ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
だがそれはゲームの世界だけの話。
いま一人のマスターとサーヴァントの前に、もう一人のマスターが現れた。
「おじさんは、白衣の……。それに聖杯、戦争……?」
ユウキは理解できず、白衣の男、トワイス・H・ピースマンは静かに語る。
「聖杯戦争、マスターが七天の空を目指し殺し合う戦い」
ユウキよりも前に出る二人。メイトとセイバーは静かに睨みつけた。
その威圧にユウキは怯え、後ろに下がる。
「なぜ貴様が、ムーンセルの浄化で消えたのではないのかッ!?」
「それはそこにいる彼にも言えることだ。私は所詮紛い物。始まりの
当然のように言うが、彼らはあり得ないものを見るように彼を見て、ユウキは彼らの会話に疑問を抱く。
「この世界………」
それに僅かにふむと頷き、指を鳴らすと共に悲惨な現実が空間に映り出された。
それは世界、ある世界の光景だ。
「聖杯戦争とは別の世界で行われた戦争だよ。互いに殺し合い、七天の空を目指し、最後の一人になるまでね」
「っ!?」
少女は怯え、メイトの背中に隠れる。
映し出された画像には無数の死がそこにある。それに少女は、
「どうして、そんなことするの」
「それは簡単だ。聖杯を手に入れるため」
「せいはい……」
その瞬間、画面はあらゆる幸福、幸せへと変わる。
栄光、勝利、祝福など。ありとあらゆる幸福を映し出した。
「七天の勝者は《ムーンセル・オートマトン》により、万能の願望機である聖杯を渡される。あらゆる事情を現実の元へと変える権利を得る」
「それってなんでも願いが叶うってこと?」
「ああ」
トワイスは告げて、だがとセイバーが声を高く止めに入った。
「余の前奏者である岸浪ハクノたちが勝利、リンが手にしたはず。もう聖杯戦争は終わっている」
「そうだ、〝その〟聖杯戦争は岸浪ハクノたちが勝利を収めた」
「その?」
「〝この〟聖杯戦争はまだ勝利者が決まっていない」
瞬間、二人から血の気が引き、すぐに身構え、無数の画面が映し出された。
それは進化の軌跡、人類史の一端。
「お前が始まりであろうと、聖杯戦争、月の戦争はここで行われていない。これはSAOと言うゲームと混線したムーンセルが観測する、ただの遊戯だ」
「だが、曲がりなりにもこれは〝聖杯戦争〟と言う名を模した戦争であり、優勝賞品を用意しない通りは無い」
「ふざけるな、用意されたマスターは人形しかいない。例え正しい資格を持つマスターが参加していても、彼女たちは選手として資格があるはずない」
「それを決めるのは誰か分かるかい?」
「ムーンセル……。バカな、ムーンセルが矛盾を解決させるための処置だけに、願望機を用意しただと………」
セイバーと共に戸惑う中、その答えに満足したように笑みを浮かべるトワイス。
「すでに君は多くの英霊を倒している。後はこの地にいるマスターを全て倒せば、聖杯への道は生まれる」
そう言い、彼は静かに微笑む。
「戦争とは人類が選んだ進化の一つ、そうだろうメイト君」
「お前は俺に、岸浪ハクノのように、岸波白野のように問いかけるか」
「当たり前だよ。私と同じ意思を持つNPC」
彼は戦争を否定する人間だった。正し善意などでは無く、戦争と言うものを嫌悪し、発作が起きる。それを和らげるために戦火を消していた。
その人物を元に作り出されたNPC。だが彼は戦争を否定する中で考えてしまう。
戦争こそが人を、人類史を停滞から進化へと変える分岐点ではないかと。
その結果、彼は月の聖杯戦争で多くの戦いを勝ち残り、そしてついには世界を、人類の進化を諦めた。
無数の大画面で戦争が映し出される。ユウキは怯えながらもこの光景を見つめている。
その映像の中に、ユウキたちの世界らしい画面までもが映し出された。
「お前はこの世界で聖杯戦争を引き起こす気か」
「引き起こす。場所が変わったのならば私の意思を継ぐ者が現れる可能性がある、私は私の意思をやめることはできない」
「ここにユウキがいるのは」
「ムーンセルの聖杯戦争へとアクセスできるのはウィザードのみ。そう言えば分かるかい?」
「無理矢理選手を集める気か」
フルダイブ技術。それを使用した方法はウィザードに近いものがある。
それを利用してプレイヤーをウィザードに仕上げて、無理矢理聖杯戦争を開催させるのだろう。
その瞬間、トワイスは死相を纏い、静かに立ちふさがる。
【戦争こそが人を、人類史を進化させる。このゲーム《ソードアート・オンライン》もまた進化の一つ。彼のゲームが世に出てその悲劇の結果、爆発的にこの世界の技術は進化したッ!】
それはまるで時代が変わったかのように次の映像が変わる。
これが彼らの世界、フルダイブ技術が現れてからの進化の軌跡なのだろうか。
「お前はそう言うしかできないのか」
【事実を言ったまでだ。この世界なら、私たちの世界より希望を持てる。なにより私は、それを体現するに相応しいプレイヤーを最初に呼んだ】
その言葉には理解できず、怯えるユウキをかばいながら、セイバーが剣を構え前に出る。
「呼んだだと? まさか、ユウキがこの世界に来たのは」
【私が呼んだからに他ならない】
それに歯を食いしばり、静かに彼らは睨む。
それでも彼は気にも留めず、話を続けた。
【その少女の命を支えるのは紛れもなく、悲劇を引き起こした技術で生み出された】
「《メディキュボイド》」
【フルダイブ技術は多くの命を奪い、そして繁栄をもたらした。この世界も私の夢想を体現した世界と言わず、なんと言う?】
ユウキを最初の選手にしようとしている。それを許す気は無い。
ただ静かに構える一人のマスターと一騎のサーヴァント。
「トワイス、お前の所為で俺の願いは五つになった。お前があの戦いを狂わせた憎しみを、俺は抱いている」
【君も岸波たちのように、私の思想を否定するのか。他ならぬ君が、君たちがッ!】
死の雷光が走る中、それでも否定する。
「俺はこの世界を殺した、その罪は受けなければいけない。このまま俺は死ぬ」
ユウキが僅かに何かを言おうとした。だがすぐに防壁が展開され守られる。それにトワイスは静かに首を振る。
【君はそれでいいのか? この世界を終わらせるためだけに作り出され、終わることを生まれる前から定められた存在で終わると言うのか】
「………」
◇◆◇◆◇
無言で見つめるユウキを感じながら、俺はトワイスを睨む。
「それでいいと俺は認めた。俺の始まりは終わることを定められていた。俺の進む先に未来も光も無いことは生まれた瞬間から分かり切っていた」
なによりも、
「俺はキリトたちの未来を守るために、この世界にいるッ!」
そうそれが俺が選んだ道。俺が選べた選択肢。
それを否定されることもすることも、許すつもりはない。
死相を纏い、セイバーへと叫ぶ。
【セイバー、奴がサーヴァントを出す前に殺せッ!】
瞬間彼女が走る。
だが、
「ッ!?」
セイバーと共に感じた違和感。直感的なそれに従い、すぐに軌道を変えたセイバー。
その場に光が降り注ぐ。
セイバーは緊急回避し、俺もすぐに横に飛んだ。
【サーヴァントならすでにいる】
極光が空を、世界を照らす。その光が〝在る〟と言う事実だけで、俺の身体が焼かれているのが分かった。
それに俺たちは目を疑う。
【ふざ、けるな………それを呼べるはずはない。ムーンセル、熾天が閉ざされているこの世界、ここにいるはずがない】
そう、それほどまでに特別なサーヴァント。
前々回の月の聖杯戦争に現れたこと自体、イレギュラーであることに変わりない。
【だがここに存在する。この世界〝この世でただひとり、生の苦しみより解脱した解答者〟】
後光の光が世界に降り注ぎ、不浄を焼き払う。
ただいるだけで俺を、死を焼き尽くした。
「ぐっ、がはっ」
まさかの最後に現れたのは、救世主と言うエキストラクラスのサーヴァント。
セイヴァー『覚者』。
トワイス・H・ピースマンの真上、座するように座り、光り輝くその英霊とは言えない領域に住まう存在。
よりにもよって彼は再度、この戦いの行く末を見る為に呼び声に応えた。
◇◆◇◆◇
『死より生まれし者よ』
天上に座し、見下ろすようにこちらを見る彼は慈愛に満ちた目で見、湖畔に広がる湖のように、静かに話しかけてきた。
それは俺に話しかけて来る。無数の光弾がセイバーに迫る中で。
攻撃を一切やめず、ただいるだけで俺を消滅できる存在は、俺に話しかけてきた。
『もはや汝の苦しみは終わりを迎える』
終わり、終わりだと。
【終われるかッ!】
電光が走る。光が身体を焼きながらなお、俺の選べる選択肢は戦うこと。
死でできた腕が地面に落ちた剣を握る。
【例え俺は此処で敗れても、お前たちを勝利者にしてはならない。命なんていらない、存在する意味も理由も価値もいらないッ!】
だから俺に力を、リソースを、セイバーを勝たせるために力を。
光に向かい、俺は走り出す。
【苦しみを選ぶか、だが君は覚者により終わりを迎える】
曼荼羅のように広がるそれは彼の宝具『
セイバーへ防壁は無意味、躱してもらうしかない。
放たれた天輪を躱しながら、無数の光弾が雨のように降り注ぐ。
【うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?】
光が俺の闇を払う。
その一つが俺に突き刺さり、身体を引き裂いた。
痛みは無い、NPCである俺に生の苦悩などはない。
特別なそれは死者を払う力は絶対的だが、俺には関係ないもの。
その隙をセイバーは覚者に刃を突き立てたが、防壁のように光が阻む。
「セイ、バー………」
セイバーの攻撃を防ぐ中、覚者の手が彼女に向けられた。
すぐに防壁を最大に展開したが手のひらから光が放たれ、セイバーは吹き飛んだ。
地面に落下した彼女の下に、無数の天輪が降り注ぐ。
【これで終わりだ】
トワイスはそう言い放ち、弾丸のような光が世界を覆い尽くす。
「ふざ、けるなあああああああああああああああ」
展開するコードキャストはガラスのように砕け散る。
それでも彼女を、自分を守らなければいけなかった。
彼らを勝たせてはいけない。この世界に、聖杯戦争を引き起こさせてはいけない。
だからこそ、俺たちはここで終わるわけにはいかないのだから。
「ッ!?」
だが覚者が目の前にいた。
転移? 自分がいつの間にか、覚者の側にいる。
覚者は静かに、慈悲深く見つめながら手を向けた。
その光は簡単に俺の身体を貫き、降り注ぐ光は俺を吹き飛ばした。
「メイトおおおおおおおおおおおおおおお」
ユウキの悲鳴だけが聞こえ、俺の世界は光に埋め尽くされた………
◇◆◇◆◇
腕が千切れ、身体はヒビが走る。
もう動くリソースは存在しないだろうその姿に、ユウキは涙を流し見つめるしかない。
【君はよく戦った。奪う為に生み出され、終わりを迎える為に戦い、そして散る】
トワイスはそれを否定しない。
その生き方はNPCとして生み出され、それでも自分であろうとする姿は人間らしさがあった。
最後までユウキと言う人間を守ろうとする同類に、ただ理解者に成れなかったことだけが残念で仕方ない。
【君の人生はいまここで終わりを迎える。さらばだメイト君、世界を殺す為だけに作り出された、哀れな同胞よ】
そう言い、その身体へと無数の光が降り注ぐ。
覚者が最後に与える。終わりが降り注いだ………
次回、聖杯戦争の勝者が決まります。
それでは、お読みいただきありがとうございます。