自由教師の相澤(の奥様)先生 作:小指すまっしゅ
あとやっぱりこの書き方がなかなかどうして慣れない。
朝が来た!!
陽は昇り、窓からは朝焼けの光が優しく降ってくる。累はそれと同時に起きる。朝昼晩、何時いかなる時でも寝起きは早い。なお相澤は別室で睡眠をとっているので特に慎重に出る必要は無い。
桃色のスウェットを着たまま廊下へ出て、そのままリビングから台所へと踏み入れる。皆の憧れのアイランドキッチンに見向きもせずに累は冷蔵庫へと直行する。
寝起きのソレにしてはキビキビした動きで両開きの冷蔵庫を開き、常備している牛乳を取り出し開封する。
その後は誰もが想像出来るだろうが飲む。息継ぎもせずに瓶を90°に傾け、垂れ流しも同然に牛乳は目減りする。
「やっぱ朝は牛乳だわぁ」
口の端から漏れた牛乳を拭いさり、顔を洗うべく洗面所へ。
累は個性の影響かは深く分かってはいないが常に肌に透明感ともちっとした感触がある。特別なスキンケアはしていない。なんせ朝の洗顔も豪快に顔にぬるま湯をぶっかけるだけであるから。
化粧もしないので女性にしては準備時間は圧倒的に少ない。これには相澤もにっこりな効率の良さ。
「朝ご飯は生春巻きしよう。野菜とか鶏胸肉、味気無かったら場合に備えて調味料を幾つか付ければ大丈夫そうかな…」
軽めな朝食を意識する累は朝食には毎朝四苦八苦する。それに対して昼食には苦労しない。取り敢えず美味しい好きなものをぶち込むだけだから。
一通り朝の仕事を終えれば後は着替えるのみ。今日はリクルートスーツには着替えない。と言うのも相澤に学校で着替えるよりか家からきて行った方が時間をロスしないと指摘されたからだ。
まぁコスチュームには着脱に難があるためいつもより早めに起きる必要があったが累にとっては問題となり得なかった。
「準備よーし!」
相澤はいつもの如く車で蛹になっている時間だろうと累は荷物持って車庫へ。
「おはようダーリン、朝のチューはまだかい?」
「そんな事をした記憶はないしする気もない。やめろ顔を近付けるな。そういうのは新婚終わったらやらないものだろ」
「気持ちは何時でも新婚だぜダーリン、だから問題ない」
「問題しかない」
朝からレスリングの様に組み合う夫婦が車の中には居た。まぁ力の差で組み伏されるのは相澤なのだが、果たしてここは逆の絵面じゃなくて安堵するべきか、累の朝のキスマジ勢振りにドン引くべきか。
「照れなくてもいいんだよダーリン! さぁ素直になれよォ」
「最早誰なんだお前は…」
この攻防は時間ギリギリまで行われ、最終的に累の頭には大きなコブが一山出来たそうな。
◇◆◇
見事にいつもより遅く出勤することになってしまった相澤夫妻。と言っても遅刻ではないので問題は無い。
それから恙無く職員会議を終え、教室へと行く。
「ねぇまだ拗ねてるの? 機嫌直してよ、ね?」
「別に拗ねてる訳じゃない」
累が相澤の周りをクルクルと回りながら尋ねても相澤の口はへの字に曲がっているし、目も顔も合わそうとはしない。
「拗ねてんじゃーん。ごめんってばァ許してもうたぶんしないから!」
「お前のたぶんは本当に信用出来ない。あと本当に拗ねちゃいない、ただ驚くから自重しろって話だ」
1-Aの教室に到着し、踏み入ってもこのやり取りが終わる気配は無い。
「拗ねちゃいないって言うけどさぁ、じゃあ何で顔合わせてくれないの」
「合わせる理由は無いからだ。もう生徒の前だ切り替えろ」
この後も抗議を続けようとする累は結局廊下に立たされた。
◇◆◇
場面は一気にウソの災害や事故ルーム、通称USJと言ういつ改名を余儀なくさせられるか分かったものではない施設へ移る。
何を隠そう今回はこの場がA組の救助訓練の舞台となる。内容は倒壊した家屋から市民を救助、その場での正しい対応を教師の実演を通して学び、生徒に考察実行させる事を主とする。
累は今回ヴィラン役で登場するつもりで急遽同行を決められた。よって13号、相澤、累、オールマイトの四人体制を取る事になっている。予定では!
「んでオールマイトは朝からバタンキューで現在お休み中、とそういう訳なの?」
13号が個性使用の危険性を生徒たちに語っている間に駄べり出す教師がいる。
「どうにも出勤中に通り掛かった事件を片っ端から解決して行ったらしい。放っておけとは流石にヒーローとして言う気はない。ないが、教師として駄目だろう…」
「ナチュラルボーンヒーローを自称するオールマイトは見て見ぬ振りとか出来ないでしょうね。市民一人の命を救うためだけに命削れる男こそがヒーローであり、彼はその体現者であるから」
しかしそれで遅刻とかそれはそれで一人の大人としてどうなのかというのが相澤夫妻の結論だった。
13号の話もそろそろ終わりが覗く頃、累の直感がピリついたものを感じた。咄嗟に感知範囲を広げて見るとー
(居ない…いや来る!?)
生徒たちが惜しみない拍手を送るその僅かな時間だった。黒い靄が広がり、強い悪意を孕んだ何かを発し始めた。それがワープ系統の個性だと気付くのにはそう時間を掛けない。
累はスイッチを切り替える。
「
雰囲気を180度変えた累に相澤も事態を即座に飲み込み指示を飛ばしていく。だがわかるのは外部への連絡が絶たれた事実だけである。
「13号にイレイザーヘッド、これは可笑しい。先日頂いたカリキュラムにはオールマイトの名前もあったのですが…ましてやタフクイーンはどこから湧いてでたのか。どうします死柄木弔?」
「空振ったからはいそうですかで帰れるかよ。こんな大衆でお邪魔したんだぞ。オールマイト、平和の象徴……子どもを殺せば来るのかな?」
出てきたのは猫背の痩せた男と黒い靄で顔面が覆い隠されている男。後は後ろに引かれてくる大勢の
「あれは別格だな、私じゃないと死ぬ」
それを聞いた者達怖気りながら累の視線の先をなぞった。
そこには脳を剥き出しにした黒の異形がいた。目は血走り、口からは鋭い歯が乱立しているのが見て取れた。どうにも理性が働いているようには見えない。
「か、累先生! その言い方じゃ俺達はおろか相澤先生達もやべぇって事になるんじゃ」
「良い指摘だぜ切島くん、その通り私でないと10秒持たない。13号は戦闘が得意でないし、イレイザーの拘束も引きちぎられちゃあ意味を成さないからね」
「引きちぎれる? イレイザーヘッドの捕縛武器は炭素繊維と特殊合金の鋼線で作られてるんですよ!?」
緑谷が喘ぐように声を出した。
「引きちぎれるだろうね、トイレットペーパーみたいにあっさり」
「そんな、そんな力まるで…」
オールマイト並だと誰もが思っただろう。だがその事実は口には出さない。あまりにも突然現れた絶望を口に出したくなかった。
「13号は生徒を連れて出口を目指して。イレイザー、後ろからサポートよろしく!」
「生徒を優先にしなくてはならないでしょうしそれには賛成です」
どこか含みを持たせた13号は横の相澤を覗き見た。
「……生徒を送り出し次第合流する」
相澤は存外淡白に答える。だがそれは合理的だったからに過ぎない。公私を使い分けられる相澤だからこそ、そう答えた。
「行かせねぇよ。行け脳無、まず厄介なイレイザーヘッドからだ!」
黒い異形は指示を耳に入れたその瞬間その場から掻き消え、そして相澤の正面に立った。その剛腕を振り上げながら。相澤が出来たのは受けの体勢を取るだけだった。
「私のダーリンなんだ。手を出すのは止めて欲しいな」
だが脳無のスピードに累は追い付いた。いや実は今の累ではまだ脳無の姿を目で追えない。ただ累の感知範囲を擽ったから一足早く行動出来た。
「『
鮮やかな赤の気炎を爆発的に発生させ感覚を鋭敏化させ、筋力や瞬発力から耐久力や自然治癒力等様々な力にブーストを掛ける。
振り下ろされる脳無の拳を自身の拳で受け止める累。その力は今の所均衡を保っている。
「やっぱり増強系だったか。他にも色々臭うけど…」
「良い勘してるぜタフクイーン。そいつは対平和の象徴生物兵器改人脳無。『ショック吸収』に『超再生』の複数の個性持ちだ。倒せるもんなら倒してみろよ!」
何が楽しいのかヴィランの首魁である死柄木弔は嗜虐的な笑みを浮かべながら饒舌に情報を漏らした。相当な自信が脳無にあるらしい。だが累は動じない。
「うん、じゃあ倒すよ! 行ってイレイザー!」
生徒が出口に向かって走り出すと同時に突き出したのとは違う拳を脳無の肘関節に叩きつける。破裂音が響いたがダメージが通った様には見えない。取り敢えず腹を蹴り飛ばして距離をとった。
横目でチンピラがイレイザーを囲むのが見えた。あの程度ならあっさり伸すだろうと視線を脳無に戻すと、肩越しに見えた黒霧と呼ばれていたヴィランが居なくなっていた。それを意味するところを察せない程累の経験値は低くない。
「イレイザー! ワープ持ちが行った!」
そう声を飛ばしてみたものの当の本人は巨漢のヴィランで視界を塞がれている。ワープの個性を消しつつ相手をするのは骨が折れるだろう。かと言って13号では相手が戦闘慣れしていた場合に危うい。
「上手く分離させられちゃったなぁ。やるじゃない社会不適合者共」
相澤がヴィランを倒しきるまで13号が黒霧を抑えなければ生徒に危害が加わる。それは累にとって看過できるものではない。とはいえ目の前の脳無を放置するわけにもいかない。完全に八方塞がり。
「殴って、蹴って、はっ倒す!」
細かい事で手をこまねいてもどうしようもない事に気付いたので、累は考える事を止めた。思考放棄、身体が勝手に動き出したので悪くない。オールマイトも良くやるでしょと言う訳の分からない言い訳が累の中にはあった。
性懲りも無く真正面から突撃して来る敵を薄目に眺め、そしてため息を吐く。余りにも芸がない、考える脳が無い事から脳無などと言う名前が付けられたのかと思う程捻りのない動きだと欠伸を噛み殺す事しか出来ない。
「『
今、たった今累は目の前の対平和の象徴に敗北する事は無くなった。もういくら殴られようと立ち上がるだろう。膝を着こうと、地に体を沈めることになろうと二本足で立つだろう。
「じゃあ遊んだげるよ。COME ON BABY!」
「その余裕振った顔が、負けない事を確信した様なスカした顔が! オールマイトとダブってムカつくんだよ…殺せ脳無!」
激しく首を掻き毟り、出血も厭わず憎悪の限りに叫ぶ死柄木。
対して累は口元を緩ませ真っ直ぐ堂々と首魁である死柄木へと歩いていく。まるでランウェイを歩くファッションモデルの様に朗らかに軽やかに煌めきながら。
「激しいラブコールだけどお生憎様、私には14歳若い素敵なダーリンが─ピギュ!」
累がゴム鞠の様に飛んだ。砂煙を巻き上げながら数回のバウンドを経てやっとこさ止まる。
「おい最後まで惚気させろ」
酷い一声だ。
「モロに入っただろ死ねよ!」
「ダーリン置いて死ねねぇぜ、私には朝チューと言う夢のシチュエーションが消化不良起こしてるんだよ」
「…もっとヒーローらしい答えがあんだろ」
「そういうのはオールマイトの仕事だからいいの」
それでいいのかヒーロー。
脳無は未だに死柄木の命令に忠実に応えようと体全体を使って目標を撃滅しようと動いている。だがいっこうに止まらない。いくら捻り潰そうと、ねじ伏せようと、弾き飛ばそうとケロッとしている。
「チートかよクソがっ!」
「へへへ、褒められちったぜ」
「クソ、クソ、クソッ! 全然役に立たねぇじゃねぇか、対平和の象徴じゃなかったのかよ! せめて捕まえろ俺が殺る…」
死柄木は目の前の小煩い女を塵にすると決めた。自身の個性ならばいくらタフであろうと関係ないのだとそう心の中で累を嘲笑しながら溜飲を下げる。
「なるほど組み敷いて拘束か、確かに悪手では無いよね」
両腕を背に固定され、脚の力と体重を乗せてマウントを取ったならば力の差があろうと抜け出すのは容易では無い。なお頭を足蹴にされている状態なので累の声にも若干の苛立ちが見える。舐めプするバカが悪いので全くその怒りに分からみを感じない。
勝利を確信した死柄木は累に五指全てを押し当てた。
「…は?」
だが個性が発動しなかった。目の前の女にいくら指を押し当てようと『崩壊』しない。脚に、腹に、胸に、喉に、顔に、頭に、何度も何度も個性の発動を試みたが不発。
そして気付いたら身体に布が巻き付けられていた。
「俺のハニーなんだ。手出し無用で頼む」
突如として起こった浮遊感、そして背中に伝わる衝撃、肺の空気が勢い良く押し出され噎せる。横を見れば同じように脳無が転がっている。
「─イレイザーヘッドォ……!」
『崩壊』で拘束具を粉々にしながら血走った目をヒーローへと向ける。リア充爆発しろ。
「かっこいいぜイレイザー流石私のダーリンだよ」
「無駄口叩いてる暇があるならさっさと片付けるぞ」
「急にいけずだな。さっきは私の事をハニーって呼んでくれたのにさ」
「後で幾らでも言ってやるからスイッチを入れ直してくれ……」
おい早く爆豪呼んでこい。
初期の死柄木ってこんな感じだったっけ…分からぬ!
あと轟くんと累の話を書いて欲しいと感想貰ったんですけど……エンデヴァーと轟くんと累で三者面談したくなるよね(関係ない)
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