自由教師の相澤(の奥様)先生 作:小指すまっしゅ
盛り込まれてしまう設定が続々と…
そして最後の辺りで地の文が作者自身によるツッコミになってしまっているのでご了承ください。
時間はお昼時、累はA組生徒をギリギリまでボコッた事に満足感を感じていた。
「クフゥ、今日のご飯はより一層美味しくなりそうだなぁ」
A組は累に対して思った以上の粘りを見せた。今回の鬼ごっこの肝は接敵の回避や隠密ではなく、如何に接敵した際に凌げるかだった。範囲が限られている以上累と会わないなんてそんな都合のいい事は起こらない。
A組はそれを知ってか知らずか少数で集まってチームを作り、柔軟に対応してみせた。主なリーダー格は緑谷、轟、八百万、そして爆豪。
「随分と機嫌が良くなったな」
「あ、お疲れダーリン! 意外と噛みごたえがあるクラスだったよ」
そう言って累はPCの電源を立ち上げて今回の授業風景のVTRを流した。相澤も弁当を取り出しつつ、横に座った。内容が気になるのか何処かいつもより動きが速い。常にこれくらい速ければ良いのにと喉元まで出てくる累であった。
流れる映像は何度も爆豪の突撃シーンが入っている。その度に累に叩き潰されているが、脱落する寸前まで累に対して攻撃の手を緩めなかった。寧ろボコられる度に立ち上がってはキレが増している。
「爆豪…」
「勢いは凄かった! 後良い子だよねあの子!」
累にとっての良い子がどう言う意味なのか察した相澤は爆豪対して同情に似た感情を覚えた。丁度画面にはボディにラッシュをキメられている爆豪の姿が…
「いやぁ手加減って難しいねダーリン!」
「普段から力を抑えてる女のセリフじゃないな」
次に流れるのは八百万の罠を正面からぶち破る累だった。ワイヤートラップに気付いていながら自分から突き進み粉砕、耳郎の音波攻撃を自分が叫ぶ事で帳消し(実際は出来ていない)にして突撃、近接戦に持ち込まれた時に応戦した障子は防戦一方の末に複製した腕を貫通されボディブローを喰らった。葉隠は累の野性的嗅覚に捉えられて御用。
「トラウマになるだろコレ…」
「これで折れたらヒーローはやっていけない、ダーリンもそう思うでしょ?」
「同意する所ではあるが、エグさが俺の時とは段違いだろ。アフターケアも教師の仕事だからな」
累は心の中で「それをダーリンが言うの?」と思ったが、頭をゴリゴリされるのが怖いので全力で飲み込んだ。けれど、いや言ってしまう方がそれはそれで面白いかとも考えた。良くも悪くも累は自由だ。
「轟は善戦したようだな。お前に回避を選択させてる」
轟の采配は詰将棋を思わせる。氷攻撃で回避を選ばせ、回避先に芦戸が酸の雨を降らせる。攻撃に転じても常闇に阻まれる。体勢を立て直し強襲を試みるものの口田が鳥を追わせてくる。
最終的に累は出力を上げて氷を砕き、酸を跳ね返し、
「ちっちゃい頃から鍛えられてるんでしょうね。他の子の個性を生かせる作戦だったわぁ。多くのサイドキックを抱えてるエンデヴァーを彷彿とさせるよね…炎は意地でも使わないみたいだけど」
エンデヴァーを若い頃から知る累からすれば何となく炎の個性を使わない理由が分かった。確かな詳細は分からないがきっとやり過ぎたのだろうと。累はエンデヴァーこと轟炎司をよく知っている。なんせ彼も累の先輩だ。誰よりもヒーローの頂きに固執し、それ故に苛烈で冷酷でひたむきな姿を後輩の視点で見ている。
「家庭訪問でもしよっかなぁ」
「問題は起こすなよ?」
「あれれ、てっきり反対するかと思ってたのに…」
「轟が自分だけで解決出来ればそれが一番良いが、悠長に待ってもいられない。時間は有限、使わない個性は腐るだけ、轟焦凍がヒーローになるにはどっちも必要だろ」
──なんせどっちもあいつの『個性』だ。
その時見た相澤の横顔は確かに累が愛した男の顔だった。不器用な思いやり、ズボラな姿から伺えない優しさ。誰よりも優しいから今まで見込みの無い生徒を除籍してきた、試練を課してきた。ヒーローの殉職率は低くは無いのだ。自分が送り出す生徒がヒーローになり、死んでいく様なんて見たくない。
「ダーリンも教師なんだね」
「お前も教師だ」
「ダーリンみたいな先生になりたいな!」
「バランスが取れるからお前と一緒になった。累らしい教師に成ればいい」
久しく相澤の口から自分の名前を聞いていない累。そんな最中呼ばれる自分の名前。いつも振り回す側の累からしたら不意打ちであっけらかんとした顔になる。悔しいけどそれが悪くないと思えた。
相澤自身、少し意識していたのだろう。言っていることを自覚しているのか何処か薄ら赤らんでいる。だから羞恥を誤魔化そうと気になった点を挙げた。
「さっきから緑谷たちが映りこまないな。これは…なるほど逃走ルートを何パターンも模索していたのか」
「しかもそれぞれバラバラ。最終的に合流するけど、合流地点も何個かあったって終わった時に言ってた」
単純な機動力では随一の飯田。高い壁もなんのその、道無き道を進む蛙吹。ビルとビルとを大きく移動し真っ直ぐ集合場所に飛べる麗日。小さい体格を武器に細道を進み個性によって追跡を妨害出来る峰田。緑谷も他の生徒を目立たせる事で結果的に隠密がしやすくなる。
だが結果は虚しい。飯田はスタミナ無限の化け物に追われ続ける恐怖で体力の配分をミスり、蛙吹はそもそも行く先々を破壊され続けて個性を生かせず、麗日は麗らかじゃなかった。峰田はスケベ心で偶然を装いパイタッチを試みた結果ヤムチャポーズ。
「意外だな。緑谷が最後か」
最後まで残っていたのが個性を使う度に身体を壊す緑谷出久だった。彼の超パワーは技術とコントロールが伴えば恐らく雄英でもトップを張れるだろう。だが緑谷には技術が無い。原石と言うよりまだ掘り起こされてもいない。そんな彼が身体を壊さず行った行為は思考を止めない事だった。
けれど緑谷以外のA組を全員捕らえた累は緑谷を見つけた。タフクイーンの個性『
タフクイーンが気力の譲渡を使う時の殆どが
何となく居る気がする。累はそう言う感覚で今まで現場を走り回って救助者を救ってきた。
「私の個性は使用時間に比例して出力の上限が上がる。この時広げた感知範囲は約5メートル。見つけられないわけが無いのよねぇ」
「それで個性を使用される前に回り込んで確保。最後が一番呆気なかったな」
残った授業時間は反省会となった。
累からもA組に評価を口にした。と言っても内容は酷いものだった。なんせ─
『──次からは全員まとめて来てね!』
これで締め括られていたから。
オールマイトもこの言葉には苦言を口にしていたが、累も何も適当に口した訳じゃない。
『爆豪くんで私が強者であるとアピールはしたつもり。その後も正面から力技でねじ伏せてきたでしょ? 轟くんとこで私を止められてた時点で私自体は総力戦であれば大きく足止めできる事に気づいて欲しかった』
その時のA組の生徒たちの顔は何処か青く、僅かに震えている。コレ完全に累がトラウマを植え付けたパターンだ。相澤と言うストッパーを外した累は何処までもクレイジーだ。
「そんな事を考えながら授業してたのか?」
「いや口からでまかせだよ?」
嘘だった。やっぱりただただA組を煽っただけだ。
「それっぽい演出になるかなって、あれだよ合理的虚偽!」
「俺は傍から見るとこんな風に見えるのか?」
空の弁当箱を手提げ袋に戻しながらそんな言葉がつい漏れた。良い笑顔で合理的虚偽を語った累に対して相澤は首を傾げたのだ。まぁA組生徒がこの場にいれば間違いなく首を激しく縦に振っただろう。
あと夫婦同士が似出すというのは本当らしい。
そんな夫婦のやり取りが行われたのは職員室。
不思議な事にとても静かだ。そして時折壁を殴る音や、芳しいコーヒーの匂いがよく漂っていた。きっとこれからも良くあるんだろうな。
◇◆◇
時間は流れる。その日の授業を全てこなし、身も心もボロボロのA組の生徒。どうにも教室の空気がどんよりしている気がした。
「ヒーロー基礎学辺りから記憶が無いんだけど…」
「それうちもや。何か口の中酸っぱい気ぃするし」
「君はそれ以上思い出さない方が良い。斯く言うぼ…俺もあまり思い出したくは無いが……」
このいつもの三人組も快活な雰囲気も何処へやら、完全に順番は違えど見ざる聞かざる言わざる状態だ。
まぁあんな笑顔を貼り付けながら追ってこられたらホラー映画をそのまま体験してるのと変わりないだろう。累は幽霊と言うより最早宇宙人、SFホラーだったか…
「じゃあホームルーム始めるぞ」
「何か担がれてる!?」
「もうちゃんと歩かないとダメだよぉ!」
累は蛹に戻った相澤を担ぎながら入室してきた。累はプンスカプンと腹を立てているようだが内心世話が焼けて嬉しいようだ。やっぱりどっちも自由だ相澤夫妻。
「お前ら今日は災難だったな、まぁタフクイーンが授業に参加する際は基本今日みたいなスパルタで行く。肝に銘じておけ」
「銘じておけぇ!」
「それで明日の事だが、救助訓練を行う事になる。そして喜べ諸君、明日はタフクイーンも引率だ。良かったな」
「良かったなぁ!」
その時A組に雷が落ちた。いや別に上鳴が落ちたわけじゃない。ただの比喩だ。
「安心しろ、最初に行うのは災害現場に於いての対処方法や初歩的な治療法等だ」
その一言で一体何人が安堵の声を漏らした事か。だが忘れてはならない。相澤も教師としては割とスパルタだ。
「訓練途中でヴィラン役として登場しないとは保証はしないがな」
「おぉ…それはそれで楽しそう!」
夫婦揃って悪い事考えてる顔だ。誰もがこの二人ならやりそうだと思っただろう。てか結局相澤もストッパーしてない!?
「じゃあホームルームは終わり、自分の為の救急セットにならない様に気を付けな」
挨拶、そして放課へ。
◇◆◇
轟焦凍は放課後なのにも関わらず職員室に来ていた。特別呼び出された訳でも無い。ただ今日の行った鬼ごっこで鬼と言うより鬼神になっていたタフクイーンについて気になっていた。
(全く似ても似つかない筈なのに、何でこんなに…)
轟は累に憧憬と憎悪の対象が重なって見えた。
幼い頃にヒーローへの憧れを持たせてくれたオールマイト。
母を酷く傷付け泣かせ、自分に憎しみを植え付けたエンデヴァー。
一人の人間に重なるはずの無い、重なってはいけない。轟はこの事実に困惑し、苛立ち、答えを求めた。
意を決して職員室の扉を叩き、やや緊張しつつも開けた。
「1-Aの轟です」
中には数名の教師が残っていた。その中に相澤の姿もあり、パソコンに向けてた視線をこちらに移してくる。
「累先生、居ますか?」
そう短く伝えると相澤は親指で横を指差した。職員室に踏み込み、その場に向かうと瞬きせずに一心不乱にパソコンに文字を打ち込んでいる累の姿があった。
ブルーライトカットのメガネを付けているものの目に悪すぎる作業だ。普通目の水分が乾くだろうに不思議な事に充血もしていない。ただ個性を使用しているのか瞳の色が紅く光っている。
その時、轟は無意識に右目に手を添えていた。
「作業停止だ。客が来たぞ」
「ふぇ? あれ轟くん居たの?」
相澤は累の両目を覆い隠し、強制的に作業を止めた。猪突猛進を素で行く累を止めるにはこうする他ない。なお壁を殴る音が一回なった。
「どしたどした? あれかな、先生と生徒の禁断のロマンスがしたいとか?」
「相談と言うか、気になったと言うか、取り敢えず二人で話したいんですけど」
壁は生き残った。
「うん、じゃあ応接室行こっか!」
掛けてある鍵を手に取り、至って平静を装いながら移動を試みる。
(あわわ、マジか!? 親子揃ってそう言う感じかぁ!)
黙って着いてくる轟に対してドギマギしだす累。仮に轟が累に対してそういう感情を抱いていたとして、外見年齢はともかく実年齢と人妻と言う属性を鑑みて色々アウトである。気付け累、そんな可能性は無い。
「それで話って…何かな?」
「いや、その…」
言い淀む轟、半ば勢いで来ただけに何と言えば適当なのか分からない。まぁまず何故オールマイトとエンデヴァーに似ているのかだとか聞けないだろう。
「言い難いならいいんだぜ? 無理しなくても!」
「…親父と、どんな関係なんですか?」
「告った側と振った側だね!」
──オイイイィィィィ!!?
ここをこうした方がいいとか、ここが良かったとかあったら感想ください。
なお、轟と累のお話は誰も興味無いでしょうしカットでいいでしょう。