「あれ?ギンと連絡がつかない…」
ようやく五番隊も落ち着きちゃんとした隊として活動ができるようになった頃。偶々近くを歩いていた乱菊ちゃんが道のど真ん中で歩く足を止め、伝令神機を見つめながら呟いた。
「そんな所につっ立っとったら危ないで乱菊ちゃん」
「平子隊長…」
「どないしたん?」と聞けば乱菊ちゃんは「ここ最近ギンと連絡がつかなくなっちゃって…」と心配な表情で言った。
俺の元部下、市丸ギンは死刑にはならなかったものの尸魂界を追放され現在息子と一緒に空座町に住んでいるらしい。噂によると子供ができたせいなのかかなり丸くなったという。
「そりゃ心配やわ」
「…現世に行こうかしら…」
心配そうに呟く乱菊ちゃんに俺は「ついこの前も行っとらんかった?」と聞く。乱菊ちゃんは「でも……」と。かなりギン達のことが心配らしい。ギンお前、信用されとらんな。少しだけザマァみろなんて思うが勿論声には出さない。今そんなこと言ったら目の前にいる彼女に殺されるだろう。それだけはごめんだ。
「なら俺が見に行ってやろか?」
「え?」
「忙しいんじゃ…」と言う乱菊ちゃんに俺は「今まで忙しかったからなぁ。取れなかった分の有給取るんや。ちょうどギンの息子に会うてみたいと思っとったしええやろ」と言った。乱菊ちゃんは「ありがとうございます!」と俺に頭を下げた。
……美人に頭下げられるのも悪くはないわ。
ついこの前まで五番隊は忙しかった為、ギンの結婚式にも何もでれんかった。強いて言うなら乱菊ちゃんが息子の名前で「キン」か「シロガネ」と言う何とも言えない名前で悩んでいるところに「碧」と言う新たな選択肢を与えたぐらいだろうか。
乱菊ちゃんのネーミングセンスに違和感を感じていたギンには礼を述べられた。勿論悪い気はしない。逆にそんな名前で良かったのかと思う程だ。
勿論碧に会ったことはない。現世になんて本当に久しぶりに来るぐらいだ。道に迷わず行けるか、そこが鍵だと思う。
乱菊ちゃんから家までの地図を貰っていた為それを見て行くとする。地図によると街の近くではなく遠く離れた人が住まないようなところに家を建て住んでいるとのこと。…アイツ、なんやかんや言ってヒトと関わるの嫌いやもんなぁ……。
基本は一人でいることを好むギン。そんな奴が父親になっとるんや。やっぱ長生きしてみるもんやと思う。
クスクスと笑いながら歩くこと30分。かなり大きい家が見えてきた。思わず俺は苦笑いを漏らす。
「…二人しか住んどらんのにこんな大きな家いるか?」
張り切って大きく作りすぎてしまったのか、そんなことはギンにしか分からない。もうしかすると乱菊ちゃんからの頼みかもしれへんしな。
ドアをノックするが誰も出てこない。ドアには鍵がかかっていないようでドアは開く。どうせギンの家なんやし勝手に開けてもええやろ。俺はドアを開けてズカズカへと入っていく。
電気も何もついていなくて、廊下は暗い。ギンの姿も見えなければギンの息子、碧の姿も見えない。ヒトの気配がしない。まさか…ギン、お前変なもんに巻き込まれとるとちゃうやろな?
一抹の不安を掲げながら俺はリビングと思われる扉を開く。中には電気も何もつけず座り込んでいるギンがいた。
「…おるなら出ろやボケ」
「平子隊長…」
ギンは座り込んでいる為、俺を見上げる形となっている。ギンの瞳には光がないように思える。思わず「なんかあったんか?」と聞いてしまった。
「…碧がいなくなってしもうた。探しても探してもおらん。何処に行ったんや碧」
「…どう言うことや。詳しく話せ」
ギンから詳しく話を聞いた後、帰ってこない可能性を感じた。少なくとも今は帰ってこれないだろう。ギンも同じことを思っていたのかいつでも碧が帰ってこれた時のために家にいるとか。
「お前、今みたいな暮らし碧が帰ってくるまで続けてみ?死ぬで?」
「………」
「ほら、飯食え。買うて来たから」
ギンの家に来る前、腹が少し減ったので弁当を買ってきたのだが……ここはギンに譲るとする。ああ、俺なんて優しいんやろ。部下思いやわぁ。
弁当をギンに渡すと渋々と言ったような感じで食べ始めた。ギンが弁当を食べているのを見て俺は少し懐かしく思う。
昔のギンはこれ程食べなかった。貧しい生活を乱菊ちゃんと二人でやっていた為か自分が食べるのは半分も満たないぐらい。他の全ては誰かにあげてしまうのだ。時々昼飯など一緒に行くと「平子隊長お腹空いとります?ボクもうお腹いっぱいやからあげる」なんて言って半分入った飯を無理やり食わされた記憶がある。
草食で気を抜いたら朝飯と夜飯を抜こうとするものだから無理やり食べさせていた。けれどやっぱり全部食べることは出来なくてそのせいかギンは細くて小柄だった。
今のギンだってそうだ。昔よりかは食べるものの相変わらず身長と比べ体重は少なく時々心配するほど。家事は碧がやっていて碧の作ったものなら残さず食べると乱菊ちゃんから聞いていた。息子ができたのはギンにはええ影響を与えてるみたいや。良かったなギン。
「…そんなジーと見られると食いにくいんやけど」
俺の視線に気付いた記憶は嫌そうな顔をしながら言う。俺はニヤニヤとした顔で「気にせんで食え」と言った。
「せやから無理やて」
「なんや、器の小さい男やな」
「ボクは隊長さん程図太い神経持っとらんやけや」と減らず口が帰ってきたので「そんなこと言っとると捨てられるで」と言った。
「乱菊はボクのこと捨てんよ」
「おっ、惚れ気か?嫌やわぁ、自慢なんて聞きとうないわ」
「嫌や嫌」と言うとギンは段々と調子を取り戻してきたのか、空元気なのか「ひよ里さんといつ籍入れるや?」なんてアホなことを聞いてきよった。思わず自分でいれた茶を溢してしまう。
「人ん家で茶溢さないでもらえますか?ちゃんと片付けてな」
「なんでひよ里や!!もっとましなもん居ったやろ!!」
「てっきり隊長はひよ里さんのこと好いとると思っとったんやけど…違うんか?」
コテンとした顔で首を傾げるギンに俺は叫ぶ。
「違うわ!アホ!!誰があんなチビ猿……」
「誰がチビ猿や!!」
「ぐふっ!!」
急に背中が痛くなってなんやと思えばひよ里が飛び蹴りしょった。…いつの間に入ってきたんや。
「なにすんや!!殺されたいんか!?」
「はっ、誰がお前ごときに殺されるかアホ!逆にこっちが殺してやるわ!!」
「おーおー!やれるもんならやってみ!!返り討ちにしたる!!」
「…人ん家の家で堂々と喧嘩するの止めてもらえますか?後、勝手に入ってこられちゃ困るんやけど」
ギンがひよ里を見つめて言うとひよ里は「アホ!!何回もドア叩いたわ!!出てこんお前が悪いんやろ!!」と言った。
「それにしても何しに来たん?」
「あ?食材持ってきただけや」
「食材?」
「碧、主夫業忙し過ぎて友達できとらんかったからウチが手伝えること手伝っとるだけや。今は月1で野菜なんかを持ってきてやっとるやで」などと得意気な顔で表情でひよ里は言った。
「なんや、アイツ友達おらんのか?そんなとこもギンに似よったな」
「ちょっとそんな誤解を生むようなこと言わんでもらえます?ボクにも友達の一人や二人おりますから」
「誰や?ぜひ聞きたいなぁ」
「…………」
俺の質問に答えられないギンを見て「おらんやないか」と言えば「シンジも似たようなもんやろ」とひよ里は言った。
「はぁ?俺はギンと違っておるで。友達。…拳西とかおるしなぁ」
「あれは友達ちゃう。腐れ縁言うんや」
「はあ!?」
「ふっ、五番隊の男共は友達もおらんのか。ダサいなぁ」
この後ギンと俺とひよ里でどこからが友達なのか、というくだらない話を二時間程やった。話終わった後の何とも言えない虚無感などは見てないフリをした。