どうやらインデックスは怒ると人に噛み付く癖があるらしい。
「いってぇ‥あちこち噛み付きやがって‥」
「なんで僕まで噛まれたんだろ‥」
当麻は噛まれたところに絆創膏を貼る作業を、明久はただの布地になってしまった修道服を針と糸で縫い直していた。
「‥‥‥」
インデックスはと言うと体に毛布を巻いて部屋の隅で体育座りをしていた。なんか凄いデジャヴだなーとか思いながら明久はチクチクと修道服を縫っていく。
(ねぇちょっと当麻、謝りなよ)
(まぁ‥大人げ無かったよな‥俺)
後先考えずにやりすぎたよな、と呟いて当麻はぽりぽりと頭をかいた。
「あー、あの、インデックスさん」
「‥‥‥」
「いや、その、本当に申し訳」
「っ!」
当麻が謝罪の言葉を最後まで言い終える前に目覚まし時計が飛んできた。
うわっ!?と2人が叫ぶと同時に巨大な枕やラジカセなど様々なモノが立て続けに襲ってくる。
「あぁ!?俺のゲーム機が!?」
「あぁ!?優子さんから貰った絶賛急上昇中ミュージシャンのCDが!?落ち着いてインデックス!」
「あれだけの事があったのになんで普通に話しかけられるのっ!?」
「「す、すんませんでしたーっ!」」
当麻と明久は地面に頭を擦り付けて彼女に全力の土下座をする。
「ほ、ほらできた!修道服縫っておいたから!着てみてよ!」
「‥‥‥む」
インデックスはむっとした表情で明久から修道服(修復済み)を受けると毛布の中で着替え始めた。
「なんか‥その着替え見るとプールの授業思い出すよなぁ」
「あー確かにね」
「‥‥‥」
インデックスが何見てんだよ?とでも言いたげに少し二人を見たが気にせずに着替えを続ける。
頭のフードがぽとんと落ちたが着替えに集中しているせいか全然気付いていない。
「ん?もうこんな時間!?補習行かないと!」
「うっわ!完全に忘れてた!」
授業、と言う単語で『夏休みの補習』を思い出した二人はバタバタと学校に行く準備を始めた。
「明久、俺の財布知らねーか?」
「えーっと確か玄関に落ちてあったような気が」
「そうか、サンキュー」
当麻は財布を取りに玄関に向かうが、
ガツン
「ぐおっ!ぐおぉぉぉっ!!」
テーブルの脚に小指をぶつけて悶える超絶不幸男上条当麻。
更に彼はバランスを崩して、
バキッ
「‥‥‥あ」
布団を干すため、テーブルの上に避難させて置いた携帯の液晶画面を粉々に砕いた。
うわぁ、とそれを見てつい顔をしかめる明久。
「ち、ちくしょう‥不幸だ‥」
「もしかしたらその
修道服を着終えたインデックスがくすくす笑いながらそう言った。
「当麻の右手が?」
「うん、神様の加護とか運命の赤い糸とか全部まとめて消しちゃってるのかもしれないね。その右手で」
「なるほど、確かにあり得るかもなー」
オカルト的な話なのに何故かとても説得力がある。
「あ、あのー明久さん?そんなオカルト的なことを信じるんでせうか?」
「え、いやだって当麻の不幸ってオカルトレベルで凄いじゃん」
「‥‥‥」
全くその通りのことを言われて反論できず無言でずーんとうつむく当麻。
「でも僕だって似たような力を持ってるけど当麻ほど不幸だーってならないよ?」
「うーん」
インデックスは腕を抱えて少し考えてから、
「
「うーん?なる‥ほど?」
「全然分かってないって顔してるな明久」
そう言われて彼はあははーと苦笑いをした。
「それか幻想殺しの力が強すぎて不幸なことが全部そっちに集まってるって言うのも考えられるかな」
「「‥‥‥?」」
それは明久が本来受ける不幸なことも全部当麻に降り注いでるってことなのだろうか?
「‥当麻」
「‥なんだ?」
「‥今度牛丼大盛りで奢ってあげるね」
「‥おう」
二人の間には何とも言えない気不味い雰囲気が漂っていた。
「それじゃあ私はそろそろ行くね」
「ん?行く宛でもあるのか?まだウチに隠れてた方がいいんじゃねーの?」
突然立ち上がった彼女に当麻はそう提案する。
「ここにいると敵が来ちゃうから。あなた達を巻き込む訳にはいかないよ」
「それじゃあ尚更放って置けないよ。『歩く教会』だっけ?それも壊れちゃったしもし外で追手に襲われたら」
「それじゃあ」
明久の言葉をインデックスが遮った。
彼女は続けて、
「‥それじゃあ、私と一緒に地獄の底までついて来る?」
満遍の笑みで、
でも少し辛そうに、
彼女は笑っていた。
『こっちに来ないで』
二人はそう言われた気がした。
「それに大丈夫!ここに行ってみるから!」
インデックスは手に持ったチラシをこちらに見せてそう言った。
「あ、それ何日か前に僕が道端で貰った宗教勧誘のチラシ」
「んー?『教会でお祈りを』か。そこに行けば助けてもらえるのか?」
「たぶん、ね。英国式じゃなかったら門前払いだけどその時は他の教会を探すから」
「「‥‥‥」」
もしかして、と二人は考える。
ここで行き倒れる前にいろんな教会を巡っていたのではないか。
その度に門前払いされてどんな気持ちで逃げ続けていたのだろうか、と。
「‥なんか困った事があったらまた来いよ」
「次こそは何か美味しいもの作ってあげるからさ!」
それなのに二人はそんな事しか言えなかった。
神様を殺せる右手、神様を拒絶できる左手を持つくせに。
たった一人の女の子も救えない。
「うん、お腹減ったらまた来るから。じゃあね!」
そう笑って、玄関のドアを開けて彼女は出て行った。
「なんか不思議な奴だったな‥」
「そうだね‥ってあの子フード忘れてる!」
明久は右手でフードを掴んで外に出るが、
「あー‥もう行っちゃったか」
「まぁまた来るんじゃねーの?そのフード取りにな」
「そうだね‥また会えるよね!」
「おう」
そう言って二人の少年は笑う。
その時はパエリアでもご馳走してあげようと明久は心に誓った。
ガチャリ
と、お隣さんのドアが開いた。
「何やってるにゃーカミやんにアキちゃん?」
「制服着てるってことはお前らも補習か?」
隣の部屋から出て来たのは制服を着崩した赤髪と金髪の男二人。
「おはよー雄二、土御門」
「お前らもってことはそっちも小萌先生から電話がかかって来た口か?」
「そう言うことだ。まさか夏休み初日から補習だとはな‥」
「まぁ一学期サボった分チャラになると思えば楽だぜい」
確かに明久も当麻も学校をサボりがちだった。
いや、度重なる不幸でやむを得なく休んでしまったと言った方がいいか。決して意図してサボった訳では無い。
「ところでその右手のフードは‥」
雄二が指差したその先にはインデックスが忘れたフードが。
「え?あぁこれは」
「アキちゃんもついにシスターのコスプレをっ!今日の夜はムッツリーニを呼んで撮影会だにゃーーー!!!」
実はこの吉井明久、女装がかなり似合う。
一年生の時の学園祭で女装したのが全ての始まりでムッツリーニこと土屋康太によれば『‥メイドアキちゃんのブロマイドは飛ぶように売れた‥』らしい。
ちなみに明久の中でこのことは完全に黒歴史と化している。
「シスターのコスプレ!?いや違うよこれは」
「まぁいいんじゃないかそんな趣味があっても。この世にはいろんな人間がいるからな」
「暖かく微笑みながら肩叩くのやめてくれない雄二!?ちょっと当麻言ってやってよ!」
全ての成り行きを知っている当麻に話を振るが、
「『朝起きたらシスターさんがベランダに干されててそのフードはその女の子が忘れたモノ』って言ったら信じる奴いると思うか?」
「ふ、不幸だぁーーー!!!」
結局、上条当麻に劣らず吉井明久は不幸なのであった。