ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
自分が何なのか分かりながら、選んだと主張しながら
哀れと嘆けば良いのか。
滑稽と笑えばいいのか。
きっと誰にも答えなんて出せない………
メイトはこの前の攻略戦で倒れた。ボクはそれを聞いてもなにもできず、いまはただ静かに空を見ている。
「また上の空だね」
「あっ、こ、こんにちは」
その時、この前のおじさんが話しかけてきた。また同じように人に気づかないほどぼーとしていたみたい。
「君は攻略戦が気になるのかい」
「えっと………はい……」
「戦いは悲しい、誰もが傷付く。だが大丈夫、きっと戻ってくるさ」
「はい……。ボクもそう思います」
そう言って上を見る。しばらく見た後、おじさんの方を見ると、
「あれ?」
おじさんはどこにも姿は無く、いつの間にか立ち去ったようだ。
少し気を抜きすぎだな。そう思いながら、ボクは空を見続けた。
◇◆◇◆◇
「そうさ、彼はここで終わりはしない。戦いは成長の糧になり、七天の空へ道を開く」
それはそう言いながら暗闇を歩く。
「生者はあるべき世界へ、死者はあるべき道へ。その為の戦い、その為に、まだ終わりは無い」
そう呟きながら、モニターでユウキを見る。それと共にもう一人。
「仮想世界と月の世界。二つの死に彩られた君は、必ず上へとたどり着く。そして始まりを迎えるんだ」
静かに言い、この二つのモニターを見つめる。
「無論〝彼女〟にも期待するとしよう」
もう一つウインドウが開く。
ただ静かに自分のようにモニターを見る少女。全てはまだ始まったばかり………
◇◆◇◆◇
ボス部屋で三騎のサーヴァントを見る。一人は聖女として名高い者。ジャンヌダルク。
「エキストラクラス。七つの位より上の存在ルーラー、裁定者がなぜここに」
「それはこの聖杯戦争が通常のものではないからです」
その通りだ。この戦い、英霊たちからすれば無意味にもほどがある。勝利者に与えられる聖杯も無ければ、戦う相手はつぎはぎの欠片のようなもの。
自分らの勝利すら意味が無い戦いに、強制参加以外で進んで参加する者はいない。
もう一人はラーマと言う神の生まれ変わりの人間の妃。彼女は静かに愁いを帯びた顔でこちらを見る。
「だからルーラーとして裁定すると?」
「いえ、正確にはあなたの真意を聞くために」
「俺の」
それは問いかけだった。
「あなたは自分がなんなのか分かってますか」
「ああ」
意味も理由も価値も無い。ただ〝上〟に行く為に創り出された。
「あなたの全ては作られたものと知ってますか」
「ああ」
ただの〝モノ〟。約4000人のプレイヤーとムーンセルの敗北者たち。そしてある己を作る為に使われたデータ。
「あなたは………」
悲しそうに静かにこちらを見るジャンヌ。
「その旅路の先がなんなのか分かっているのですか」
「ああ」
作られた〝モノ〟、作られた感情。分かっている。旅路の先に何も無い。誰がなんて言おうと俺と言う存在は何も無い。それでも、
「だがここにいるのは俺の意思で選んだことだ」
「それは」
「ルーラーよ。あなたは作られたから俺が進んでいると思うのか」
それに静かに首を振る彼女。もしかしたら全て知りながらそれでも聞くのだろう。作り出された俺、その全て。
「俺が進む理由も、感情も、なにもかもがそうなるように設定して作り出された〝モノ〟だ。だがそれになんの意味がある?」
「それは」
「その先、それら全てを理解して選ぶのは俺自身。俺は憎い、怒りを抱き、憎しみを抱き、俺は〝上〟へと進む」
「あなたは………」
シータが悲しそうな声色で呟く。
「悲しむ必要は無い。それでも俺には選択肢がある、それは幸せなことだ。いまの俺は〝上〟を目指す、例えその他に選択肢があろうと、俺はそれを選び抜き、戦う選択をする」
そう、全てが無意味であろうと進む。そう決めた。
何者でもなく、俺自身が始まりから決め、そしていまも決めたこと。
「俺は無理に先に進む気は無い。俺がしたくないことはしない」
無理に先に進む気は無い。プレイヤーに攻略を強調する気も、される気も無い。俺はただ流れに任せ先に進む。
俺は選ぶ、方法も進み方を。それだけは選ぶことができる、唯一の権利。
それに笑いをこらえる声が聞こえた。クー・フーリン。彼が肩を震わせる。
「だから言ったろ。こいつは戦士だ。死の意味を理解し己を理解し、それで進むと選択した〝モノ〟。例え人形であろうと意思を持ち、先に進むと決めた」
「ですが、それは」
「例え全てのものが作られた偽物であろうと、その先に生まれたのは俺の意思だ」
シータの言葉を遮り、俺の言葉に黙り込む二人。クー・フーリンは静かに席を立ち、魔槍を振り回す。
「お二人さんはこれでいいだろう。そいつは全てを承知で進むと選んだんだ。それ以上は戦士の道に泥を塗る行為だぜ」
そう言い、構える彼はランサーなのだろう。魔槍を取り出し、静かに身体をほぐす。
「構えろセイバー。後は俺らの戦いだ」
「ほう、クー・フーリン。汝は戦うのか」
「俺たちはサーヴァントだぜ? 二度目の戦、この英雄との邂逅を逃せるはずは無い。まあ宝具解放は勘弁してやる。お前も宝具が使えないだろう?」
その言葉にセイバーが僅かに睨むように彼を見る。
だが、
「セイバーやるぞ」
「奏者」
この申し出を断る気は無い。手を抜かれているがそれがどうした。俺は勝たなきゃいけないのだ。相手に手を抜かれても、そうした相手が悪いのだ。
「セイバーは俺のサーヴァント。バックアップは問題ないな」
「ああッ」
獰猛な笑みと共に魔槍を構え、威圧を放つ。それだけで世界が震え、空気が重くなり、ただそこにいるだけで何かを殺せるように思える。
それにセイバーも剣を構え、無数のコードキャストを展開する。二人の女性はそれを見ていた。
「勝負は一瞬でつけるぞセイバー」
「うむっ」
「いいぜ、殺ろうか………」
構え、静かに隙を窺う二人。ジャンヌとシータは悲しそうにしていた。それでも俺は戦う選択を選ぶ。戦いには戦いを、会話には会話を。
俺が選ぶ選択肢。その先にあるのは〝上〟へと続く道。
勝負の瞬間まで時が止まったように静まり、そして動くまでの時間は一瞬。
セイバーの全てを強化するコードキャストを瞬間展開し、金属音が鳴り響き、クー・フーリンは静かに、
「さすがだな」
そう言い、彼は斬られてセイバーは無傷。
ただし防御に回したコードキャストの盾がいくつも刺し貫かれていた。一瞬の勝負。俺は防ぐのではなく、軌道を反らすことに全力を出した結果だ。
あっけないほど早かった。相手が手を抜いていたおかげだろう。
宝具を使用したやり取りなら、このような児戯、意味が無かった。そう感じながら、彼との試合は終わりを告げる。
◇◆◇◆◇
クー・フーリンとの戦いが終わったが、リソースはだいぶ削れた。正直彼だけの戦いだけで助かったのが本音だ。
シータは俺の頭を撫でる。子供にするように、それの意味が分からない。
「あなたはなぜ俺のことをそこまで心配する」
「あなたは気付いていないだけで自分を知らない」
「俺は自分がなんなのは知っている」
「あなたは生まれたばかりの子供のよう。神が定めた
そう言いそれに誰かを重ねている。
彼女は愛した人と同じ時間を過ごしたことが少なく、子供の二人しかいない。誰を重ねているのか知らないが、
「例え定められたことだろうと俺は選んだ、俺の道だ」
「そう反論することが子供なんです」
そう諭すように言われたが、それでも俺には分からない。
シータは愛おしい赤子から手を放すように離れ、ジャンヌもまた静かに光に包まれながら俺を見つめる。彼女も俺では無い誰かを見ている気がした。
「あなたの道は変えられないのなら、せめていまを生きる時間、仲間たちとの時間を大切にしてください。最後の時まで」
「それは」
「あなたは後悔の無い選択を」
そう言って俺を抱きしめる。やはり彼女も赤子のように俺を見つめる。
「あなたの道に幸多からんことを」
そう言って消える二人。その言葉だけを聞き、俺は少しだけ目を閉じる。
彼女たちには悪いが俺の先に光は無い。
それだけが分かるため、
「ああ。俺はこの時間を大切にするよ」
そうとしか言えなかった。
◇◆◇◆◇
クライン主催のパーティーが行われる。今回ばかりだいぶ先に進み、たまにはと言う話。
メイトは静かに料理を食べて、セイバーはシリカたちと楽しそうに話している。
ユウキもアスナになついている。その様子を見ながら、メイトは静かにピナを頭に乗せていた。
「メイト、少しいいか」
「キリト? ああ」
少しだけ席を外してメイトたちは店の外に出る。
その時、彼の顔は少しばかり難しい顔をしていたのが気になったメイト。
「あれ? メイトとキリト。外に出る。何の話するんだろう?」
◇◆◇◆◇
「単刀直入に聞くけど、君はあの時は万全の状態だったかい」
少し店から離れた先で静かに向かい合い話す。その言葉に俺は少しばかり黙り込み、静かに首を振る。
「なんで無茶をするんだ。確かにいまの調子で攻略が進めばみんなのモチベーションは保たれるし、この前の攻略戦の大多数抜けた穴はカバーできる。けどそれは君が気に掛けることじゃない」
「それでも俺がしたいと思ったことだ」
「………君は」
悲しそうにするキリトに、俺は彼女たちに伝えた通りのことを伝える。
「俺がしたいと願ったことをしているだけだ。無理はしないし、誰かに言われて行動する気はない。例え俺の全てが、始まりが誰かが定めたことだろうとな」
「………」
「俺は全てが虚ろなデータの欠片で作られた〝モノ〟だ。だけど俺はここにいる、ここにいる間の選択肢は、俺が選んだものだ」
「君は………」
「何度でも、何回でも言える。俺は〝上〟へと進む。それが俺の意思なんだ」
「………君はなんでそこまで戦える」
その言葉に俺は、
「俺はみんなを現実世界に還したい。それじゃダメか」
その言葉に驚きながら、何かを言おうとして首を振るキリト。
「卑怯だぜ、そんなこと言われたら………。なにも言えなくなる」
「そうか」
そして俺たちは店に戻る。
(ん)
その時、一瞬誰かが先に店に戻った気がしたが、
(………まあいいか)
そう思い、すぐに店に戻る。
◇◆◇◆◇
その日の夜、眠る時間帯で俺はコードキャストをいじっている。セイバーは静かに眠り、俺ももう少ししたら寝るつもりだった。
「メイト……?」
その時、眠っていたはずのユウキがむくっと起き上がる。
「起こしたか」
「ううん………」
コードキャストを閉じて、俺もまたベットへと寝ようとする。
その時、
「ねえメイト」
「ん」
「メイトはなんで戦うの?」
「憎いから」
「なにが憎いの」
「この世界が」
そう憎い、この世界が。欠片でできたそれが慟哭をやめない。
「俺はあるデータを元に、死のデータで作り出された。七つの天の聖杯を求める敗北者、この世界に殺されたプレイヤー。俺はその二つの死から作り出された
「死………」
聖杯を求め、殺されたウィザード。
現実世界へと戻れず、閉ざされたプレイヤー。
彼らが抱いた感情により彩られた死のデータより作り出された俺。
「メイトはそう作られたから、上に進むの………」
「いいや」
それにユウキは顔を上げる。その顔に俺は言う。
「俺は俺だから〝上〟を目指す。作り出された設定で、偽物の感情であろうと。その先に生まれたのは俺の〝モノ〟だから。なにより」
ユウキに近づいてその頭を撫でる。
「俺はみんなを現実世界に還したい」
「メイト………」
「生者は生者がいるべき場所に戻るべきだ。それがメイトと言う
それを言い、手を放そうとするとその手に触れるユウキがいた。
「あのねメイト……。今日ね、一緒がいい」
「………分かった」
ユウキは少しだけ恥ずかしそうにしていて、一緒に寝る間、彼女の現実を教えてもらう。
彼女は後天的の病気の所為で、いま家族で入院、闘病生活であること。
いまはとある外国のスポンサーのおかげで、自分たちが受けている治療法を最先端の技術で受けている。
「それが《メディキュボイド》って言う、仮想世界に意識を置くって言う治療方法なんだ」
「それを受けている時にこっちに来たのか」
「うん」
抱き着くようにユウキが抱き着き、顔を胸に埋めて来る。
「メイトは自分のことどう思ってるの」
「俺は死者だ。
「けどみんなを守りたいんだよね」
「それは分からない。だけどこの世界にみんなが居続けて良い訳では無い。それだけは確かだ」
生者があるべき世界に戻ること。それがきっと正しいこと。
それにユウキは首を振り、ぎゅーと抱き着いてくる。
「メイトはきっと、みんなを助けたいんだよ。だから頑張ってる」
「そうかな」
「そうだよ」
そう言いながら、少しして寝息を立てるユウキ。
ユウキが言いたいことが分からないが、ともかく俺は進む。その先が何も無くても………
翌朝、セイバーがずるいぞと半泣きで自分も一緒がよかったと文句を言う為、この日から俺のベットに二人が入り込むようになった。
ユウキとユイは少しお姉さんぶり、他のメンバーは友人、セイバーは導き、共に舞台を彩る主役。
それではお読みいただきありがとうございます。