とあるバカの幻想拒絶   作:ミリライ

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六話

 

 

晴れた青空の下、建物の木陰で明久は息を整えていた。

 

「流石にここまでくれば大丈夫かな‥惜しい人達を亡くしたな」

 

鉄人を振り切って学校の外に出るのに何人のFFF団員を犠牲にしただろうか?悲鳴をあげながら補習室に連行される団員達を思い出す。

 

「‥南無阿弥陀仏」

 

彼は決して彼等の尊い犠牲を忘れないだろう。

 

2分ぐらいは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン♪

 

「いらっしゃいま‥って何しに来たんですか豚野郎っ!」

「あのね清水さん、一応僕お客さんだよ?初手罵倒ってのもどうかと思うんだけど」

 

ラ・ペディスに入るなり罵倒してきた店員は昨日今朝と美波を追い回していた張本人の清水美春。メイド服を着ているということは今はこのお店を切り盛りする両親の手伝いをしているのだろう。

 

「美波お姉様に近づく豚野郎をお客さんと同等に扱うなど美春にはできません!」

ふん、と金髪の縦ロールを揺らしてそっぽを向く清水。

 

やっぱりこうなるのか、とため息を吐きながら明久は左手で頭を掻く。この様子じゃあ事情を話しても信じてもらえるかどうか怪しい。

 

「と、言いたいところなのですが木下さんから事情は聞いているのでこれを豚野郎に仕方なく差し出します」

 

明久が頭を悩ませていると先に清水が動いた。

不機嫌そうな顔で彼女がショーウィンドウから取り出したのは店名が綺麗に飾られた大きめの白い箱。きっと中には様々な種類のケーキが入っているのだろう。

 

「あー、秀吉も優子さんもちゃんと連絡してくれてたのかな?」

「弟の代わりに豚野郎が取りに来ると木下さんから電話を頂きました。いつもお世話になっている木下さんのお願いなので仕方なく!し、か、た、な、く、ですからね!」

「あ、ありがとう」

 

睨みつけてくる彼女からなかなか重量のあるソレを受け取る。

 

「それに今度木下さんや御坂さんと遊ぶ約束を取り付けることができましたし‥そこに美波お姉様も呼んで‥白井さんと協力してあんな服やこんな服を‥ぐへへへ‥」

「‥‥‥」

 

 

なんだかこの子は超えてはいけない一線を大きく超えているような気がする。白井さんの影響もあってか最近は行動力が物凄い。

 

「‥む、何ですか豚野郎、怪訝な目でこちらを見て?気持ち悪いです」

「別に何でも、ってそう言えばメイド服のデザイン変わったのかな?」

前に美波と来た時は結構派手なメイド服だったが今回のメイド服は落ち着いた感じのデザインをしている。

 

「豚野郎のくせによくぞ気づきましたね!実はこのメイド服、美春が製作したものなのです!この清楚で上品なデザインはお姉様や木下さんに‥ではなくてこのお店にピッタリですの」

「下心が丸見えだよ清水さん‥でもまぁ」

 

明久は清水の着ているメイド服をもう一度よく見てから、

 

 

「小さいハートの刺繍が僕的にポイント高いかな、清楚なデザインの中に可愛さもあってなかなか似合ってるよ」

 

 

「‥‥‥」

「‥清水さん?」

 

明久の言葉に少し驚いてから黙ってしまう彼女。

 

「‥豚野郎にしては珍しく的確な評価ですね、褒め称えましょう」

「あはは‥それはどうも」

明久が清水に褒められる(?)のは凄くレアな体験だ。というか初めてかもしれない。

 

「そういえばその箱の中にはアイスケーキも入っているので早く行かないと溶けてしまいますよ?」

「え?それじゃ早く177支部に届かないと!じゃあね清水さん」

 

溶けたまま持って行って優子が激怒したら流石にヤバい、最悪の場合昨日の続きをすることになる可能性もあり得る、と考えながら明久は急いでラ・ペディスを後にする。

 

「あまり走るとケーキが‥って聞いてませんわね。それにここから177支部は道がかなり複雑なのですが‥」

 

明久の出て行った扉を見ながらやれやれと清水は首を振る。

 

「‥‥‥」

そして彼女は自分の作ったメイド服を無言でチラリと見てから、

 

 

 

「‥これだから豚野郎は」

 

 

 

ほんの少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥ココ‥ドコ‥?」

 

明久の周りには見たことがあるような、ないような景色が広がっていた。案の定、迷子である。

 

「急いでたし曲がるとこ一つ間違えたかもなぁ」

 

とりあえずそこら辺の人に道でも聞いてみるか、と喋り掛けやすそうな歩行者を探していると、

 

「‥吉井?何してるの?」

「あ、霧島さん」

 

優子と同じ制服を着た霧島翔子に後ろから話しかけられた。髪を抑えながら首を傾げる彼女を見て今日も綺麗だなーとか考えながら言葉を続ける。

 

「実は177支部に行きたいんだけど道が分からなくなっちゃって‥」

「‥私もそこの近くに用事があるから案内してあげる」

「ホント?助かるよ霧島さん」

彼女の案内なら安心して着いて行っても大丈夫だろう。

こっち、と霧島が指を差した方向に二人は歩き始めた。

 

「そういえば夏休みだし霧島さんは私服とか着たりしないの?」

「‥常盤台学園の中等部と高等部は外出時制服の着用が義務づけられているから」

「うわ‥大変そうだねそれ」

年がら年中外出する時は制服を着てないといけないなんて自分だったら骨が折れそうだ。

 

「‥吉井は補習があったから制服?」

「うん、そうだけどよく分かったね」

「‥雄二も今日補習があるって言ってたから」

そういえばと、雄二と霧島は幼馴染で仲が良かったことを明久は思い出す。まったくこんな美人さんと幼馴染なんて羨ましすぎる。

 

「‥って直射日光が凄いな、溶けてないかなケーキ」

左手に持った白い箱を見て明久は呟く。

冷凍保存剤が入っているとはいえこの暑さは流石にマズいんじゃないだろうか?携帯で気温を見ると30度を超えている。

 

「‥私の能力で冷やしてあげる」

「ん?霧島さんの能力って確か‥」

「‥絶対零度(ニブルヘイム)

「えっと‥いろんな力を低下させる能力だったっけ?」

超能力者(レベル5)、第5位の彼女が所持する能力は「防御面だけ見れば第1位と同等の力があるのです!」と小萌先生の授業で聞いた気がする。銃弾、超能力、終いには核爆弾すらも無効化するらしい。

 

「‥うん、正確にはベクトルを低下させてる。私の半径10m以内にいればそのケーキは冷たいままだから安心して」

「ありがとう、やっぱり霧島さんは優しいね」

彼女と会うたびにこうやって毎回助けて貰っているような気がする。感謝しても感謝しきれない。

 

「‥いつも雄二がお世話になってるから。特に去年の一端覧祭の時は私も雄二も助かった」

「あー大変だったねあの時は‥ってよく覚えてるね霧島さん」

「‥記憶力には自信があるから」

彼女は少し胸を張ってそう言った。控えめに言って凄く可愛い。

 

「‥雄二は素直じゃないから、その代わりに私が吉井に感謝しないと」

「あはは、その言葉を聞くたびに雄二のお嫁さんみたいだなぁって思っちゃうよ」

「‥お嫁‥さん‥」

「‥霧島さん?」

 

霧島は小さな声でそう呟いて足を止めてしまった。

 

「‥家は一戸建てで‥雄二の監禁部屋を作って‥子供の名前は男の子ならしょうゆ、女の子ならこしょう‥ふふふ‥」

「いろいろとツッコミたい所はあるけどお子さんの名前は変えた方がいいんじゃないかなぁ‥」

 

どちらも調味料を連想してしまう名前だ。流石に生まれた子供が不憫すぎる気がする。

 

「‥着いた」

「何日ぶりだっけなーここに来るの」

 

雄二と霧島の名前を組み合わせて良い名前を考えていたらいつのまにか177支部前に着いていた。

 

「‥それじゃ私はこっちだから」

「本当にありがとね霧島さん、またね!」

「‥うん」

笑って頷くと霧島は背を向けて去っていく。

 

「よしっと」

 

その姿を見送ってから明久は177支部へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで次の標的はアイツらか」

 

『神を殺す右手、神を拒絶する左手、面白そうな力なのよね』

 

 

明久と霧島が別れたすぐ側の裏路地。

そこで少年が電源の入っていない携帯を耳に当てて話していた。

 

 

「‥ったく、とうとう能力者(こっちの人間)にもアレを送りつけるのかアンタは」

 

『遅かれ早かれそのつもりだったのよ。そっちのお偉いさんは何を考えているのかさっぱりだし』

 

「はっ、それはこっちのセリフだな。まぁ俺のやることは変わらんが」

 

 

少年は適当に言葉を返してから腕時計を確認する。

 

 

「‥俺はこの後用事があるからそろそろ切るぞ」

 

『アツアツなことなのね、ひゅーひゅー』

 

「一つ忠告しておくがな」

 

 

青筋を浮かべギリギリと手で携帯を軋ませて赤髪の少年は言う。

 

 

 

 

 

「あのバカ2人を簡単に手懐けられると思ったら大間違いだぞ」

 

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