緑谷出久
信じられなかった。あんな小さな女の子が放つ黒色の光の球体。それが着弾するとその部分を容赦なくえぐり取っていく。轟君の氷も破壊され、かっちゃんも必死に防ぐ。当然だ。あんなのをくらったら、人なんて簡単に死んでしまう。オールマイトの言葉を忘れて、本当に殺されると思ってしまう。さらにルーミアちゃんの両手からレーザーが放たれ、それはビルを容易く切断する。切断されたビルは崩れ落ち、慌ててボク達は逃げる。
逃げ遅れた人はオールマイトが倒壊したビルを支えたり、運んだりして助けてくれた。
その後、オールマイトがルーミアちゃんに遠距離攻撃禁止を言い渡した。つまり、それって放置したらボク達が死ぬということにほかならないのだと思われる。
遠距離攻撃を禁止されたルーミアちゃんに再度突撃をかけるかっちゃんは、爆発をまったく気にしない防御力をほこる彼女によって頭を地面に減り込まされ、その頭を踏みつけられる。
轟君が巨大な氷で攻撃するが、禍々しい大剣で切断されて風圧で吹き飛ばされた。まさにオールマイトのような存在だ。そんな彼女がかっちゃんに向けて容赦なく大剣を振るう。ボクは急いで走り、全力のスマッシュを叩き込む。しかし、彼女は片手で受け止めてボクを思いっきり投げつけた。
投げられたボクはビルが迫ってきて死んだと思って走馬灯が現れるが、その前にオールマイトが助けて地面に降ろしてくれた。
「圧倒的実力者の前で正面から突撃するのは愚の骨頂だよ、少年」
「は、はいぃ……」
恐怖で身体が震えてくる。視線をやればオールマイトはすでにいなくて、蹴り飛ばされたかっちゃんを抱きしめて受け止めていた。
八百万さんが発煙筒を投げてくれたので、その間に急いで建物の中に隠れる。隠れながら合流する。手加減してくれているみたいで、煙を吹き飛ばされることはなかった。
どうにか隠れながら彼女を伺うと、常闇君がテーブルを出してお茶をしだした。ふざけるなって、かっちゃんが怒るが、すぐに取り押さえられる。ルーミアちゃんはさっきまでみせていた残虐な表情がなりをひそめ、楽しそうにお茶を飲んでいる。
「どうしますか? 正直言って、ここまで差があるとは思いませんでした」
「ああ。近接戦闘能力も高い。正直、ルーミアを相手するより、常闇を捕まえた方がいいだろう」
「確かにそうだね。今のボク達じゃ瞬殺されるってオールマイトもいっていた。その認識はただしいと思う。それにこれは訓練だ。鬼ごっこ……というか、鬼から逃げながら、鬼が守る宝を手に入れる感じだし」
「そうね。たぶんだけど、攻略方法は彼女が自由に動けない五分の間に罠を仕掛けておいて、囮組が誘き寄せて常闇ちゃんを捕獲するのが正しいと思うの」
「梅雨ちゃんの言う通りね」
「囮なんか必要ねえだろ。あのロリコン野郎を直接狙えばどうせ、防御にでやがる」
「一つ試したいことがある」
「障子君?」
「無理かもしれないが、葉隠なら、どうにかできるんじゃないか?」
「私?」
「そうだ。俺達が囮となっている間、完全に透明になった葉隠なら常闇に触れることはできるだろう。しゃべらなければ」
「確かに。でもそれってかなり危険だよね」
「そうだ。俺達も視認できない。だが、五分後からなら、彼女は動くだろう」
「どれだけ引き離せるかが肝心ってことか」
「なら、一旦攻撃して速攻で逃げるぞ」
相談が終わり、各自で動こうとした瞬間。ボク達全員をとんでもない重圧が襲い掛かる。慌てて通路に視線をやると周りが暗くなっている。空を見上げれば太陽を隠す分厚い雲があった。
嫌な予感がする。先程までお茶を飲んでいたルーミアちゃんが空へとあがり、禍々しい翼がさらに広げられ、持っている大剣もかなり大きくなる。不気味に光る真紅の瞳からは理性が感じられない。
「作戦タイム終わったよね。はじめるよ。EXルーミア、いっきまーす」
そんな声が聞こえた瞬間、風が通ったと思ったら、背後に彼女がいて大剣を振りぬいていた。その風圧でボク達はビルごと吹き飛ばされた。
「ほっ、ほっ、ほっ」
空中のボク達はオールマイトに回収されて地面に降ろされる。しかし、頭上から明らかにやばいものがあった。空に浮かぶ彼女の手には10メートルを超える大剣があり、上段で構えられていた。無機質な、ごみでもみるかのようなルーミアちゃんの視線。
「あっ、ぁぁぁぁっ!」
「けっ、けろぉぉぉっ!」
「む、むむむ、むりぃいいいいぃぃっ!」
「し、死んだ」
「轟君!」
「くそっ、逃げろ!」
轟君が氷壁を作ってくれる。それと大剣がぶつかり、どうにか速度が落ちる。そこをボクが横から思いっきり大剣を叩いて吹き飛ばす。壊れた腕を抱きながら、これで助かったと思ったら、中心に彼女が降りてくる。
「あはっ♪」
禍々しい割れた翼一つ一つが別々に動いてボク達を襲ってくる。全員が鞭打ちされて、ボコボコにされて動けなくなる。
「死ねぇええええええええええええぇぇぇぇっ!!」
「笑止」
掠れる視界の中で、かっちゃんが常闇君に全力の爆撃を放つ。それはまるで火炎放射器のような感じだ。それを常闇君の前で一刀両断されてしまった。彼の後ろにはいつの間にか移動したのか、ルーミアちゃんが抱き着いていて、彼を守ったようだ。
「ふふふふ、死ねとか、殺害宣言受けたから、食べていい人間だよね。そうだよね。うん食べよう!」
そういうと、持っていた大剣が割れて口みたいなのができた。いや、それだけじゃない。周りに闇が広がって、そこから無数の口が存在している。
「みんなもそれがいいって。食べちゃえ」
ニィっと怖い笑顔で笑うルーミアちゃんにボク達は食べられる。そう思ったら、必死に逃げる。だが、いつの間にか地面が黒色に覆われていた。
「お前達は俺を無視しすぎだな」
気付いたら身体が動かない。視界の端にボク達の影に羽が突き刺さっているのがわかる。影縛りとかいう奴だと昔いたっていうニンジャが使っていたと記憶している。さらには地面の黒色から無数の手がでてきて、ボク達を掴んでいく。
「いっ、いやぁあああああぁぁぁっ!」
「はなしてっ、はなしてぇえええええええぇぇぇぇっ!」
女子から悲鳴が上がり、中にはとてもじゃないがいえない状況になっている人もいる。そして、なにより、圧倒的な死の気配をばらまく恐怖の存在がゆっくりと歩いてきている。
「くひっ。くひひひひひひっ、いただきま~す」
目の前に巨大な口が現れて、ボク達は食べられていく。みんな必死に命乞いをしたりするし、オールマイトに助けを求めるが、オールマイトは……常闇君と戦っていた。
「常闇少年!」
「くっくっく、ルーミアばかりが暴れても面白くない。俺とも遊んでくださいよ。ましてや、俺達は今、
「いや、それはそうだけど……本気で殺す気か!」
「そうだ。だが、彼等はルーミアの中で生き続ける。なんの問題もない」
「ありまくりだ!」
二人が高速戦闘を行う。オールマイトが苦労するのは信じられないけれど、ルーミアちゃんも手伝っているからだろう。そんなことを考えていると、パクリと食べられた。暗い世界に閉じ込められ、そのままずるずると引きずり込まれていく。
「いやだ、いやだ、死にたくないっ、死にたくないっ! ぼくは、ボクはヒーローに、なるんだっ!」
自分の身体が化け物にゆっくりと食べられていく感じがして、全力で"個性"を使って闇を吹き飛ばす。両手両足が潰れ、どうにか外にでると……オールマイトと常闇君、ルーミアちゃんが正座してリカバリーガールに怒られていた。
「やりすぎだよ、アンタ達!」
「「「ごめんなさい」」」
視線をやると、闇からペッと生徒達が吐き出されていく。みんな、恐怖で身体が震えている。蛙吹さんとか一部の生徒は恥ずかしそうに三角座りで泣いていた。ボクもすこしやってしまった。しかし、生きていることが実感できた。
「本当は殺気だけで死の恐怖を教えられるかなーと思ったんだけど、いやー予想以上にルーミアちゃんが本気をだしちゃってね」
「まあ、その原因は爆豪のせいだな。最後のアレはルーミアにとってスイッチになった。最初はまだ手加減してやっていたしな」
「アンタも主人なら、もっと早く止めな! 壊れるわよ!」
「この程度で壊れるのなら、ヒーローにならない方がいい。ヒーローにとって、この程度は日常茶飯事だ」
「いやいや、君は彼女の相手をしているから、そう感じるだけだよ!」
「どっちにしろ、シャワーとカウンセリングが必要さね。やれやれ……」
このことを相澤先生にいうと、相澤先生は素晴らしく合理的な選別方法だといっていた。