惣一の決意(第1話)
目を覚ますと、石動惣一は病院のベッドで横になっていた。
「ぐっ…。」
身体を起こすが、同時に頭痛が走る。
何故こんなところに…。
しかし、徐々にではあるが、惣一は思い出してきた。
火星へ行ったこと。
そこでパンドラボックスを見つけたこと。
そして、地球外生命体・エボルトに身体を乗っ取られたこと。
それから、エボルトによる悪事の数々。
「やめろ…。やめてくれ…。」
突然、かつて感じたことのない罪悪感を覚え、吐き気を催した。
「安心しろ、全ては終わったことだ。」
部屋隅から男の声がした。
「だ…、誰、だ。」
惣一は吐き気を我慢し、声の主に尋ねた。
「ただの旅人だ。」
そういうと陰から男が姿を表した。
カーキのロングコートに日除けの帽子を身に付けた眼鏡を着けた男だ。
「あ…、あんたは…?」
「私の名は鳴滝だ。」
鳴滝と名乗る男が答えた。
「全ては、終わったというのは?」
「その言葉の通りだ。仮面ライダービルド・桐生戦兎によって、エボルトは倒された。」
鳴滝の言葉に自分の耳を疑った。
「それは、本当なのか?」
惣一は鳴滝に聞いた。
「ああ。」
「そうか…。」
「ただし。」
鳴滝は続けた。
「それで世界が平和になった訳じゃない。エボルトを失ったことで、パンドラボックスから際限なくスマッシュが生み出され、町を破壊しはじめている。」
「なんだと!?」
惣一は思わず声を上げた。
「残念ながら、事実だ。」
「しかも、エボルトとの戦いでこの世界の仮面ライダー達は全滅してしまった。最早世界を守る存在はいない。」
鳴滝は坦々と言葉を続けていく。
「何か手はないのか…。」
惣一は呟いた。
「あるとも。」
鳴滝は答えた。
「何…?」
「私はそのために君に会いにきたのだ。」
そう言うと、鳴滝はコートの懐からあるものを惣一に渡した。
「これは…。」
惣一には見覚えのあるもの、トランスチームガンとコブラフルボトルだった。
「ブラッド、スターク。」
惣一は無意識の内に呟いていた。
それは、エボルトがスタークとして暗躍していた時に使っていたものだ。それを思い出すだけでも、酷い嫌悪感を感じていた。
「返す。こんなもの二度と見たくない。」
惣一は、鳴滝に押し返そうとしたが、
「これを使え、石動惣一。」
鳴滝はもう受け付けていなかった。
「これを俺に使わせて、何をさせる気だ!」
惣一は鳴滝を睨みつけた。
「何もさせやしない。好きに使えばいい。」
鳴滝は言った。
「君なら使えるはずだ。それを使えば、ある程度スマッシュと戦える。」
「…何?」
これでスマッシュと戦え。
惣一にはそう聞こえた。
「いずれ、この世界をある人物が訪れる。その時までこれを使って戦うんだ。世界の滅亡を防ぐ為にも。」
鳴滝は言った。
「本当なら、それを使って"ヤツ"と戦って欲しかったが、事が事なのでな。」
「ヤツ?」
惣一は鳴滝に尋ねた。
「いずれ分かる。」
そう言うと鳴滝の後ろに銀色のオーロラが現れた。
「何だ!?」
惣一は驚いた。
「私も旅の途中だ。また会おう。」
鳴滝はオーロラの奥へと消えていった。
「お帰りなさい、お父さん!」
病院から退院して、nascitaに帰ると美空が胸に飛び込んできた。
「おぉ、美空。元気そうで良かったよ。」
惣一は少しホッとした。
「あ、お父さん…。お父さんの淹れたコーヒーが飲みたいな。」
美空は言った。それが何を意味するのか、惣一には分かっていた。
「…。ちょっと待ってろ。」
惣一はコーヒーを淹れ、美空に渡した。
「…ありがと。」
美空は恐る恐るコーヒーを口にした。
すると、突然美空は大粒の涙を流し始めた。
「え、ええ!?もしかして不味かったか!?」
美空が口にしたカップをとり、惣一も味をみる。
しかし、惣一の舌が馬鹿になっていなければ、特段不味いとは思わなかった。
「…。ううん。美味しいよ。美味しいの。だから、嬉しくて…。」
「本当の、本当のお父さんだって…。」
美空は泣きながらそう言った。
「美空…。」
惣一はホッとした。それから美空を抱き締めた。
「悪かったな、美空。長い間、寂しい思いをさせちまって。」
「ううん。」
エボルトとしてではなく、惣一自身として美空を抱き締めることができ、惣一も知らない内に涙を流していた。
それから数日が経ち、ジャーナリストの滝川紗羽の手伝いもあってnascitaの営業を再開し始めた。
最初は客脚もちらほらあったが、数日もしない内にぱったりとなくなってしまった。
「全然、客が来ねぇな。石動惣一自慢のコーヒーが飲めるってのに。」
そうは言うものの、惣一自身もその理由は分かっていた。
テレビで連日報道されている、スマッシュの情報。化け物が町をうろついていると知れば、家に籠るのは当然のことだろう。
その時、惣一はあることを思い出した。
ー君なら使えるはずだ。それを使えば、ある程度スマッシュと戦える。
「…美空。ちょっと買い出しに行ってくる。暫く店のこと、頼んだぞ。」
「え?う、うん。」
美空に店を任せ、惣一は店を後にした。
まさかな。
惣一はそう思い、店の買い出しを済ませる。帰り道に差し掛かったとき、スマッシュが現れた。
「グウウウウゥ…。」
「マジかよ。」
惣一は少しずつ下がっていく。それと同じように、スマッシュも惣一に詰め寄る。
ー好きに使え。
その言葉を思い出し、惣一は持ち出していた、トランスチームガンとコブラフルボトルを取り出した。
「やってみるか…!」
フルボトルを振り、トランスチームガンに装填する。
次の言葉を惣一は覚えていた。
「蒸血!」
コブラ…。コ、コブラ…。
ファイア!
トランスチームガンから撃ち出された黒煙が惣一の身体を包み込み、赤いコブラの怪人・ブラッド・スタークへと姿を変えた。
スタークは恐る恐る自分で身体を動かしてみる。しかし、これと言って変わった様子はなく、自身で動かせることを確認した。
「…行くぞ!」
スタークは片手に持った剣を振り、スマッシュへ切りつける。
惣一はエボルトに憑依されていたことで、スタークとしての戦い方を覚えていた。
皮肉なことに、憎悪の対象であるエボルトの力によって戦うことができている。惣一は嫌悪感を感じていたが、それよりも戦う力を得たことに、気持ちが昂っていた。
スタークは一度トランスチームガンからフルボトルを外し、数回振った後に再び装填した。
そして、スチームブレードとトランスチームガンを合体させ、スマッシュに向けて一撃を放つ。
それは、スマッシュの身体を突き抜け、スマッシュは爆発した。
元の姿に戻ったあと、惣一は再び握っていたフルボトルを見つめる。
「戦兎…。俺は、分かっていながらエボルトを止めることができなかった。その結果、世界は荒廃し、お前達まで犠牲になっちまった…。すまん。」
「だから、俺が変わりにこの町を、美空を守る。それで俺の罪が許されるのなら、力尽きるまで戦ってやる。それで、いいよな…。戦兎。」
美空や町の住人達。彼らは石動惣一の決意を知らなかった。そして、人知れずたった一人でスマッシュと戦っていたことを。
やがて、客のいないnascitaに、一人の男が訪れるのだった。
サイドストーリー第一弾
第1話に入る前のお話しです。
惣一が本作にて再びブラッド・スタークになった理由が明らかになります。
ゲストとして、本作本編に登場しなかった鳴滝を登場させました。
最初はブラッド・スタークの力で"ヤツ"こと、世界の破壊者と戦わせようとしましたが、長年ディケイドと相まみえる中で奇妙な絆が出来てしまい、結果ディケイドを手助けする形となり、惣一の元へスタークの力を託しました。
サイドストーリー第二弾。
お楽しみに。