ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
「フォウ」
「私が何者かなんて君たちには関係ない。これから話す物語にも関係ないことだよ」
「フォフォウ」
「これは英雄でも勇者でも、まして魔術師でもない。意味なんて無い、この物語は始めからハッピーエンドですら存在しない。意味も理由も価値も存在しない物語」
「フォーウ………」
「それでは始めよう。何者でも、何物でも無い〝モノ〟の、なんてことは無い物語を」
「こんなところに人が来るとは、珍しい」
誰だ?
俺の目の前に医者のような男がいる。眼鏡をかけた男が話しかけてきた。
男は簡単な椅子に座り、天幕から光を浴びている。
辺りは暗い、まるで光に当たる場所以外に何も無いように。
俺も座っているのだろう。男を基準にした視界からそう思う。
そんな中、俺は目の前の男に聞いた。誰だ?と。
「それを君が言うのか? 他ならぬ君自身が」
そう言われ、静かに黙り込む。
自分が何者か、なんなのか分かる。
それだけのことをするために生まれ、その為に進まないといけないことを。
男は聖書のような本を取り出し、静かにページをめくる。読んでいるそぶりは無い。
俺のように意味の無いことをしていた。
「君もまたおかしな宿命に翻弄される、哀れな子羊のようだ」
そう言いながら、ページをめくる音と共に辺りから声が聞こえ出す。
ノイズのように、雑音のように聞こえる叫び声。
その慟哭を聞きながら俺は、目を静かに閉じる。
「君はこれからどうする?」
どうする? 俺がこの先どうするか。
そんなのは決まっている。
「憎い」
憎い。あるものが。
それが俺の中にある。
俺は何を憎んでいる?
いや分かっている。それがなんなのか、そして意味は無いことも知っている。
「俺は憎い、だからこそ、進む」
「どこへだい?」
「〝上〟へと進む」
「意味も理由も価値も無いのに」
「ああ」
そんなものが無くても、歩くことはできる。
だからこそ俺は進む為に、いまから歩き出さなければいけない。
「天幕がいまさまに上がり、外伝とも異聞碌とも言える異端の物語はいま始まろうとする」
その通り、この物語は意味も、理由も、価値もない。
ただの最低で、最悪で、最も愚かな選択をする〝モノ〟の物語。
「………それでも」
俺は進まなければいけない。
「願わくば汝の道に光在れ」
それは違う。
「俺の旅路の果てに光は無い」
そう言い立ち上がり、俺は男を背に歩き出す。
心の中にあるこの衝動のまま、ただ憎いままに歩き出した。
意味なんて無い、何も無い。
これは終わった話だ。
最低で、最悪で、愚かな選択。きっと俺の旅路は間違っているのだろう。
それでも俺は進む。
「あなたはどうして進むの」
黒闇を進む。
また声が聞こえた。
ノイズが混じる声で、それでも辛うじて女性と分かる声。それは俺を憎むように聞こえる。
「あなたがいなければいいのに、あなたがいるから可能性が芽吹いた」
そう言われながら、それは俺を憎む。俺のように。
世界を憎む〝モノ〟と、俺を憎む者。
「必ずあなたを消して見せる。この世界を守る為に」
そう声が遠のいていく。
誰の声かなんて関係ない。俺がやるべきことは変わらない。
俺は〝上〟に進む。
その為に歩き出したんだ………
◇◆◇◆◇
どれほど歩いただろうか? 俺はいつしか森の中にいた。
「どこだここは」
辺りを見渡しても森くらいしか見えないし、建物らしいものも見えない。
だがどこだっていいか。
歩く、憎しみのまま。
進む、憎しみのまま。
意味も理由も価値も無い歩み。
怒りと憎しみしか無い俺は、果たして先に進んで〝上〟へとたどり着くことができるだろうか。
それだけが唯一の不安であり、問題である。
そんな中でも歩いていると、なにか金属音がぶつかり合う音が聞こえた。
「戦闘音?」
叫び声が聞こえる。男女二人がなにかと戦っていのだろうか?
こうして俺は彼らと出会う。
意味も無く、ただそちらへと走り出した。
「はあああああああああああ」
走ったおかげでその場所へとたどり着くことはできた。
鎌のような刃物を付けた、骨の怪物と戦う黒の剣士と女性の短剣使いが戦っている。
黒の剣士は男性で全身を黒で統一し、二本の剣で戦っていた。
もう一人は女性であり、短剣を使い、どうにか凌いでいる。
すぐに俺は背負っていた剣を引き抜き、彼に合わせて斬り込む。
「!? 君は」
「俺は」
黒の剣士に問われたとき、一瞬考え込むが関係ないな。
そう、そんな些細なことを気にしている場合では無い。
それに驚いた顔の黒の剣士もまた俺と同じ二本の剣を使いだし、どうにか戦いにはなるが、届かない。
「くそッ」
黒の剣士が険しい顔で何か見ている。
ちらりと彼らを見るとゲージのようなものが見える。
黒の剣士はグリーンのカーソルにイエローゲージ。
青の短剣使いはオレンジのカーソルにレッドゲージ。
「このままじゃ」
死ぬ。そう感じたとき、俺の中で何かが囁く。
憎い。
にくい。
憎イ。
その感情が俺の中で芽吹き、目の前の敵を見た。
力が欲しい。
そう心から願うとき、左手の甲が熱くなる。
「どうすればいい………どうすれば」
黒の剣士が顔を歪め、打開策を考える中で俺は知っている。
そう、呼べばいいのだ。
誰をなぞ関係ない。
なにをもどうでもいいことだ。
ともかく時間がいる。
「時間を稼げるか」
「策があるのか」
「ああ」
俺は知っている。
ただ呼べばいいだけなんだ。
それが俺が初めにする、やらなければいけないことの一つ。
「分かった、どの道このままじゃ全員ゲームオーバーだっ。俺が前に出て防ぐから、君はサポートを頼む」
「………分かった」
二人が前に出たとき、俺は左手をかざして、静かに目を閉じた。
憎い、意味のない感情だ。終わった感情。
何に対してか、何を求めているか。
分かっていても止まることができなかった。
それでもこれは消せるものではないのだろう。だから共に背負って歩くしかない。
そしてなによりも………
ここで終わるわけにはいかない。
その意味が何なのか知りながら、俺は進む。
俺はまだ、戦っていないのだから………
「………告げるッ」
◇◆◇◆◇
俺のゲージがレッドに入った。
このエネミー《スカル・リーパー》は、第75層で攻略組を苦しめた存在だ。
だがかなり弱体化されていた。それでもたった三人、それも即席のメンバーでは不利なのは変わらない。
そう感じたとき、光が辺りを包んだ。
「なにっ!?」
共にいた彼女が訪ねる中、俺は後ろの彼を見た。
その時に赤い花びらが舞い上がり、スカル・リーパーを吹き飛ばした。輝きが彼の前に集まっていく。
彼のその左手に赤い入れ墨が刻まれ、光は人の姿になる。
「! いまのうちに《回復結晶》を使うんだっ」
俺は我に返り、急いで指示する。結晶アイテムを使い、これで一気にHPゲージを回復させた。
そして次の瞬間、それは俺の横を駆け抜ける。
「はあああああああああああ」
誰の物でもない女性の声が響き渡り、スカル・リーパーを斬り裂く。
一撃だった。
いくらだいぶ弱っていたとはいえ、いままで手こずっていたスカル・リーパーを一撃でポリゴンの塵に変えたのだ。
俺たちが驚く中、灰色と白色の服装で、髪は銀で肩にギリギリ届くほど長い髪。顔はぼうっとしていて瞳は深い蒼。
同い年か一つ上くらいの、俺と同じ二本の色違いの剣を使う彼は彼女を見る。
彼女は深紅の衣装に身を包み金色の髪を束ねながら、赤い独特の剣を彼に向けて口を開く。
「問おう、そなたが余のマスターか?」
それが彼と彼女との出会いであり、このゲーム《ソードアート・オンライン》に起きた、異変の一つである。
◇◆◇◆◇
意味も理由も価値の無い旅路の中、砂粒のような理由はできた。
俺の目の前で骨の怪物を軽々と倒し、胸を張り、堂々とした態度で俺に自信に満ちた笑みを浮かべて彼女は聞いてくる。
この俺の元に咲いたこの情熱の薔薇があれば、俺は先に進めるだろう。
俺は静かに左手の甲に刻まれた令呪を見せながら、静かに頷いた。
「ああ、俺の名は『メイト』。よろしくセイバー」
俺はきっと、最後まで戦える。
この意味も理由も価値の無い戦いで、俺は一つの意味も、理由も、存在を手に入れた。
始めてしまった。思いついたんだもの、形にしたら調子がよかったよ。
名前とかもすんなり決まってよかった。後はセイバーと共に彼は〝上〟へと歩き出します。
始まりで出て来たもふもふした子と魔術師は出てきません。たぶん知ってはいるんでしょうね。
「始まりの語り部としては、私以上に適任者はいないからね」
「フォーウ」
それでは、お読みいただきありがとうございます。