ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
痛いこと、悲しいこと、怖いこと。
全部が全部嘘になる、素敵な素敵な夢の世界。
だけど、どうしてあなたは夢を見ないの?
素敵なあなた、悲しいあなた、夢を見られない可哀想なあなた。
あなたはなんで
真っ暗な世界、悲しい悲しい世界でしか生きられない人。
それでも
あなたは、この先に行きたいの?
真っ暗な泥の中、あなたはその先に行きたいの?
あたしは………
それは新たな階層を開放した次の日、エギルの店まで下りて背伸びをした。
「よし、新たな階層の探索を始めないとな」
「キリト」
俺が新しいフィールドに行こうとすると、セイバーが話しかけてきた。
「ああセイバー、君だけか?」
「うむ。奏者は用があるらしくてな」
「そうか」
新しい町を見るのも大事だからな。そう気楽に話しかけた。
彼は変わらず平常運転らしいな。俺たちを初めとしたプレイヤーたちも、共に新しい町を調べに出向く。
◇◆◇◆◇
「っと、さすがに今回はプレイヤーが多く来ているな」
そう言って辺りを見渡すと、多くのプレイヤーが町を見て回る。
攻略組でなくても町程度なら誰でも見て回れるからなと納得し、俺も歩き出そうとすると、
「キリト君っ」
慌てた様子で見知った顔、アスナたちが現れた。
「アスナ、みんなどうした」
「それが、この町変なの」
「変? いったいなにが」
「NPCが一人もいないの」
それに俺は驚いた。店らしい建物がある。それにどんな場所でも町である限り、NPCはいるものだ。
俺はその話を聞き、クラインたちを見る。
「建物も結構変でよお。扉にまた小さな扉が何個もついてたり、ツリーハウスのような場所も変な場所にあったりしたぜ」
「建物の中に庭があったりもしたよ」
「後は中央に大きなテーブルが、椅子もずらーーーといっぱいありました」
「きゅう」
リーファやシリカからもそんな話を聞き、俺は首をかしげた。そこまで手の込んだ建物なら、NPCがいても不思議じゃない。その中でフィリアも、
「それだけじゃないんだキリト」
「それだけじゃない?」
「迷宮区、エネミーが出るフィールドも見当たらない」
「なっ………」
そんなバカなことがあるか。町の他の迷宮区、ボス部屋やエネミーがいなければゲームとして成立しない。
「いまみんなであっちこっち調べてるんだけど、誰一人、NPCにも会ってない」
「どういうことだ? ともかく手分けしてさが……」
その時、俺は一人の少女と目が合った。
「えっ」
セイバーもん?と辺りを見渡して見つけた。
「君は」
「あたしはありす、お兄さんを待っているの」
「お兄さん?」
その時、誰かが転移して来た。
「メイト………」
「………」
彼は買い物袋を抱え、静かに彼女、ありすを見つめた。
「………ありす」
「………」
「さあ、終わりの時間だよ」
気が付いたとき、ありすの側に黒いありすがそこにいた。しおりをはさんだ本を抱え、静かにメイトを見つめる。
◇◆◇◆◇
俺たちはなにがなんだか分からない中、セイバーは黒いありすが現れたことで武器を構える。
「離れよ奏者っ、そやつはサーヴァントだっ!!」
「なっ」
サーヴァントの存在に俺たちが身構えている。
その時―――メイトが立っていた場所に何かが飛来し、土煙を立てながら何かが吹き飛び、建物を破壊した。
「………なに?」
それは黒いありすでも、白いありすでもない。真横からの攻撃、セイバーも絶句して周りのプレイヤーは騒ぎ出す。
「終わりじゃない」
突如として誰かが下りて来た。
深い緑色の狩人が、血走った目で土煙の先を睨む。
「終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない終わりなわけない終わりであるはずがない………」
黒い霧を立ち上らせ、それは一歩歩くごとに変化する。緑の髪が色を失い、黒い獣を纏う彼女。その後ろから鬼の彼女は悲しそうに見つめる。
「我々の中で先に進ませないサーヴァントは、彼女です。バーサーカー、アタランテ〝オルタナティブ〟」
そして現れた彼女は黒い鎧を纏う、紫の光が怪しく輝く。
「お前をこの先に通さないッ、お前を殺す、そしてまた今日を繰り返すッ!!」
そして彼女は矢を構えた瞬間、闇が噴き出す。
◇◆◇◆◇
【誰も手を出すな】
花が舞う。彼を穿つ矢は手でへし折られ、建物の中にある花畑の中、死は立ち上がる。
「くっ」
「奏」
【『令呪を以て命ずるッ、手を出すなセイバーッ』】
その瞬間、メイトの左手に刻まれた印が一部消え、セイバーは赤い光に膝を付く。
「お前を殺す、殺す殺す殺す。殺すウウウウウウウウウウウウ!」
【来い、バーサーカー】
雷光と共に黒い光が走る。屋根の上を跳び回り、黒い閃光として矢が放たれていった。
その全てが
「死ね死ネシネシネえええええッ!!」
闇を纏う一撃が花と鮮血をまき散らす死へと迫る。
「『
ミサイルのような一撃が迫る中、それを拳で吹き飛ばす。
血が舞う、花が舞う、闇が舞う。
それでもありすとアリスはなにも言わず、見つめていた。
「うわっ!」
「なにっ!?」
地上に落ちた彼に遠巻きに見るプレイヤーたちをかいくぐり、無数の矢が四方から放たれる。
全てを斬り落とす。だがいくつか確実に彼を射貫き、プレイヤーは傷つけない。だが自分は違うと判断しながら後ろへ引いた。
【っ!?】
その瞬間、両足を折りたたみながらいつの間に自分の視界に現れた。そのまま両足で全力で蹴り飛ばす。
メイトは黒い閃光と成り吹き飛ぶ。
建物の何もかも、プレイヤーが被害を受けず、確実に相手のみ傷つけるパーサーカー。
建物の中で倒れ込み、起き上がろうとした瞬間、アタランテが馬乗りに乗り、両膝で頭部を固定した。
そして視界に入るのは無数の矢を構えた血走った狩猟の英霊。
弾丸のような音が鳴り響き、頭部へと突き刺さり始めた。
「ッ!?」
だが暗闇は全て受け止め、片腕で彼女の足を掴み、その怪力のみで吹き飛ばそうとした。吹き飛ばす瞬間、その脚力でまた彼を蹴り飛ばす。
何かが折れる音が鳴り響きながら吹き飛び、建物や地面に激突しながら両足に光が走り、地面と触れてそこからブレーキをかけていく。
血を流しながらも闇は消えず、死相は静かに迫る獣を見た。
「なぜだッ!? この世界ならば誰も死なないはずッ。誰もが救われるのにッ!!」
【………それでも俺は〝上〟に行く。その為に戦うと決めたんだっ!!】
腕から流れる血。雷光の戦いが始まり、キリトたちは間に割り込めない。
「セイバーッ」
このような戦い、セイバーしか出られない。
だがセイバーは剣を地面に刺し、なにかに抑えられているように顔を歪めていた。
「だめお兄ちゃんっ、セイバーさんが動けないの」
「どういうことだっ!?」
「令呪だ……。サーヴァントだけに効く、マスターのみが持つ絶対命令権っ。奏者は余が戦うことを禁止したっ」
「そん、な」
激突する光の中で剣を構えた彼は、静かに斬り込むが懐に入り込み、再度その足で空へと彼を打ち上げた。
即座に追撃する。激突してさらに上へと上げていく。
「終われない、終わってたまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ほぼ至近距離で弓を構え、闇が集まる。
「シッネエエェェェェェェェェェェェェェェェェェ」
放たれた閃光は空高くへと放たれる。
黒い柱が立ち上がった。貫通して彼は大量の血を吐き、傷口から血をまき散らす。
それに彼女は笑みを浮かべたが、
【………俺の】
「ッ!?」
いつの間にか二つの剣を振り上げていた。暗く暗く、死に彩られた剣。
【勝ちだッ】
交差する剣げきに彼女は大地へと激突し、鎧を砕かれた。
◇◆◇◆◇
「メイトっ」
ユウキが騒ぎを聞いて駆け付けたとき、すでに彼らは戦っていた。
仲間たちは集結し、土煙と共に剣撃により花が燃える。花が燃えながら舞い上がり、いつの間にか夕暮れの中で陰りが差す。
少女たちは髪の毛のリボンを外して彼を見る。
降り立った暗闇から一人の青年が現れ、ストレージから紙袋、そこからリボンを取り出す。
「………受け取ってくれるかい」
「………うん」
「………」
傷だらけの青年は髪に触れて三つ編みを編む。
黒の少女は目を瞑り、白の少女は無言のまま、悲しそうに憂い、編まれている。
二人の少女の髪が編まれた後、彼は静かに少女たちを見つめた。
「さよならなの」
「さよならだ」
「終わりなの」
「終わりの時間だよ」
「もう………」
その時、ありすは首を振り、静かに言葉を止めた。
少女の瞳に映る自分を見ながら、少女は青年の瞳に映る自分を見ながら。
「素敵なあなた、優しいあなた。あなたはどこに向かうの?」
「〝上〟に行く」
そうはっきり告げる。
少女はそれに目を閉じ、アリスはそれを静かに見つめる。
その時、土煙の中、消える身体を立ち上げて迫る獣がいた。
向かってくる獣。だが炎がそれを防ぎ、目の前に炎の武者が現れる。
「巴御前ッ、貴様」
白のような髪をなびかせ、炎の弓を構える女武者。彼女が静かに立ちはだかる。
「もう弓を引くのをやめなさい、あなたの負けですアタランテ」
「負けでは無いッ。またやり直せばいいっ、そうすれば、そうすれば」
「彼が戦う理由は分かるでしょ」
それを聞いた獣は一瞬だが彼を見る。夢を終わらせようとする者、本来なら敵である彼。
「なんで……なぜお前は、受け入れる!? その先は、その旅路の先は」
「分かっているのは知っているでしょう? それでも彼は選んだのです」
その言葉に鎧を砕かれ、弓を破壊され、ついに戦う理由すら砕かれた彼女はその場に座り込む。巴御前は静かに彼らを見つめだす。
「あなたも行っちゃうのね」
「ああ」
「………これ、あげる」
そう言って、ありすはそっと左手の甲を撫でる。
彼の手に赤い光が輝き、彼の令呪が五つになる。彼女の令呪が彼に刻まれた。
「ありがとう」
受け取った
花が舞う中、アリスが言う。
「ありがとう、ありすの夢を終わらしてくれて。もう
「………」
「ありすの夢は素敵な夢、甘く甘く、ちょっぴりビターなチョコの味」
そう呟き、花と共に光が舞う。彼女たちが住処にしていた城が音を立てて崩れ消えていく。隠された本当の姿、次の階層へ続く入口が開く。
それは静かに夢の時間が終わりへと進み出す。止まっていた時間、少女の時間が一人の死者の手により
それでも少女たちは死者に微笑みかける。
「お休み、愛しのありす。お休み、優しいアリス」
「ありがとう、素敵なあなた。黒の
「さようなら、素敵なあなた。ありすの夢を見届けた、素敵なあなた」
光が全てを攫い、永久の闇が落ちる時、夢の時間は終わりを告げた。
「………お休み、夢の世界にしか生きられない、夢見る少女たち………」
そして彼は二つのリボン。青と黒のリボンを見つめながら、静かに握りしめた。
◇◆◇◆◇
全てが終わり、全プレイヤーのほとんどの者が気づかないうちに、大量の経験値とドロップアイテムの確保したりする不思議な一日だ。
俺は静かに部屋に戻る。その左腕の手首に二つのリボンを付けながら。
「奏者よ、少しいいか」
「どうしたセイバー」
「うむ、大事なことよ」
セイバーは窓の外、新たな階層が開いた次の日にまた開いたことで大いに喜び、新たな希望を見つめるプレイヤーを見ながら、
「あの階層は
「ああ」
「あの世界が開いた瞬間、この世界は外も含め、時間の巻き戻りの世界へと閉じ込められた」
それは誰も死なない世界だろう。次のページに進むより、前のページに戻る。なにも無かったことにする世界なのだから当然だ。
だからこそアタランテはこの世界の継続を選んだ。それは犠牲者が永遠に出ない世界だから。
そして彼女たちもそれを見続けた。正直なぜサーヴァントではない彼女がいたのか、それは分からない。
ただ言えるのはこの階層が開かれた瞬間、この世界は彼女の夢の時間に閉じ込められた。
「その時間の中、記憶を所持できていたのはおそらく英霊本人とマスター、サーヴァントであり、仲間として登録されているあの二騎のみ。だが」
セイバーは静かに俺を見る。
「お主もまた、彼の夢の時間を覚えていたのではないか?」
彼女の問いかけに、俺は静かに目を閉じた。
「さあ、分からない」
俺はそんなことを言った。
どんなに言いつくろっても俺は彼女を殺したのだ。
夢の世界にしか生きられない永遠の少女をこの手で殺した。
それだけは変わらない、変えられない、変えてはいけない。
確信だけがあった。今日、夢が終わる。彼女は夢を見るのを止めることを。
俺がそうさせた。そうなるまで待っただけだがそれを見て、俺を見て、現実を見た少女。俺がこの手で殺したのだ。
彼女をただ苦しめただけの俺はきっと、旅路の結末がより一層最悪なものになったのだろう。
それでも俺は、
「〝上〟に行く」
「奏者よ………」
「俺はそれを選んだ、ただそれだけだよセイバー」
そう告げるとセイバーは静かに部屋を去る。どこかに行くことは無いのだろう。
彼女が消え、俺は静かに左腕を見た。そこにある水色の青と黒いリボン。
「………」
俺はただ進むしかない。それが俺であるのだから………
夢も希望を火に焼べる素敵なあなた。
真っ黒闇の
それでも歩くのを止めない素敵なあなた。
だからお願いお星さま。
あの人の、
素敵な素敵な、夢を見せて………