忠義の騎士の新たなる人生 ―LAP 2―   作:ビーハイブ

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展開が浮かんでいても文章にするのは至難の業である。綺麗な文章が書ける人ってすごいなと尊敬しつつ、己の妄想を投稿させていただきます。


憤怒の一撃

 

 

―――――結界に飛び込んだディルムッドが見たのは、少女がサーヴァントと思われる存在に追い詰められている姿であった

 

「目覚めろ。マナマーン神の魔剣」

 

 事情は全く分からなくとも、命の危機に晒されている者がいる。ならば助けないという選択肢はディルムッドには最初から存在しなかった。

 

 敵サーヴァントを打倒して少女を助け出すと判断したディルムッドは破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を手放して憤怒の波濤(モラルタ)を右手に持ち替えると剣へ呼びかける。するとその声に呼応してディルムッドの魔力が剣へと流れ込み、深紅の刀身が紅い光を纏い始めた。

 

「ぐっ……!」

 

 その瞬間、強烈な倦怠感と共に心臓の辺りに激しい痛みが走る。一瞬だけその痛みに戸惑うが、すぐにその原因を聖杯から知識を与えられていたディルムッドは察する事ができた。

 

 生命の枯渇―――すなわち魔力不足となった人間に起きる現象である。

 

 聖杯戦争においては魔術師が身の丈に合わぬ魔術を使った場合や、未熟なマスターが魔力消費が激しい強大なサーヴァントを使役した時などに発生し、身を裂かれるような苦痛を感じる場合や最悪命を落とす非常に危険な物である。

 

 マスターだけでなく魔力供給が不足したサーヴァントにも起きる事であり、その場合は宝具の発動に失敗したり、現界を維持できずに自滅してしまう事もある。第四次戦争戦争では魔力消費の少ない常時発動型宝具である破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)しか持たず、マスターが優秀な魔術師であった為、ディルムッドにとっては無縁であった。

 

 だが今はマスターのバックアップもなく、生前よりも遥かに弱体化している。そんな状態では膨大な魔力を必要とする憤怒の波濤(モラルタ)を使う為に必要な魔力を賄えなかったのだ。

 

(不味いな……)

 

 魔力不足による苦痛に苛まれながら、ディルムッドは最善手を打つべく必死に思案する。

 

 このまま宝具を発動しようとすれば魔力切れで自滅する事はまず間違い無いだろうがそれを避ける事は難しくはない。

 

 消費した魔力は無駄になるが、宝具の展開を中断すれば問題なく対処できる。だがその場合、少女に迫る異形のサーヴァントの一撃を止める事ができず、容赦なく振るわれた一撃で少女の命は失われるだろう。

 

 魔力放出を使えば間に合うだろうが、再使用する魔力は足りず、加速して少女を押し飛ばして逃がす事も盾となる事もできない。

 

 コンマ数秒の世界で必死に最善手を考えていたディルムッドは一つの手段を思いつく。それは魂食いという呼ばれる下法であった。

 

 他の人間から生命力たる魔力を喰らい、自身の物にするという許されざる行為。魂食いをされた者はよくて衰弱し最悪命を落とすという、サーヴァントであったならばどれ程苦しい状況であり、使わなければ死ぬとわかっていても決して選ぼうとはしない邪悪な手段であるが、今のディルムッドはそれが最善手であると判断した。

 

 勿論罪なき一般人から奪う気はなく、目の前の少女を対象とした訳ではない。当然敵サーヴァントに対して使える手段ではない。ならば魂食いを行う対象は何者か。

 

 

――――それはディルムッド自身である

 

 

 今のディルムッドは受肉している。つまり今は人間との違いは全くない。ならば保有魔力が限界であっても自身の生命を魔力に変換すれば不足分の魔力を補う事は可能であると考えたのだ。

 

 望んだ訳ではなくとも奇跡的に得た新たな命。それを自ら削るという事に抵抗がないと言えば嘘となるが、それで目の前の少女を救えるというならばディルムッドに躊躇する理由は存在しない。

 

「ぐ……ッ!」

 

 聖杯の知識によって与えられていた手段を思い出し、自らを対象に実行する。文字通り命が削れていくのを感じると共に、収束しかけていた憤怒の波濤(モラルタ)の深紅の魔力光が瞬時に輝きを取り戻す。

 

「生死を分かつ境界線……見定める!」

 

 宝具発動による膨大な魔力を察したバーサーカーが動きを止めてこちらに顔を向ける。だが既にディルムッドの姿はそこになかった。

 

 

憤怒の波濤(モラルタ)!」

 

 バーサーカーが顔を向けるより早く、結界の頂点ギリギリまで跳躍していたディルムッドはそのままバーサーカーを両断すべく凄まじい早さで頭頂部へ向けて剣と共に落下する。

 

 相手を一撃で両断すると謳われるディルムッドの持つ最強の宝具。その絶大な威力の込められた斬撃の危険性を本能的に察知したバーサーカーは回避しようと後退する。

 

 だがディルムッドの刃が到達する方が僅かに早く、バーサーカーの丸太のような豪腕を断ち斬る。そして少女と言葉を交わし、無事を確認すると失った右腕を庇いながらこちらに殺意を向けてくるバーサーカーを討つべく憤怒の波濤(モラルタ)を向けつつ、挑発の意図を込めながら呼び掛けたのであった。

 

 

――――ー―

 

 

「くらえぇ!!」

「っと! 失礼する!」

「え……きゃっ!?」

 

 挑発に反応したバーサーカーが怒声と共にこちらを殺すべく残された左腕に持つ斧を横なぎに振るい、ディルムッドはそれを少女を所謂お姫様抱っこの形で抱き抱えて

 

「怪我はないか?」

「……え、あっはい!大丈夫です!」

 

 豪腕から放たれる一撃の余波でコンクリートの壁が砕ける音を聴きながら少女を地面に下ろし、先程投げ捨てた破魔の紅薔薇を拾い上げたディルムッドが少女へ声を掛ける。

 

「ならば良かった。さて君の名を聞いても構わないか?」

 

 少女を安心させようと不敵な笑みを浮かべながら問いかけるディルムッド。そこで初めてディルムッドの貌を見た少女ーー高町なのはは時が止まったように動きを止めた。

 

 

―――突然不思議な力を手にし、訳もわからないままいきなりの実戦

 

 

 しかもこの状況になのはを導いた喋るフェレットにすらわからないイレギュラーな存在から殺されかけ、恐怖に怯えるしかない危機的状態に陥ってしまっていた。

 

 そこに颯爽と現れてなのはを救い、笑みを浮かべるのは学校どころかテレビの中ですら見たことがないあまり歳の変わらない絶世の美少年。

 

 ディルムッドに刻まれた祝福であり呪いたる【愛の黒子】。()()()()()()()()()()()、生まれてから本気の恋などしたことのない少女がときめいてしまうのは仕方がないだろう。

 

「なのは……高町なのは……です」

「そうか。ではなのは。君は逃げろ。あれは俺が何とかする」

 

 本人としては大変不本意ながら女性に愛される事に慣れているディルムッドだが、子供から恋愛感情というものを向けられた事はない。

 

 故にディルムッドは少女の淡い恋心に全く気が付く事なく、再度バーサーカーへ向き直る。その顔には先程なのはに向けた優しげな笑みはなく、無辜の民を守ると決意した戦士の顔であった。

 

「そんな!いくら何でも一人じゃ――」

「気にするな!早く行け!はぁっ!」

 

 制止しようとするなのはにそれだけ言うとディルムッドはバーサーカーへ向かって駆ける。

 

 既に右腕を失ったダメージから復帰していたバーサーカーは接近するディルムッドを叩き潰そうとその手の斧を垂直に振り下ろす。

 

 当たれば今のディルムッドでは防いだとしても間違いなくガードの上から潰され、無惨な肉塊に変わるだろう恐るべき速さと力の一撃。

 

 

――――だがそれだけであった

 

 

「ふっ!」

 

 垂直に振り下ろされたその一撃をディルムッドは横に少し飛ぶ事で難なく回避する。

 

 例え肉体が脆弱な幼少期に戻ろうともディルムッドの技量が失われた訳ではない。既に全盛期との感覚の違いは矯正し終え、全盛期と変わらぬ優れた心眼はバーサーカーの攻撃どころかその一手先の動きすら視えている。いくら早かろうが技量もなく、駆け引きもない愚直な攻撃をかわす事など造作もない事であった。

 

「はぁっ!」

 

 バーサーカーの攻撃を回避したディルムッドはそのまま丸太のような左腕に飛び乗るとその上を駆け抜け、憤怒の波濤《モラルタ》を持った左手をバーサーカーの首へ向けて振るう。

 

 その速さはフィオナ騎士団最強と謳われていた時と遜色ない鋭い一太刀であり、()()()()()()のディルムッドならばこの一撃でバーサーカーを討ち取っていただろう。

 

「ぐっ?!」

 

 だが憤怒の波濤《モラルタ》の刃が首筋を捉えた瞬間、ディルムッドの左手に衝撃が走る。

 

 完璧に入ったはずのモラルタの刃―――だがその一撃はバーサーカーの首の皮を僅かに斬り裂いたところで止まっており、それによって発生した反動がディルムッドへと返ってきたのだ。

 

 そ直後、斧を手放したバーサーカーの左手がディルムッドを掴み取ろうと迫る。だが衝撃を感じた瞬間にディルムッドは何が起きていたか認識して動き出しており、間一髪のところでバーサーカーから離脱する事に成功する。

 

「……予想以上に堅いな」

 

 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)と憤怒の波濤《モラルタ》を構え直しながら僅かに悔しげな色を浮かべつつディルムッドはそう呟いた。

 

 先を読む眼と足捌きである程度は誤魔化せても単純な腕力だけはどうしようもない。ディルムッドの魔力放出はかつて戦った騎士王の物とは違って跳躍に特化した物であり、腕力強化には使えないのだ。

 

 とはいえそれを加味してもディルムッドの剣はただの武器ではなく神造宝具。どれ程屈強な肉体であろうとディルムッドの技量で振るえば切断するには充分な切れ味を発揮するのは間違いない。

 

 そうならなかったのは恐らくあのバーサーカーの肉体が神代の神秘か宝具。もしくは何らかのスキルによって外見以上の堅さを発揮している為であろうと推測する。

 

 真名解放した憤怒の波濤《モラルタ》ならばそれすら斬り裂けるのは最初の一撃でわかっているが、二発目を放つ魔力は残っていない。

 

 再度命を削れば撃てるかもしれないが一度目の時点で肉体への負荷は尋常ではなかった。

 

 もしもう一度使って肉体が耐えきれずに倒れでもしたら目も当てられない為、それは本当にどうしようも無くなった時の最後の手段として温存せざるを得ない。

 

 バーサーカーの攻撃は当たらない。だが自身の攻撃は殆どダメージにならない。両者共に決定打が与えられず、数秒睨み合う。

 

 

――――先に動いたのはバーサーカーであった。

 

 

「まよえ……さまよえ……!」

 

 バーサーカーがポツリと呟く。それと同時に魔力が膨れ上がる気配が周囲へと拡がる。

 

 それが宝具の解放だと即座に察したディルムッドであったが、ダメージを与えられない以上、宝具の発動を止めることは不可能であると判断すると即座に視線を反らす。

 

 その先にいたのは状況についていけず、逃げるどころか動く事すらできないなのはの姿であった。

 

「くっ! ……許せなのは!」

「え、きゃあっ?!」

 

 このまま結界の中にいては不味いと直感的に感じたディルムッドは、なのはの元へと魔力放出で駆け付ける。そして彼女の身体を結界の外へと出そうと押し飛ばした直後、バーサーカーの宝具が発動した。

 

「そしてしね! 万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)!」

「ラビュリントス……! クレタ島の迷宮か! ならば奴の真名は―――」

 

 宝具の名を聞き、バーサーカーの真名に気が付いたディルムッド。だがその名をなのはが聞き取る前にディルムッドは魔力によって形成された壁――ー否、迷宮の中へと消えてしまう。

 

 そしてそれから数秒が経過し、結界が勝手に解かれた時。そこに残されていたのは無残に破壊された街並みと家。そして起こった出来事を理解できずに呆然と立ち尽くす事しかできないなのはとフェレットだけであった―ー―ー

 

 

 




謎のフェレットは自己紹介のタイミングを逃した為、名前表記が変わらないままで終わってしまった。

ニコポを自然にできる男、ディルムッド・オディナ。私もそんなイケメンに生まれたかったです。
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