雷獣山の死闘 作:晒し中
百年前、英傑と呼び讃えられていた青年は恐れ、怯えていた。
岩陰の向こうには先日、対峙することを避けた程に強大な魔獣が存在していたからだ。
前にラネールで遭遇したときは昨夜宿で見た氷漬けにされたり真っ二つにされる夢を見ていたこともあってさっさと逃げ出したが、今回はそうも行かない。
なぜなら奴が目的の物を持っているからだ。
覚悟を決めた青年は岩陰からその頂点へと一気に躍り出て、弓を構える。
番えられた木の矢が放たれると、
効いている……!
手応えを感じた青年は、接近することを嫌がってか矢を連射する。
それがチャンスを活かす手段としては下策で有ることを知らずに。
やがて意識を取り戻し、軽やかに走り出した魔獣は返礼と言わんばかりに電気の矢を弓に番える。
当然、青年も黙って見ている訳では無く、避ける準備をする。
しかし、青年は失念していた。それが
空気を切り裂いて飛ぶ矢を避けた青年を襲ったのは、肉を中も外も纏めて焼かれる感触だった。
その刺激に痺れて盾を落とすと、魔獣が再び矢を番える姿が目に映る。
後には魔獣と、真っ黒に焦げた肉しか残らなかった。
青年は不思議な夢を見た。自分が魔獣の弓に焼かれて死ぬ夢を……。
尤も、これには慣れていた。青年にとって、現実感の有る夢を見ると言うのは良くあるものだった。
最近は見ていなかったが、見るときは決まって自分が死ぬ夢なのであまり気分は良く無いが、それは戦う上で大いに参考になるものなので、有り難いとも思っていた。
とにかく、遠距離戦は不味い。
そう感じた青年は初撃のみに弓を使い、以降は槍と剣で戦うことに決めたのだった。
インファイトを挑めば弓をなんか持ち出さないだろう、楽勝だ、と。
しかし、その見立ては楽天的に過ぎた。
裂空の剣戟は人外そのものの速度、破壊力を持ち、三連撃の最後を避け損なった青年をあっさりと真っ二つにする。
死に行く青年の鼓膜を獰猛な勝鬨が震わせ、薄れる意識に止めを刺した。
その後、何度となく夢を見た。ある時は打ち上げられ、落雷そのものとなった電気の弓に焼かれ、ある時は盾と剣で挟み切られ、ある時は火炎に焦がされ死ぬ夢を。ある時は確実に弱らせるも武器を失って逃げ帰る背を裂かれ死ぬ夢を。
青年が何度となく夢を見る内に、毛色が違う夢を見た。
まず、普段青年が見る夢は近くの地域で自分が死ぬ夢だった。
しかし、その夢は始まりの大地と呼ばれる場所が舞台だった。これだけでも充分例外的だが、更におかしな事が起きる。
裸のまま、自分の動きとは思えないほど珍妙な動きで移動し、更には始まりの大地に有るとは思えないほど強力な武器を拾い集めているではないか。
青年は困惑を深める。深める内に、気が付くと自分を散々に殺した魔獣と対峙していた。
もはや存在そのものが心的外傷と化した状態での対峙だ、戦いになるはずは無かった。
そう、身体を動かしているのが青年で有れば。
実際に彼の身体を操っているのは別の誰か――いや、『別』の青年であった。
少なくとも青年はそう認識した。自分は膝を付いた魔獣の背に乗れるとも、その背が剣を振るうことが出来る程度には安定しているとは知らなかったからだ。
別の自分は極限まで効率化された動きで憎き魔獣――背負う矢が別物だから別個体のようだが――を追い詰めていき、最後には見事に討伐して見せた。
目覚めた青年の行動は早かった。大きな岩へと魔獣を引きつけ、矢の射角の外から顔を狙い騎乗しては剣を振るう。
握る強化リザルブーメラン越しに確かな手応えを感じながら……。
青年が魔獣を討伐できたのは彼が魔獣の剣筋を見切ってからで、それまでに魔獣は青年を足蹴に何度か勝鬨を上げたがそれはまた別の話し。
戯れに始まりの大地ライネル討伐RTAを見なかったら一生勝てなかったかも知れぬ