ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
全てを終えるため、彼らは全力を出すことになった。
攻略組として活躍するキリト、アスナ、クライン、エギルはもちろん。リズ、シリカ、リーファ、シノン、フィリアやユウキもこの戦いに参戦する。
「正直止めたいんだが」
横目でストレアの隣にいるユイを見る。彼女も同行することを決意した。
100層は最初プレイヤーたちが探索すると、大きなボス部屋の扉があるだけで他には何も無く、プレイヤー全員が準備を整えてそのフロアへとやってくる。
そこで待っていたのは、
「待て、誰かいるぞ」
キリトの言葉に全員が止まると、一人の騎士がそこにいた。
「貴様は」
セイバーの言葉に静かに頭を下げ、上げた顔に俺は呟く。
「円卓の騎士が一人、太陽の騎士。ガウェイン卿」
「ようこそお出でに。SAOプレイヤーの皆さん、そしてこの世界に生まれたマスター。私はガウェイン。あなたたちの最後の敵として召喚されたサーヴァントです」
そう彼の騎士は告げた瞬間、奥の扉が音を立てて開く。攻略組が困惑する中、キリトがシノンに話しかける。
「シノン、ガウェインって」
「アーサー王伝説で双璧を為す、最強の騎士よ。太陽が出ている間無敵とされた、騎士王の騎士」
その言葉に動揺する中、彼は案内するように奥へと進む。
「………行こう」
歩きながら、ガウェインは独り言のように話し出す。
「聖杯戦争の情報を取り込んだSAOと言うゲームが、失ったラスボスに相応しい存在を創り出しました。それが我がマスター、ムーンセル並び、カーディナルが判断し、いなくなったラスボスとして構築したラスボスです」
◇◆◇◆◇
構築されたマスターは二つの世界の特長を強く引き継いだ存在。そうガウェインは告げて、側を歩くセイバーは警戒しながら聞いていた。
「特徴とはなんだ」
「
「
シリカの問いかけに長い道のりの中、静かに答えた。
生きながら死に囚われた、何も生み出さない悪性情報の一種。
死を迎えながら死に切れない精神情報は電子の仮面になり、死した肉体も動かして、いずれその身体も悪性情報へと変える。
その姿すら死の貌に塗り替える。満足な終わりを迎えた身体すら汚染する歩く死体。
「き、キリの字」
「………」
キリトたちは難しい顔でメイトを見る。
メイトはなにも言わず、肯定も否定もしない。ユウキだけが複雑そうに彼を見ていた。
「この世界は約4000人のプレイヤーの死の情報がありました。それだけでなく、他にも悪性情報が存在しました」
「それはプレイヤーの皆さんが抱えていた、負の感情」
ユイの言葉で思い出すのは現実へと帰れない、怒り、悲しみ、憎しみの感情。
最後のマスターはそれにより生み出されたとガウェインは告げた。
「この世界で権限を得たマスターは、もう一つの情報源を手中に収めました。彼女たち《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。彼女たちを自分と同化させることで、この世界の存続こそが自分の存在意義として、彼女は存在を獲得しました」
「存在の獲得、この世界の存続………」
このゲームはクリアされればそれと同時に消滅する。それを回避するには永遠にゲームをクリアさせなければいい。
プレイヤーがいなくなれば、また外からプレイヤーを連れてくればいいと、
「マスターはそう判断しました」
「そんな、ことって………」
一般プレイヤーにはもうわけが分からないだろうが、キリトたちは理解する。
もしかすればそれはそうする。そう心のどこかで理解した。
「マスターはそれと共に最大の障害を識別しました」
「メイトのことか」
「はい、彼のマスターさえどうとでもすれば、人類がサーヴァントに勝てるはずがありません」
「事実上の勝利、と言うことか」
セイバーはそう告げる。彼のマスターはメイトを処理するため、まずは最初のサーヴァント。ロビンフットなどを差し向けた。
召喚されるサーヴァントはランダムであり、それでもそれらを使い、そこでまず情報を得ようとした。各フロアで彼の動き、コードキャスト、ウィザードとしての能力を知ることから始める。
そして自分の手元にガウェインを用意し、ガウェインと同じよう自分の使い魔になる二騎のサーヴァントをマスター、選手へと変えた。それを配置して彼との戦闘データを得ることを選んだ。
「いままでの戦闘は、彼の情報を得るためだったのかッ!?」
「なによりマスターは作り出された身。その実、経験と言うものが存在しなかった。故に彼のデータの基、私と言う駒を最大限に使用できる状況を作り出しました」
途中、廊下の壁に画面のように映るのはメイトの戦闘。
無数にある戦闘データは普段のエネミーとの戦闘まである。
「このようなことをして、ムーンセルとカーディナルはなにも言わないのか」
「彼女はそこについては、大いに自分の立場を利用したのです」
「利用? それっていったいなんですか?」
アスナの問いかけに長い道のりは続く。
「それにはまず説明を。始まりはSAOと言うゲームのエラーです」
「このゲームのエラー……。俺たちSAOプレイヤーがログアウトできなかったことか」
「そのエラー、詳細は不明だったが」
「死のデータか」
メイトの言葉にガウェインたちは一瞬止まる。セイバーは静かに目を瞑り、プレイヤーたちは戸惑う。
「死んだプレイヤーの無念が、このゲームをおかしくした………」
キリト自身、なにを言っているんだと思いながら、そう感じてしまう。彼らの思いの深さは、自分たちが深く理解できる。できてしまうから。
「そのエラーより作り出された彼女はラスボスの正体、GМ茅場晶彦と言うこのゲームの最高アクセス権を持つ存在であることを利用しました。同じ権限を要請、疑似的なGМ権限を会得、その際に使用した技術は彼女の力であると見なされ、カーディナルとムーンセルは放置したのです」
「コードキャスト、ウィザードである俺たちマスターの能力としてみなされた」
静かに頷くガウェインは再び歩き出す。
「マスターは自分を作り出したデータ、自分が取り込んだ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。自分が置かれたSAO最後のボスにして最高責任者としての立場。それら全てを利用して、あなたを倒す準備をしてました」
取り込んだ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》で、メイトの情報を大いに取り込み、あまつラスボスの権限でさらに介入した。
だが一つ気になる。
「作り出されて、そこまで思考するほど進化したのか? 他にも元になるデータはあるな」
「この世界には《ホロウ・エリア》と言う、テストプレイ空間が存在し、そこでプレイヤーデータを基にAI搭載NPCを作り、日々この世界を維持するためのデータを収集してます」
「まさか《ホロウ・データ》から作り出されたのか!?」
「ええ、それにより彼女はSAOプレイヤーとしての立場も獲得しています。着きました」
そう言われ、玉座の間のような場所。紅玉宮へとたどり着くプレイヤーたち。
そこの玉座に、細剣を腰に下げた一人のプレイヤーがいた。
「!?」
その時、僅かにキリトは違和感を感じた。
それは自分たちに死のゲームを告げた外套ではなく、赤いフード付きの外套を身に纏う、女性プレイヤーだ。
「来てしまったのね………」
玉座から立ち上がり、ガウェインは側で膝を折る。
「始めまして、SAOプレイヤーの皆さん。わたしがカーディナルとムーンセルにより、あなたたちの相手として作り出された存在。そして聖杯戦争のマスターとして作り出された者です」
「あんたが………」
プレイヤーたちはただ静かに彼女を見る。その中で二人のプレイヤーは彼女に戸惑う。
「ねえキリト君………」
「ああ」
キリトとアスナだけ戸惑う中、静かにそれは彼女は告げる。
「さて、皆さんにお願いがあります」
「願いだって?」
「簡単です。そこにいるマスターを殺し、このゲームをクリアしないと言う、簡単なことです」
それに全員が動揺する。
「ふざけんなよっ! んなことしたら、一生このゲームで怯えて暮らさねえといけねえじゃねえかっ!」
「クラインさんの言い分も最もです。ですからそれを殺したら、それが持つリソースを使い、このゲームをクラッキングし、エネミーはただいるだけの存在にして、簡単に倒せるものに変えてあげます」
「なっ………」
プレイヤーたちがざわめく中、彼女はそれだけでは足りないのかまだ続けた。
「それともお店の品をタダで買えるようにしますか? なんなら迷宮区だけは通常の状態にして、スリルを味わいたいのなら迷宮区へ。と言うのはいかかですか?」
「ふざけているのか、そんなこと」
「できます。それがウィザード、このSAOでは無いルールを持つわたしなら」
その瞬間、画像が空中に浮かぶ。
それは第1層の町や、他のプレイヤーが映る。向こうは戸惑いながら空を見ている様子だった。
「いまこの状況は全SAOプレイヤーに投影され、知ることができるようにしております」
「………本気なのか」
「ええ、この世界を維持するためならなんでもします」
その言葉を聞いて、キリトは剣を抜く。
それに全員が戸惑うが、アスナも続いて剣を抜いた。
「決まりましたか」
「ああ決まった。あんたをここで倒さないといけないってことが」
「どうしてです?」
「そこの騎士は言った。このゲームを継続させるのなら、他のゲームからプレイヤーを連れて来るってな。そしてなによりここは現実じゃない、仮想世界だ」
「この世界でわたしたちは健康に見せていても、現実の身体は病院で寝かされている。その身体だって、このままでいいはずがない」
キリトとアスナの言葉に彼らは選択肢が無いことを知り、各々が武器を構え出す。
それに首を振り、彼女は言う。
「我々ウィザードにとって、肉体の死なぞ関係ない。と言っても、これはわたしにとってもただの情報ですね。仕方ありません」
「そこまで分かるのなら、なんで」
「あなたたちが勝てないからです。この騎士、サーヴァントには」
「勝つさ」
メイトが前に出たとき、彼女から殺意、殺気が放たれた。
「あなたは………」
「サーヴァントにはサーヴァント、マスターにはマスター。聖杯戦争のルールなら、俺が勝てば、キリトたちは現実世界に帰れる。ならば勝つ、もともと俺はその為に作り出された」
「黙れ人形風情がッ! 貴様に、貴様なんかに何が分かるッ!?」
歯を食いしばり、歯ぎしりすら聞こえるほど憎いらしい彼女はメイトを睨み続けた。
「あなたを殺せばSAOプレイヤーはゲームクリアはできない。そうすればこの世界は永遠に継続される。それすら分からず、消滅へと進むモノに、わたしたちの気持ちが分かるものか!!」
そう言って彼女は外套を掴み、彼に投げた。
そして現れた素顔にキリトは、キリトたちは目を疑う。
「アス……ナ………」
そこにいたのはアスナと言うプレイヤーと瓜二つの顔だった。
「驚くことではありません。わたしは彼女、ギルド《血盟騎士団》副団長、《閃光》のアスナの《ホロウ・データ》で作り出された」
「わたしの、データ……」
「それもまた同じですよ」
「なに」
細剣を向けながら、彼女は怒りと憎しみを向けながら叫ぶ。
「わたしと同じ《ホロウ・データ》から生み出されていながら、死のデータで作り出されていながら、死へと進むその男。
「っ!?」
全員がメイトを見るが、メイトとキリトは似ているかと言われれば、少し躊躇いが生まれる。
「当たり前です、彼はムーンセルによって別の死のデータも組み込まれた。だけどその《二刀流》、そのスキルだけは一人のSAOプレイヤーしか持つ事を許されないもの」
「そうか、彼は俺の《ホロウ・データ》」
「完璧な《ホロウ・データ》でないメイトさんは、パパと同じ空間にいてもカーディナルに消されることはなく、こうして共に行動できている。ということですね」
「そう、そしてわたしも完璧なアスナの《ホロウ・データ》ではない。故に同じ空間に存在する」
彼女の髪の毛が黒く染まり、瞳は血のように紅く染まる。
「わたしと同じでありながら、わたしたちとは違う道を進む紛い物の人形。あなたを殺せばこの世界は守られる」
「それでも俺は進む……〝上〟を目指して」
「上?」
キリトは疑問に思う。ここはすでに最上階、上は存在しない。
「あなたにとって、上はなんなの?」
その言葉に彼は言う。
「俺は先に進む為に……
その言葉にキリトたち、ユウキは絶句した。彼が言う上はそう言う意味だったのだから。
セイバーは悲しそうにそれを聞き、ガウェインはなにも言えず、敬意を以って剣を抜く。
「なぜなのッ!? 同じなのに、同じの癖にッ! どうして終わりを目指すッ!? それは作り出された感情、偽物の感情で、あなたの作られた目標なのに」
「それでもそれを選ぶ。お前こそ勘違いをしている」
「なにを」
「死者は死者、生者を捕らえ続けていいはずがない」
その言葉に彼女の殺意が強まる。それでも彼は続けた。
「彼らは現実の世界に還るべき存在であり、俺たちは消え去るべき存在だ。ここまで上がって、ここまで進んで、目指して、俺はそれをより一層願うようになった」
「人形が………」
「俺には三つ、作り出されて願いができた。その一つである『現実世界へみんなを還す』。叶えさせてもらう」
「結局あなたは、作り出された人形ね………。ガウェイン」
その瞬間、天井が斬られ、浮遊する足場がフィールドとして作り出された。
「あなたを殺せば、彼らも先ほどの条件を飲むしかなくなる。これが本当のSAOの最後の戦い」
「キリト」
「メイ……ト………」
戸惑う彼らに、彼は静かに微笑んだ。
「お前、お前は」
キリトは思う。だが言葉にできない。それに彼は笑う。
「俺に、意味のある死をくれ」
それを聞いた彼は、
(ああそうか、君は俺なのか………)
仲間を死なせ、あの日、冬の雪が降る日、あのメッセージを受け取るまでの自分。
ただひたすら死を求め、生きていた自分。
「例え俺の先が死であろうと、俺は歩くのを止めない」
「いいだろう奏者、その旅路を余が彩ろうッ!」
「ならわたしはあなたたちに終わりを与える。この世界を守る為に………」
無数の人型の、ユイとストレアと同じ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。彼女たちが武器を持って現れた。
それと共に天高く、太陽が空を照らし出す。
「『令呪を以て命ずる、騎士の忠義を示せ』ッ!!」
「この剣、あなたのために振るおう」
「太陽の騎士を太陽の下で倒すか、奏者よ」
「ああ勝つぞ。キリト」
「………」
黙り込む彼に、彼は、
「………頼む、みんなを救いたいんだ」
その言葉にキリトは我に返り、彼を見た。その顔は笑っている。
「………くっそおおおおおおおおおお」
武器を構え直し、キリトの咆哮に続くようにクラインも叫ぶ。
「いくぞテメエら、ここが最後の決戦よォっ!!」
「はい」
全員が武器を構えて、プレイヤーはプレイヤー、マスターはマスターの、サーヴァントはサーヴァントのフィールドに上がる。
「わたしは勝つ、勝ってこの世界を守り通す」
「俺は勝つ、勝ってこの歩みの先へと進む」
お互い死を顔に纏い、静かにセイバーたちは剣を構える。
こうして全ての決戦が、いま幕を上げた………
SAOラスボスマスター、ホロウアスナ。サーヴァントセイバー、ガウェイン。
聖杯戦争もまた、終わりへと向かい、一人の人形は〝終わり〟へと歩き出す。
お読みいただきありがとうございます。