ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
変えられない、変わらない。データはデータで、わたしは………
キリトたちは優しすぎる、優しすぎるよ。
わたしは、わたしは………
◇◆◇◆◇
フィリアに呼ばれ、俺はセイバーにお休みを言っている。俺自身も町を楽しむと言っておいた。
一人でここに来るとフィリアは少しだけ微笑む。彼女と共にフィールド探索を始める。
「ほらここ」
「隠し扉か」
ダンジョンの奥地、そこで隠し扉を見つけた。彼女は自称ではあるがトレジャーハンターを名乗るほどの腕前だ。
「ほら、あそこに」
「宝箱だな」
彼女が指さすところに宝箱がある。俺はすぐに取りに行かず、フィリアも少し待ってと呟く。
「わたしが確認してくるから、メイトは入口を見張っててくれないかな?」
「ああ」
そう言い、少し離れた位置にある宝箱を調べに距離を取る。
宝箱を開ける様子のフィリアは、ふとその作業を止めた。
「ねえ、メイト」
「どうした」
「わたしが、オレンジになった理由、メイトには話して無かったね……」
「それは」
フィリアは話すのは人を殺したからオレンジカーソルに、彼女はそう告白していた。
「わたしが人を殺した理由……人を、殺してしまったの」
「フィリア。けどフィリアになにか事情があったんじゃないのか」
どうしてそうなったか分からない。だけど
「俺にとっていまのフィリアしか知らない、理由も無く人を傷付ける人間じゃない」
俺はデータだ。人間との間に溝があろうと、それくらいの判断はできる〝モノ〟だ。それでも信用できる人かどうかの違いは分かる。
「フィリアは信じられる。だからこそ、それにはなにか理由がある。そうじゃないのか」
俺の言葉を聞き、その言葉に彼女はただ静かになり呟くように語り出す。
「違う、わたしはそんな人じゃない………」
悲しそうに、否定するように俺を見ていた。
「わたしは人を殺した。ううん、それより酷い。わたしは〝わたし〟を殺したの」
「どういうことだ」
「わたしはキリトやメイトのように、気が付いたらここにいたって話。その話には続きがあって」
そして彼女は語る。そのまま彷徨っていたら、突然誰かが目の前に現れた。それは〝フィリア〟だったと話し出す。
「それは特別なイベント、だったのか」
俺もまたここに来てから色々なクエストを受けた。そんなことはイベント以外あり得ないはず。
だがその言葉に首を振る。
彼女は必死に無我夢中で行動した。そして気が付けば一人であり、カーソルもオレンジだったと語る。
「わたしは、わたしを殺したからかなって………」
「フィリア」
「だから、わたしのカーソルを戻してもその罪は消えない」
「待て、落ち着けフィリア」
なぜか分からないが目の前に〝フィリア〟がいて、それを傷つけたとしてもそこまで思いつめる理由が分からず、俺は声を上げるが届かない。
「わたしの罪は消えないッ。ずっとッ、ずっと影の中で生きて居なきゃいけない………」
「そんなことないッ」
「あなたに何が分かるのッ。ただのデータッ、NPCなのに!?」
「フィリ」
その時、彼女が何かをした。
仕掛けが動く音が鳴り響き、突然身体が宙に浮く。
「さようなら、メイト」
「フィリアッ」
身体を伸ばす。コードキャストはリソースが足りない。
そのまま俺は暗闇の中に落ちていく。
彼女の、とてもいまにも泣きそうなほど、悲しそうな顔を見ながら………
◇◆◇◆◇
落ちていく。
堕ちていく。
オチテイク。
果てしない暗闇へと落ちていく。
――ごめんね………――
その言葉を聞くまでは。
【アァァァァァァァァァァァァァァァァァ】
リソースがどうした。
何かが背中を貫き、腹へと貫通する。
それがどうした。
【アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ】
死に満ちろ。
憎め。
にくめ。
憎メ。
俺がどうしてここにいる?
俺は何者だ。
俺はなんだ?
答えは出ているだろう。
なら、動け。
意味の無い、理由も無い、価値も生も無い。
何も無い俺だからこそ、俺なのだから。
望みは果たされないのは理解している。
ささやかな願い、小さな願望、存在しない希望。
未来なんていらない。これからすることを考えればそれが当然の末路だ。
叶わないと知りながら、始まりも終わりも無い、未来が無いと知りながら俺は進む。
それしかない。
それでもいい。少なくてもいまも過去も、これからもそう思う。
だからこそ、
【俺はまだ彼女と話さなければいけないッ】
メイトと言う名を刻んだ、死者であり、彼女の仲間なのだから。
◇◆◇◆◇
「メイトの奴、一人で《ホロウ・エリア》に。フィリアもいない、二人になにかあったのか?」
「パパ」
俺はメイトがいないことに気づいたセイバーが急ぎ周りに救援を頼んだ。曰く、パスと言うものを手繰ってもメイトの下に行けないと言うこと。
彼女の話を聞き、俺はユイを連れてここを調べることにした。
ここは《ホロウ・エリア》のコンソールらしきものがある場所。このエリア事態にユイを連れて来たのは初めてだ。
そして知ったのは、ここは運営側がデータチェックするためのテスト空間であること。
俺はここ《ホロウ・エリア》にプレイヤースキルの高さから、テストプレイヤーとして召喚されたらしい。
「メイトやフィリアは」
メイトの方はなにも分からないが、フィリアは俺のようにテストプレイヤーとして選ばれていないらしい。ここのエリアにいるプレイヤーは全てAIを搭載したNPC。
「メイトのようなものなのか………」
AI搭載されたNPC。彼らは一見プレイヤーと見間違うほどであり、すぐには分からなかった。そう言えばメイトはここでプレイヤーと会っていないと何度も言っていた。まさか彼はAI搭載型NPCとプレイヤーの区別がついていたのかもしれない。
どうやらこの空間にプレイヤーが来るとシステム上NG判断され、そのプレイヤーのAIは削除される。だが例外があった。
「フィリアさんのデータにエラーが表示されています」
「フィリアが」
「はい。どうやら自分のAI。ここで言う《ホロウ・データ》と出会ったようです。しかも、どうやら《ホロウ・データ》を傷つけて彼女はオレンジ判定されています」
「なんだってっ!?」
その時、
「それは本当か」
「「メイト」さんっ!?」
入口に今しがた来たのだろうメイトがいた。メイトはその話を聞いてすぐに振り返る。
あの姿、
おそらくなにかあったのだろう。彼一人と言うことはフィリアに。
「ユイ急いでフィリアを探してくれっ、メイトはおそらくフィリアに会いに行った」
「は、はいっ」
俺はすぐに出かけられるように装備を整え、静かに待つしかない。
頼む、無理はしないでくれ。
◇◆◇◆◇
わたしはメイトを殺した。
NPCだからなんて言葉で彼を拒絶して、騙されて殺したんだ。
死なないと言われた。だから突き放した、わたしの同じ虚ろな彼を、わたしは彼を殺した………
許されるはずがない。彼を傷つけた、酷いことも言った。
わたしは自分だけじゃなく、友達も殺したんだ………
わたしを殺すため、奴は首を跳ねようとする。
向こうで会えるかな………
ごめんね、メイ
【アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ】
叫び声が聞こえた。
いくつもの〝なにか〟を壊し、それは何かを弾く。
わたしはある男に首を掴まれ、持ち上げられていたけどそれで吹き飛び、尻餅を付いて現れたものを見た。
目の前には人型の暗闇がそこにいる。その時、暗闇が消え、いつもの彼の顔が見えた。
「無事かフィリア」
そう彼はなんてこともないようにわたしに語り掛けた………
◇◆◇◆◇
「アァン? お前さんは確か、死んだはずだが~」
肉切り包丁のようなものを持ちながら、ポンチョとフードを深々と被る男性プレイヤーは静かにこちらを見る。
「………お前が傷つけたのか」
「おいおいよしてくれ、お前を傷つけたのは俺じゃねえ……、そいつ、だろ?」
「黙れ、貴様がどう言ったか知らないが、データであるお前が、なぜプレイヤーであるフィリアに危害を加える」
「えっ」
俺はフィリアの前で、ここ《ホロウ・エリア》に置ける《ホロウ・データ》のことを言う。そいつはそれに笑いながら、そして静かに武器を構えた。
自分は《ホロウ・データ》であることを理解している。それはそう言う。
「データ同士、仲良くしようじゃねえか」
「ふざけろ。フィリアがこんなことをしたのも、お前がそそのかしたのか? フィリアが《ホロウ・データ》とでも言ったのか」
「それ……は………」
フィリアはそれに驚き、それは頬を釣り上げた。
「そう言う事か」
フィリアは自分の方が《ホロウ・データ》と思い込み、感情が不安定なところをこいつに騙された。それを知り、俺の中にある死が燃え上がる。
それはなにが目的か聞くと、自分が手に入れた権限を使い《ホロウ・データ》をアップデートすることすることで、人殺しの楽園を作ると言い放つ。
それはどうやら、データでありながらキリトと同じテストプレイヤーの権限を手に入れ、自分で考えて動き出していたようだ。
そしてこいつはゲームクリアが同時に自分の消滅、人殺しの終わりを意味することを知り、阻止するつもりらしい。
「お前はそれでいいのか、お前は死に囚われている」
「いいじゃないか、生きてるってことは、殺すってことさあっ」
それを聞き首を振り、静かに見つめる。
「もういい喋るな。お前の元になったプレイヤーも外道なんだろう」
俺も武器を構え、静かにフィリアの前に立つ。
「《黒の剣士》様が来る前に、お前さんたちを殺していたら。くっふふ……サプライズなことになるだろう」
「お前に俺は殺せない」
「なに?」
その瞬間、俺は〝俺〟を纏う。
【お前に死者は殺せない】
なんてことはない。ただのデータ風情が、死である俺に勝てるはずもない。ただ雷光のように動いて斬り裂いた。
「な………に………」
【サプライズってのは、こういうことだ】
そう言い、胴体と腕を斬り裂いた後、身体はHPゲージを残す。僅かに顔を上げるが俺は静かに近づき、武器を遠くへと蹴り飛ばす。
「お、お前………」
【悪いがお前の楽園は〝死ぬ〟。俺の手でな】
そいつは何か言いたげになるがその前に足を置いた。
【お前の名前は憶えない。覚える価値すらない】
そう告げて踏みつぶす。
それが何者かなんて俺には関係ない。それは俺の記録にすら残らずあっけなく消えただけの話だった。
◇◆◇◆◇
その後俺はフィリアと会話した。
彼女が倒したという自分は、このエリアでのテストAIである《ホロウ・データ》のフィリアであること。
キリトと合流して彼がログを確認したことから、11月7日の75層でエラーが起きた。
それは本来ならSAOプレイヤーが仮想世界から解放されるはずだった日であり、そのシステムエラーによってここにフィリアは来てしまったのだ。
その後出会うはずの無いホロウの彼女と出会い、混乱している中でシステムはホロウのフィリアを消した。
だがシステムエラーの結果、彼女をオレンジになってしまったと説明を受ける。
「それじゃ、わたし………」
「フィリアは現実の世界にちゃんと存在する〝人間〟だよ」
それにどこかほっとすると共に涙を流す彼女。
「わたし、ずっと怖かった……。なにも分からなくなって、空っぽになって。二人と出会ってから、満たされてたのに……」
俺の方を見ながら涙を流す。
「ごめんねメイト……だまして、傷つけて……わたしは」
「構わない。あれはフィリアの意思でも、あのデータに騙されたんだ。だから俺は気にしない」
「メイト………」
他にも言葉があるだろうが、俺にはこれ以上気の利いた言葉は思いつかない。
ただ彼女がちゃんと向き合い、整頓できればそれでいいから。
「キリト、あのデータが最終的になにかシステムのアップデートするつもりらしい。俺が止めて来るよ」
「できるのか?」
それに静かに頷く。キリトにはフィリアと共に残ってもらい、俺が中央コンソールへと出向く。
「セイバーが心配してたぞ」
「彼女には謝らないといけない」
「メイト」
心配するフィリアには静かに頭を下げた。
「ごめん、けど、これは俺にしかできないことだから」
「………分かった。気を付けて」
「ああ」
こうしてキリトたちと別れ、俺は中央コンソールのある場所へと歩き出す。
彼らにはすまないと思う。
けど、これは〝俺だからできる〟ことだから………
◇◆◇◆◇
中央コンソールに近づき、フィリアのシステムエラーやあの《ホロウ・データ》が残したプログラムの破棄などを行うと、彼女は現れた。
「驚かないのね」
「ああ」
リン。彼女はおそらく普段はここに潜み、SAOに介入しているのだろう。ここにはSAOのコピーデータやシステムのチェックなど容易にできる。
彼女の顔は見えないが、どこか悲しそうにしている気がした。
「あなたは、初めから知っているの」
「いいや、全てでは無かったよ。フィリアの下に行こうとした際、いくつかセキュリティシステムがあったが、なぜか《ホロウ・エリア》へのアクセス権限を持っているのに気づいたとき、自分がなんなのか再度確認した」
それまではただ死のデータでできた〝モノ〟と思ってた。だが《ホロウ・エリア》に関するデータと自分のデータを照らし合わせた。死のデータ以外の別のデータ、そのデータがここやコンソールアクセス権を持ったものであったのは助かった。
それでも俺は変わらない。
「初めからどうこうなんて俺には関係ない。けど俺のやることは変わらない」
「………そんな風にされたのか、そうなったのか。私からすればどうすればいいのかしらね」
「喜べばいい」
全てのやるべきことをして俺は振り返る。
「俺は〝上〟を目指す。俺が何者であるかなんて関係ない。俺が〝俺〟である限り、俺はそうしなければいけないし、俺がそうしたいと思うのだから」
「………彼らには感謝ね。あなたが〝あなた〟であることは、私たちにとって幸運なのだから」
「俺は〝上〟を目指すよ、セイバーと共に」
そうして俺は歩き出す。戻った先でグリーンに戻った彼女と共に、あの鋼鉄の城へと戻らないといけないから。
やるべきことは変わらない。俺は〝上〟を目指す。
それが俺の選んだ選択であり、俺が生まれた理由なのだから………
フィリアイベント終了。この後フィリアは鋼鉄の城に帰還。
それとか言われている《ホロウ・データ》さんは、結局メイトにとってただのデータの固まりとしか認識されず、削除されます。相手のやり取りを全部するとキリトの代わりになるので、彼は徹底的に相手を知ろうとせず倒しました。
それでは、お読みいただきありがとうございます。