自由教師の相澤(の奥様)先生 作:小指すまっしゅ
個人的に誰がどの発言をしているのか分かりにくいかなと少々反省する部分もありましたが、三人称視点が書き慣れていないので追追解決出来ればと思っています。
朝食と昼食は並行して準備をする。
彼女はまず重箱を用意する。そして淀みない動きで流れる様な調理で一段二段三段四段と埋まっていく。よく見ると重箱の横にこじんまりとした、いや普通サイズの弁当箱がある。
「あの人のお弁当はいつもの如く少なく感じるわ。まぁ最初なんて要らないとまで言われたんだから進歩したと言えるかしらね」
そう重箱が累の弁当でその脇にある弁当が彼女の夫の物である。四段積みの重箱に比べたらどのような弁当も少ない事に彼女は気付いていない。
弁当を包み、手提げ袋に崩れないように入れる。ソレをキッチンからリビングへ、リビングから玄関へ、玄関から車へと積み込む。
直ぐに服装をスウェットからリクルートスーツに着替え、あらかじめ用意しておいたリュックを担ぐ。
そのまま車に乗り込めば既に助手席にモゾモゾと動く人間大の芋虫が居た。
「朝飯は…」
「卵サンドよ胡椒も用意してあるから自分の好みでどうぞ」
そういって累はリュックを芋虫の膝あたりに乗せた。それに合わせて芋虫は身を捩るように身動ぎする。そしてあらびっくり中からは綺麗な蝶ではなく小汚いオッサンが出てくるじゃありませんか。
「もうなんの為に電動シェイバーを買ったと思ってるの…」
「だから必要無いと最初に言っておいただろう…上手いなこの卵サンド……」
ことも無さげにそんな事を宣い、卵サンドを貪るこの男。名前を相澤消太と言う。偽り無くこの男こそ累の夫である。
「ダーリンの意地悪ぅ!」
累は頬を膨らませぶーたれながらPOWERボタンを押す。エンジン音と共に目の前のメーターに光が灯り、現在の数値を写していく。時間も家を出るには丁度良い。
「じゃあ着いたら起こしてくれ」
「もう、もっとゆっくり食べてよぅ」
相澤は「職業病だ」と言い残しさっさと芋虫に退化していった。累も溜め息を零しつつもしょうがないと笑顔も零した。そうして彼女はいつもの様に車を走らせる。
──雄英高校へと
◇◆◇
契約しているパーキングエリアに入った辺りで隣の芋虫に声を掛け、決まった区画に駐車をした。相澤に乗っている荷物と後部座席に乗せた手提げ袋を手に車を降りる。隣に居た消太もその頃には脱皮して車を降りていた。常に合理性を求める彼はこういう時の寝起きと次へのアクションはすこぶる速い。
「ん、俺の分の弁当はどうした?」
「アレレ、ダーリンったら私のお弁当が無いと生きていけない身体になっちゃった? もう待ちきれない的な?」
「なんでそうなる。ただいつも車から出る時に渡してきたから今日はどうしたんだと、それだけだ」
累はそういう事かと柏手を打ち、口角を上げた。相澤は嫌な予感が警鐘を鳴らした。訝しげに睨む夫をよそに妻はイタズラを準備した後のように浮ついた心地で歩き出していく。
「おい待て、何を企んでる」
ルンルンと上機嫌な妻を追う形で駐車場を後にした。
そして相澤消太は思い至った。
(こいつ雄英まで来る気だ)
どちらにしても雄英のセキュリティで弾かれる筈なのだから中までは来ないと高を括った相澤は黙って職場へと向かった。
だがしかし事実は小説よりも奇なり。
「よしじゃあ旦那様の職場を見学と行こう!」
「いや待て本当に待て。一体どういう…」
さも当たり前のように雄英高校の敷地内を悠々闊歩し出す女が相澤の目の前に居た。御察しの通り彼の妻である。お前の嫁だろなんとかしろよ。
スキップで校舎の中に入り込み、真っ直ぐ職員室に向かう累。廊下は走らず歩いている当たり常識が─
「──まずお前がここに居る時点でアウトだ」
「まぁまぁ私も今回はお仕事で根津校長に呼ばれてるんだから不法侵入じゃ無いんだ。常識の範疇なんだぜダーリン!」
相澤はそろそろ頭が痛くなりだした。なお頭痛のタネは目の前に居る上に現在進行形で職場見学と称して職員室へと全速前進中だ。※きちんと歩いています。
「オープンセサミアンドグッモーニン!!」
勢い良くドアをスライドさせ、中を俯瞰する。チラホラ他の職員も見える。大抵の者は口をあんぐりとさせて居た。一人を除いて。
「Yeah! Good morning!」
両手を高く挙げ身体で元気ですと大いにアピールして来る男が一人居た。良く通る声は勿論累まで届いた。
「相変わらずいいレスポンスだぜマイク!」
雄英高校で相澤と共に教鞭を取っているボイスヒーロー:プレゼントマイク。個性は『ヴォイス』と言い一言で説明するとうるさい。ラジオDJもしていたりする人気ヒーロー。相澤とは同期で腐れ縁、本名は山田ひざし。
二人は互いに近付き合い「Fooo」と奇声を上げながらハイタッチした。その後ろに居る相澤は頭痛が酷いのか頭を抱えている。そして内心思った。「あぁ…会ってしまったか」と。
「久しぶりだなタフクイーン」
タフネスヒーロー:タフクイーン。
本名、相澤累。旧姓を
「ここ最近はヒーロー活動自粛中だったからねぇ」
「イレイザーの世話で一杯一杯だったかオイ!」
「もうダーリンったら亭主関白だから……」
そろそろ我慢の限界を迎えた相澤は凄んだ。その怒気にいち早く気付いたバカ共は口を噤む。
「あ、私根津校長に挨拶して来ないと! ハイお弁当、じゃあねバイバイsee you again!」
累はテキパキした動きで職員室を去って行く。まさに嵐の様な女だったと雄英職員一同は口を揃えて語った。
そして職員室には逃げ遅れた憐れな男。
「俺も授業の準備が…」
「おい待て」
だが世の中は世知辛く残酷で更に厳しい。山田ひざしは相澤消太から逃げ遅れてしまった。肩をがっしり掴まれ、ビシビシ質量のある視線を飛ばしてくる。
次回、山田死す。更に向こうへ、Plus ultra!!
◇◆◇
プレゼントマイクを生贄に捧げた累は校長室まで来ていた。身嗜みを整え、ノックをして入室許可を得た後扉を開ける。
「私が来た!」
「私は元から居た!」
NO.1ヒーローのセリフをパクったが目の前にご本人が居た。累もこれには驚い─
「オールマイトじゃん久しぶり!」
──たりは勿論しなかった。
「HAHAHA! 相変わらず朝から元気だねタフクイーン」
「それだけが取り柄だかんね!」
二人して大笑い。そこに部屋の主の咳払いが入ると校長へと顔を向けた。紛うことなきネズミだ。異形系だと勘違いしてしまうが紛うことなきネズミである。ただちょっと大きくて目に縦一文字の傷が有るだけで紛うことなきネズミなのである。
「どうも根津校長。タフクイーンここに罷り越してございます」
「相変わらず君の思考回路は僕の頭を持ってしても理解出来そうにないよ。まぁ良く来てくれたねタフクイーン」
急に跪く累に目を回しそうになる根津校長。オールマイトも額に手を当ててオーバーなリアクションをとっている。小声で「これでスイッチ入ったらアレだもんなぁ」とごちている。
「それで根津校長、あの書類の件ですよね?」
「そうだね。目は通してくれたかな?」
雄英からの書状には雄英高校の職員になって欲しいとざっくり言えばそう書かれていたことを累は覚えている。
しかし累にとっては何故、今こんな物が届いたのかが何より疑問だった。恐らく自分を雇う目的は生徒への戦闘指南や警備の強化の為だろうと累は認識している。
だがそんな事は根津校長の隣の人物が全て解決する。
NO.1ヒーローであるオールマイトとは存在自体がヴィランに対する抑止力となる。平和の象徴であり、それに見合う程のカリスマ性と他を圧倒するパワーがある。そんな存在が今では此処雄英高校の教師となった。つまりヴィランは下手に手が出せない。累のオールマイトへの評価はそれ程高いし事実そうである。例え彼が衰えていたとしても。
「君を呼んだのは寧ろオールマイトが此処に来たからさ」
「オールマイトが?」
ますます分からないと思わず首を傾げる累。
「彼は教師としての才能が皆無だったんだ」
「そんなストレートに言わなくても…」
根津校長は紅茶片手にそう言ってのけた。オールマイトの様子から見ても事実のようだ。累は意外だとオールマイトを見て思った。
「八木先輩にも苦手な物があったなんて、なんかショックです。先輩は大抵ソツなくこなす方だとばかり…」
「私はその言葉を聞いてよりshock!」
何を隠そう累は若干二十歳そこそこの見た目でオールマイトが雄英在学中に雄英高校に通っていた。つまり雄英OGでありオールマイトの後輩にあたる。年齢については言及してはいけない。相澤との年齢差も聞いてはいけない。聞いたらその日が最期、いいね?
「事情は分かりました。ですが、何も私でなくとも補えるのでは? 雄英の教職員は皆プロですし、そもそもオールマイトは今年から教師になったはず、であれば今まで通りのカリキュラムにオールマイト+その他の教師といった対処が出来ないとは言いませんよね?」
「別に深く捉えなくてもいいんだ。単純に君を此処雄英の教師として欲しいとそう言っているだけだからね。オールマイトの補佐役にって言うのは本音でもあり建前でもあるのさ」
根津校長はさり気無く紅茶を累の前に置いた後、紙の束をデスクから取り出し差し出して来た。おずおずと言った様子で受け取るとどうやら報告書の様だった。太文字ゴシックで『マスコミ騒動の対処法と結果』と書いてある。
「これは?」
「オールマイトが来てからマスコミが挙って押しかけてきてね。登校する生徒達を待ち構えては質問の嵐を浴びせ掛かる。まぁここまでなら想定内だったんだけれど、問題はその後のランチ時──」
──門が破壊されたんだ。
そう言った根津校長の表情は強ばっていた。それはオールマイトも同様で彫りの深い顔立ちにシワができている。
いくらマスコミがオールマイトに取材したくとも果たして門を破壊してまで入ってくるだろうか? 事実侵入こそして来たマスコミだが、それは門が開放されたからであって、門を破壊して入ったとはならない。何故なら─
「マスコミの中に門を破壊出来る個性の持ち主は居なかった。つまりこの騒動には…」
「ヴィランが関わっている可能性が高い」
音も無く静かな時間が校長室を包んだ。その部屋にいる誰もが険しい面持ちを維持しており、口を固く閉じている。
このまま誰も喋らないと思わせるほどその場は静かだった。累のスイッチが切れるまでは。
「おっしゃ、取り敢えずぶん殴れば解決出来るわ!」
「何でこうも真面目モードが続かないんだキミって奴は…」
後輩のある種悪癖と言える性質に天を仰ぐ。オールマイトは痩せぎすの骸骨男性に姿を変えツッコミを入れた。血を吐きながらしているそれは補正が入らないと死ぬだろう。ギャグ補正はどんな事をしてもダメージ0で通るから素晴らしい。
「まぁ早い話ヴィランの活動が活発化している節があるから保険に私を起用しようとそういう事でしょう? 最初からそう言いましょうよ、勘繰っちゃったじゃないですかぁ」
こうして雄英高校の教師としてタフクイーンこと相澤累はフリーダムティーチャーとなったのである。
◇◆◇
「と言うわけで本日付でここに着任した相澤累先生だよ」
「何故だ!?」
「字面そのままの意味合いだよ相澤消太先生」
「そういう事じゃねぇよ……」
第47回相澤夫妻小競り合い大戦が何を思ったか雄英高校職員室にて勃発した。小競り合いなのに大戦なのかとかそもそも一対一で大戦とはこれ如何にとかは特に気にしてはいけない。
「まずそんな話は聞いてないぞ?」
「知りませーん。と言うかもう決まっちゃったので今更遅いのだよダーリン!」
「学校でダーリンは止めろっ!」
他の職員が暖かい視線を送ってくる現実に目を背けたくなる相澤は取り敢えず目の前の女を黙らせなければと思った。だが結果的に根津校長の発言で自分が黙ることになった。
「ぁ、彼女の面倒を見てあげてね相澤くん」
「は?」
「彼女は1-Aの副担任という事にしてあるから」
その言葉を聞いた相澤はその場で膝を着いた。根津校長は言葉裏でこう言っているのだ『お前の嫁だろどうにかしろよ』と。最早それは相澤にとって死刑宣告であった。
(押し付けられたァ──!!?)
その場には膝を着いて落ち込む男と飛び上がりながら喜ぶ女と言うか対象的な夫婦の姿があった。そして外野は尽くニヤニヤとして居たそうな。
感想や評価等は送って頂くと私が喜び咽び泣きます。
批評等はやんわりオブラートに包んで頂ければ美味しく頂きます。
原作は結構うる覚えなので見落としが多いと思います。ご指摘頂ければ幸いです。