ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
それでは本編をどうぞ。
セイバーは走り続けた、その道のりを。
「令呪を以てしても、まともな通路ではないかッ!」
電脳でできた道のりにも敵は用意されていた。ただしただの敵、SAOのエネミーだ。サーヴァントであるセイバーの敵ではない。
「これでもこっちが拾わないと、もっと時間がかかっていたわよっ!」
走る中でリンが側にいる。
リンには色々と聞きたいことがあるが、向こうはそれについて苦虫を噛み潰したように言えないらしい。
それを理解できるセイバーは仕方なく、いまはメイトの為にキリトの元に走るしかなかった。
「もうすぐ出るわ、ただ時間差がかなり開いているわよ。向こうはだいぶ時間が経ってるわ」
「分かっておる、助力感謝するぞッ!!」
そう言いリンが用意した出口に飛び込んだ。
◇◆◇◆◇
「キリトっ!」
その時、セイバーの視界に入るのはローブの何かに襲われているキリトたち。セイバーは即座にローブを纏う何かを斬り、吹き飛ばした。
「セイバーっ!?」
「なっ、なんだ貴様っ!?」
システムの防壁に守られている何者かがいる中、ボス攻略戦のような場所にセイバーが割って入った。
「いままでどこに、いやいまはいい。頼むっ! 力を貸してくれ」
「それは余が言いたいことなのだが」
「ふん、どこの三流ゲームキャラか知らないが、さっさとデリートするに限る」
そう言い、防壁の男が何かウインドウを開き操作しているが、途中からなにか顔色が変わる。
「どういうことだ、僕の権限が干渉できないだとっ!?」
「ええいっ、急いでおるのに。キリトっ! さっさとこれを倒し、我が奏者を助け出してくれ」
「なにっ!? メイトになにか。ともかく分かった。手を貸してくれっ!!」
セイバーの剣に炎が灯り、ローブのエネミーへ一閃が放たれる。
その瞬間をキリトは見逃さず、自分が持つ《二刀流》の最大スキルを叩きこむ。
ローブのエネミーがポリゴンに成り消える。それと共にメニュー操作をするプレイヤーの防壁が消えた。
「ば、バカなっ!?」
「そろそろ観念するんだな」
そう言われる男はウインドウを開いたまま、プレイヤーたちと距離を取る。
「ふん、観念するだと、ふざけるなッ! さっきはなんで麻痺の効果が消えたか知らないが、今度はそうはいくかッ!!」
そう叫び、ウインドウを操作しながらわめき散らす。
「一度ここにいる連中の状態をリセットっ! それから再度状態を麻痺に設定……、これでどうだっ!」
その瞬間、キリトたちのステータスが麻痺状態に入り、その場に倒れ込む。
「ぷっふふふ、残念だったねキリト君。スーパーアカウントの前には敵うはずも」
「お前はいったいなにをしている」
プレイヤーたちが麻痺に入る中、一人だけ深紅の剣を構え、静かにそれを睨む者がいた。
「な、なんでお前は動けるッ!? ただのデータの固まりの癖に、どこぞの三流ゲームのデータの分際で!?」
「キリトよ、こやつは道化師か何かの類か? 悪いが芝居には付き合っていられるほど、いまの余には時間が無いのでな」
「くっ、来るな」
また何か操作して武器を取り出すが、それを簡単にセイバーは破壊、粉々に粉砕する。
「ひいっ」
「キリト、こやつはお前たちと同じぷれいやーか? それともただの道化師か?」
「セイバー、悪い、殺すなと言いたいが、そいつは放っておいても良い事は無いッ!」
「ならば皇帝自らが断罪するッ!!」
その腕を斬りおとし、それに悲鳴を上げ、尻餅をつきながらいやだいやだとわめきながら、男は壁際まで追い詰められた。
「く、来るな来るなッ! ぼ、僕を殺すか人殺しッ!」
「生前の行いを考えればいまさらのことだッ!!」
咆哮と共に剣を振り上げた次の瞬間、鮮血のエフェクトが舞う。男の悲鳴が辺りに響き渡るが、HPゲージは消えたわけではない。
そう、その前に、
「がっ………」
「セイバーっ!?」
【残念だったね】
暗闇のローブを纏う何かが、背後からセイバーを貫いた。
空間がひび割れて、その中から現れた襲撃者はセイバーを襲う。細剣を静かに引き抜き、ストレアを従えて共に現れる。
「きさ、ま」
【マスターだけ殺すのが、わたしたちの勝利条件じゃない。そのサーヴァントを殺せば、彼は敗北者としてムーンセルに認識され、永遠にゲームをクリアできなくなる】
「………」
「ストレアっ!?」
彼女は何も言わず、虚ろな目でそこにいる。キリトたちの声に反応せず、ただいるだけ。
ストレアの出現に、攻略組として参加するアスナ、クライン、エギルたちも驚く。
黒いローブは先ほど倒したラスボスアバターのローブを纏い、静かに男の方を見る。
【これはもらうね】
その時、それは腕を振ってなにかをする。
「な、なにを」
道化と化した男から、なにか光のようなものを奪う。
【スーパーアカウント。これがあれば、わたしはより一層この世界で活動できる】
「ば、バカな、僕の、僕のアカウント、か、かえ」
その瞬間、ウインドウが開き操作された。男は麻痺状態に入り、なにも喋られない状態になる。
すぐに興味が消えて、襲撃者はセイバーを見る。
「くっ、ぬかった………。初めから奏者がキリトたちに救援、そしてストレアを助ける算段をすると読んだ故に、余を狙ったか」
【そういうこと。彼を殺すのは難しいけど、あなたはただのセイバー。殺すのは容易】
そう言いながらセイバーは考える。
ムーンセルと言うが、あれもまた公平な存在だ。それがあそこまでの暴挙を許すとは思えない。それが可能なのは、それの実力なのだろう。
「お主はいったい………」
そして左手を見せる。その手には令呪が刻まれている。
【100層にいるのは、わたしの元にいる最強のサーヴァント。あなたと同じセイバークラス。SAOプレイヤーでは攻略不可能】
「なっ………」
それにプレイヤー全員が驚きながら、細剣を構える。
【あなたたちの敗北で、この世界の永遠は守られる】
「くっ」
セイバーに近づく襲撃者は、静かに細剣を構えた。
【これで、全てが守られる】
「っ!」
歯を食いしばった次の瞬間、
「だめっ!」
そう叫び、ストレアが間に入る。
瞬間、振り返り、襲撃者へと細剣が、
「あっ………」
【そう来ると思った、じゃあね】
ストレアが剣を突然構え、斬りかかる瞬間にその剣を弾く。
初めからストレアが斬りかかることを知っていたかのように。その瞬間ストレアは目を見開き、襲撃者は細剣をストレアへと突き向けた。
その瞬間、
【させるかああああああああああああああああああ!】
死の腕が伸びて、細剣に貫かれながらもストレアをかばう。
【なっ!?】
【ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!】
空間を砕いて出て来るメイトに、すぐに浮遊するように距離を取り、静かに左手で何かを操作するが、すぐにストレアを睨む。
【………破壊したな】
「えっへへ、あなたに使われるばかりじゃないよ、アタシ」
「道化から奪ったものを破壊したのか?」
「<ruby><rb>彼女</rb><rp>(</rp><rt>・・</rt><rp>)</rp></ruby>がその人のスーパーアカウントを狙っていたのは分かっていた。破壊しなきゃいけなかったの、ごめん……なさい………」
セイバーの言葉を最後に、その場に座り込むストレア。だいぶ疲労している様子にメイトはすぐに前に出た。
死相が消え、その場で膝を付くメイト。
セイバーたちがそれに気づくと共に、キリトたちの麻痺が消えた。
「よっしゃ、麻痺が消えたぜっ!」
「セイバー、メイト!」
すぐに周りを囲まれた彼女は僅かに舌打ちする。
【………バーサーカーにされた英霊たち全員、取り込んだのか】
「殺すよりもリソース変換し、あの空間をクラッキングする方がよかったからな。令呪一画使ったが、それの記録も利用した」
セイバーがキリトたち、SAOの空間に行きさえすれば、パス経由で道を知ることができる。あとはあの空間を支配して、道さえ固定できれば脱出はできる。ウィザードとしてのすべての機能を利用していた。
混乱する者たちもいる中、ともかくそれを囲むプレイヤー。それは静かに呟く。
【まあいいわ。あなたたちは100層をクリアすることはできない。ストレア、エラーが貯まり過ぎたのね】
「………」
【ふん、それじゃあね。あなたは殺す、この世界を守るために、わたしのために】
「待てっ!」
そしてそれは転移し消えて、こうしてここのボス攻略戦は混乱の中、やっと鎮まった。
◇◆◇◆◇
「ということはなにか、つまるところ、須郷とか言う男が、このゲームを好き勝手にしていたところ、余が現れて形勢が逆転。というところで」
「アタシが操られた。なによりその須郷って男がこの世界を好きにいじるための権限を持っていたの。それを彼女が手に入れたらメイトたちが危険だった……メイトを罠にかけて、さらにあの場に現れたセイバーを殺そうとしたの………」
ストレアから詳しい話を聞く。それは彼女はある意味、メイトと同じ、プログラムであるということ。
いままでの頭痛は須郷が行った非道な実験の所為であることが分かった。
須郷は外からこのSAOサーバに不正アクセスをして取り込まれた男であり、この世界に来ても、非人道的な研究と、運営側の権限を利用して英雄になろうとしていたらしい。
ストレアは《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。ユイと同じAI。プレイヤーのメンタル保護が目的であり、須郷はSAOの中でプレイヤーを人体実験していた。そこから生まれる負の感情を感知してストレアが苦しんでいた。
この世界で問題を抱えたプレイヤーを助けるはずの彼女たちは、カーディナルからこのゲームが始まるとき、プレイヤーへの接触を禁止される。
怒りに震える者、絶望に嘆く者、悲しみに暮れる者。
彼らを救うはずの彼女たちは、エラーを重ねて壊れかけていた。
「アタシはその中で、あれに操作されかけていた。他の子たちみたいに」
「操作ってのは」
「文字通りの意味。アタシも分からないけど、AIとして存在してアタシたちよりも上位にいる。彼女の目的はこのゲームのクリアを防ぐこと」
「それは」
このゲームはクリアされた場合、プレイヤーをログアウトさせた後に、自動的に崩壊するようにプログラムされている。
世界の崩壊、ゲーム攻略はそのまま世界を壊すことを指していた。
「おそらくあの者は奏者と同じウィザード、マスターなのだろう」
「マスター、つまりそのAIはムーンセルって言うマザープログラムが管理するデータなのか」
「たぶん」
ストレアの言葉を聞き、俺たちはしばらく黙り込む。
「ごめん、アタシは許されないことをした………。メイトを罠にかけて、殺そうとした」
「ストレア」
「アタシ」
謝り、出ていこうとするストレアの手を掴み、それを阻むメイト。
「ストレアのいまの気持ちはなんだ」
「えっ………」
「俺たちの敵か、味方か。なにになりたい」
その言葉を聞き、泣きそうな顔をするストレア。それはもう分かり切っている。
「ストレア、俺たちは仲間だ」
「キリト………」
「ストレアがプログラムとか、そんなこと関係ない。いまメイトが言った通り、ストレアはどうしたい」
その言葉に彼女は涙を流しながら答える。
「みんなと一緒に居たい、みんな、みんな大好きだからっ!」
そう言い、みんなそれで納得し、ようやく笑い合える。
須郷も捕まり、後は100層をクリアするだけ。俺たちが言えることは一つ。
「お帰りストレア」
「うん………ただいま、みんな」
こうして後に残るはラストバトルのみ。
俺たちはもうすぐこのゲームをクリアするだけになった。
◇◆◇◆◇
須郷が捕まったことで、神隠しとして捕まっていたプレイヤーたちも助けられた。
彼は茅場晶彦が失踪したあと、フルダイブ技術を担う科学者として活躍していたが、どこかで道を踏み外した。それも思いっきり。
彼は自身が持つアカウント権限を使い、強いプレイヤーを演じていただけだが、それはただ名声が欲しいだけの行いであり、彼は現実の世界に戻れば裁かれるだろう。
「セイバー、話って何だ」
「うむ、余の真名のことだ」
その話を聞き、俺は少し驚く。
「教えてくれるのか」
「おそらく次の戦い、予測のできない激戦だろう。だからこそだ」
少しだけ苦笑しながら、セイバーは俺に微笑みかける。
「だがお主、始めから余の真名は知っているのだろう?」
それに静かに目を閉じ、静かに頷く。
俺は始めから彼女の真名を知っている。
そう、なぜならば俺は彼女との戦いのログを持っていた。
「お主は本当に、難儀な星の下にいるのだな」
「それでも、俺はこれでよかったと思う」
「そうか、ならば余の真名を教えておこう」
「それなら、俺も、俺の目的を教えておくよ」
「上に行くことだろ?」
セイバーは何気なく言う。俺は静かに肯定しながら、静かに呟く。
その言葉にセイバーは驚きながら、そして悲しそうに俺を見て、俺の目を見て納得した。
「それがそなたの選んだ道ならば、余はなにも言わない。その時が来るまで」
「共に戦おう、セイバー」
「ああ」
もうすぐ俺は〝上〟へとたどり着く。
みんなには悪いことでもあり、良いことなのだろう。
だからこそ俺は進むのだから………
最上階に一人の騎士が玉座に座るマスターに膝を付く。
「最後の戦いが始まるわ」
「あなたに忠義を、この剣にかけて勝利をあなたに」
「勝利なんていらない」
彼女は静かにウインドウを開く。SAO内部、全てのフィールドを映し出す画面。
「ただこの世界を守る。この世界の存続さえできればそれでいい」
そう言いながら、一人の〝モノ〟を睨む。
「壊させない、この世界は、わたしたちはまだ………」
彼女の言葉に騎士は拳を握りしめ、静かに頭を下げる。
全ての決着は近く、終わりが近づく………