ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
彼らの戦いが終わる。どのような結末を迎えるか。楽しみだよ………
全てが終わり、現実世界への帰還を待つだけになったと、そう思った時。そいつは現れた。
「ラストバトル、見させてもらったよ」
「ヒースクリフ………生きていたか」
ヒースクリフ、茅場晶彦。この世界を作り、約1万人の人間を捕らえ、全てを狂わせた男。
赤い甲冑に十字の盾を持ち、静かにそこにいた。
「身構えないでくれたまえ、君たちにお詫びをしに来たんだ」
「詫びだと?」
「ここまでなんの説明もしないでいたこと………本当に申し訳ないと思っている」
そう言うが、ほとんどのプレイヤーが構えようとするが、全員ボロボロでHPは危険値だ。
それでも止められない衝動を抑え、俺たちは静かにしていた。
「なぜそんなことになったのか、そしてなぜ私が生きているのかを。君たちに説明しなければならないだろう」
それは75層で俺と戦った時、発生したシステム障害が事の発端らしい。
あの時、この世界を制御しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。
負荷の要因は、プレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積。
俺たちがよく知る、メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。ストレア。
「彼女が蓄積したエラーはやがて抑えきれなくなり。膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んでしまった」
そして負荷のもう一つの要因は、須郷たちによる外部干渉。
これらの要因がカーディナルシステムを暴走させ、今回の事態を引き起こしたと言われる。
「それだけでなく、この世界のエラーと同じ、全く同質のものとも言えるエラーを抱えたシステムが外部に存在した」
「《ムーンセル・オートマトン》」
「そうだ、その二つのシステムによりエラーとバグの処理が同時進行し、そして矛盾が激突した。あの時の私たちの結果に、大きく影響を受けてしまった」
曰く、あの時の戦いでヒースクリフのHPゲージが無くなるのが早かったが、ほぼ同時刻にその現象が起きてしまい、管理者モードへと移行された。
その結果プレイヤー、ヒースクリフは勝負を放棄した結果だが、ラスボスは倒されたと判定はされなかったと。
カーディナルとムーンセルは、この事実をどう取るかは、
「それは君たちがよく分かっているはずだ」
「ムーンセルのルールを取り込んで、新たなラスボスを構築して、新たに倒されるかを見る。それが二つのシステムが下した答えか」
「その通りだ。無論、ムーンセルのルールに適した主人公もまた、新たに作り出されたわけだ」
◇◆◇◆◇
そう言い、ヒースクリフは静かに称賛を送る。須郷と言う外部からの介入、別システムの混線。
多くのイレギュラーに対して、キリトたちは打ち破り、自らの道を勝ち取った。
「やはり、ゲーム運営には想定外の事態がつきまとうものだな。それが面白いと言えるのだが………」
「面白い……だと………。当たり前だ、ここまで多くの人間が深く関わる世界で全てが思い通りになると思うなよッ!」
その時のキリトたちは、人間じゃない少女を思い出す。
消えたくない、死にたくない。本当は幸せにしたかったと言う嘆きを。
「もちろんその通りだ。しかし、私の思い通りになることもある。例えば、ゲームクリアの可否」
「この後に及んで、クリアさせないって言うんじゃ………」
「それはない。カーディナルとムーンセルは君たちの勝利を確定した。なによりフェアプレイを心掛けているつもりだからね。君たちは間違いなく100層のボスを倒した。改めて称賛を送ろう、クリアおめでとう、勇敢な者たちよ」
そう彼らに言葉を投げかけるが、
【ふざけるなッ!】
一人の男が死を纏い燃え上がる。
【世界を狂わせ、人を狂わせ、こんな悲劇を生み出して起きながら、貴様はなにもしない気かッ!?】
「メイト君、君にも驚かされる。ムーンセルとカーディナルにより設計された主人公。君の存在、成長は我々も目を見張るものがあった。ムーンセルは大いに満足していたよ」
【………】
「数々の非礼を詫びよう、君たちムーンセル側は完全な被害者。お互いの為にならなかった。本当にすまなかった」
【お前を見たときから俺の中の死がざわめいている。お前を許さない、憎め、憎めと!!】
細剣と残った剣を持ち、彼は燃え上がる。
【お前に対する憎悪だけは、なにがあっても晴れることは無いと思った。だが、その憎悪より生まれた俺は、彼女を殺した俺は、お前を殺す義務がある】
「つまるところ、君は私と、ソードアート・オンラインの本来のラスボスと決着を付けたいと」
【それが俺の中の、約4000人のプレイヤーの願いだ】
その時、キリトは静かに剣を抜く。
「それには俺も同意見だ、こればかりはお前にも譲れないッ!」
「キリト君っ!?」
「いまここで戦わなければ、俺はずっとこの世界に囚われたままだ。心をこのままこの世界に残ったまま、現実世界に還られるかッ!」
「キリトっ、それは俺だって同じだ。テメェだけは、テメェだけは許せねえッ!」
クラインも刀を握りしめ、静かに前に出る。
「ヒースクリフさんよお、お前、あの彼女について、なんとも思わないのか」
「思うとは?」
「彼奴は言ってたろ、喜ばせたかった幸せにしたかった!! それがこの世界の思いって奴だろ!?」
その言葉を聞き、それでもヒースクリフは、まるで一個人の感想を聞くような態度だった。
「彼女には代理として相応しく、この100層のラスボスを全うしてもらった。心から感謝しているよ」
「代理として………」
二人の男が歯を食いしばり、さらなる、彼らからすれば認めたくないことを口にした。
「本来無意味な戦いに、こうも価値を作ってくれたこと。本当に感謝しているさ」
その言葉に、全員が絶句した。
「どういうことだ……。それは、いったいッ!」
「言葉通りの意味さ。言ったはずだよ、このゲームは本来、私の敗退によって75層で終了していた。彼らの存在は本来なら担う必要なんて無い」
「それは………」
「彼女を始め、メイト君が生み出されたのは、本当に偶然から生まれた矛盾を解決するためだけさ。
キリトは始めなにを言っているか理解すること、理解していてもできなかった。
「意味も、理由も、価値を求められてないって………」
リズの震える言葉に彼は答える。
「75層でこのゲームは終わっていた。ただ彼らは矛盾を解決させるための処理さ。言ったはずだ、私の思い通りになることがあると」
「それって」
「こうして出てきた以上、どのような結果だろうと二つのシステムにプレイヤーの勝利は確定されていたと進言し、受理させていた」
「それじゃ、メイトやあの人の戦いは? 思いは? 生まれて来た意味はっ!?」
ユウキの叫び声に、彼はGМとしてただ語る。
「ただ矛盾を解決させるためだけの一時しのぎ。それ以上なにもない」
それは彼らが生み出されたことも、戦いも、思いすら意味が、理由が、価値が無いと言われたも同然の言葉。
ユウキとシリカがふらつきかけた。リズとリーファ、シノンは怒りを通り越して絶句した。
「ふざけるなあああああああああああああああッ!!」
キリトは叫び剣を握りしめ、アスナもクラインも、ゲームクリアだのなんだの、そう言ったこと全てがどうでもよくなる。
ただ一つ、彼らが生み出されたこと、戦い、思い全て。それら全てが否定されたことが許せなかった。
「このままオメオメと現実世界に還れるかッ!」
「わたしも、その言葉だけ、その言葉だけは許すことはできない!」
その時、攻略組はほとんどが無意味と知りながら武器を構えていた。
その様子を見て、ヒースクリフは静かに見届ける。
「どうやら、君たちの願いを叶えないといけないらしい。すでにクリアの決定は覆らせないが君たちと戦おう。正真正銘のラストバトルを!!」
◇◆◇◆◇
キリトたちの猛攻に、ヒースクリフは盾で防ぐ。
「こいつは俺たちのスキルの動きを全て知っているっ!! 自分の力だけで突破するしかないッ!」
キリトの号令と共に、全員が一つの生き物のように動く。
クラインもエギルも、システムアシストを受けたヒースクリフへと挑む。
アスナの号令と共に動く中、全SAOプレイヤーは叫んでいた。この様子もまた、全てのプレイヤーの下に届いたいる。
吹き飛ばされてもなお、死ぬことよりも、彼らの心にはある少女の涙が残っていた。
それを元にHPがある限り、彼らは前に出続けている。
【はあああああああああ】
「でぃやあああああああああああ」
セイバーとメイトが高速で斬り込み、二本の剣で彼の盾を弾く。
キリトが斬り込み、その時の彼はHPは危険値である。
「キリト下がれッ!」
「キリト君っ!」
「キリトさん」
「キリト!!」
それでも、
◇◆◇◆◇
大切な人と全く同じの少女。
幸せを願い、喜びを願った彼女。
おそらく下がれば彼女を殺すしかできなかった彼が殺すのだろう。
だけどそれでいいのか?
それで自分は許せられるか?
(そんなわけがあるかッ!!)
彼は自分の全てを受け入れた。
己の
剣戟が鳴り響く、ソードスキルを使い、システムに預けられた動作で身体が動く。
盾で防がれる中、それでも選ばせるわけにはいかない。
最後の一撃、剣が叩き折れた。
「さらばだキリト君」
その言葉と共に自分が貫かれたことを知る。
悲鳴が聞こえる。自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
だけど………
『あなたたちは、こんな世界のことは忘れて。温かい、優しい世界で』
「この宿命をッ、誰にも渡せる、ものかああああああああああああああッ!!!」
『生きて………。ゲームクリア、おめでとう』
その瞬間、消え去るはずの身体は黒い光を纏い身体を作り、光が闇を砕き、握られた剣はヒースクリフを貫いた。
◇◆◇◆◇
キリトがHPが無くなるその瞬間、ヒースクリフのHPを、身体を貫いた。
「見事だキリト君………」
剣から離れ、減るはずのHPゲージは止まるキリト。ヒースクリフを見るキリト。
「これほどまでに鮮やかに勝利を収めるとは、私の想定以上だ」
「勝った……のか………」
「ああ。この鋼鉄の城《アインクラッド》の最後のボスは倒された。君たちが勝利者だ」
全員の身体は光に包まれながら、フィールドも光に包まれ始める。
「これから全ての者たちは元の世界へと戻される………」
「ヒースクリフ、あんたは」
「私は戦いに敗れたのだ。いまは創造者権限で話しているに過ぎない」
ここでSAOのルールを破るのは、自分にとって現実であったこの世界の否定につながる。
それはなにを意味するか、全プレイヤーは理解した。
「君たちがこの世界に来てくれて、本当によかったと思っている。私の夢想の中で、君たちは真剣に生きてくれた………」
「………確かにここはゲームの中の世界だ……。それでも俺は、俺たちはここを一つの現実だったと思っている」
「そう思ってくれるのか、ありがとう。キリト君」
ヒースクリフが消え、浮遊城が崩壊し出す。こうしてゲームはクリアが報告され、みんなが元の世界に還り出していた。
そんな中、分かったことがある。それはユイとストレア。この世界のプログラム。
アイテムオブジェクト化され、いつの間にか世界の消去対象外になっていた。
「彼女が……」
「きっとそうだろう」
オブジェクト化されたユイとストレア。この二つは確認できた。
だけど………
「メイトさんは」
「俺は無理だよ」
シリカたちはメイトを見る。彼だけがオブジェクト化されない。それは仕方ないことだ。
「キリト、俺たちの憎しみを連れて行ってくれてありがとう」
「メイト、君は………」
「俺はいいんだ。これが俺が生まれたときから決まっていることだ」
そう言って後ろに下がるメイト。
「メイトっ!」
ユウキは悲しそうに見つめるが、彼は全員の輪から外れ、静かにみんなを見る。
「キリト、みんな。俺の旅路は決まっているんだ」
「メイト、セイバー」
「余たちはお主たちと共に行けぬ、それが決まりなのだ」
「そんなこと、メイトたちもオブジェクト化すれば」
それに静かに首を振るメイト。
「俺のデータ管理はムーンセルであり、
「ふざけるな、君は、君は」
「どうして、そんな悲しいことを言うの? なんで死ぬ為に生まれたことを、受け入れられるの………」
ユウキは涙を流しながら呟き、他のみんなも涙を流す。
それに、
「俺には三つの願いがある。一つはみんなを元の世界に還すこと。もう一つは俺だけじゃ叶えられないし、叶わない」
「それは」
「あの少女を救えない、死者を救うことはできなかった」
そう言い、腕のリボンを見つめるメイト。
そして光が徐々に強くなり、キリトたちを包み込む。
「メイトっ!」
「終わりの時間だキリト、みんな……」
「それではな、大儀であるッ!」
そう言って全てが終わった。
SAOプレイヤーは仮想世界へと帰る道のりを手に入れ、彼は残る。
◇◆◇◆◇
天空の舞台、日が沈むか上がるかの間の時間。
二人は静かにそれを見ていた。
「ヒースクリフ、茅場が出て来たときは驚いた。俺の願いが四つになってしまったよ」
「自分で決着を付けたかったか?」
それに静かに首を振る。彼を倒すのは生者の役目だろう。死者である俺ではない。
「む? それでは奏者よ、三つ目の願いとはなんだ?」
「ああそれは」
その時、
「………メイト」
「は?」
「へ?」
二人はすぐに声がした方へと振り向く。そこにはユウキがそこにいた。
「メイト、これって………」
「な、んで………」
理解できない、この世界のルールはムーンセルが管理している。ならばこんなイレギュラーは存在しない。
セイバーの顔を見る。彼女も理解できないようだ。
「どういうことだ、この仮想世界はもうすぐ消える。なぜプレイヤーが」
そんな疑問に対して………
「それは、全て終わっていないからさ」
あの男が答えた。
俺の中には二つの死のデータがある。
一つはこのゲーム、SAOに溜まった死のデータ。
もう一つは月の聖杯戦争に関わる、全ての死。
その一つがその声にざわめく。ヒースクリフが現れたときのように。
「お前は」
「なぜ貴様がここに」
そこにいたのは眼鏡をかけた白衣の男。
「「『トワイス・H・ピースマンッ!?』」」
その問いかけに、トワイスは笑って、
「無論、聖杯戦争の続きだよ………」
そう言って彼は、崩壊する剣の世界に降り立った………
SAO、ソードアート・オンラインと言うゲームはいま終わりを告げた。
だがもう一つ、この戦争はいまだ勝利者を決定していてはいない。
さあ始まりを告げよう。悲劇の産物で生まれた技術により、生きながらえる少女を始まりに。
この世界の〝聖杯戦争〟を始めようっ!!