絵のモデルを頼んだ女子高生が幼女を拾ってきたんだがどうすればいいだろうか   作:込山正義

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遅い! それは俺が一番よく分かってます! ごめんなさい!


ハッピーエンドシュガーライフ

 ある日のお昼時。

 俺、さとう、しお、あさひは陽光の照らす街中を四人で一緒に歩き回っていた。

 特に目的がある訳ではない。何か欲しい物があれば買おうだとか、お腹が空いたらどこかで何か食べようくらいの事は決めてあるがそれだけだ。強いて目的をあげるならば、放課後の学生のように、こうしてぶらぶらする事そのものが目的なのかもしれない。

 何か特別なイベントが催されている訳でもなければ、面白い展示物が近くに置いてあるという事もない。

 しかしみんな笑顔だった。さとうもそうだが、特にしおとあさひの反応が顕著だった。

 こうして何気ないひと時を過ごすのが楽しくて仕方ないのだろう。

 しおは外出なんて久しぶりだし、あさひもしおとこうして出掛けるのはそれこそ年単位ぶりの事だった。

 そう考えると何だか悲しい気持ちになってしまう。しかしそれと同時に嬉しさを感じてしまうのも事実だった。

 今こうして笑えている事のなんと幸福な事だろうか。

 俺が守った笑顔――なんて自惚れはもちろん持っていないが、そのうちの数パーセントでも貢献できていたらいいなとは思っている。

 テレビやネットで知るのとこうして間近で体感するのとではその重みや深さが桁違いだった。

 しおを中心に三人が手を繋いで仲良く歩いている姿を後ろから見られるだけで満足だった。

 しかしながら、陽の照る中を長時間歩くのは疲れるというのも紛れもない事実だった。

 こんな素晴らしい光景の中でそんな事を考えてしまうのはいけない事なのだろうが、人の身には限界というものが存在している。

 やっぱり体力不足が原因か。子どもは元気があっていいねぇ。

 それと話は変わるが、俺の事を周りの人たちが子ども三人を付け回すストーカーだと認識していないかが心配だった。

 一応会話に混ざっているので大丈夫。と、信じたい。

 

 

 ****

 

 

 それからさらに一時間程歩き回り、流石にお腹が空いたという事で次に見つけた良さげなお店で食事をしようという話になった。

 決して俺が『そろそろ疲れたよね?』とか『もうお腹ぺこぺこだよね? ね?』とか聞いたのが原因ではない。ないったらないのだ。

 しかしよくこれだけの時間飽きずに散策を続けられるものだ。この街は都会に近いと思うが、それでも駅付近限定なら見て回る価値のある場所には限りがあると思うんだが。

 

「神戸……しおちゃん……」

 

 この近くにある美味しいお店を脳内で検索していると、不意に前方から声が聞こえた。

 一緒に歩いていた三人ではない。声の主はさとうたちのさらに奥に佇んでいた。

 ヘアピンを付けた、金髪の少年だった。

 全員の歩みがピタリと止まり、少年と正面から向かい合う形になる。

 

「僕の……天使……!」

 

 少年の目を見ると同時、しおと入れ替わるようにして立ち位置を交代する。

 危機感が警鐘を鳴らしていた。

 こいつはやばい。しおに近付かせてはいけない。

 そう瞬時に理解する事ができた。

 彼の濁った瞳がただしお一人のみを捉えていたのだ。

 そしてしおの危機に気付かないさとうとあさひではない。

 浮かれていた雰囲気を刹那のうちに霧散させ、握っていたしおの手を名残惜しそうに離して戦闘体勢へと移行した。

 

「まさか――」

 

 幸い相手はこちらを警戒していなかった。俺の存在など視界にすら入れていない。

 その隙をつき一気に間合いを詰め、そのままアッパーの要領で掌底の一撃を顎へと叩き込む。

 

「ぐべぇ!?」

 

 仰向けに倒れていく金髪の少年――いや、不審者。

 しかし彼がそのまま地面に叩きつけられる事はなかった。

 すでに後ろへと回り込んでいたあさひがタイミングを合わせ背中に肘を打ち込んだからだ。

 

「がは……ッ!」

 

 そして今度は前のめりに倒れそうになる不審者。しかしその先にはすでにさとうが構えていた。

 華麗な後ろ回し蹴りがカウンター気味に腹部へと直撃し、そのまま不審者を吹き飛ばす。

 

「おぼぁぁ!!」

 

 為す術もなく地面に落下する様子を見守りながらも、しかし気を抜くような事はしない。

 しおを庇うように三人で陣形を取る。ちなみに中心はさとうだ。一番重要なポジションの奪い合いは彼女が制したのであった。

 

「……ま、待ってくれ!」

 

 不審者が起き上がる。

 当然待たない。

 こんな幼気な子どもを狙う輩なんかに慈悲をやるつもりはない。

 

「は、話を聞いてくれ!」

 

 不審者が懇願する。

 しかし聞かない。

 お前の言葉をしおに聞かせるだけで悪影響が及んだらどうしてくれる。

 あれだけの連撃を受けて意識を保っていられるのは賞賛に値するがそれだけだ。

 別に気が変わる事もなければ手心を加えようと思い直す事もない。

 むしろ警戒心が増したくらいだ。

 

「…………三星くん?」

 

 と、そこで反応を示したのは意外にもさとうだった。

 さとうはこの不審者を知っているというのか。

 まさか有名な前科持ち? 女子高生の間ではロリコンとして有名とか?

 いや、それなら気安く君付けで呼んだりしないか。

 

「ま、松坂さん……」

 

 向こうもさとうの名前を知っている。

 さとうが一方的に彼を知っている訳ではない。つまり二人は知り合いという事になる。

 もしかしたら友人かもしれない。

 友人は選ぶべきだ――という言葉が出かけたがよくよく考えてみればさとうも似たようなものだった。

 なるほど類友というやつか。

 俺は一人で納得した。

 

「とりあえず立ち話もなんだし、詳しい事はお店に入ってからにしない?」

 

 そして彼はどうやら訳有りらしい。

 さとうが警戒心を解いたのを見て、俺もそれに倣う。

 さとうが危険がないと判断したなら問題はない。事情もあるなら尚更だ。だからあさひ、そんな唸り声をあげて威嚇する猛犬みたいな真似はもうやめていいんだぞ。

 

「あっ、あそこなんていいんじゃない?」

 

 そう言ってさとうが指差したのはオシャレな外見をした、いかにも女性が好みそうなお店だった。

 店名は『ザ・パクチー』。考えるまでもなくパクチー専門店である事が理解できた。

 内心で類友とか言われた事が余程気に食わなかったらしい。

 

「確かお兄さんパクチーが好物だったよね?」

 

 満面の笑顔で確認してくるので俺も笑顔で嘘偽りなく答えた。

 大嫌いである――と。

 

 

 

 ****

 

 

 

「――というわけなんです……」

 

 パクチーをふんだんに使った料理を食べつつ、三星君から事情の説明を受ける。

 彼は年上の女性に襲われた。故に女性恐怖症を患った。そして逃避としてロリコンになってしまった。

 聞かされた話を簡単に要約すると以上の通りである。

 

「はい、あーん」

「あむ」

 

 汚された心と身体を癒してくれる存在。それが彼にとってはしおだったという。

 どうやらあさひがばら撒いていたチラシを見てしおの存在を知ったらしい。

 これにはあさひもかなり微妙な表情をしていた。まさか家族を探すための努力がこんな結果を生むなど誰が予想できようか。今回は平気であったが妹に害が及ぶ危険もあったのだ。あさひの内心は娘に彼女ができた父親よりも余程複雑な事になっているだろう。

 

「おいしい?」

「おいしい」

 

 しかしここで一番大事なのは三星君を襲った女性の容姿だ。

 いや、分かってる。この考えが不謹慎な事くらい俺だって理解している。

 当の本人からしてみればそんなのは些細な問題なのかもしれない。

 恐怖が感情を支配して他の事に構う余裕などなかった可能性だってある。

 だが。しかしだ。

 美人になら襲われてもいいじゃないとか考えてしまうのである。

 これは部外者だからこその意見だろう。当人からしてみればふざけるなと言いたくなる暴論だろう。

 でも男なら……。そう……考えちゃうよね。

 例えば俺は叔母さまに襲われかけた経験がある訳だが、もしその女性があの人並みの容姿だったら……。

 いや、それは高望みしすぎか。ならばそこから二段くらい劣る容姿だったらどうだ。

 シチュエーションにもよるだろうが、そのまま身も心も虜になってしまう可能性もなきにしもあらず。

 もちろん実際にその時になってみなければ正確なところは分からないが、女性経験の乏しい男など簡単にコロッといってしまうものなのだ。

 まあ三星君はイケメンなので経験に乏しいなどという事はないのだろう。今回はそれがアダになってしまったのかもしれない。

 

 ――さて、ここまでの俺の意見だが、全てさとうと関わる前ならばという仮定あってこそ。

 だからそんなに強く足を踏まないでほしい。隣に座っている人物からは俺の足元は見えないはずなのになぜそこまで正確に小指を攻撃できるのか。

 あーんしながらの急所攻撃。飴と鞭を同時に与えても効果は薄いんでないでしょうか。鞭と鞭でムッチムチってか? はは、なかなか面白あだだだだだだだ。

 

 しかしこうして食べてみるとパクチーというのもなかなか美味しいかもしれない。

 今度から自己紹介の時には好物がパクチーである事を説明する必要が出てくるかも。ただしさとうに食べさせてもらったものに限るという注釈が付くのであるが。

 しかし自己紹介が必要な程距離の遠い相手にいきなりそんな事を言えばドン引きされるのは必至。ただでさえ遠い心の距離が物理的にも離れてしまう。

 ならば親密な間柄ならば平気かといえばそうでもない。なんだ、結局ダメじゃないか。

 

「このままじゃダメだ、変わらなきゃって、ずっと…………って、あの、僕の話ちゃんと聞いてくれてました?」

 

 さとうの頼んだ料理をさとうのフォークを使いさとうの手によって食べさせられている俺の姿を見た三星君が呆れたように言う。

 その視線が段々としおの方を向き始めてきている気がするのでこちらも真面目に会話をする事にしよう。三方向からの目潰しは流石の彼といえども致命傷になりかねないからだ。

 しかし作戦――というか解決策はすでに思い付いている。

 なぜなら似たようなケースを俺は知っているからだ。

 

 

 

 ****

 

 

 三星君以外の三人でしおにあーんをしてあげるというイベントを終え、俺たち一行はマンションへと帰ってきていた。

 結局しおは最後までフォークを持たなかったような気がするがまあそんな些細な事はどうでもいいか。俺も人の事言えないし。

 

「おかえりなさ〜い、あ・な・た!」

 

 自宅の扉を開けると、予想通りというべきか中から飛び出す人影があった。

 神戸ゆうなさんである。

 そのまま抱きしめるようにして受け止め、その場で一回転して勢いを殺しつつ優しく地面に下ろしてやる。

 

「はぁ、危ないんでやめてくださいって何度も言ってるでしょう」

「えへへ〜。だって会えて嬉しかったんだもーん」

 

 ニヨニヨと笑いながら頬ずりをしてくるゆうなさん。そこに俺を見て怯えていた女性の面影は皆無だった。

 僅か十日足らずで彼女の身に一体何が起こってしまったのか。

 その原因は言わずもがな、さとうの叔母その人である。

 ゆうなさんの男性恐怖症を治してほしいと俺たちは頼んだ。そしたら次に会った時にはこうなっていた。一体何をしたのかとツッコミを入れた当時の俺は悪くない。

 叔母さま曰く『例外を作れば後はなし崩し的にどうにかなる』らしい。

 その例外というのがつまりは俺の事。俺という存在を世の男性代表と定め、まずは一人だけでいいので恐怖の対象である男性と普通に接する事ができるようになろうというのが作戦だったらしい。

 それだけなら分かる。なるほどと納得できる。

 しかしこれはやりすぎだ。

 会ってもいないのにいつの間にか好感度がカンストしてるとか訳が分からない。ギャルゲーならクソゲー化待ったなしだ。

 娘を保護したのは彼であり、息子を助けたのも彼であり、だから貴女も彼に救われればいいとかそんな事を言って説得、もとい洗脳したらしい。この彼が俺の事だというのを理解するのは非常に容易だった。

 その言葉は事実といえば事実かもしれないが、おそらく脚色が凄まじかったはずだ。

 俺の予想では良い所だけを抜き出して五百倍くらいには濃縮して話していると思う。

 それを聞いたらどう思う? 他でもない叔母さまによって聞かされたとしたらどう思ってしまう?

 結果はご覧の通り。救世主だと勘違いされてしまうのだ。

 俺は神か何かかな?

 

「はぁ、あったか〜い」

 

 しかし身に覚えのない好意だからといって無下に扱う事もできなかった。

 今まで経験する事のなかった愛情というものを必死になって取り返そうとしているように見えてならなかったのだ。

 頼られている。必要とされている。

 それならそれに全力で応えるしかないだろう。

 こんな俺でいいのなら。人の役に立てるなら。

 そう、これは善意百パーセントなのだ。決して下心ありきな訳ではない。役得だなんてこれっぽっちしか思ってないんだから!

 

「――と、本題に入らないと。ゆうなさん、こちら三星太陽君。えーと……俺の……友達です?」

 

 三星君を強引に引っ張りゆうなさんの前へと出す。

 その体は僅かに震えていた。

 彼の目の前にいるのは恐怖の対象である年上の女性。

 しかし策はある。

 

「三星君。この人は神戸ゆうなさん。しおちゃんのお母さんだ」

「!!」

 

 驚きが一時的に恐怖を塗り潰し、そのまま黒い感情は霧散する。

 

「て……しおちゃんの、お義母さま……」

 

 おい、今天使と言いかけただろ。やばい人だと思われたくないならやめろと言ったのに。

 それと『おかあさま』って言葉。お前の中では絶対義母ってるだろ。

 読心能力持ってない俺でも分かるって相当だぞ。少しは自重しろ。

 

「よ、よろしくお願いします……」

「はーい、こちらこそよろしくね」

 

 たどたどしいながらも会話は成立している。

 事実を知ったところでいきなり恐怖心が皆無とはいかないだろう。しかしこれは大きく前進するチャンスだ。

 話を聞く限り、三星君は彼の母親とは普通に接する事ができるらしい。

 実の親を異性と見る訳がないのである意味当然の事ではあるが、例外があるというのは解決の糸口に成り得る。

 要はその例外を増やせばいい。

 彼はしおの事を女神か何かのように認識している。それは本来歓迎すべき事ではないのかもしれないが、それが彼をまともにするための解決策に繋がるというのならば断腸の思いで耐え忍ぶとしよう。

 一人ずつでいいから恐怖の対象の中に例外を生み出していく。それは叔母さまが取った作戦の真似事、というか使い回しだ。

 しかし効果は絶大。立証もされている。

 ゆうなさんは最近外出できるようになった。

 一人ではまだ厳しいが、俺か叔母さまが一緒ならば問題なく家の外に出る事ができるのだ。

 歩けばほぼ確実に大人の男性と遭う事になるであろう外に――である。

 これから時間が経てばさらに症状は良くなるだろう。俺以外の男性とも親しく接する事ができるようになる日もそう遠くはないはずだ。

 そしてそれと同じ措置を三星君にも施す。

 彼がゆうなさんと普通に接する事ができるようになれば、その時は女性に対する恐怖もだいぶ薄くなっているはずだ。

 何事も一歩目が難しい。逆に言えば一歩踏み出してしまえばあとは勢いでどうにかなる。

 しおのためにも、三星君にはまともになってもらわねば。

 

 その後皆で夕方近くまでうちの中で適当に遊んで過ごし、たまに遊びに来る約束を取り付けた後三星君と別れた。

 一日目にして経過は順調。このままいけばすぐにでも女性恐怖症を克服できるかもしれない。

 傷の深さ自体はゆうなさんのそれよりもいくらか浅いようである。

 しかし一つだけ懸念があった。

 それは女性恐怖症を克服したとしても、ロリコンは治らないかもしれないという事である。

 

 願わくば、彼の未来の人生に幸多からん事を。

 

 訳。しおに手を出したら殺します。

 数人がかりで。

 

 

 

 ****

 

 

 

 あれから一月が経った。

 パクチーを半分克服してから一月である。

 ゆうなさんと太陽のトラウマ克服計画も順調だった。ほぼほぼ終わりといっても差し支えのないくらいには症状が回復している。

 太陽は叔母さまとも普通に接する事ができるようになった。ゆうなさんと叔母さまを普通の年上女性に分類していいのかは微妙なところだが、まあたぶんもう大丈夫だろうきっと。

 ゆうなさんにしても似たようなものだ。身近に男があんまいないから分からないけど。

 

 その間特に異変や事件も起きていない。

 ゆうなさんが夫を殺害していた事が判明したがその程度である。別に騒ぐ程の事ではない。

 いや、普通なら確かに大事件なのだろう。衝撃の事実だったのは確かであるし。

 家族の間に亀裂が生まれる未来があってもおかしくはなかったかもしれない。

 しかし実のところそうはならなかった。誰もゆうなさんの行いを非難しなかったのだ。

 全員が殺人を許容する。それは周りから見れば異常なのかもしれない。

 だから知っているのは一部の者のみ。仲のいいところだと太陽としょうこちゃんは知らない事になる。

 しかしそれも今はまだというだけの話。

 例えばあさひとしょうこちゃんが深い仲になればいずれ真実を告白しなければならないその時が来るかもしれない。

 太陽は……しおと結ばれる日は永遠に来ないので知らないままの可能性が高いがまあどうでもいいだろう。

 夫の殺人。それだけを聞けばなんて酷い事をするんだと憤慨しそうなものだが、しかし俺たちは事実を知っていた。俺やさとうはあさひとしおから事の顛末を事前に聞かされていたのだ。

 ゆうなの夫、つまりしおとあさひの父は最低のクズ親父と言っても言い足りないくらいの人間だった。

 ゴミは死んでくれた方が世のためだと思えてしまうくらいには俺は勝手な人間であるし、さとうに至っては自分の手でやりたかったと言っていた程だ。

 しおを不当に扱った者に苦痛と恐怖を与えたかったのだろう。今思い出してみればさとうは殺害を非難していた気がするが、この場合意味合いがかなり異なってくるので数に含む必要はないか。例外というやつだ。

 そしてもしもしおの親父さんが生きていたら拷問パーティー直行確実だっただろう。

 むしろ死んでいてよかったのではないだろうか。その時のさとうの目を見て俺はそう思ったくらいだった。その証拠に俺の体はガックガク震えていた。

 

 こうして俺たちの関係は変わる事はなかった。

 しかし俺たちが許したところで法律が殺人という重罪を許さない。

 警察という名の国家権力の手によってゆうなさんは捕まり、再び家族は引き裂かれる――と、なるはずだった。

 しかしそうもならなかった。

 これに関しては、どうやら叔母さまが何かをしたらしい。

 その何かは想像したくない。もし警察さえ動かせるというのなら彼女の人脈は広いという言葉では足りない程のものとなってしまう。

 漫画に一人はいる万能お助けキャラのようだ。

 何かを頼めば、こんな時のためにとか言って何でもしてくれる。

 そしてあの人の場合は本当にやりそうだから怖い。

 敵に回してはいけない人物ぶっちぎりの一位である。

 それと彼女は神戸家の事情関係なしに普通に殺人を許容していた。

 叔母さま風に言うならばそれも愛の一つらしい。心が広いとかいうレベルじゃない。

 

 そんなこんなで今の俺は充実した日々を過ごしている。

 それは誰かにとっての不幸かもしれない。しかし俺にとっては紛れもない幸福であった。

 さとうと。しおと。あさひと。ゆうなさんと。叔母さまと。しょうこちゃんと。それと太陽と。

 仲のいい、友人と呼べる存在は両手の指で数えられる程度しか存在しない。

 しかしそれでいい。十分だ。むしろ俺にとってはこれでも多すぎるくらいかもしれない。

 

 俺の部屋の中は随分と賑やかになった。一人きりで毎日を過ごしていたほんの数か月前では考えられない事だった。

 そしてそれは全て、彼女のおかげなのである。

 

「なあ、さとう」

「ん? なあにお兄さん」

 

 近くにいる事が当たり前になった年下の少女に呼びかければ、彼女はいつものように笑顔で振り向いてくれる。

 

「俺、お前と会えて良かったよ」

 

 赤面するさとうというものを、俺はその日、初めて正面から見たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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