絵のモデルを頼んだ女子高生が幼女を拾ってきたんだがどうすればいいだろうか 作:込山正義
転スラとかありふれとかの4コマくっそ好きなんだが。
そして全く関係ないですが予約投稿したつもりで新規保存押してたマヌケが私ですorz
今までのすれ違いを全て水に流しこれからは仲良くしていこうという旨の親睦会を兼ねたお泊まり会が行われた翌日。俺とさとうはあさひに連れられとあるアパートの一室へと赴いていた。
この場所こそがしおの実家。さとうに拾われたその日まで住んでいた、言うなれば彼女が本当にいるべき場所である。
何故今更になってここに来たのか。
その理由、というか目的はあさひとしおの実母に会う事だ。
ちなみにしおは連れてきてない。むしろ一番同行するべき人物だと思っていたのだが、意外にもあさひと、そしてしお本人が渋ったのだ。
二人の母親は現在精神的に不安定な状態らしい。
今はある程度落ち着いているらしいが、しおと会う事で何かしらの悪影響が及ばないとも限らない。
もちろん良い結果になる可能性も多分に存在しているが、賭けに出るくらいならば引き金を引かない方がリスクは小さくて済む。
それが二人の出した結論だった。
あさひを先頭に家の中へと入る。
そのまま止まることなく玄関を過ぎ、どこか重苦しい空気を感じさせる廊下を通り抜け、奥の方にあった一室の扉を開けた。
「母さん……」
そこに一人の女性がいた。
後ろ姿からも分かるくらいにどんよりとした雰囲気を身に纏っている。この部屋の中だけ重力が五割増しくらいになっているのではないかと錯覚を受ける程だ。嫌な息苦しさも同時に感じられた。
「あさひ……?」
女性が振り向く。
その顔を一目見て理解した。この人の心が今どのような状態にあるのかという事を。
さとうなんかは露骨に顔を歪めていた。俺は表面上の危うさしか感じ取れないが、彼女にはそれよりももっと深いところが見えているのだろう。
今にも壊れてしまいそうなくらいに不安定な心理状態。
あさひが言っていた事は間違ってはいなかった。
「ひっ……!」
神戸母は最初ぼんやりとした様子であさひのいる方を見つめていたが、その視線が俺とさとうを捉えると目に見える程に狼狽え始めた。
いや、よくよく観察してみるとその視線の先にいるのは俺一人のみ。どうやらさとうは関係ないらしい。
「い、いや……来ないで……! 私たちに近付かないで!」
酷く怯えた様子で後退りをされると流石に悲しい気持ちになる。
一体俺が何をしたというのか。存在そのものがダメだったのか。鬱になりながらあさひに視線を向けてみれば、やっぱりダメだったかといった様子で溜息を吐かれた。
え、やっぱり俺が悪いの?
「すまない、事情は話す。でもまずは外に出よう」
あさひに促され部屋から退室する。
同じ空間にいたらあの人の体調が悪化し兼ねない。自分に怯える女性を見て悦に浸る性癖など俺は持ち合わせていないのだ。
玄関まで戻ってきたあたりであさひが口を開いた。
その表情は暗く、瞳には怒りや憎しみといった負の感情が宿っていた。
「オレや母さんは父親に虐待を受けていた。その事は話したよな」
聞かされた。
本当に断片的ではあるが、この場所に来るにあたって事前にあさひから説明を受けていた。
「その影響で、オレと母さんは大人の男に恐怖心を持ってしまっているんだ。正確に言えばオレは大人全般で母さんは人間全般に対してだけど……その中でも大人の男は特にダメなんだ。アイツの顔が……チラつくから……」
なるほど。トラウマの対象という訳か。
ん? でもそれだと少しおかしくないか?
「あさひも男の人は苦手なんだろ? でも俺とは普通に接してるよな? 何でだ?」
「それは……」
あさひは言いにくそうに視線を逸らしたが、俺が黙って見つめれば結局は根負けして話してくれた。
「あんたが……あんまり大人っぽくないから……」
おい。
誰の精神年齢が小学生だ。
「お兄さん、別にそこまでは言ってないと思うよ?」
「おっと、声に出てたか」
「顔に出てた」
見た目は大人のくせして中身は小学生だと罵倒されたと勘違いした時の顔ってなんだよ。
「ああ、まあ、うん。理解はした。納得はしたくないけどな」
しかし人間恐怖症か。
もちろん医学や精神学に精通していない俺ではこんな時どうすればいいのかなんて事は全く分からない。
要は人に慣れさせこの世には怖くない人もいるという事を教えさせればいいと思うのだが、その方法が難しい。
言うは易し、行うは難しというやつである。
「やっぱり病院に行くのが一番なんじゃないか? 専門家にしか解決できない事も多いだろうし」
お金なら俺が出すからその心配はしなくていい。
そう続けようとして気付いた。病院という場所は多くの人間と接する事になる可能性が非常に高いという事実に。
その中には当然大人の男の人も含まれる。医者なんてものはその割合の大多数を男性が占めているはずだ。
しかしそうなると対人恐怖症の人はどうやって治療を受けているのだろうか。
そういう人は家から出る事も極力避ける傾向にあるだろうに。
うーん分からん。
それならば逆に、もし身内だけで治療するならばどうすればいいだろうか。
彼女がある程度普通に接する事のできる人物は今のところあさひのみ。しかし恐怖症解消のためにはやはり他の人とも関わっていく必要がある。
俺は論外。しおもどんな化学反応を起こすか分からないのでダメ。となると必然的にさとうが適役になるのだろうか。
そんなこんなでさとうに視線を向けてみると、彼女は顎に手を当て何やら考え込む素振りを見せていた。
「どうした?」
「え? いや、ちょっとね……。でも……うーん……」
僅かに同様を見せるさとう。
この反応。もしかして……。
「何か思い付いたのか?」
「ほんとか!?」
「いや、まあ、思い付いたといえば思い付いたんだけど……」
歯切れが悪い。表情にも嫌悪感が浮き出ている。
良い作戦を思い付きはしたが実行に移すのは躊躇ってしまう内容だという事だろうか。
例えば非人道的なものであったり、人ひとりを助ける代わりに何か別の大切なものを犠牲にしなければならなかったりとそういう事なのだろうか。
「まあ無理に言う必要はないさ。言い渋ってるのにも理由があるんだろ?」
「別にそういう訳でもないんだけど……」
違うんかい。
「はぁ……うん、ここで私が駄々こねても仕方ないもんね。確かに心当たりはあるよ。まあ方法そのものじゃなくて、どうにかしてくれそうな人物に心当たりがあるってだけだけどね」
溜息と共に心底嫌そうに話してくれるさとう。
人物と言ったがつまりさとうはその人と出来る限り関わり合いたくないという事なのだろうか。
それ大丈夫か? やばい人物とかじゃないよな?
「実際、上手くいく可能性は高いんじゃないかな。あの人、人を変える事は得意そうだし……」
良くも悪くも……と最後に付け加えられた事によってさらなる不安が生まれた。
ボソリと言ったつもりだろうけどちゃんと聞こえてたからな。
ほんとに大丈夫なんだな? 信じていいんだな?
「……それで、結局その人って誰の事なんだ?」
さとうは数秒躊躇った後、顰めっ面のまま教えてくれた。
「……私の叔母さん」
****
アパートにあさひだけを残し、俺とさとうは自分の住むマンションの元へと帰ってきた。
しかし場所は俺の部屋がある十二階ではなく三階。なんでもこの階の一室にさとうの叔母さんが住んでいるというのだ。
いや、正直驚いた。
さとうに叔母さんがいるのは知っていた。その人物がこの近くに住んでいる事も聞かされていた。
しかしまさかその場所がこんなに近くだったとは思わなかった。
まさに灯台下暗し。いや、この場合は下暗しではなく下暮らしと言った方が適切か。
ガチャンという音が響く。さとうがキーホルダー付きの鍵を地面に落とした音だ。
一体なんの真似だろうか。もしかして何かの儀式なのだろうか。
そんな馬鹿な事を考えていると、もう一度似たような音が聞こえてきた。
ガチャリという今回の音は玄関の扉の解錠音だった。
驚いた。先程の行為はまさしく目的の人物と会うための儀式だったという訳だ。
「あら、いらっしゃ〜い」
中から出てきたのはいくつもの包帯やガーゼに身を包んだボロボロの女性だった。
第一印象は危ない人。街中で見かけても極力関わろうとはしないだろう。
見た目もそうだが、何よりも纏う雰囲気が異質だった。
「おばさん、今日は相談事……というよりも頼み事があって来たの」
「へぇ…………」
あさひたちを待たせているためか、単刀直入に切り出したさとう。
そんな彼女を興味深そうに見つめた後、次いでその視線が奥にいた俺の方へと向けられた。
不気味な笑みが俺を観察する。
笑顔でありながら笑顔でないような曖昧な表情。口角は吊り上がっているのに何故か目元が緩んでいない。無表情に近い笑みだった。
有り体に言って普通に怖い。
しかしそれはあくまで全くの初見だったらの話だ。
俺とこの人は確かに初対面。それは事実である。
しかし俺はさとうという人間を知っている。彼女と共に過ごした経験を持ち合わせている。
さとうの本質を知っているため、なるほどこの人は確かにさとうと血の繋がりがあるのだろうという感想が最初に出てきてしまう。
もちろん言葉にするようなヘマはしない。
さとうはこの人をあまり好ましく思っていないようであるし、そんな事を口にしてしまえばさとうのお怒りを買う結果になるのは明白だからだ。
俺個人としては同族嫌悪に近い感情なのだろうと当たりを付けてるんだけどなぁ。
「いっ……!」
唐突に足の小指付近に衝撃を受ける。
犯人は見なくても分かった。状況的に考えてさとうしかいない。
まさか後ろにいても心を読まれるとは思わなかった。彼女のデータを上方修正する必要がありそうだ。
しかしさとうの履いてる靴がヒールじゃなくてよかった。それでなくても結構痛かったのだ。凶器を装備してた場合小指の付け根から先が無くなっていた事だろう。
「ふふっ、おもてなしもしたいし、話は中で聞く事にするわ」
こちらのやり取りを面白そうに眺めていたさとうの叔母さまに促され、内部へと続く道への一歩目を踏み出す。
部屋の造りは俺の所と同じだろう。しかしその心境はさながら魔王城に潜入する勇者のように感じられてしまったのは一体どうしてだろうか。
「お邪魔します」
「はいどうぞ」
礼儀正しく玄関をくぐる。
前を見ればさとうが驚愕の表情でこちらを見つめていた。何故だ。
礼儀正しく生きる事は日本人として当然の行いだろう。ましてさとうの親戚の前となれば尚更だ。
あれ? そういえば俺、叔母さまに対する挨拶も自己紹介もしてなくね?
その上家にあがらせてもらうのに菓子折りすら持っていないときた。
……ふむ、どうやら俺はちょっぴり出来の悪い類の人間だったようだ。
それがデフォだと思われてるなら挨拶しただけで驚かれるのも納得できてしまうではないか。
ちょっぴり猛省。
****
案内されたリビング。そこで俺はさとうの叔母さまに押し倒されていた。
何故こんな事態になってしまったのか。
状況を整理するために、俺は僅か十数秒程前の事を思い出していた。
この部屋に来てすぐの事だ。
いざ話が始まるといったタイミングで、さとうがお手洗いへと旅立った。
そして残された俺と叔母さま。
会ったばかりで会話を交わした事も無い二人が一つの空間にいる状況。
このままでは気まずい空気が流れてしまうのではないかと不安になり、とりあえずその辺にあった椅子にでも腰掛け気を紛らわそうとした瞬間に気付けば俺は押し倒されてしまっていた。
うーん、こうして思い起こしてはみたが原因が全く分からない。解決方法も浮かばない。
本当になんでこんな事態になってしまったのだろうか。
「ねぇあなた、何日してないの?」
唐突にかけられた言葉の意味が最初のうちはよく分からなかった。そして少し経ってからその意味をようやく理解した。
俺の性事情なんてものをいきなり言い当てられた事に対する驚愕は無い。
さとうも普通に心を読んでくるし、これは松坂家の者に代々受け継がれている特有の能力なのだと納得できたからだ。
しかし気恥ずかしさはあった。
すでに俺はこの人の事をさとうの母だと認識してしまっている。
この人とさとうの関係は叔母と姪だ。それは変わる事のない事実だ。
しかし俺の心持ちにとって本当の関係なんてものは些細な問題でしかない。
そこに大きな違いなど存在しない。
他人の俺からしたら保護者なんてものは両親と同義なのである。
そんな相手と下ネタトーク。正直勘弁してほしいというのが俺の偽らざる本音だった。
「かわいそうに。自分を慰める機会もないなんて」
のし掛かられるようにして胸が押し当てられ、柔らかい感触に襲われる。
それに伴い心臓の鼓動が加速する。
俺の思考は一瞬で逆転してしまっていた。
勘弁してほしいと思っていたはずなのに本能の囁きによってこの状況を堪能しようという方向へと切り替わってしまっていたのだ。
偽らざる本音とは一体何だったのか。
「さとうちゃんは可愛いものね。そんな子と一つ屋根の下。邪な感情を抱かない方が不自然というものだわ」
息のかかる距離までお互いの顔が近付く。
こうして見ると非常に整った顔立ちをしているのが分かる。さとうの姉だと言われても疑問を持つ事は無いだろう。むしろ叔母といわれるよりも納得してしまいそうだ。
「けれど襲う事はできないのね。さとうちゃんが未成年だから。それに加えて小さな女の子とも一緒に暮らしているから。それなのにさとうちゃんはあなたを挑発するような事をしてくる時さえある。それは確かに辛いわよね」
おおっ、分かってくれますか!
そう! そうなんですよ!!
あいつ最近俺の事をしょっちゅうからかってくるようになったんですよ!
それにその時の表情が絶対俺に襲う度胸が無いのを分かってやっている顔なんですよ!!
「ふふっ、むしろよく我慢していると思うわ。えらいえら〜い」
優しく頭を撫でられる。
叔母さまの表情も気付けば慈愛に満ち溢れたものになっていた。
なんだこれ。すごくいい。
気を抜くと涙が溢れてしまいそうだった。
忘れかけていた母親からの愛情が思い起こされる。
「頑張ったご褒美に私を好きにしていいよ。さとうちゃんの代わりに、私を心ゆくまで犯してほしいな」
この人は母親のように温かい。
しかし実際の母親ではない。いわば近所のお姉さんのような存在だ。
だから当然性欲の対象には成り得てしまう。
それでいてさとうの親戚という付加価値が背徳感による興奮までもたらしてしまうのだから始末に置けない。
「どんな事をしてもいい。欲望の全てを吐き出して。私がその全てを受け入れてあげるから」
甘美な誘い文句が耳を犯し脳を蕩けさせる。
誘惑に抗おうという気はある。しかしそれを行動に移す事ができるかといわれれば微妙だった。
本能に訴えかけられるこれは洗脳にも近いのかもしれない。
しかし騙されている訳ではない。それも俺の本音の一つであるからだ。
そしてだからこそ飲み込まれそうになる。
まるで甘い蜜に引き寄せられる虫のように、俺と叔母さまの距離が近付いていく。
物理的にも。精神的にも。
「一緒に――気持ちよくなっちゃおう?」
そしてその距離がゼロになる。
その寸前――。
「二人とも、何してるの?」
酷く冷たい声が近くから聞こえてきた。
さとうだ。
甘ったるい、お花畑のような空気が霧散する。その空間はいつの間にか氷河地帯へと生まれ変わってしまっていた。
人生最大級かもしれない劇的なビフォーアフターである。
「あらあら〜」
惚けるように首を傾ける叔母さま。
いやいやそんな場合じゃないでしょう!? 早く離れないと誤解が深まりさとうの怒りが増大する結末に!!
そして現在の俺は叔母さまにのしかかられている状態。つまりこの人がどかないとどうにもならないのだ。
「おばさん。やめて」
背筋が凍るようなさとうの視線を、しかし叔母さまは笑顔で受け流していた。
すごい。これが育ての親のなせる技なのか。
「こうなったのにはさとうちゃんにも責任があるのよ? さとうちゃんがこの子に与えなかった愛を、行動で示さなかった愛を、私が代わりに――」
「おばさん」
状況が変わってもなお行為を続けようとしていた叔母さまを、さとうの言葉が遮る。
「お願い……」
さとうは怒るか、そうでなければ呆れると勝手ながらに思っていた。
しかし彼女の口から続いて出てきたのは懇願の言葉だった。正直意外だった。
「…………は〜い」
叔母さまは数秒の間さとうの顔を見つめた後、ようやく俺の上から離れてくれた。何故か去り際に俺の股間を軽く撫でながら。
しかしそんな事に気を取られている場合ではない。
次の瞬間に俺はすぐさま正座へと姿勢を移行した。
さとうに対する謝意の表れである。
「さて、それじゃあさとうちゃんも帰ってきたことだし、早速本題に入りましょうか」
そして何事も無かったようにいつもの笑顔で話を進めようとする叔母さま。
気まずい空気になりそうだったのでありがたい事はありがたいのだが……。
うん、まあ、この流れでその行動ができる事に関しては流石としか言えないな。
その後さとうの提案に叔母さまはあっさりと乗ってくれ、俺を除いた二人は神戸家へと向かっていった。
一方俺は逆方向へ。下ではなく上へ行き自分の部屋へと帰宅した。
さとうの叔母という人物を知った事で、俺は神戸母の治療は普通に上手くいくのではないかと思い始めていた。
もちろん確信している訳ではない。ただなんとなくそうなるような気がしただけで、もしかしたらそれは願望にも近い感情なのかもしれない。
だが私情を抜きにしても成功する確率は高いと思っている。
あと心配なのは加減だ。
薬も多量に摂取すれば毒になるように、何事にもいい塩梅というものがある。
さとうは良くも悪くもと言っていたが、まさにその通りだった。
あの人は他人の奥底にある欲望を引き出し、人を人らしくしてしまう。
抜け殻のようになってしまった神戸母には確かに効果的だろう。しかし関わりすぎると別の方向でまた問題が発生してしまいそうな気がしてならない。
……まあ、そこは経過を毎日あさひにでも見てもらって判断すれば問題ないか。
叔母さまは人をダメにする事は多々あるだろう。
しかし人を不幸にする事はそんなにないのではないだろうか。
ついさっき会ったばかりの人物に対してこんな事を考えてしまうのも変な話だが、この想定はそう間違ってはいないんじゃないかと俺自身は思っている。
できることならば、全員が幸福になれる世界を願う。
なんてな。
****
「ねぇお兄さん。今度二人でホテルにでも行く?」
さとうが叔母さまを無事に神戸家へと送り届け、その後うちへと帰宅し、そしてしおが寝静まり二人きりになったタイミングで、彼女は突然そんな事を言い出した。
俺はちょうど飲んでいたコーヒーを思い切り吹き出した。黒い霧を浴びた事によって自身のステータスが元に戻る。
「何だよいきなり」
口とテーブル、そして床を拭きながら真意を問う。
さとうの言葉の意味を取り間違えるような事はなかった。
タイミングがタイミングだったからだ。
「もしかして叔母さまに言われた事を気にしてんのか?」
俺が押し倒されたのはさとうのせいだという言葉。
そして去り際に言われたいつでも遊びに来ていいという言葉。
あの人は今現在、神戸家に臨時宿泊しているはずなので後者の言葉が直近で実現する事はないが、それでもさとうはムキになってしまっているのかもしれない。
「無理する必要はないぞ。俺は今の生活に不満を覚えた事なんて一度もないからな」
「別に、無理はしてないけど……」
もししおがいなかったら。
そんな仮定はあの子の笑顔を見れば容易く吹き飛ぶ程度のものでしかない。
さとうもそうだが、俺はしおと出会わなかった自分自身というものをすでに考えられないくらいにはあの子の存在が当たり前になってしまっている。
しおのいないところでさとうと――なんて事を考えた事がないわけではないが、それも所詮は妄想にすぎない。
それを現実にできるかと聞かれれば当然無理だと答える。あまり俺を見くびらないでほしい。
「じゃあ逆に、私から迫ったとしたら……お兄さんはどうする?」
ふむ。つまり今日の叔母さまをさとうに置き換える感じか
まあ結論などハナから決まっている。
当然抗えないよね。抗える訳がないよね。
「……ま、そういうのを考えるのはお前が二十歳になってからな」
だが正直言うのも恥ずかしいため逃げの一手を打つ事にする。
ほら、お酒とタバコも二十歳からっていうじゃん? つまりはそういうことだ。
「ヘタレ」
「うるせぇ」
自覚はあるんだからわざわざ言う必要はねぇだろうが。
全く。この娘は本当に、全くなんだから。
叔母さんしゅきぃ