絵のモデルを頼んだ女子高生が幼女を拾ってきたんだがどうすればいいだろうか 作:込山正義
そしてそんなことよりさとちゃん誕生日おめでとー!!!
12月31日。
それはみんなにとって特別な日。そしてある一部の人にとっても特別な日。
その日は大晦日であると同時にさとうの誕生日でもあった。
日本に住むほとんどの人は年の最後を飾る日をなんとなく感傷的になって過ごしながら、ある者は大掃除をし、ある者は紅白を始めとする毎年恒例の番組を観、またある者は蕎麦を食べながら年を越したりすることだろう。
しかしそんなものはどうでもいい。
確かにそれらの行事は俺も例に漏れず行うつもりだ。紅白は観るし、年越し蕎麦も用意してあるし、大掃除なんてものはとっくの昔に終わらせている。
だが何物にも優先順位はあり、楽しみにしていることにも順番はある。
まあつまり何が言いたいかというと。
今日の第一イベントはさとうの誕生日会だということだ。
「誕生日おめでとうございます、さとう先輩!」
元気な掛け声と共にクラッカーが鳴り、それに続くようにして同じ音が連続で響く。
少しだけ耳がキーンとなる。
中から飛び出したカラーテープまみれになったさとうは嬉しさと呆れの中間のような笑みを浮かべていた。まさか皆が皆自分の頭上目掛けて発砲してくるとは思わなかったのだろう。
直接顔面にぶち当てたわけでもないので怒る理由もない。結果としてあまり見ないさとうの表情を拝むことが出来た。
誕生日会開始の音頭を取ったのはすーちゃんこと宮崎すみれだ。さとうとしょうこちゃんのバイト仲間であり、今では俺も知らない仲ではない。
さとう大好き人間であるすーちゃんがこのイベントに参加しないはずがなかった。
同じ理由で言わずもがなのしおとしょうこちゃん。さらに付き合いや付き添いの理由であさひとゆうなさん。そして何故か太陽までもがこの場にいた。
「え、なんでいるの?」と疑問を素直に口にすれば「酷い!」と逆に驚かれてしまった。
お前の目的はしおだろ。なら明日まで待て。そして明日もなんやかんやで欠席しろ。そもそも年末なんだから家の用事とかで忙しくないのか。
そこまで考えたところで不意に肩を叩かれた。
何の気なしに振り返る。
そこには威圧するような真顔の笑みで首を傾けるさとうの叔母が存在していた。
「んー?」
「いやいやごめんなさい決して忘れてたわけじゃないですだからその顔で近付いて来ないでください反省してますから」
迫り来る顔との接触はすなわち死を意味すると直感した俺はそのまま全力で後ずさる。
やがて叔母さまは追いかけるのをやめてくれた。
「そんなになって逃げなくていいのにー、ひどーい」と感情のこもらない声で呟いたあと元の位置へと戻っていく。
た、助かった。
内心を読めるからこそ成り立つジョーク。しかしそこにはかなりの危険が伴う。
思い返してみてもやる意味が見当たらない。さとうの誕生日ということで俺もかなり浮かれていたようだ。
「ささっ、さとう先輩、一緒にケーキを切り分けましょう!」
別にどもったわけではないすーちゃんが興奮した様子でケーキナイフ片手に隣にいるさとうへと話しかける。
まさか主役に雑用をやらせる気かと正気を疑ったのだがすぐにその思惑を察した。
一緒にケーキを切る。
この一言で思い付くもの。それは結婚式で行うケーキ入刀のアレである。
初めての共同作業とか言われる例のやつだ。実際に見たことはないしやったこともないので正確なやり方や作法は分からないが、すーちゃんがやろうとしているのはきっとそれなのだろう。
なんて積極的な後輩なんだ。ほら、思わずさとうも苦笑してるじゃないか。
しかし最近以前にも増して優しさに溢れるようになったさとうはそれにもしっかりと応えてあげていた。
そうしてケーキは真っ二つになった。
なってしまった。
ケーキが両断されたのを見届けてから、確認の意味を込めて周りを見回してみた。
俺の視界に映るのはさとう、しお、あさひ、ゆうなさん、しょうこちゃん、すーちゃん、太陽、そして叔母さまの計8人。
そこに俺を含めた9人がパーティーの参加者となるわけだが、全員がケーキを同量食べるためには人数と同じ数である9個にケーキを分けなければならない。
これは中々に難しいことだ。一旦ケーキを3等分にし、その後その3つの塊の全てをさらに3等分にすれば可能は可能なのだが、いかんせん大きさに差異が出やすくなってしまう。
いっそ1人だけ人数が少なくて8人ならば分けやすかっただろう。2等分を3回繰り返すだけでいいのでミスも起こりにくい。
あ、別に叔母さんがいなければと思ったわけではないのでこっち見ないでください。
そう、そのままケーキを見てればいいのです。
さて、ここで問題になることが1つ。
それはホールケーキを9つに分ける場合、ケーキを横断するような直線はどこにも存在し得ないということだ。
別に大きさが少し違うだけで文句を言うような小さい人間はこの場にはいない。
しかし少しだけ好奇心が出てしまった俺はそのことをすーちゃんに伝えてみた。
結果、すーちゃんは「のわぁ!」という意味不明な可愛らしい悲鳴と共にその場に崩れ落ちてしまった。
そのまま頭を抱え込む。
どうやらただ単にミスをしたことよりも、その片棒を尊敬するさとうに担がせてしまったのが相当ショックだったらしい。
まあ浮かれていると思わぬところで足を取られるというのはままあることだ。
あそこまで落ち込まれると罪悪感もある。反省しよう。
しかしここで疑問が残る。
それはさとうはこの事態に気付いていたのかいなかったのかどっちなのかということだ。
いや、十中八九気付いていただろう。ならばそれを黙っていた理由はなんだ?
しばし考え、ふとその答えらしきものが頭をよぎった。
例えば、さとうが最初からケーキを8つに分けるつもりだったなら?
もし先ほどの俺と同じように、ある人物を意図的にいないものとして扱っていたら?
その2人の仲があまりよろしくないのならそれもありえるかもしれない。
俺はハッと叔母さまの方を見た。
彼女もまたこちらを見ていた。
いやこっち見んな。
……ごめんなさい謝るのでこっちを見たまま動きを止めるのはやめてください。そう、そうです。そっちを見るのです。そしてそのままケーキだけを見つめていてください。
「次私がさとちゃんとやるー!」
二度目の危機を脱し、落ち込んでいるすーちゃんを慰めていると、しおが元気よく挙手しながら包丁に手を伸ばした。
どうやらさとうとすーちゃんがやった事と同じ事をしおもさとうとやりたいらしい。
そのまま成り行きを見守る。
そしてケーキは見事に4等分になった。
9等分からまた一歩遠ざかった瞬間である。
「じゃあ次は私がさとうちゃんと〜」
お腹が空いたのか、何故かケーキをこれでもかと見つめていた叔母さまが次の入刀者に立候補した。
さとうが作ったような笑顔でそちらに顔を向ける。
「あ、そう? ありがとう叔母さん。じゃあ残りの分は任せるね」
そして渡されるケーキナイフ。
「…………」
手にした刃物を無言で見つめる叔母さま。
そこはかとなく似合っている。というか普通に怖かった。
無視されるのがせいぜいだろうと思っていたのだろう。叔母さまはさとうが自分の声で動き始めた瞬間僅かに驚きをあらわにしていた。
それが結果はこれである。上げて落とされたような状況。そりゃ動きもフリーズするというものだ。心なしかしょんぼりしているようさえ見える。
「…………」
叔母さまは手元を見、さとうを見、ケーキを見、また手元を見……次いでこちらを見た。
そして手招き。
すーちゃんを慰める手を止め、俺は渋々叔母さまの隣へと移動した。
そこから何故か始まった俺と伯母さまの共同作業。
どうしてこうなったのか。
やがて8等分になったケーキを俺は複雑な気持ちで見つめた。
いや、別に叔母さまと手を触れ合わせケーキを切ったことが嫌だったわけではない。
むしろ個人の感情的には余裕でプラスだ。
でも人前でやることでもない気がする。
あと、途中からこうなると薄々気付いてはいたがやはりケーキは8等分になった。
さて、ケーキの切り分けは実はまだ終わっていない。ここからさらに一つだけやらなければならないことがある。
俺は叔母さまがナイフを置こうとしたのを制してそれを受け取り、8つに分かれたケーキのうちの一つをさらに半分に切断した。
上に乗っていた苺までもが半分になってしまったそれを、皿に移し太陽の前に置く。
「……えーと」
何か言いたそうにこちらを見る太陽。
文句でもあるってのか? 貴様にはそれで十分だろう。
「いえ、僕が言いたいのはそうじゃなくてですね……。その、これを買ってきてくれた本人の分が少ないってことに対して申し訳なさがあるといいますか……」
太陽は俺が自らの前に置いた16分の1サイズの片割れを指差し言った。
なんだそんなことか。
確かにこれは俺が選んで俺が買ってきたものだが、だからといって人より多めに食べる権利を主張するつもりはさらさらない。
そこまでケーキに飢えているわけでもないしな。
「別に僕の分は無くてもいいですよ? この場にいられるだけで幸せなので」
ちらりとしおを見ながら本当に幸福そうな表情をする太陽は気持ち悪いが、だからといって参加者の1人を蔑ろにするほど俺も落ちぶれてないぞ?
主役であるさとうの格まで落ちてしまうじゃないか。
しかしそれとは別に一つだけ言いたいことがあるのも確かだ。だから言ってやった。
「そう思うなら最初から参加しなければいいだろ」
「それは断固拒否します!」
強く宣言する太陽うるさい。
その熱意は認めたくなるけど方向性が確実に間違ってんだよな。
イケメンなら何しても許されるわけじゃないんだぞ。
「ま、レディーファーストってことでいいだろ。女の子は甘いものが好きってのが定番だし、この中に例外がいるわけでもないしな」
「まあ、本人が納得してるなら……」
「ちょっと待て!」
全てが丸く収まった。
そう思っていたのにここで文句を言うものが新たに現れてしまった。
あさひだった。
周りに被害が出ないよう配慮できるだけの理性を保ちながら彼は机を叩いて勢いよく立ち上がる。
「なんでオレが女扱いなんだ!」
「……え?」
「その『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をやめろ! 心底不思議そうにするな! 首を傾けるな!」
「……まあ、あれだ、ここで重要になってくるのは見た目だろ?」
「それはオレが女の子っぽいと……みんなして頷くな!」
まあ年頃の男の子は女の子扱いされるのを嫌う傾向にあるしね。
ごめんごめん。
謝罪の意味を込めてケーキを一つ皿に取りあさひの前に置いてやる。
「悪かったって。でもあさひ、甘いもの好きだろ?」
「! ……別に、嫌いじゃないけど……」
覆ることのない事実を指摘され、口を尖らせながら恥ずかしそうにそっぽを向くあさひ――もといあさひちゃん。
そういうとこだぞ。
しょうこちゃんがキュン死したその時は責任を持って嫁にもらうか嫁に行きなさい。お兄さんとの約束だ。
「ううっ、私のせいですいません……あむ、あっ、美味しい」
順にケーキを取り分けてやる。
その中であさひの次に面白い反応をしてくれたのはすーちゃんだった。
庇護欲を掻き立てるような泣き顔で謝罪しながらもしっかりとケーキを口に頬張り、一転して表情を喜色に輝かせる。
感情の起伏が激しい。それに本心から悪いと思っていながらもフォークを動かす手には遠慮がないところがちゃっかりしている。甘いものに目がないところはいかにも女の子らしい。
まあ実際問題俺はこれっぽっちも怒ってないのでその調子で笑顔でいてくれた方が助かる。
俺のジョークのせいで落ち込まれ続けても居心地が悪い。
そもそも9等分は難しいのだ。7等分とかよりは簡単だと思うけど。
「うん、とっても美味しいよお兄さん」
さとうもケーキを口にし顔を綻ばせていた。
よかった。
その顔が見れただけでこちらの頬も緩むというものだ。
別に俺が手作りしたわけでもないけれど、選んだ身ではあるので満足感がある。
他のみんなも次々とケーキを食べ始め、みんな口々に美味しいと言ってくれる。
全体的に高評価。微妙な顔をしている者は見たところいなそうだ。
確認を終えた俺は内心でそっと安堵の溜息をつき、自らもケーキを味わってみる。
うん、美味しい。
やっぱりケーキの王道はいちごだな。
シンプル。故に美味。
生クリームの甘さといちごの酸味が絶妙にマッチしている。
スポンジもふわふわしていて食感も文句無し。うん、100点!
****
「はい、さとう先輩! お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、すーちゃん」
ケーキを食べながら紅茶を楽しみ腹が満たされたわけだが、まだパーティーは終わっていない。
状況は次の段階に移行しようとしていた。
そう、メインイベントの一つでもあるプレゼントタイムである。
そしてここでも先陣を切るすーちゃんまじすーちゃん。彼女のおかげで流れが止まるということがない。
良く言えば空白の時間が無く、悪く言えばゆっくり休憩するタイミングすら無い。
「わあっ、可愛いね」
すーちゃんに催促される形でさとうが受け取った袋の中身を早速確認する。
出てきたのはショートケーキを模したアクセサリーだった。さとうが通学用のカバンに付けているものに少しだけ類似している。
こう言うと悪いが正直意外だった。さとうへの愛が溢れているすーちゃんのことだ。贈り物もそれ相応に重いものであると勝手に想像してしまっていたのだ。
「ちなみに私とお揃いです!」
さとうの反応が良いことに満面の笑みを浮かべながら、すーちゃんが懐に忍ばせていたブツを取り出した。
それはキーホルダーだった。さとうに今しがた渡したものと似たようなキーホルダー。
しかしお揃いといえど全く同じものであるわけではなかった。
さとうのはいちごのショートケーキ。そしてすーちゃんのやつは形は同じだがチョコレートケーキだった。
さとうは自分のものとすーちゃんが掲げているものを交互に見つめ、やがてホッとしたように溜息を吐く。
「うん、成長したね……」
そしてすーちゃんの頭を撫でた。
俺にはよく分からないが、2人は満足そうなので良しとする。
というかすーちゃんに至っては満足を大幅に通り越しそうになっていた。
顔は人前でしてはいけないくらいに緩み、今にも昇天してしまいそうだった。
さとうが頭に置いていた手を離すと、すーちゃんが糸の切れた人形のようにその場に倒れる。
そのまま死んでも彼女的には本望なのかもしれないが、どうかちゃんと目覚めてほしい。
さとうの誕生日当日に死人が出るとか縁起が悪すぎる。
その後1人ずつ順番にプレゼントを手渡していった。
あさひやゆうなさん、そして太陽もしっかりとプレゼントを用意しているあたり律儀である。
しかし太陽の場合は好意を持つ相手の身内へのポイント稼ぎにしか見えないのは何故だろうか。
もしかしなくてもそういう意図は無いのかもしれないがそう思えてならない。
きっと日頃の行いのせいだろう。そういうことにした。
やがて俺の番が回ってくる。
というか最後の1人だった。
なんかタイミングを逃しているうちにトリを務めることになってしまったのだ。
みんなの期待の視線が若干恥ずかしい。
「ほい、誕生日おめでとう」
なんでもない風を装い長方形の少し大きめの紙袋を渡し、さとうがそれを取り出す様子を僅かな緊張と共に見守る。
俺が渡した物、それは俺自らが描いた絵であった。
捻りも意外性も無い代物だが、俺が自信を持って渡せる物となるとだいぶ選択肢が狭まってしまうのだ。
情け無い話である。
「わあ」
中の額縁に入った絵を見たさとうが感嘆の声を上げる。
どうやら好感触のようだ。
よかった。最高の出来だという自負はあったのだがそれでも不安はゼロではなかった。
『おおっ』
周りにいたみんなも絵を見て驚く。おそらく良い意味で。
描かれているのはさとうとしおの2人。
さとうに渡すのだからさとう単体にするか。それともさとうはしお単体の方が嬉しいのか。
迷いに迷った挙句両方描くことにしたのだがどうやら正解だったようだ。
「ありがとうお兄さん」
絵の中のさとうと同じような、いや、それ以上に見惚れるような笑み。
それを正面から見ることになった俺はすーちゃんと同じことになってしまいそうだった。
しかし2人も倒れられてはみんなも大変だろうから鋼の意思を持って耐え抜く。
――それにまだプレゼントは終わってないしな。
「ほい、あとこれ」
「…………ん?」
絵を見ていたさとうが顔を上げ、目の前に差し出された大きな袋に虚を突かれたような顔をする。
まさかこんな分かりやすく置いてあった物に気付かなかったわけでもあるまいし。そんな『まだプレゼントあったの?』みたいな顔せんでも。
「これは……調理器具?」
最近さとうは料理にハマっている。だからいくつか選んでみた。
ウチにももちろん調理道具はある程度揃っている。しかしそれは俺用に適当に買った物であり、言ってみれば安物だ。
だからさとう用に良い物を、と思った次第である。
「ありがとう、お兄さん」
俺の飯をさとうが作ることは割かし多く、これではまるで催促のようではないかと思ったが気にしないことにした。
……それと叔母さまがさとうに料理本を渡していたのを思い出したのだがそれも頭の隅に追いやり気にしないことにした。
「まさか2つも用意してくれるなんて」
「え?」
「……え?」
おいおいちょっと待ちなって。
「ほい3つ目」
「えぇ……」
俺はプレゼント用に包装された小さな箱を手渡した。
さとうは嬉しさと呆れの混じったような顔を浮かべており、周りからもこいつまじかよって視線を感じる。何故だ。
「あっ、これ……」
中を確認したさとうが何かに気付いたような反応を示す。
そう、これはいつしか2人で出掛けた時に見かけた、さとうが欲しそうにしていたアクセサリーである。
それはペンダントだった。凹凸がある球形で、金平糖のような見た目をしている。見る角度を変えると色も違って見え、くるくると回せば虹のように輝くのだ。それでいて手が出ないほど高いというわけではないというまさに最上級の掘り出し物。
しかしさとうは買うのを躊躇った。見たのは一瞬だったがいいと思ったのは確かだったはずだ。それでも色々な要素を天秤にかけたのち結局は買わない判断をした。
だから俺が買った。そして誕生日が近かったこともあり、サプライズの意味も込めて今日渡したというわけだ。
「どう? 似合うかな」
「ああ、もちろん」
ペンダントを早速着けてくれたさとうに素直な感想を言う。
まあ似合うことは分かっていた。これは俺の感性に自信があったという傲慢やさとうが気に入ったものであるという事実というよりも、元がいいので大体なんでも似合うだろうという確信に基づいたものだった。
結果は最高。
すーちゃんと一緒に夢の世界に旅立ちそうになるくらいだった。
「…………」
その後喜びも一段落つきしばし無音の時間が過ぎる。
まるで何か身構えているようであり、それはさとうだけでなく他のみんなにも当てはまっている気がした。
なんだ。何が起こっている。
俺だけが意図を理解出来ない空間の中で聞こえた時計の針の音が二桁に達した頃、ふと閃いた。
気付いてしまったというやつだ。
「ああ、プレゼントはもう終わりだけど」
「ほっ」
360度から安堵の溜息が漏れる。
じっとこちらを見つめるさとうのあの瞳。まさか期待していたのか?
もしかしてプレゼントの量が足りなかったとか?
一つだけだと外して微妙な反応されるのが不安だったので複数用意してみたのだがやはりもうちょい奮発してもよかったのかもしれない。
よし、ならば来年は5種類くらい用意してみよっかな!
プレゼント選びは存外楽しいことを知った俺は決意を新たにした。
****
その後みんなで雑談したりゲームしたりしていると時間はあっという間に過ぎていき、気付けば日が沈む頃合いになってしまっていた。
パーティー終了のお時間である。
今日は大晦日。あまり遅くまで外で長居出来る日ではないのだ。
すーちゃんも起きたことだし、程なくして解散となった。
みんなを外まで見送り、残ったのは俺とさとうとしおのみ。
あさひとゆうなさん、そして叔母さまは年明けの瞬間をウチで過ごすつもりらしいのだが、少しだけ準備があるということで一旦帰宅した。
束の間の3人の時間。なんだか懐かしい気持ちになる。
「お兄さん、ここ失礼するね」
机の上がすでに片付け終えられたこたつで休んでいると、同じく温もりに来たさとうが俺の近くに寄ってくる。
そして座った。俺の上に。
隣に座ってくるのだろうと予想していたのですごく驚いた。
まさか俺をこたつからやや強引に後ろにずらし、空いたスペースに入り込んでくるとは思わなかった。
結果、胡座をかいた脚の上にさとうがすっぽりと収まる形になる。
やばい。何がやばいのか分からないけどとにかくやばい。
やばいとしか言えないくらいにやばい。
まじやばい。
「だってお兄さん、今日私に全然構ってくれなかったんだもん。主役は私なのにさ」
全体重を俺に預けるようにしてしなだれかかっているさとうが不満そうに口にする。
俺は今日1日を思い返してみた。心当たりが無さすぎる。
「落ち込んだすーちゃんを慰めるのはいいけど何故か頭を撫で始めるし、ケーキはどうしてか叔母さんと一緒に切っちゃうし、ゆうなさんとも相変わらずだし……お兄さんには主役に対する配慮が足りないと思うのです」
心当たりがありすぎた。
反省してるからすぐにそこから退くか、もしくは動きをもう少し抑えてほしい。
仰け反るようにして頭を押し付けてくる仕草はまるで甘えているようでかなりやばい。
ぐりぐりもどうかやめてほしい。
「だから今くらいは甘んじて受け入れるように。パーティー中は我慢してあげてたんだから」
ね? と振り向くさとうすごくやばい。
もちろんさとうのお願いは聞いてあげたい。しかし俺がピンチになる状況は出来るならば遠慮したい。
まあそもそも動きたくても動けないという。
どうにかならないものか。
全てを丸く収める方法はないかと視線を巡らせ、そこでちょうど帰ってきたしおを発見した。
これは救いの女神降臨か!?
「おいで、しおちゃん!」
「わーい!」
結果、状況は悪化した。
さとうがこたつを前に押しやり、その空いたスペースにしおを招き入れたのだ。
必然的にさとうとの密着度が上がる。なんてことしやがる。
「しおちゃんギュー!」
「さとちゃんギュー!」
「んふふぅ、しおちゃんあったかーい」
「さとちゃんもあったかいよー」
俺の上で激しく動くなと言いたいのだが、幸せそうな2人を見ては言えるはずもなかった。
結果俺に出来るのは耐え抜くことのみ。
邪心を持つな。ただ慈愛の心のみあればいい。参考にするべくは聖母マリア。
しかしどうやらマリアさんにも不可能なことはおありだったようだ。
「ほらお兄さんも」
「ギューってしよ?」
さとうと、そして純粋な瞳で見つめてくるしおに頼まれると断りにくい。
ギュー、ギュー、と連呼する2人に根負けして、結局俺は受諾を選択した。
割れ物を扱うかのごとく細心の注意を払い、両腕を大きく伸ばす。
『ギュー!』
雪が降りそうなほど外は寒いという。そんな日に俺はこたつからほとんど追い出されてしまったというのが今の状態なわけだが、不思議と全く寒くはなかった。
むしろこれ以上ないほど暖かい。今まで経験した冬の中でも一番かもしれない。
こんな年末を過ごすのも悪くないと、俺は充実した1日を、そして今年1年の出来事を振り返った。
「あ、そうだお兄さん」
「ん?」
「最後に一つお願い、というよりおねだりしてもいい?」
「おお、なんでも言え」
「お兄さんって私としおちゃんの絵しか描かないじゃない?」
「確かに最近はそうかもな」
「だからお兄さんの絵も欲しいなって」
「俺が描いた俺の絵を、ってことか?」
「そういうこと」
「……うーん」
「もし抵抗があるなら私としおちゃんも入れて3人のでもいいからさ」
「……まあ、それなら」
「うん、じゃあ今度時間がある時でいいからお願いね」
「……分かった。頑張ってみる」
それから十数日後、とある絵描きはさとうの待ち受け画像が己が羞恥に悶えながら描いた自画絵の部分をアップで撮ったのであろうものになっている事実を知ることになるのだが、それはまた別のお話。
最後の一文なんかうまく書けなくて悲しみ。
あとよくよく思い返してみたんですけどすーちゃんって可愛いですよね。