の刃は、弓のリム。突撃槍は番えた矢に見立てられる。弓──というよりは大き過ぎるせいで攻城兵器のバリスタの様にも見える。
右肩、左肩に描かれた文字は変わらないが、背に纏う朽ちかけのマントに新たに『LEMON ENERGY ARMS』の文字が描かれていた。
『レモンエナジーアームズ……』
「ええええええ!」
アナザーライダーから別のアナザーライダーが出てきたのは前にもあった。しかし、アナザーライダーの中から同名のアナザーライダーが出てきたのは、ジオウにとって驚きであった。
アナザーバロン
そして、放とうとしたとき──
『スレスレ撃ち!』
『ジュウ』という形の弾丸が、アナザーバロンLEAの右腕を撃つ。
現れたな乱入者。その姿に敵味方問わず誰もが驚く。
現れた者もまた仮面ライダージオウであった。
◇
アナザーバロンによってゲイツは、謎の森ヘルヘイムへと飛ばされる。
怪物がうろつくその森の中で、駆紋戒斗という男と出会う。彼もまたアナザーバロンによってヘルヘイムへと飛ばされており、この森で五年も彷徨っていたという。
ジオウを倒さなければならないという使命があるゲイツは、一刻も早く森から抜け出す為に森の中で出口を探すが、状況は変わらない。
やがてゲイツは足を止め、同行している戒斗に愚痴る様に出口へと手掛かりは無いかと尋ねる。
戒斗から返答は『無い』であった。逆に戒斗からは何故そんなに早く帰りたがっているのかと問われる。
ジオウを、魔王を倒し、定められた運命を変える。それがゲイツの答えであった。
その答えを戒斗は鼻で笑う。
「お前に迷いが見えるのは……気のせいか?」
「俺が迷っているだと?」
否定しようとするゲイツであったが、その声には確かな動揺が含まれていた。戒斗の言葉が図星であるかの様に。
「運命を覆す強さなどお前からは感じられない」
戒斗の断言に、ゲイツは睨む様に戒斗を見た。しかし、言葉自体否定しない。心の何処かで戒斗の言葉を認めてしまっている自分がいるせいで。
「俺は……」
ゲイツが何かを言おうとしたとき、周囲の木々や草が激しく揺れ、音を出す。
甲羅を背負った様な見た目の怪人──インベスの群れがゲイツたちの存在を嗅ぎ付けて現れる。
「こいつらは……!」
ヘルヘイムの森で人を襲っている姿を既に見ているので、ゲイツはすぐさまジクウドライバーを腰に巻く。
「お前は下がっていろ!」
ゲイツはゲイツライドウォッチを握り、戒斗の方を見る。彼は膝を突いた体勢となっていた。いつの間にか攻撃を受けたのかと焦るゲイツであったが、戒斗は何事も無い様に立ち上がる。
「成程。そういうことか」
すると、戒斗は腹部に何かを当てる。中央に窪みがあり、窪みの右側には小刀を模したパーツ。当てた瞬間、ベルトが射出されそれを巻き付ける。
ゲイツのとは形は異なるが、間違いなく変身の為のドライバーであった。
「それは!」
「下がっていろと言ったが、生憎俺は隠れて怯えている様な弱者ではない」
戒斗は、バナナのマークがある錠前を取り出す。
「まさか、お前も」
「話は後だ。せめてこの戦いぐらいは迷うなよ」
「……ふん」
『ゲイツ!』
ゲイツはドライバーに起動したライドウォッチを填め、ドライバーのロックを解除し、両手でドライバーを挟む。
『変身!』
揃った掛け声と共にゲイツはドライバーを回転。戒斗はバナナの錠前を開錠。
『バナナ!』
戒斗は開錠をしたそれを指先に引っ掛け、回しながらドライバー中央の窪みにセット。
『ロック・オン!』
戒斗は小刀パーツ──カッティングブレードを倒すと二つ折りの形となっていた錠前が開く。
『カモン! バナナアームズ!』
『ライダーターイム!』
戒斗の体がチェーンメイルの様な装甲に覆われた後、頭上に集う様に無数の光の筋が流れ、一箇所に集まり絡み合うと、そこから巨大なバナナが戒斗目掛けて落ちてくる。
ゲイツの背後に複雑に絡み合う時計盤が現れると、円心状のエネルギーにゲイツは囲まれ、その中で姿が変わる。
頭に被るとバナナは展開し、上半身を覆う鎧と化す。
顔目掛けて『らいだー』の文字が勢い良く填め込まれる。
『ナイトオブスーピアー!』
『仮面ライダーゲイツ!』
仮面ライダーゲイツ。そして戒斗が変身したライダー、仮面ライダーバロン。
ヘルヘイムの森の中で、二人のライダーが並び立つ。
アナザー鎧武が枯れ木と落武者というイメージなので、アナザーバロンは熟れ過ぎたバナナと負けた騎士というイメージで書いています。
ライダー同士の共闘が書きたくて、今回みたいな話にしてみました。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ