心操人使
借り物競争でどうにか残ったら、トーナメントで死んだ。俺の一回の対戦相手は常闇
呼ばれてリングに上がると、ルーミアの名前が呼ばれる。しかし、相手はこない。不戦勝かと思ったら、空から落ちてくるかのように降りて、リングの直前で翼を広げて滞空する。明らかに力学を無視した翼でだ。なぜか手にはチョコバナナを持っている。
「くそムカつくな。飛行なんて強い"個性"まで持ってるなんて、どうなってるんだ?」
相手はこちらを見てすらおらず、答えもしない。彼女が見ているのはミッドナイト先生だけだ。そう思っていたのだが、そもそも、彼女はミッドナイト先生すらみていない。周りをぐるっとみてから、一ヶ所に手を振っただけだ。後はどうでもいいかのようにチョコバナナを取り出して、食べ始めた。
「ルーミアちゃん、始めていいのかしら?」
「いいひょー」
「俺は真面目に相手する必要すらないってか」
「
これはいけるかもしれない。後はミッドナイト先生の合図だけだ。
「それでは、スタート!」
「行くぞ!」
「
俺の"個性"は洗脳だ。この"個性"のせいでろくな目に合っていない。俺は人を助けるヒーローに憧れ、愚直にヒーローになりたくてなりたくて仕方ないのに、どいつもこいつもヒーローではなくヴィラン向きだと言いやがる。雄英の試験だって"個性"を活かせなくて落ちた。それなのに、ヒーロー科に合格した奴等の生徒の性格が最悪だ。こいつだってそうだ。完全に
「命令だ。そのまま場外に出ろ」
「?」
くるりと向きを変えて、チョコバナナを食べながら場外に歩いていく。これで俺の勝ちだ。
「ん? チョコバナナを食べながら?」
「ほりゃ、端まで歩いてあげたよ。でも、場外にはでてあげない」
チョコバナナを食べきった棒を手に持ちながら、くるくると遊びだす。まさか、アレで相手をするつもりか?
「いや、待て。俺の"個性"は確かに入ったはずだ」
「答えは簡単だよ。出力が足りない。それじゃあ、精々一人か二人を操る程度だし、私を洗脳するには足りない。ましてや洗脳なんて、何百回も受けてるから耐性もあるし、対処法も心得てる」
「嘘、だろ……」
何百回も洗脳を受けるなんて、明らかに普通じゃない。なんなんだこいつ!
「あっ、恐怖したね。それじゃあ、私には勝てないよ。それと、これは処分っと」
持っていた棒を"個性"で消滅させる。どうやら、反則勝ちも狙えないようだ。
「ほらほら、頼みの"個性"がきかなかったらどうするの? まさか、それで終わり? まあ、その洗脳の"個性"に頼りっきりだったら、仕方ないね。ここまで残れたことが奇跡だったんだよ。うん、ただの一般人が頑張ったほうじゃないかな。褒めてあげる」
「ふざけんなっ! 俺はっ、俺はっ!」
「俺は? もしかして、ヒーロー志望とかだった? でも、あのぬるいつまらない試験に落ちてるよね? それじゃあ、足りないってことだよ」
「俺だってあんな試験じゃなければ合格できていた!」
「あははは、無理だって。あんなの、ヒーロー志望ならその気になれば誰だってクリアできるレベルだったよ。それこそ無個性だっていけるよ。それすらクリアできないのなら、無理だから諦めたほうが身のためだよ」
あのロボットを倒す試験が無個性でもいけるだと! ふざけやがって! そんなはずがないだろ!
「ああ、ありえないって顔だね。でも、事実だよ。現に身体能力が低く、透明になるだけの女の子だって合格している」
「私のこと!?」
「あははは、そうだよ。ちゃんと何を志望して、なにをしなければいけないかを考えたらわかるよ。まあ、普通に
「事前に申請すれば"個性"次第でいけるわ」
「だって。武器を持ち込めばいい。ここの先生であるスナイプ先生だって銃を使っているんだから、ヒーローが武器を使うのは何の問題もない。例え、それが駄目でも他の奴が壊した
「だが、それは……」
「多分だけど、貴方は訓練の時間が足りなさすぎる。私のマスターは4歳か5歳までに憧れ、ずっと訓練していたらしいよ? だからこそ、9歳か10歳くらいで私と出会って生き残れた。訓練してなかったら、最初の一撃で死んでただろうね」
「まて、お前の話は……まさか……」
嫌な考えが思い浮かぶ。この目は人を人とも思っていないような感じがする。いや、それどころか人間とすら思えない。
「改めて恐怖を煽るためにも自己紹介をしようか。私は、私達は常闇ルーミア。とある連中に拉致され、人体実験のはてに死んでいった子供達の集合体。私達の"個性"は死んだ子達の物。だからこそ、多数の"個性"をもっている。その時に洗脳を受け、狂わされて崩壊する身体で大暴れした」
「それ、は……」
「でも、安心して? ヒーローの皆は命を賭けて、私達が死ぬまで被害を押さえ込んだから。私達を命懸けで殺して救ってくれたのがマスターである常闇踏陰。彼は攫われて実験台として死んでいった私達にとマスターの"個性"としての新しい生をくれた。それはいくら望んでも取り返せず、ヒーローに頼んでも無理なこと。でも、だからこそ私達はそれを与えてくれたマスターに全てを捧げる。マスターが望めばどんな者だろうが、一切の容赦も躊躇もなく、殺す」
「なんだ、それは……完全に……」
「
「そんなオカルトが……」
「そうだよね。アレは私達も驚いた。I・アイランドとかいうところで検査をうけたけれど、奇跡的に相性がよかったということくらいしか、わからないんだよねー。まあ、どっちにしろ、私達はマスターに従うから、マスターがヒーローを目指してヒーローになるのなら、私もヒーローとして力を貸す。だから、あまり怖がらなくてもいいよ、私の手の届く範囲なら一般の人達は守ってあげるから。あ、ヒーローネームとかも決めないといけないんだった。うん、嫌がらせもかねて、これにしよう。オール・フォー・ワン。私達は一人のマスターのために。皮肉が聞いていて最高だよね。そう思うよね、まっくろくろすけに死柄木弔だったかな」
まっくろくろすけに死柄木弔って誰だよ? どちらにせよ、みんなは一人のためにか。ある意味ではこいつらにあっているのか? ルーミアの話が本当ならだ。
「アンタ、それは待ちなさい!」
「やだよー。ああ、それで話しを戻そう。君、幼いころから毎日訓練してる? ちゃんと身体を鍛えてる?」
「当たり前だ!」
「なら、その時間が足りない。最低でも毎日8時間。それを6年は繰り返した雄英高校の試験なんて無個性でもいけるよ。つまり、ただ単に努力が、気概が足りないだけ」
「そんな無茶苦茶な……」
「でも、マスターと私達はほぼ毎日互いに
「そんなの、個性があるからだろ! 俺にだって肉体強化の"個性"があれば……」
「うん、だったらその"個性"はいらないの?」
「ああ、いらない! こいつのせいで俺は……」
「そう。なら、交換してあげる」
「え?」
一瞬での目の前に移動したルーミアが、俺の頭を掴んで離した。すると、身体から力が湧いてくる。
「身体能力強化×5。それをあげた。代わりに私はあなたの洗脳をもらった。さあ、それで前提条件はかわった。私は"個性"をつかわずに強化もせずに戦ってあげる。かかってきなさい」
「なめやがって!」
足を前に出して力をこめるだけで一気に接近した。すぐに殴ろうとすると、腕を掴まれてそのまま投げられる。すぐに着地してまた突撃するが、投げられる。
「どうしたの? ただの無個性と同じ、それもか弱い女の子の力しかだしてないよ?」
「嘘だろ……」
「これは単なる技術。合気道っていう日本に伝わる武術だよ。これだけでも、あんなプログラム通りにしか動かないロボットなんて、簡単に破壊できる」
「くそぉぉぉぉっ!」
全力で"個性"を発動させると、リングが陥没して物凄い速度になる。その衝撃で足が折れた。だが、かまわずに殴るために全力を行う。相手は軽く横にずれて俺を軽く力を押すだけではたき落とした。片腕も折れて、リングの上を転げまわる。
「そこま……っ!?」
目線だけでミッドナイト先生を黙らせやがった。
「ほら、立って。あそこにいる緑谷君はそれでも頑張ってたよ? 大丈夫、ヒーローになりたいのなら、いけるいける」
「ふざけっ」
「あーなんだ、やっぱりヒーローになる資格がないね。ヒーローなら、
アイツは俺に近付いてきて、首を持って持ち上げる。
「どんな状況でも足掻いて足掻いて勝ちを掴まなきゃ。すくなくとも、それができるから、ヒーローはヒーローたりえるんだよ。その点、貴方は……」
「……る、さい……」
「ん? なに?」
聞き取れなかったのか、耳を近づけてきた。その瞬間、俺は口で耳を噛んで噛み千切ってやる。
「へぇーやるじゃん」
傷口から黒い靄がでてくると、すぐに元通りになった。
「くそっ」
「うんうん、君はヒーローになれる可能性があるよ。頑張れ頑張れ」
「え?」
「ご褒美に治療してあげる」
「なにっ、ぎぃっ、あぎぃいいいいいいいいいいいいぃぃぃっ!!」
とんでもない激痛が襲いっ、折れた腕や足が強制的に元に戻され、治療されていく。あまりの激痛に暴れるが、びくともせずに身体を痙攣させて、手を離されると倒れる。そんな状態でも必死に身体を支えて攻撃しようとした瞬間、俺は場外に吹き飛ばされた。
「先生、もういいよ」
「ぷふぁっ。アンタ、やりすぎよ!」
「必要なことだよ。あ、その"個性"はしばらく貸してあげる。代わりにこれ、借りとくから返してほしければ言ってね」
「あっ、ああ……」
相手は本当に化け物のようだが、優しい部分もあるようだ。
死柄木弔
「ふざけんなっ、あの小娘ぇえええええええええええぇぇぇっ! よりによって先生を、先生を殺したお前がっ、お前がつかうのかぁああああああああああぁぁぁっ!」
「落ち着いてください。傷に触ります! 相手の思う壺です! 彼女はああして、私達を的確に煽ってきているだけです!」
「ちっ、くしょうっ! しかも、自分から
「そうですね。同時に彼女は被害者であり、加害者でもあると知ら閉めました。その危険性も伝え、手を出したら容赦なく殺すと宣言して牽制までしました。これだけならまだましですが、一般市民は守るとも伝えています。こうなると
「それにそもそも罪に問おうにも、本人は既に死んでいて、人間ですらなくなっている。法的排除も難しい。だが、奴の倒し方が絶対にあるはずだ。調べて殺すぞ」
「ええ、やってやりましょう」
エンデヴァー
焦凍の試合が終わり、廊下を歩いていると前方から第一級危険指定を受けていた元
だが、その後。彼女のことが襲撃した研究所のデータから判明し、後悔に襲われた。彼女達は助けを求めていたのに俺達は間に合わなかった。そのせいであの惨劇が起こった。死傷者だけで百人を超える史上まれにみる事件を起こしたのが幼い少女達など、公表もできずに爆弾テロ事件として片付けるしかない。どちらにせよ、本人は死亡している。肉体がなくなるのを俺達が目の前でみていたのだ。
そのあと、常闇踏陰が目覚めて彼女が"個性"として蘇ったことが、どれだけ嬉しかったか。ヒーローとしては別だが、息子と娘を持つ親としてだ。
「元気か」
「うん、ちょっとだるいけど元気だよーおじさんは~?」
「俺はいつでも元気だ」
「そーなのかー。奥さんは?」
「今、入院させている」
「大丈夫なの?」
こちらを心配してくれるようになるとはずいぶんと成長したものだ。彼女が蘇ってから、更生施設には何度も通った。オールマイトもだ。彼女は本人の意思ではないとはいえ、第一級危険
なので、俺とオールマイトが付き添いで外にでたりもしていた。踏陰と一緒にいる彼女はとても楽しそうにしていた。そのせいか、最初は警戒していたが、なんというか本当に問題のない普通の女の子だった。ただ、ガス抜きとして戦闘訓練に付き合わされたりはしたが。そんな風に長い時間を過ごしたからか、娘のようにも感じている。
「実は前にも話したかもしれないが、妻が息子を傷つけてな……だから、入院させて治療させている」
妻のことを詳しく説明していく。個性婚についてもだ。それと息子の焦凍についてもだ。
「馬鹿だね」
「どうしたらいいのか、わからん。とりあえず、焦凍が自ら望んだ通りに鍛えてやったが……炎を使わなくなった」
「ただの反抗期。子供なだけだよ」
「お前も子供だろう」
頭に手を置いて撫でてやる。
「やめてーセクハラだよー」
「ちんちくりんのくせして何を言う」
「まったく……まあ、いいや。それで、どうして欲しいの?」
「叩き潰せ。焦凍の氷の自信を完膚なきまでに破壊し、火を使うように誘導してくれ」
「それは別にいいけど、どうせすぐ戻るよ? 私にしている時みたいにちゃんと接すれば多分大丈夫だけど……」
「息子と娘に同じ扱いはできるか」
「やれやれ。でも、奥さんとは仲直りしなよ~? 責任とらないと~」
「それは……」
「そんなんだから、ナンバーワンになれないんだよ」
「うぐっ!」
「やれやれ……まあ、覚悟が決まったのなら、おいでよ。良い"個性"を借りられたから、治療してあげる」
「それはありがたいが、どう接すればいいんだ?」
「"個性"を関係なく、彼女自身をみなきゃ。そうだね……このままいったら、私とマスターが困るし……うん。今度インターンがあるでしょ」
「あるな。それに呼べと?」
「うん。その時、マスターに"個性"使用許可を与えて
「それはそうだな……」
「後、デートというか、お見合いもしよう。大丈夫、私とマスターも一緒だから」
「お前、楽しんでいるだろ」
「当たり前だよ~代わりに息子さんもどうにかしてあげるし、ついでに鍛えてあげる」
「わかった。任せよう」
「楽しみにしてるね。あ、でも負けてはあげないからね」
「当たり前だ。むしろ、プライドを徹底的に破壊してくれ」
「それは……得意だよ。ふふふ、とっても楽しみ」
焦凍が勝つ可能性なんて万に一つもない。俺ですら、今の彼女にはルール無しでは勝てるかわからない。俺が焦凍なら、勝てる可能性はまだあるが、焦凍では無理だな。焦凍では一撃に全てをかけて何もかも吹き飛ばすというのはできないだろうしな。
去っていたルーミアを見送ってから、俺は後ろを振り向く。
「立ち聞きとは趣味が悪いぞ、オールマイト」
「はっはっはっ、聞こえてきただけだよ。こんなところで話しているのが悪いんだ。それよりも、君に伝えたいことがある。来てくれ」
「重要な案件か?」
「ああ、重要なことだ」
「了解した」
防音の部屋に移動すると、オールマイトが急激にしぼんでいった。
「なんだそれは……」
「これが私の本当の姿だ。君には伝えておく。私はもうヒーローとして活動できる時間が短い。引退も考えている。この傷のせいでね」
「……ふざけては……いないようだな」
「ああ、本気だ。
「オール・フォー・ワンとはなんだ」
「彼は……」
詳しいことを聞いて納得した。つまり、そいつが例の事件の親玉だったということだ。そいつはすでにルーミア本人の手で処断されたらしい。
「さて、前提条件はこれでいいとして、問題は私が引退してから。常闇少女は常闇少年がいれば安定する。だが、逆に言えばいなくなれば暴走するということだ。ヒーローとしてはどうかと思うが、そのまま彼女が消えてくれるならいい。だが、そうでないとしたら、世界がやばい」
「確かにそうだな」
「そこで彼女を押さえられる人材の育成が急務だ。それを轟少年や、私の後継である緑谷少年達をあてようと思う」
「できるのか? 正直言って無理だと思う」
「ああ、私達だけでは育成できないだろう。だが、彼女自身が鍛えたらどうだ?」
「確かにそれなら可能性はあるか。踏陰を巻き込めばいいのだからな」
「むしろ、それしか手がないっていうのが情けない限りだ。本当はそんなこと、起こって欲しくはないが、何もしないというのはできない」
「当然だ。最悪には常に備えることが重要だ。それをあの事件で俺達は知った」
「ああ、アレは悲惨だった。っと、そろそろ試合が始まるね」
「そのようだ。俺は行く」
「今度、一緒に食事でもいこうか」
「断る。俺は今からお前のせいで忙しくなるんだからな」
「アッハッハッハ、そう言われるとどうしようもないね」
「だが、まあ年末に集まるのはいいかもしれん」
「家族を含めてかい」
「そうだ」
「ところで、どこでやるかが問題だよ。彼女というか、常闇少年はまだ仮免許もってないからね」
「インターンでやるから問題ない」
「了解。彼女の位置は常に知らせてくれ」
「わかっている」
これは本当に忙しくなるな。だが、その前に冷を家に戻せるようにしないといけないな。もっとも、今は焦凍の試合が大事だ。
「ところで、何時もみたいに炎をだしていないね」
「なん、だと!? やられた! 洗脳の個性か!」
オール・フォー・ワン。よくよく考えたらルーミアちゃんにもあてはまりました。ただ、その方向性が逆ですが。ルーミアみんなは一人のマスターのために。
ひーろーについては本当に葉隠ちゃんが合格してるから、本当にどうにかできそうなんだよね。
オールマイトが暴露したのは、オール・フォー・ワンがいなくなり、新しいオール・フォー・ワンが生まれてしまったから。次代への対策として協力を要請するため。