ソードアート・オンライン・フェイトアンコール 作:にゃはっふー
誰だ?
――貴方はまだ願いを叶えていない――
君たちは………
――仮想世界を殺し、彼女を殺して、彼らを開放した――
――聖杯を使えるか分からない。だけど使えたのなら、あの小さな少女を救う願いを――
――そして――
――私たちの願い、死から生まれた貴方だから、彼女のマスターである貴方にしか頼めない――
――俺たちの願い――
ああ……。そうだな、そうだった。
――さあ立ち上がれー―
ああ。俺は止まることは許されない。俺はそれだけの罪を背負ったのだから………
結局のところ、俺の旅路は人殺しで終われと言う酷い話だった。
全て始まりから終わりまで分かり切っていたこと。
キリトを見ても俺の元になったデータ所有者であると分からなかった。分かり切っていたことは、自分の終わりは最低で最悪なものであると言うことだけ。
生きる意味も理由も価値も無い。
そもそも生きていない。死んでもいない。
俺はそんな人生を歩かなければいけなかった。
後悔は無い。絶望も無い。未来も無い。
変わりに幸福も無い、希望も無い、過去も無い。
俺は
「俺の旅路の先に光なんて無い」
そうだ、俺の旅路に光は存在しない。
救う為に戦っていたわけでもない。憎しみから戦い、終わらせた。
彼女を、世界を殺した罪。それは決して消えないだろう。
それでも………
◇◆◇◆◇
真っ白な光が世界を包む。そんな中、声が聞こえた。
ただ一人の少女の声。
俺に刻まれた名を呼ぶ、叫び声だ。
「セイバー………」
まだ戦える。
戦う。
それが、
「断片でできた虚空の感情。俺の、意思ッ!!】
俺を彩る
何かを生み出すことも、作り出すこともできない。終わらすことが目的の人生。
だが、それでも、なお。
光り輝くそれらはユウキを始め、多くの人がくれた、俺にくれた輝き。
【『令呪を以て命ずる、全快せよ』】
爆発するように輝きが増す。
赤い輝きは薔薇をまき散らし、情熱の皇帝は静かに剣を握る。
『まだ戦うのですか、薔薇の皇帝』
「無論ッ! 貴様には勝たねばならない。もう二度と負けるものかッ!!」
走る彼女を見ながら、無数の腕が俺に食い込む。
トワイスから黒い腕が生え、俺の肉体を侵食する。
【君は戦うと言うのか、終わる為に。全てを賭け、生を捨て、死へと進み、終わりへとたどり着く為。その為だけに全てを捧げるのか】
【ああ】
覚者へと迫る薔薇の皇帝へ、俺は捧げる。
【『二度令呪を以て命ずる、我が全てを使い、汝の劇場を創り出せ』】
その瞬間、薔薇が世界に舞い上がる。静かに光よりも多く。
輝きを遮り、その光を我が物にする。
「我が才を見よ、万雷の喝采を聞けっ! 座して称えるがよい。黄金の劇場ッ!!」
空間が彩られる。
彼女が生前作り出した、黄金の劇場。赤き薔薇が舞い、世界を包む。
「『
彩られた黄金の劇場。深紅の薔薇が舞い上がり、世界を照らす輝きを遮る。
だからこそ彼女に全てを捧げよう。
そしてたどり着こう。我が終わり、旅路の終わりを。
【『三度令呪を以て命ずる、セイバー、勝利をこの手に』】
その赤い閃光は綺麗で儚く、そして真っ直ぐ覚者へと迫る。
【愚かな】
激突する輝きの中、トワイスから無数の暗闇の腕が俺を取り込もうとする。
だが、
【………?】
だが、
【俺は終わりの為に進んだ】
ひび割れ、闇は消え、眼光が輝く。
【バカな。君は】
【俺の終わりはこれでいい、だが彼らの世界、彼らの明日、なにより、この世界の終わりを、彼女の悲劇を、俺は否定する】
そう、俺のように生まれたわけでない彼女の存在が悲劇であるはずがない。
歪められた彼女の存在を、きっとキリトたちが正してくれる。彼らがきっと変えてくれる。
あの時彼女のため涙した全ての人たちが、この世界に生まれた彼女に意味を与えてくれる。悲劇であるはずがない、間違いであるはずはない。
存在するべきではないと受け入れた
彼女自身がそう願い、叶えられなかった願いを。彼らが叶えてくれる。彼女は生まれたことを人々から祝福される日が、どんな形だろうと必ず訪れる。
だから俺は、
【俺は悲しみを終わらす、その為に生まれたッ!!」
暗闇が消え、俺の傷は消え、叫ぶ。
「彼らの世界に悲劇はいらない、彼らはきっと、自ら輝かしき明日を創るのだから」
もう悲しみは、憎しみは、絶望は終わりを告げた。
こんな形で終わらせるためでは無い。きっと未来で彼らが意味を創り出す。
ソードアート・オンラインはきっと誰かの心を照らす光になる。それを異物である俺たちが、邪魔するわけにはいかない。
「セイバーッ!!」
【バカな、君も………】
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
二つの剣を構え、交差させた。
「『
紅き閃光が覚者を斬り裂いた。
輝きが消えていく、闇が消えていく。
【死者が、生者に………こんな】
トワイスへと二つの剣を叩き付ける。
斬り裂かれた彼は信じられないと言う顔のまま、静かに光の中に消えて行った。
「これが俺たちの旅路の答えだ」
こうして俺の、俺たちの旅路は終わりを告げた。
◇◆◇◆◇
「メイトっ!」
ユウキが近づいてくる。その場に座り込みたいがまだのようだ。
「よかった」
「大丈夫なのメイト」
近づいて来たユウキに対して、セイバーは地面に剣を刺して倒れるのを我慢していた。
「余ももう限界だな………」
ボロボロの身体で無理に回復させたのだから仕方ない。すでに肉体の維持も限界のようだ。
お互い砕けた身体。消えていく彼女を見つめながら近づく。
「助かったよ」
「うむ、余、頑張ったぞ」
嬉しそうに報告する彼女に、俺は、
「最後に現れた覚者たちの所為で願いが五つとか六つになった」
「まったくだ。だが、もしかしたら二つ目は叶うかもしれんぞ」
聖杯の戦いに勝利した。ならば俺は願いを叶えられるかもしれない。それでもNPCである俺が、聖杯に手に入れる権利があるか分からない。故に彼奴、トワイスは永遠に勝利者を殺し続けた過去を持つのだから。
「まあ、期待しないではおくよ」
なにより
おそらくそれよりも速く俺は消去されるだろう。
「うむ、まあ良い。それで、そなたの三つ目はなんだ?」
そう満面の笑みを見せる彼女に、俺は両手を広げ、
「あなたに万雷の喝采を。薔薇の皇帝、我が愛しきサーヴァント。ネロ・クラウディウス」
そう言い、俺は拍手した。
驚くセイバー、いや、ネロは俺を見つめている。
「………そなた」
「俺は〝岸波白野〟であり、もう一人〝岸浪ハクノ〟でもある」
そう言い、彼女を静かに抱きしめた。
「あなたの願いを叶えよう、我らの愛おしき薔薇の皇帝」
「!?」
「『約束した
抱きしめながら頭を撫で、彼女の願いを叶える。
俺の最後の願い。俺が抱える、ムーンセルの死が背負った願い。
ネロは俺を抱きしめ、俺は彼女を抱き上げる。その手はただ愛を求めた少女の力。その手の感触を感じながら、彼女を抱きしめた。
「………さらばだメイト、我が奏者たちよ」
「ああ」
彼女が光と成り消える中、手のひらに赤い薔薇の花びらを掴み、静かに風に乗せた。
「ありがとう、ネロ。俺の旅路を、情熱で彩ってくれて………」
◇◆◇◆◇
全てが終わり、鐘の音が鳴り響く。
「もうすぐこの世界は消える」
「メイトは………」
「俺はNPC、この世界と共に消える定めだ」
それを聞き、ユウキは複雑そうに俺を見た。
「怖くないの」
「ああ」
「悲しくはないの」
「ああ」
「どうして」
それは、
「俺の大切な人たちが、生きて明日を迎えられるから」
その言葉にはっとなり、ユウキは静かに複雑そうな顔をする。
「………ボクは死ぬ為に生まれて来たと思ってた」
顔を下に向け、涙の粒が落ちる中、彼女は薔薇が舞う世界で涙を流す。
「何も生み出さず、何も与えることもせず、たくさんの薬や機械を無駄使いして………周りの人たちを困らせて、自分も悩み、苦しんで………」
突然俺に抱き着き、その顔を胸に埋めて来る。
涙を流しながら、その顔を埋めて言う。
「その果てにただ消えるだけなら、この瞬間いなくなった方がいい。何度も何度もそう思ってた」
だけどと彼女は言う。
「ボクの病気が治るって、先生が言った。ボクの家族は救えるって、遠くの外国の人が言ってくれた。ボクたちはまだ、生きられるって」
そう言い、俺を見つめるユウキは涙で顔を歪め、その顔でずっと泣いていた。
死の宿命から解放された少女は、死を定められた俺に涙する。
「メイトはなんで戦えたのっ!? メイトはどうして」
「………」
涙を流す少女に対して、俺は静かに、
「俺は君たちを守りたいから戦える。そう言ってくれたのは君だよ、ユウキ」
その言葉に彼女は涙が流れ、なにも喋れなくなる少女。
その涙をぬぐいながら俺は言う。
「俺の存在に、意味も、理由も、価値もいらない。そう思うほど、この生き方が尊いものと感じられた。ネロが、キリトが、アスナが、クラインたち。ユウキ」
鐘が鳴り響き、日の境目の中で、俺は一人の少女を見る。
「君たちが俺に意味をくれた、理由をくれた、価値をくれた。君たちを守ることこそ、俺がこの旅路で何者にも明け渡すことができない尊いものであると宣言する」
「メイ、ド………」
「君もその一人だ。ユウキ」
「ボグば、まだ………」
「君は与えることができた。何も無い、ただ世界を殺すために作り出されたちっぽけな存在に、自分は誰かを助けたいから戦っていると意味をくれた」
それにユウキは涙を流す。静かに抱きしめ、静かに呟く。
「ありがとう、俺の為に泣いてくれて。ありがとう、俺に意味を与えてくれて」
「メイ………ト……」
「君は生き続けろ、ユウキ。俺は願う、聖杯にも、奇跡にも願わない。これは俺が、俺として願う、ただの願い。ああそうか、俺は願いばかりあるんだな」
世界に与えることができないと思っていた少女が涙を流す。なんてことは無い、ただ彼女は与えることができたのだから。
「笑って欲しい、俺は君の笑顔が、みんなの笑顔が大好きだよ」
それに彼女は首を振り、ただ消えるその瞬間まで、彼女は涙を流し続けた。
けして目をそらさず、最後まで安らかな顔で消えるただの〝モノ〟へと、涙を流し続ける。
◇◆◇◆◇
不思議な人たちと出会った。不思議に経験をした。
それはボクには複雑で、悲しくて、それでも忘れることなんてできない体験。
与えることができないボクに、生きる意味を教えてくれた。
きっとボクは彼にこう言える。
彼もまた与えることができた。ボクは彼からもらったあたたかな思いを持って、いまを生きる。
こうして聖杯戦争とSAO事件。二つの戦いは終わりを告げた………
映画館のような場所がある。二人の元マスターはその映像を見終えて、静かに拍手を送る。
「あなたたちの願い、俺たちの願いは果たした」
「いいのかい? 君の願いは」
「俺の願いはあなたたちの願いでもある。岸波白野、岸浪ハクノ」
「それもそうだね」
「それじゃ、俺たちは行くよ。君は?」
「やるべきことがあるから」
「そう」
二人のマスターは消え、彼は劇場の中、静かに目を閉じ、立ち上がる。
「さあ、行こうか」
そして彼は歩き出す。終わりを定められ、終わる為に行き、その為に死ぬ為に。
それでも、彼は微笑みながら、その道を進む。
「彼らの未来を信じて」
ただ、歩くことを止めない。