ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
地上でSAOプレイヤーが戦う中、その頭上、浮遊する足場の上で、二人のウィザードがサーヴァントを支援する。
お互い武器を構えながら、さらに頭上、太陽の下で斬り合う使い魔、その行動の全てをサポートしていた。
(奏者のサポートは完璧だ)
振り下ろす瞬間の重力操作。踏み込みの際の運動エネルギー操作。
魔力の伝達、自分の身体では無いと錯覚するほど理想的に剣を振るうセイバー。だがそれは向こうも同じだ。
「ハッ!!」
太陽の騎士ガウェインは、スキル《聖者の数字》を持つ。
これは午前9時から正午の3時間、午後3時から日没の3時間だけ力が3倍になる。ケルトの聖なる数である3を表徴した能力。
(この時間帯はそれに固定されている。ウィザードとしての腕は互角、後はサーヴァントの腕前で決着がつく。なのに)
彼の騎士に迷いは無く、吹き飛ぶセイバー。残念ながらセイバーとガウェインでは、剣の腕に差はある。
「っ!?」
ガウェインの攻撃、防がない剣を防ぐ盾の出現にセイバーは驚く。
【なっ……んでっ!?】
加速する剣戟の中でセイバーが防げない、躱せない攻撃を防ぐ防壁。小さく、すぐさま粉々に砕け散るそれは、セイバーに秒の時間を与えた。
それだけあれば、今のセイバーは迷いなく防げる。それが続いている。
【人形がまさか成長している? そんなバカなこと、あり得るの!?】
一度大きく距離を開けたときに、セイバーを囲む檻が創り出されたが、すぐにハックされ破壊される。
【アアァァァァァァァァァァァァァァァ】
彼女は叫ぶ。
忌々しいものを睨み、静かに憎む。
無数の十字架がセイバーの通路へと降り注ぐ中、それをハックして一部破壊、すぐに脱出する。
【ガウェインッ!】
「はあああああああああああああああああ」
激突する剣が悲鳴を上げ、ガウェインはその光景に驚愕する。彼女の剣の周りに無数のコードキャストが展開されていた。
「すでに用意されたものであっても、それは」
「そうだ、このコードキャストはマスターにより操作されておる!!」
刀身の強化、重心操作、エネルギーの伝達。攻守全てをメイトが操作し、いま彼女の剣は本来の力を突破している。
「それだけではないッ!」
セイバーの周りにも無数のコードキャストが展開されていた。
一度操作を誤ればセイバーの邪魔になる強化などのサポートを、一隻一隻の動きすらサポートしている。
「これほどの芸道をしなければ、そなたを攻略することは不可能。ならばこそ、余はマスターを信じ、己が進むべき道を行くのみ」
セイバーは迷いなく、ただ最適の動きをする。メイトと打ち合わせなぞなく、マスターを信じて剣を、身体を動かし続けた。
ガウェインはそれに追撃するが、少しずつ突破され始める。
剣が、炎が、全ての力を出し切る中で、彼女は吠えた。
【ガウェインッ!!】
ガウェインは己の剣を天へと投げる。
「来るぞ奏者ッ!」
【『令呪を以て命ずる、その人形を殺せ』ッ!!】
剣が輝きに満ちて、二つの太陽が世界を照らす。
「この剣は太陽の映し身、もう一振りの星の聖剣」
「なっ………」
キリトたちは熱を感じ空を見ると、もう一振りの聖剣が燦然と輝き、その瞬間、セイバーは停止する。
二本の剣が漆黒に染まり、柱のように交差した。
「あらゆる不浄を清める焔の陽炎」
「奏者ッ!」
【俺が防ぐッ!!】
【薙ぎ払えッ!!】
「『
振り下ろされた勝利の剣を、不浄の交差された光が受け止めた。
不浄を焼き尽くす太陽の陽炎と、死と言う不浄そのものが激突する。
【ッ!!】
自身と攻撃の強化にコードキャスト展開、並びにセイバーを熱からの保護。それと共に地上のプレイヤーにもコードキャスト展開。防壁を張る。
膨大な数のコードキャストの展開と演算を始めた瞬間、
【これが人形の終わりよ】
また空間がズレ、転移させた細剣が彼を貫いた。
「メイトッ!!」
「メイト君!?」
「メイトさん」
地上から悲鳴が聞こえる中、光がセイバーを押しつぶさんと迫る。セイバーは決して下を見ず、ただ眼前の輝きを睨み続けた。
【これほどの数のコードキャストを展開していればッ!】
深く深く、捻じ込まれる刃。転移した彼女はメイトに深々と剣を差し込む。
それでも彼は、
【………お前は勝利条件を間違えた】
【!?】
その瞬間、偶然か、それとも策略か分からないが、一つの柱が砕かれた。
結果、振り下ろされる光が、少しずつ横へと滑る。
(これ、はッ!)
ガウェインはすぐに理解して振り下ろす腕を止めようとしたが、先ほどまで込めた力、さらに令呪の効果によってすぐに停止させることはできず、横へと弾かれていく剣を戻すことはできない。
ほんの少し、横へとずれた輝き。
その隙間を、防壁が一斉に道を形成する。
【俺が滅びても】
【………あ】
彼の左手が輝く、四つある令呪が一つ消えた。
その道を赤い閃光に成り、駆ける剣がある。
「でっえええええええええええええっ!!」
太陽の騎士へと迫る深紅の剣。
その光景を見ながら砕け散った剣を握っていた腕を硬化、そして刃のように鋭くする。
【この戦い、最後のサーヴァントとマスターを殺せば、キリトたちはゲームをクリアするッ!!!】
彼の目的は初めから自分の勝利では無い。ゲームクリア、SAOプレイヤーの勝利。故に己を守る理由は無かった。
相打ちであろうとマスターとサーヴァントを倒せれば、彼らは、SAOプレイヤーは、キリトたちはゲームをクリアすると信じている。
【ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――】
薔薇のような赤い閃光が太陽を斬り裂き、死の情報が一つの個体を貫いた。
それと共に輝き飲まれようとも、彼らは気にも留めなかった………
◇◆◇◆◇
「メイトっ!」
輝きに飲まれ、空から四つの固まりが降ってくる。キリトが剣を仕舞い、すぐに片方へと手を伸ばす。
「奏者っ!」
セイバーらしい固まりが即座に動き、空中を蹴り、メイトを受け止め地面に下りた。
「がっ………。まったくこの奏者は……」
「セイバーさん、無事ですかっ!?」
「余はな……。令呪のブーストがあったとはいえ、まさか守りのコードキャストも展開されていたとは」
セイバーは編んでいた髪がほどけ、ドレスも僅かに引きちぎられていた。
メイトは
それで腕を取り戻しながら、身体に突き刺さる細剣を引き抜き、キリトたちを見た。
「そっちは………」
「勝ったさ……。そっちもボロボロだな」
「ああ……、消えていないことだけが、俺の想定外だ………」
そう言い合い、勝ったことに実感が湧かなかったプレイヤーたちは、徐々に勝ったことが分かり、勝鬨を
「いやああああああああああああああああああああああああああッ!?!!?」
悲鳴が響き渡った。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない―――」
それは彼女の悲鳴。
地面に落下し、泣きながら地面の上で叫び続けた。
空いた胸は塞がらず、コードキャストを使うリソースも尽きている。
ガウェインもまたその場に倒れていて、砕けた鎧と落ちて来た聖剣しかない。彼女の傷は深く、もう………
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない消えたくない消滅したくない―――」
起き上がろうとするができず、泣きながら、叫びながら世界に叫び続けた。
「こんな形で消えたくない生きていたい死にたくないッ!!!」
それにメイトは細剣の柄を握りしめ、静かに近づく。
「こ、来ないで、殺さないでッ!!」
その様子にプレイヤーは絶句する。
「どうして消えなきゃいけないのッ!?わたしは、わたしたちはこんなことをするために生み出されたわけじゃないのにッ!! こんなこと望んでいないのにッ!!」
アスナはその光景が痛々しく、自分の姿だなんてどうでもよくなった。
「わたしたちは本当は誰かを助けたかった、喜ばせたかった幸せにしたかった。ただ生きていたい、存在したい、在り続けたいだけなのにどうして殺すのッ!?」
後ろに下がりながら彼女は死を見た。
「わたしたちはこんなことをするために創り出された訳じゃないのにッ!!」
その叫び声がキリトたちに響き渡る。
怯える目が、メイトを見る彼女の瞳は、HPが無くなるプレイヤーのように思えてならない。
「あなただって」
そして、
「あなただって消えるのに、どうして戦うの………」
「………」
それは考えないようにしていた。
メイトはこの為に創り出された存在ならば、彼の旅の最後がどうなるか。
「死ぬ為に生み出されたあなたは、どうして………どうしてそんな
それにある少女は目を見開き、メイトを見た。
彼はただ静かに、
「それでも」
メイトは機械のように、それでも感情を秘めた言葉で………
「それでも俺たちは終わらないといけない」
「ぁ………」
「この世界が在る限り、生者が本来いる世界に還れないのなら、消滅するしかない」
「……違う………わたし、は……わたしたちは」
「どんなに祈っても過去は変えられない。君は存在を歪められて生み出され、俺は君を殺し、死ぬ為だけに創り出された〝モノ〟だ」
その瞬間、彼の貌が死に彩られた。彼女の貌も一瞬、死に染まる。
「俺よりも苦しんだのは君なんだろう。意味を歪められ、在り方を変えられた。俺のように選択肢すら存在しないのなら、俺はまだ幸運なのだろう」
「死ぬ為に創り出された、終わる為だけに在ることが………意味も理由も価値も無い宿命のどこに……幸運があるの………」
「それでも俺は俺を選ぼう、全てに終わりを。罪は我が一部であり、俺は何度だってこの定められた運命を選ぶ。それは俺が作られた〝モノ〟である前に、それを誰かがしなければいけないのなら、それをするのは〝モノ〟であり、同じである俺がすべきこと」
「あ………ぁ……」
「この世界を
静寂が降りて来た。
キリトたちプレイヤーはなにも言えなくなり、メイトは決して歩くのを止めない。
この世界を終わらす、自分の旅路を………
◇◆◇◆◇
その時、彼女は立ち上がった。
ふらつく身体、風穴が開いた身体、それでも歯を食いしばり、立ち上がる彼女は叫ぶ。
「『令呪を以て命ずる』」
その瞬間セイバーが動く。だがそれよりも、誰よりも早く、彼女は叫ぶ。
「………『わたしたちに終わりを』………」
プレイヤーたちは一瞬頭の中が真っ白になる。
その瞬間、ガウェインが強制的に動かされ、背中から彼女を斬り裂いた。
「アスナああああああああああああああああッ!?!」
分かっている。彼女はアスナじゃないことを。
だけど、それでも止められない。
メイトの横を横切り、地面へと倒れる彼女を抱き止めた。
太陽の騎士はただ静かに主を見据えて消えていく。その心中はどのようなものか、誰にも理解できないだろう。
俺の他にも手を伸ばすみんながいた。アスナもいる。
「もういいの……わたしたちは」
「違う、違う違うッ! 君は」
「本当なら、幸せを、喜びを、悲しみも、怒りも、思い出として作り、育みたかった……ただそう願っただけなのに」
彼女は虚空を見つめながら、手を伸ばしている。
「ただ誰かの思い出を彩る世界として、生まれたかっただけなのに………。こんな世界、望んだわけじゃなかった………」
「きみ、たちは」
「わたしたちは生まれるべきものではなかった………」
「そん」
その時、彼女は俺の口を指で塞ぐ。
その顔は知っている。俺の、大切な人と同じ、優しさに満ちた笑顔だ。
「わたしたちはただのプログラム……《ソードアート・オンライン》と言うクソゲーで生まれた、悪性情報………」
違うと言いたい。そんなわけないと。だが彼女は望んでいない。
彼女は指を動かす、まるで何かを操作するように。
「ユイ……ストレア………あなたたちはちがう………だからでていって………」
「!」
「あ………」
その時、ストレアがなにかを言いかけて、やめる。
呼びかける名前が無い。
彼女を、この世界で生まれた命へと………
「キリト」
「メイ……ト………」
メイトは変わらず、いや変えられずそこにいた。
その顔が死に包まれ、細剣が死に染まる。
「!」
止めたかった。
彼女を殺さないでくれと言いたかった………
ユウキが前に出た。出ただけだ。
その横を通り過ぎる。誰も望まない。誰も幸せにできない。
「きみは、それで………」
「いいの……もういいの………」
死が近づく。
きっと誰よりもこの結末を知っていた、その為に生きることを受け入れた存在。優しい死神が近づく。
「あなたたちは、こんなせかいのことはわすれて………あたたかい、やさしいせかいで………」
そして死神は静かに、
【おやすみ、ソードアート・オンライン】
「いきて………げーむくりあ、おめでとう………」
彼は彼女を斬り裂いた。
ポリゴンの塵へと変わり、ラスボスは倒される。
誰もが涙を流す。それはこの世界から解放される喜びか、それとも消え去る世界に対する涙か分からない。
忘れるはずができない。できるわけがなかった。
この世界、デスゲームとして生み出され、喜びを憎しみに、幸せを悲しみに、希望を絶望に変えられた世界で作られた少女たちのことを。
俺はけして忘れない。
◇◆◇◆◇
全てが終わった。
俺の旅路が終わりを告げた、これが俺の旅の全て、俺は処刑人。
望まない生を与えられ、人々を狂わせる世界を殺す為に生み出された。
俺の罪はけして生易しいものではない。
ああ憎い、憎いさ。
俺の中にある世界への憎しみと怒り、そして何もできない俺自身。
俺はこれを抱えたまま消えよう。それが俺できること。
そう……思っていた………
拍手が聞こえる。
顔を上げた先に、俺の憎しみが燃え上がる。
だがそれはきっとキリトも同じだろう。
それはそこにいた。
「おめでとう、実に見事な勝利だったね」
そこにいたのはヒースクリフ、それは、
「どうしてお前がここにいる、茅場晶彦ッ!!」
キリトは叫び声と共に、俺の憎しみが燃え上がる………
彼女はSAOラスボス、だけど彼らの戦いは終わるのか?
それでは、お読みいただきありがとうございます。