ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
サーヴァント戦が終わり、俺はレベリングしている。そんなことを繰り返すと、
「メイト君、しばらくフィールド探索禁止です」
アスナが微笑みながらなぜか目が笑っていない。
キリトは苦笑しながら、周りのみんなもやれやれと言う顔で見ていた。
「奏者は酷いぞっ。余を置いて一人で戦いの場に出ていて」
「セイバーはレベルが無いから、身体を休めていて欲しいんだ」
俺がそう言うと、それでもとアスナがしっかりと、まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるように俺を見ている。
「あなたのレベリングは後々のことを考えていない、無茶なものです。今日は何時間フィールドで、しかもソロで活動していましたか?」
「六時間」
俺はしっかり時間を確認している。しっかりとユウキとセイバーを起こさず夜八時からレベリングに出かけ、午前二時に帰宅。その後セイバーたちとレベリングしたりして………
「どうしたみんな?」
俺が難しい顔をするみんなの顔を見る。なぜかキリトだけがなにも言えず、どこか肩身が狭い様子で座っている。
アスナは静かにこちらの目を見ながら、
「あなたはどうして、そんな無茶なレベリングするのかな~?」
「待ちがあれば一、二時間くらい休める」
「き・み・はッ!!」
ユウキですら困ったなと言う顔で見ている。なにをそんなに怒っているのか。
「ああ」
「やっと分かってくれたのね」
ぱっと明るくなるアスナ。どうやら正解らしい。
「キリト、今度からは一緒にレベリング」
「あーなーたーはーっ!!」
両側の頬を掴まれ、がくがくと揺らされる。どうやら不正解らしい。ソロがいけないわけではないようだ。
「キリトはやっぱり攻略組として、自分のベースがあるからか」
怒られた理由を考え込むとキリトは苦笑いした。
「ま、まあ、昔ほど無茶なレベリングはしないよう気を付けているが………」
「ねえねえ、メイトはなんでレベリングしているの?」
ユウキがアスナから説教を受けている俺たちの間に入り、首をかしげて見つめて来る。
「やることが他にないから」
そう言うと、なぜかみんな黙り込み、少しだけ話し合いが始まった。
「そう言えば、メイトは聖杯戦争の為に作られたNPCなんだもんな」
「ああ、それ以外に関して、彼はなにもない………むしろなんて言うか」
キリトが歯切れが悪く、少し俺の方を何度か見る。
何が言いたいか分かる。俺はおそらく、聖杯戦争以外に関する情報を削られているのだろう。
戦闘情報以外必要最低限しか無く、後はソードスキルに関するプレイヤーとしての情報。
それ以外に俺は必要としていない。これからもそれは、
「それはダメだぞ奏者」
「セイバー?」
セイバーが必要ないと伝えようとすると待ったをかけた。堂々と胸を張り、高らかに俺に言う。
「いいか奏者よ。この世に無駄なんてものは存在せぬ。全て存在する意味があるのだ」
「俺の意味は〝上〟に向かうことだ。その為にリソースを回復させ、プレイヤーとしてレベルを上げることに、なにか問題があるのか?」
「ありありですっ」
アスナがそう言う、セイバーも腕を組みうんうんと頷く。
「メイト君、いくらなんでもこれ以上無謀なレベリングを見過ごすわけにはいきませんっ。あなたはその後もユウキや他のみんなともレベリングしているんでしょう」
それにこくんと頷き、それにアスナははあ~と長いため息をつく。
ユイが服の裾を引っ張り、困った顔で、
「だめですよ、ママたちを困らしちゃ。めっ、です」
そう言い、セイバーがその仕草に後ろから抱きしめようとして俺が止めておく。
ともかくこの話はよく分からないうちに始まり、よく分からないうちに終わった。
◇◆◇◆◇
メイトがセイバーと共に部屋に戻る。その顔を見ていたが、あれは理解していない。
「少し問題だよねキリト君」
困った顔で話しかけるアスナ。確かに、俺もアスナも昔無茶なレベリングをしていた頃がある。それを知るクラインとエギルは腕を組みながらうなり、俺自身も考え込む。
「メイトは普通のNPCと違って考えるから、あまり深く考えていなかったけど、彼は目的以外、あまり考えていないのか?」
「ううん。ボクのことはかなり気にしてくれてるよ。一人でレベリングしないようにいつも話してるもん」
ユウキがそう言い、リーファたちも、
「あたしたちともよく会話してるよ。なにが好きか、ここに関することとか」
「それはそうかもしれないけど、内容は」
「ソードスキルとかどういうのがあるのとか、そのフィールドにどんなモンスターがいるとか。後は町の様子とか」
………気のせいか?
「情報収集みたいだな………」
「キリト君もそう思う? わたしも彼との会話を思い出すと、全部攻略のための情報収集。悪い言い方になるけどそういうのばかり」
「け、けどあたしとピナの会話も聞いたりしてますよメイトさんっ」
ピナの鳴き声と共にシリカが話してくれる。そうだ、全部が全部そういう会話だけじゃない。彼はしっかりみんなの話、言葉を聞いている。
それでも彼は自分で行動するのはユウキのことと、聖杯戦争、戦闘の時。最近は周りの話を聞きに行ったりはするけど、
「自分から進んで話したりしない、のかな」
「そう言えば彼奴からの話ってのは、全部フィールドや攻略のことだけだな」
クラインの言葉に俺は彼から聞く話の大半が攻略情報だけであり、後はユウキのことか。
彼はユウキのことを考えている。レアアイテムを手に入れるとユウキに似合うか話したり………
「メイト君、趣味がなんだかお兄ちゃんみたい」
「お、おれ?」
突然の名指しに俺は驚くが、
「無茶なレベリング、レアアイテム収集家。まあ確かにキリトだな」
「確かに」
エギルやアスナがうんうんと頷き、俺は反論したかったがなにも言い返せない。
「なにか、彼に趣味でもやらせてみたらどうかしら?」
「そう言えば料理できたよね? エギルさんのお店で鑑定スキル上げたりするのもいいし」
「今度から一緒にいるとき、もっとお話ししたいと思います」
「そうね、似ているところなんて《二刀流》スキルだけで十分よ十分」
「そうですね。まあ向こうがお兄ちゃんって言うのは。なんか向こうの方がカッコイイですし」
「り、リーファっ!?」
それに女性陣はくすくすと笑い、全員が納得していた。
「アスナまで………」
「ま、まあ、年上の男性って言うのでね。落ち着いているし、頼りになるもん」
「確かにですね」
ともかく彼についてはみんなでよく見て話す。そういうことで決まったのだが、
(攻略のことだけ考えるか)
それ以外のことを考える。そういうことすら削られた節がある。
確かに彼が生まれた過程を知ると、むしろそれ以外の機能は必要しない。だけど、
(だけど。それだとどうしてAIが必要なんだ?)
確かに的確な判断は必要だが、それでもエネミーみたいなもののように扱えないのか?
AIを搭載する意味。それが分からず、ともかくいま考えても意味が無いと思い、談笑する女性陣を見ていた。
◇◆◇◆◇
「みんながレベリングをやり過ぎていると言うが、フィリアはどう思う」
「やり過ぎているよ」
呆れながら言われ、セイバーもまた色々と話してくれた。
ともかく趣味を持つべきだと。それか誰かを愛するべきだと言う。
後者は無視するが、趣味と言われても困る。料理する必要性はそれほどないし、釣りなどは興味ない。
ユウキもかなり構ってくるが、フィールドに行こうとすると必ず止める。ユイもまめでお姉さんと言う顔でだめですよと優しく語り掛けて来る。
「セイバー、とりあえず二時間くらい《ホロウ・エリア》探索だ」
「うむ、余にすべて任せると良いっ」
自信満々に言うセイバー。フィリアと共に歩く中、フィリアは不思議そうに俺を見る。
「どうした?」
「えっと、ほんと。本当にメイトってNPC、なんだよね」
「ああ」
俺は作られた存在。SAOプレイヤーが聖杯戦争に勝つ為だけに用意した駒。
それ以上でも以下でも無く、そこに意味も理由も価値も無い。
「それでもやらなきゃいけないことはある。それだけは、それだけは忘れることは許されない」
「上にいくため?」
「〝上〟へと向かうために」
「そう………。メイトが頑張ってくれるなら、わたしも安心だな」
そう微笑むフィリアに対して、俺は静かに頷く。
今日も結局、カルマ救済できるクエストは発見できず、彼女と別れる。
「それじゃ、また」
「うん、またねメイト。セイバーも」
「うむっ」
◇◆◇◆◇
少し夜遅く、部屋に戻るとユウキはうとうとして待っていてくれた。
「おかえり~メイト、セイバ~」
「起きてたのか」
「うん………だって、メイトがまた、むちゃしてないかな~って………」
うとうとするユウキ。少し危なっかしく、すぐに布団に寝かしつける。
静かに寝息を立てるユウキにほっとしながら、俺はセイバーがお風呂に入る為、服を脱ぎ出していた。
「ぬ? 奏者よ、まだコードキャストをいじるのか?」
「バスタオルくらいは巻いたらどうだ?」
「ふふ。見事だろうこの黄金比?」
見せるようにポーズを取るが、
「セイバーには《黄金比(体)》は無いぞ」
「むっ、そういうことではない。まったく、そのような反応では、女子にモテぬぞ」
少しだけすねるセイバー。俺はよく分からず首を傾げた。
お風呂に鼻歌が響き、俺はコードキャストをいじる。
「む~、めいと~」
そうしているといもむしのように動き、俺に張り付き、体重を預けるユウキ。
後ろから手を伸ばしてコードキャストのウインドウに触れそうになり、すぐに閉じた。
「もう終わりっ、メイトはもう休まないとだめぇ~」
そう言いながら張り付くユウキ。頬と頬がくっつき、ユウキが寝ぼけながら妨害してくる。
確かに動きすぎたり、休まないと大事な場面でミスしてしまう。休まないといけないことは分かるが、俺は無理をしていない。
それをどうにも分かってもらえず、ユウキは寝ぼけながらどうすれば納得してくれるか考える。
少しはなにか話題を変えたり、楽しくお喋りすればいいのか? 楽しくお喋りとはどうすればいい?
そう考えていると、クラインの言葉を思い出す。
◇◆◇◆◇
その時メイトはユウキへと向きかえり、ユウキをベットへと押し倒した。
「………へ?」
ユウキは吐息がかかるほど近くにメイトの顔があるのに気づき、自分を覆いかぶさっていることに気づく。
なぜか両手は抑えられて、メイトの顔、無表情ではあるがそれでも意思がある凛々しい顔が視界に入る。
「めい、と………」
そして静かに近づいてきて、
「可愛いよユウキ」
そう耳元で囁いて、ユウキがしばらく考え込み、一気に恥ずかしくなって赤面して、湯気を頭から出して混乱した。
「えっ、あっ、め、にぇいと?」
急に恥ずかしくなり、ろれつが回らない。変わらずメイトが耳元で囁くように、
「俺は元気なユウキが好きだ」
「にゃ、にゃーーーーーー」
「可愛いよユウキ」
「に、にゃーーーーーーーーーーーっ!!」
パニックになりじたばた足だけ動かすが、メイトは少しだけ微笑み、いじわるそうに続ける。
彼が実践したのは壁ドン(ただし壁が無い為押し倒す)と女性に好きだ、可愛いと褒め言葉をささやくこと。
その後ユウキの騒ぎ声にアスナが入り、セイバーはお風呂から出て驚き、自分も混ざろうとして止められたところ、
「メイト君……少し、お話ししようか?」
そう微笑みながらメイトを引き離して連れて行き、アスナはクラインに明日お話がありますとメッセを飛ばす。
側で事情を聞いたキリトは青ざめた顔でユイの耳と目を隠し、ユウキは真っ赤な顔のまましばし放心していた。
彼女はしばらく、メイトと行動することを控えたらしい。
ユイは作られた順番で言えばメイトより年上です。メイトは色々な話を聞き学修しています。
これでも攻略最前線に出ていませんが彼はキリトたち、攻略組と変わりません。
ユウキの手を押さえつけたのもたまたま、誤解生むことを平気でします。
これから先どうなるか。ではお読みいただきありがとうございます。