花を美しいとは思う
人の姿が花に似るのは
ただ斬り裂かれて倒れる時だ
「やっぱし…お前やったんか…」
ジリジリと近づいて来る藍染に平子は言った。藍染は焦らず顔色一つ変えずに余裕の表情で言う。
「気づかれていましたか。流石ですね」
「当たり、前やろ…」
「いつから?」
藍染が平子に聞くと平子は怪我のせいだろうか。荒い息をしながら藍染に言う。
「オマエが母ちゃんの、子宮ン中、おる時からや…ッ」
「成程」
「俺はずっと、オマエを…危険やと…信用でけへん、男やと、思っとった…。せやから俺は、オマエを
平子は藍染に告げる。藍染は余裕な表情を崩さない。いや、藍染は…
「…ええ。感謝しますよ、平子隊長。あなたが僕を深く疑ってくれたお陰であなたは
「…気づいとった、言うてるやろ…」
平子の言葉に藍染は「いいえ」と否定する。
「気づかなかったでしょう?この一月、あなたの後ろを歩いていたのが
「…な…!?」
平子は驚愕する。藍染から告げられた真実に。自分は本当になにも見えていなかったと言う事に。
「“敵”にこの世界のあらゆる事象を僕の意のままに誤認させる。それが僕の斬魄刀『鏡花水月』の真の能力です。その力を指して――“完全催眠”と言う」
「…完全………催眠やと……!?」
藍染の口は止まらない。まるでここであなたが知っても支障がない、と言うように。
「あなたは鋭い人だ平子隊長。あなたが普段他の隊長が副官に対するそれと同じように、ギンや碧のように僕を気にかけて接していたのなら。或いは見抜くことができたかも知れない。だがあなたはそうしなかった。あなたは僕を信用していなかった故に常に僕と一定以上の距離を保ち、心を開かず、情報を与えず、決して立ち入ろうとしなかった。だからあなたは気づかなかったんです。僕が全くの別人に掏り替わっても。僕の身代わりをさせた男には僕の普段の行動とあなたや他の隊士、隊長に対する受け答えのパターンを全て完璧に記憶させました。もしあなたが僕のことを深く理解していたなら、僅かな癖や動きの違いに違和感を覚えたでしょう。あなたが今そこに倒れているのは、あなたが僕のことを何も知らないでいてくれたお陰なんですよ、平子隊長」
「…藍染…」
平子は藍染の名を呼び立ち上がる。
「…それからもう一つあなたは先程僕に“監視する為に副隊長に選んだ”と言いましたがそれは間違いです。隊長の『副隊長任命権』と同様に隊士側には『着任拒否権』と言うものもあります。まあ実際にそれが行使されることは稀ですか、それでも僕には“副隊長にならない”と言う選択肢もあった。何故そうしなかったか。…理想的だったからです。あなたのその僕に対する過大な疑念と警戒心が、僕の計画にとってまさに理想的だったからです。解りますか?“あなたが僕を選んだ”んじゃない。“
「……………藍染…!」
平子の霊圧が急激に上がる。すると平子の目から、口から白い
「…安い挑発に乗って頂いてありがとうございました」
「くそ…ッ!…俺もか…!」
平子の後ろでは仲間達も平子のように顔から液体が現れ苦しむ。白い液体はやがて
拳西、白を除くもので一番早く虚化した人物は猿柿ひよ里だった。ひよ里は虚のような雄叫びをあげる。そしてひよ里は平子の方を向くと言ったのだ。「…シ…シ…ン………ジ………?」と。ひよ里はまだ自我を失ってはいなかった。
「要」
「はい」
藍染に命令された東仙要はひよ里を平子の目の前で斬った。そして藍染は平子に告げる。
「――終わりにしましょう平子隊長。あなたは完璧な上官だった。あなたは僕を警戒しすぎたが故に距離を取った。あなたはその目で見ることで僕の動きを抑制しようと考えた。…最後に覚えておくと良い」
藍染は斬魄刀に手をかけ、言った。
「目に見える裏切りなど知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切りですよ平子隊長。さようなら。あなた達は素晴らしい
藍染は平子に斬魄刀を振りかざし――
振りかざせなかった。浦原に止められたからだ。藍染の副官章は浦原によって斬り飛ばされる。しかし藍染は顔色を変えることはなかった。
「これはまた…面白いお客様だ…。…何の御用ですか?浦原隊長」
「あかんやん見つかってもた」
「どうするんですか?藍染副隊長」
「あかん」や「どうするんですか」などと言っているギンにも、碧にも焦りの表情はない。逆に…余裕の表情である。それほどまでに藍染達は浦原達に対して優勢なのだ。
浦原は全て知っていた。平子達が虚化をしていると。そして浦原は藍染の思っていた通りの男だった。
藍染達は虚化した人間を置いて、逃げた。
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「『目に見える裏切りなど知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切り』ほんまそうやなぁ藍染」
浦原達から逃げると藍染はこれからのことを準備する為、瀞霊廷へと戻った。ギンとボクは別についていかなくてもいいと言われたので現在藍染とは別行動中である。
「はよ見たいなぁ。藍染の吃驚する顔。ボクらが伝えていた斬魄刀の能力が
「さあ、どんな
「せやね。ボクらはアイツと違う。解る筈がないんや。愚問だったわ」
流魂街を二人で歩きながらギンは言った。
「せやけど…あかんで碧。さっき、ひよ里はんと隊長が切られたとき一瞬
「つい。あの人達はボク達に色々なことを教えてくれてたから。情がわいちゃった」
――それにひよ里さんは本当の世界でもお世話になっていたから
――平子隊長はボクの名前をつけてくれた人だから
「…解ってるならええんや。次からこんなことないようしてな」
「うん」
その後の会話はなかった。
いつもは
――“当たり前”と言うものは恐い。
――だってもしその“当たり前”が壊れたとき、
――自分達は何をすればいいのか解らないから。
――馴れるのにはまだ時間がかかりそうだ
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――『妖刀』
『妖刀』と呼ばれる刀は沢山ある。そして市丸碧の斬魄刀もその『妖刀』の一つだった。名前はない。『妖刀』と呼ばれるだけで刀自体に名前はなかった。
碧が初めて斬魄刀と対話をした日。それは忘れられない程濃く、忘れられない1日となった。
一回の対話で死ぬかと思った。本当の命の危険を感じた。それほどまでに碧の斬魄刀は
――あんな奴
碧の卍解への道のりはまだまだ遠そうである。