街は大分賑やかさを取り戻していた。
相変わらず、スカイウォールの残骸やパンドラ・タワーはその凄惨さを表すかのように佇んではいる。
タワーはともかく、スカイウォールの残骸に関しては撤去のしようがないのだろう。
時折、スマッシュの出現とそれに合わせてガーディアンが交戦しているが、その数も少なくなりつつある。
なぜなら、各地方に仮面ライダーがいるからだ。
それは徐々に国全体に認知し始めており、ライダー達も窮屈なく活動に専念しているようだ。
石動美空は、カフェ・nascitaの屋上で復興しつつある街並みを眺めていた。
仮面ライダービルド復活以降、ここで街や空、海を眺めることが好きになっていた。特別何があった訳ではない。ただ、好きなものを好きなだけ眺められる幸福感に浸りたかった。
「美空ー。そろそろ戻ってこっち手伝えー。」
「はーい。」
店から父・石動惣一の声が聞こえ、美空は店の手伝いに戻った。
ここも随分賑やかになってきた。海辺に佇んでいることや、惣一が一つ一つ丁寧に焙煎した珈琲が好評となり、今では客足が絶えることはない。
その中でも一人、美空の目につく客がいた。
「また来たの?」
美空は男性客に声をかけた。
「別にいいだろ、他に行く宛がねぇんだよ。」
男性客は答えると珈琲を口にした。
「うまっ、やっぱここの珈琲美味いな。」
「…。ふふっ」
美空は思わず笑ってしまった。
「あん?何だよ。」
男性客は少し恥ずかしそうにしていた。
「ううん、お口にあって良かったですわ。」
美空はわざとらしくいった。
すると、二人の女性客が男性客に近づいてきた。
「あの…。もしかして、格闘家の長瀬リュウガさんですよね?」
「私達、ファンなんです!握手してもらってもいいですか?」
「あ、あぁ。いいぜ!」
リュウガが二人の女性客と握手を交わすと彼女達から黄色い声援が聞こえた。
美空はそれを見ると、そのまま店の仕事を続けた。
長瀬リュウガ。彼女達は知らないが、彼は東都の仮面ライダー、クローズである。
リュウガはかつての万丈龍我と同じく格闘家となっていた。ライダーとしての経験を生かしたファイトスタイルが売りなようで、格闘技番組でも時折出演する程、人気を集めていた。
そんな彼は、オフの時にnascitaに現れる。本人曰く、何故だか分からんが何だか落ち着く。だそうだ。
そして、ここに訪れるのは何も彼だけじゃなかった。
「みぃぃぃぃたぁん!!!!」
店のドアから奇声と共に男性が入ってきた。
「ぐ…!れないさん!?」
「グレてねぇよ♪紅カズミ、かずみんって呼んでいいんだぜ♪?」
そう言うのは、北都の仮面ライダー、グリスこと、紅カズミだ。
彼は、かつて猿渡一海が経営していた猿渡ファームをそのまま引き継ぎ、"猿渡ファーム・紅ver."として農業を再開している。新政府が掲げる新政策の一つである"北都土壌再生計画"によって、スカイウォールのせいで死にかけていた土壌は回復し、農家として再開出来るようになったそうだ。
カズミの手腕もさることながら、そこで採れる野菜はとても美味しく、首都圏を中心として全国の6割の家庭や飲食店に出回る程である。ここnascitaも例外ではなく、というかカズミの贔屓もあって、かなりの安値で野菜を出荷してくれるのである。そして、その度にカズミも訪れるのだ。最も、それは美空に会いたいという大きな理由がある訳だが。
「お?何だ、お前も来たのかよ、かずみん。」
リュウガがカズミに言った。
「あ?何でてめぇがいるんだよ。てか、お前がかずみんって呼ぶんじゃねぇ!」
「あ?別にいいだろ?」
「は?ダメに決まってんだろ?」
「あ゙?」
「あ゙ん?」
リュウガとカズミは互いの額をぶつけ、メンチを切り始めた。
二人は会うとだいたいこうなる。もはや犬猿の中といっても過言ではないだろう。
「ちょっと、二人ともやめてよ!」
見かねた美空が言った。
「はい、やめます!」
カズミはあっさりと止めた。
「全く…。紅さんも、珈琲飲んでいって。」
「あざます!」
カズミは美空の言うことには素直に聞き入れる。
呆れるが、それでも美空は悪い気はしなかった。
「邪魔するぞ。」
新たに髭を生やした男性とメガネを掛けた男性が店のドアをくぐってきた。
「お。よぉ、ヒゲ。」
「ん?何だ、ポテトもいたのか。」
「あんたは、サイボーグ鷲尾!」
「誰がサイボーグだ。」
カズミとリュウガの挨拶に二人はそれぞれ答えた。
「あ。ゲントクさん、いらっしゃい!鷲尾さんも!?」
美空はさらに二人分珈琲を用意した。
魅上ゲントクと鷲尾ナリアキ。新政府の仮面ライダー、ローグと西都のライダー、マッドローグである。
初めはローグが西都のライダーであったが、ゲントクが政府に参加したため、その代わりをナリアキに託したそうだ。
ゲントクは政府に参加すると、その手腕を発揮し国を建て直す為の政策を多く発案した。もちろん、北都土壌再生計画もその一つである。そのため、カズミは彼と交遊を深めていたのだ。今では、次期首相とも言われている程である。
「鷲尾さんが来るなんて。」
美空は少し驚いた。
「ど、どうも…。」
緊張気味なのか、ナリアキは俯きがちだった。
「西都の方で戦ってた時に、たまたま共闘してな。その時に声をかけたんだ。」
ゲントクが答えた。
「てか、ヒゲのおっさんもここ来るんだな。」
リュウガが言った。
「たまにだがな。ここに来ると気が落ち着くというか…。おっさん言うな!」
「え?そう、なんですか?」
美空は聞き返してしまった。
「まだ30過ぎたばかりだ。」
ゲントクが答えた。
「そこじゃなくて!ここに来る理由!」
「何?…あぁ。何故かここを懐かしく感じてしまってな。迷惑だったら申し訳ない。」
ゲントクが言った。
「ヒゲもか?俺もそうなんだよなぁ。」
「俺も。」
カズミとリュウガも同意した。
もしかして、生前の彼らの記憶が…?
美空は自分の考えが邪推なことは自覚していた。しかし、もしかしたらと思っていた。
すると、また店のドアをくぐってある男性が入ってきた。
別れ際、もう会わないと誓ったはずの男がそこにいた。
「え!?」
そこにいたのは、佐藤太郎もとい葛城巧だった。
「なんで、ここへ?もう会わないって…。」
しかし、なんだか巧の様子がおかしかった。
「み…。」
「え?」
「み、みみ…、見つけたあああああああ!!!!」
巧は突然叫びだした。すると巧は美空の両肩を掴んだ。
「ひゃっ」
突然のことで、美空には何がなんだか分からなかった。
「おい、葛城!!俺のみーたんに何触ってんだ!!」
カズミが美空の肩から巧の腕を離させた。
「いや、お前のじゃないだろ。」
リュウガが冷静に言った。
「葛城?俺は葛城先生じゃねぇ!」
その一言に、美空は引っ掛かった。
「え、どういうこと?」
「俺は、ツナ義ーズの佐藤太郎だ!!」
巧の口から、思いがけない一言が飛んできた。
ツナ義ーズの佐藤太郎。それは、新世界からこの世界に連れ出し、葛城巧の人格に書き換えられ消滅したはず。現に、葛城巧として仮面ライダービルドになり戦っていた。
「そんなはずは…。だって、ビルドとして戦ってたのは…。」
美空が言うと、
「ん?葛城先生だよ。」
佐藤太郎を名乗る巧は言った。
「あ?でも、そのビルドはお前だよな?」
リュウガも尋ねた。
「あぁ、この俺。佐藤太郎だ。」
わけが分からなかった。
「…?あ、ああ!わかった。先生、お願いしやす!!」
太郎はビルドドライバーを腰に巻いた。
「…、最悪だ…。」
太郎は呟いた。しかし、それは先ほどとまるで様子が違っていた。
「石動美空…。」
「葛城、巧?」
「…Exactly」
それは間違いなく、葛城巧の口調だった。
「何が起こってんだ?」
カズミが言った。
「僕は、本来なら消えるはずの存在。それが、今は佐藤太郎の身体を借りて現存している。」
巧が言った。
「だけど、やはり僕は身体を借りてる身。佐藤太郎の人格を消そうだなんて理不尽なことはできない。」
「だから、ビルドとして活動するとき以外は佐藤太郎に任せることにしたんだ。」
「マジかよ…。」
巧の説明を聞いて、リュウガは思わず呟いた。
「ちなみに人格の入れ替えは、ビルドドライバーがトリガーになっている。」
言われてみれば、あの時葛城巧としてビルドに変身する時や別れ際の時はベルトをしたままだった。
「それって、もし太郎がベルト手放したらどうすんだ?」
リュウガが尋ねた。
「その心配はない。彼が寝ている間に、絶対手放さないように睡眠学習させてある。」
巧の一言で全員背筋が凍る思いをした。
「まさかの催眠かよ…。」
「さらっととんでもないことしてやがる。」
「まさに悪魔の科学者。」
「マッドですね。」
「しかし、去り際にあれだけ言っておいてこんな形で再会するとは…。」
巧はばつが悪そうにしていた。
「なら、何故ここに来た。」
ゲントクが尋ねた。
「それは…。」
巧は言葉を詰まらせたが、続けて答えた。
「佐藤太郎が、会いたがっていたから。やむを得ず…。」
「え?」
美空は聞き返した。
「…。これ以上はやつに直接聞いてくれ!」
巧はそう言うと、ベルトを外した。
その途端、またしてもテンションの高い太郎の人格に変わった。
「美空、ちゃん?だよな!あんたのおかげで、俺はバンドマンかつ仮面ライダーという最強のジョブを得た!その感謝をしたかったんだ!」
太郎は満面の笑みを浮かべながら言った。
「おい、俺のみーたんの名を気安く呼ぶな!」
すかさずカズミが言った。
「だから、お前のじゃねぇよ。」
同じくリュウガも言った。
「あ、あー…。」
前に佐藤太郎が豪語していたことを思い出した。
「それと、あの時の約束、ちゃんと果たせよな!」
「約束?」
それを聞いて、美空はふと思い出した。
「焼き肉のこと?」
美空は尋ねた。
「ったりめぇよ!ツナ義ーズから引き抜いた分だけ、ちゃんと食わせろよ!」
太郎は言った。
「だったら、今日は皆で肉食いに行くかぁ?」
カウンターの方から石動惣一が言った。
「お父さん!?」
美空は驚いた。
「いいですね、お義父さん!!」
カズミは顔を輝かせて言ったが、
「お前の親父になった覚えはねぇ!」
すかさず惣一から喝がとんだ。
「いいんじゃねぇの?こうやって、みんな顔合わせることだってないだろうしさ!」
リュウガは乗り気だった。
「まぁ、皆でテーブルを囲むのも悪くないか。」
ゲントクも同意した。
「も、もしよろしければ、私も同席したい。」
ナリアキも伏目がちだが、その気であった。
「じゃあ、いつものやつ行きますか!」
「夜はー。」
その時、外から爆発音と共に叫び声が聞こえてきた。
「スマッシュか、いくぞ!」
「やき…、ええ!?タイミング悪すぎっしょ!!」
カズミの合図で、太郎、リュウガ、ゲントク、ナリアキは店の外へ出ていった。
「巧のやつ、ああは言っていたけど、ほんとはあいつもお前に会いたかったんじゃないか?」
皆を見送った後、惣一が美空に言った。
「…。どうだか。」
美空はそう言ったが、微笑んでいた。
「さっさと終わらせて焼き肉いくぜ、みんな!先生、お願いします!」
太郎はベルトを装着した。
「結局お前が引っ張るんじゃねぇのかよ。」
リュウガも続いてベルトを装着した。
「何だか、こういうのも懐かしく思うな。」
「フッ、そうだな。」
「こういうのも、悪くないんですね。」
カズミ、ゲントク、ナリアキも二人に倣った。
「「「「「変身!!!!!」」」」」
掛け声と共に、5人はそれぞれの仮面ライダーに姿を変えた。
「僕達は、仮面ライダー。愛と平和、ラブ&ピースのために戦う戦士だ!以後お見知り置きを。」
国が復興していく中、ネオファウストが活動を始めた。
平和になった国の危機に、東都・北都・西都の仮面ライダー達が立ち向かう!
エピローグ・ビルド編
ディエンドに召喚されたライダー達と美空の交流を描きました。
そして、葛城巧・佐藤太郎への最後の救済措置として二重人格として二人を共存していると設定しました。
その結果、悪魔の科学者兼パンクバンドマン兼仮面ライダーという、奇妙なベストマッチが生まれました。笑
仮面ライダービルド・アナザーワールド
これにて完全完結です。
最後までご精読いただき、誠にありがとうございました(^^)