月面 フォン・ブラウン市
基地に帰還してすぐ休む間もなくメディカルチェックが俺を待っていた。恐らくは脳に障害が発生していないかを調べる為であろう。
逃げられた、あの赤いMSもそうだが連邦軍さえあのタイミングで来なければ・・・このまま俺達マハだけが活躍してしまえば軍の立つ瀬がないからな。クソッ!そもそもカイラスギリーを奪われたのは軍の責任だ、軍が弛んでいるからこういう事態が起きるのだ。
サラ・・・今でも信じられない 12年の時の流れというのは確かに短くない、人は変わるという、だがそれでもこれはあんまりだ。
基地に戻ってきてから実感が一気に沸いてきた、みんな死んだ、文字通りチャールストンは消滅した、家族も友人も思い出も全て・・・
俺はいったいこれからどうすればいい?何をすればいい?
わからない、もう俺には何もない。
メディカルチェックが終わると簡単な報告を済ませしばらくの待機となった。詳しい報告などは後でいいらしい、体調面を考慮してのことだろう。サラの生存、また例の機体F90があの戦場にいたことも既に知らせてはあるがその辺のこともまた詳しく聞かれることになるだろう。
サイコミュはうまく使えた、あの時は混乱していたこともあってあまり気には止めなかったがコックピットとファンネルが赤く発光するという現象が起きた、あれがサイコフレームの発光現象という奴かもしれない。
手が震える、怒りに任せて壁に殴りつけてみたりもしたが何の解決にもならない。
今まで宇宙人共が一体何をしてきたか、知らない者はいないだろう。
地球にコロニーや隕石を落とし、ザンスカールに至ってはあの気味の悪い天使の輪で地球人類全ての抹殺を企てた、それが宇宙に進出した人間のやったことだ。
そんな連中と一緒に君が・・・いや君もそんな連中と同じになってしまったというのか、何故なんだ!?
自室のベッドに腰かけながら思いを巡らせていると扉がノックされた、扉の向こうにはヨハンナが立っていた。
「すまない、今は少し一人にさせてほしい」
「そう言うと思った、でもほっとけなくて・・・」
あまり扉の前で立ち話されても目立つのでとりあえず部屋に入ってもらった。
「散らかってるからあんまり人は入れたくないんだが・・・」
「聞いたわ、まさか敵の中にあなたの言っていたサラっていう人がいるなんて・・・」
「・・・12年前のテロ事件は知っているか?あのガンダム、F90Ⅱが奪われた事件のことだ。」
「ええ、当時かなりのニュースになってたし、誘拐された子も私と同い年だったから・・・それにしてもまさかその時の子供が生きていてテロリストの仲間になっていたなんて・・・」
「俺はあの時事件の現場にいた、幼馴染が、サラが誘拐されるのを目の前でただ見ている事しかできなかった。自分の無力さを呪ったよ、その時誓った、必ず仇を討つと・・・だが討つべき敵とサラは・・・同じだった、同じだったんだ・・・サラの父親も奴等に殺された、そして今回の件で俺の父と母も・・・」
「そんな・・・じゃあそのサラさんは自分の父を殺し故郷にあんなことをしたっていうの!?」
「信じたくはない、だが事実は・・・俺にはもう何もない、戦う理由も!すべては無意味になってしまった・・・」
俺はこれから何のために戦えばいい?俺の今までは全て否定された、なんの意味もなかった!トーマスさんや家族も救えなかったじゃないか!
「そんなことない、アレックスは今まで頑張ってきた、努力してきた、それが無意味だなんてことあるわけない!」
「だが結果がこれでは!俺にはもう誰もいない・・・」
その時いきなりヨハンナに抱きしめられた。
「ヨハンナ!?」
「私がアレックスの傍にいてあげるから、そんなこと言わないで!」
「哀れみでそんなこと言ってるのか?こんな情けない男に君が構う必要は・・・」
「違う!私は昔からアレックス、あなたをずっとみてた、気づいてなかったみたいだけど・・・」
「俺みたいな奴を?・・・まさか。」
「アレックスが鈍すぎるだけ、それに同期達はみんな知ってるのよ・・・その、私があなたのこと・・・たとえ私をそのサラっていう人の代わりにしてくれても構わない、だから・・・」
俺はなんて弱い男なんだ・・・今ここでヨハンナに縋ってしまうというのか、サラの代わりにして・・・
なんて情けない、最低な男なんだ俺は・・・