(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚)評価が赤い …だと…
全国小学生バドミントン選手権。女子の部が執り行われているそれなりに大きな体育館。その2日目の正午。出場している選手達は思い思いに時を過ごしていた。
休憩時間の使い方は選手によって様々だ。体力回復に余念がない者。しっかりと補給をしている者。体を温め続けている者。気分転換している者。人によってすべて異なる。
予選を勝ち抜き、トーナメントに生き残っている強豪の一人、志波姫唯華は最後者だった。軽食を取り、ストレッチを終えた後、体育館裏をブラブラと歩いている。この日は屋内でスポーツをするには勿体ないほどの快晴で、原っぱを歩くだけで心地いい。
───ほんとなら寝転がりたいくらいだけど…
ウェアを草で汚したくはないし、下手に止まってほぐした体を固めたくない。折衷案として、小柄な可愛らしい少女は木漏れ日が漏れる中を散歩することにしていた。
───ん?
破裂音。耳慣れたラケットがシャトルを打つ音が聞こえてくる。
───先客がいたか、場所変えようかな
踵を返そうかとも思ったが、誰が打っているのかが気にかかったため、やめた。壁の向こうを覗き込む。
そこにいたのは二人の男女。といっても幼い。一人はまだ確実に小学生で、向かい合っている男の子も恐らくそう年の離れた少年ではない。でもやはり彼は年上なのだろう。一緒にバドミントンをしている女の子より背は高く、上手だった。唯華から見れば、お兄さんと思えるくらいの少年だった。プレイのレベルは高い。特に男の子の方は上手いと思わせるショットを打っている。
シャトルが地面に落ちる。ポイントを取られたのは女の子だった。点を取られたというのに、少女は笑ってシャトルを拾う。その様子を見て、唯華は驚いた。
黒髪の少女は二人のうちの一人を知っていた。それも当然。強豪ひしめく全国大会の中で、2日目まで生き残っている強者。それも次の自分の対戦相手なのだから。
彼女の試合はいくつか見た。この歳で自分でもわかるほど完成されたバドをする少女で、プレイ中もあまり笑わない。早熟な、心無い言葉を使うなら、子供らしくない、完成し切ったバドミントン。それが唯華が抱いた益子泪の印象だった。
けれど、目の前の少女はそんな印象とはかけ離れていた。目に見えないネットを挟んで、男の子とバドミントンをする泪はいつも笑顔で、とても楽しそうにプレイしていた。
───あの子のライバルは、お兄さんだったんだ。
「はっ」
少年のショットが泪目掛けて飛んでいく。ボディへのショット。身体の真正面目掛けて打たれるそのショットは返すのが非常に難しい。しかしそれと同時に打つのも同じくらい難しい。バドミントンのシャトルは空気抵抗の影響を受けやすい。少しでも狂えばボディショットは相手のチャンスボールに早変わりする。非常に高い精度が求められるコントロールショットなのだ。
しかし、少年の打ったシャトルはは寸分狂わぬ完璧な軌道を描いた。
「ほっ、と」
苦し紛れに返したことで、浮いてしまったシャトルをプッシュする。ほぼ一直線に地面に落ちた。
「ゲーム、21ー6。マッチワンバイ、お兄ちゃん選手」
少年がラケットを肩に担ぐ。尻餅をついた泪は少し恨みがましい目を兄へと向けた。
「普通、試合前の妹負かす?悪いイメージついて負けちゃったらどうすんのさ」
「手加減したらもっと怒るくせに。面倒だな、泪は」
「もう一回!もうワンセット!」
「ばっか、試合前だぞ。ここで体力使ってどうする。今日はここまで」
「勝ち逃げ!ずるい!」
「その元気は大会にとっておきな。もうおしまい」
ずるいずるいと喚く少女を無視するように、シャトルとラケットをケースへとしまう。少年が唯華と目が合ったのは、彼がケースからウォークマンを取り出したその時だった。
「おや?君は……」
「もういっかい!せめてもういっきゅ……お兄ちゃん、誰?その子。知り合い?」
「なんで泪が知らないんだよ。お前の次の対戦相手じゃないか。確か名前は……」
「し、志波姫唯華です!覗き見してゴメンなさい!」
「はは、綺麗なおじぎだね。謝らなくても良いよ、志波姫ちゃん。こんな人目につくところでプレイしてる方が悪いのさ」
手を差し出す。柔らかく広げたマメだらけの手は握手を求めていた。
「益子推。この子の兄です。妹をよろしく」
津幡路と志波姫唯華、そして益子泪。のちに高校バドミントン界で、三強と称される強豪が始めて一堂に会した大会で、二人は出会った。
▼
ガシャコン
自販機からミネラルウォーターが落ちてくる。
「ん〜!日本のシンカンセンって快適〜。全然揺れないし早いしダイヤズレないし」
「コニー、何飲む?」
「あ、じゃあアクエリアス」
「ん」
電子音と共に出てきたスポーツ飲料を、サングラスをかけたブロンドヘアの少女、コニー・クリステンセンに放る。片手で受け取った。
「日本の自販機って便利ね」
キャップを外しつつ、コニーが感嘆する。言わんとすることはよくわかる。海外の自販機は手順が複雑で面倒なのだ。小銭を入れるだけ入れて、機械に飲み込まれることもしばしば。何も考えず、一気に硬貨を入れることなどまずありえない。必ず一枚ずつ入れ、金が落ちた音を確認しなければいけないのが、ヨーロッパの自販機の常識だ。
「数も多いし、使い勝手もいい。たしかにこれは便利ね」
「コレが当たり前だと俺も思ってたからなぁ」
街を歩けばどこででも喉を潤せる。几帳面で用心深いのがこの国の風潮だ。
「あ、お兄ちゃん、お金…」
「いーよ、コニーまだユーロしか持ってないだろ。奢りだ。先日のデンマークOP出場祝いだと思ってくれればいいさ」
「でもお兄ちゃんも出たのに」
「二回戦で負けたがな……というか、そんな事よりそのお兄ちゃんてのやめてくれないか」
ヨーロッパでは滅多に日本語が分かる者などいなかったから放置していたが、この国でその呼称を、しかもブロンド美少女に使われては何か変なプレイを強要しているように見られる。
「でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?私達、ママの子供なんだから」
───教え子ってだけで、子供じゃないんだが…
自分もキャップを外し、中のミネラルウォーターを飲む。湿気のある暑さが少し和らいだ気がした。
───それでも確かに、あの人のおかげでプロの試合に勝てるようになってきたのも事実か
ヨーロッパに渡ってから、最も長く共に時間を過ごしたのがコニーだった。お互いヴィゴにスカウトされたからか、練習もしょっちゅう一緒だったし、試合なんて数え切れないほどやった。確かに疎遠になってしまった本当の妹より兄妹らしい関係かもしれない。
「好きにしろ」
「うん」
仙台駅のエントランスから出る。その時、コニーはカバンからキャンディを取りだしていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なに?」
「……私達、こっちでお姉ちゃんに会えるかな?」
「…………綾乃ちゃんか?彼女、神奈川にいるんだっけ?」
頷く。コニーの留学先は宮城だ。気軽に会いに行ける距離ではない。
「…………ま、バドやってれば会えるんじゃないか?」
「そうだよね!絶対会って、ママの娘は私一人だって証明しなきゃ…」
「…………前々から思ってたんだが、お前なんで俺には敵愾心見せないくせに綾乃ちゃんにはメラメラなの?」
手を握り開きし、戦意を剥き出しにしているコニーに、以前から聞きたかったことを尋ねる。するとブロンドの妹分はキョトンとした表情でこちらを見上げた。
「だって、スイはママの息子で、バドミントン家族でしょ」
何を当たり前のことを言ってるの、といった感じで応えたコニーの言葉に思わず詰まる。家族か、と小さく呟いた。当たり前でいて、とても重い存在だ。
「息子はいいのか」
「お兄ちゃんがいいの」
ミネラルウォーターを呷る。気恥ずかしさを誤魔化すためだった。
「コニーさぁん!益子コーチ!」
名前を呼ばれ、二人とも視線が同じ方向へと向く。『ようこそ、コニー・クリステンセンちゃん!』と書かれた横断幕を持った少女が走ってくる。日焼けが健康的な、可愛らしいという形容が似合う少女だった。
「私が皆を代表して迎えに来ました!コニーさん、益子コーチ!多賀城ヒナです!早速案内します!こっちです!」
「あ、ちょっと!」
コニーの腕をとって走り出す。見た目の印象通り、活発な女の子だ。少しみっちゃんに似てるな、と思いつつ、イヤホンを耳にかけ、ウォークマンのスイッチを入れた。
▼
『フレゼリア女子』と銘を打たれた校門のすぐ横で、一人の少女がふぅー、と一つ大きく息を吐く。胸に手を当て、大きく上下させた。それでもどこか浮ついた感覚は彼女から消えなかった。
「唯華?」
自分が滅多に見せない緊張した様子からか、副主将の美里に怪訝な顔をしている。何でもないよ、と笑顔で手を振った。
───私、緊張してる
胸に触れた手から心臓の鼓動が聞こえてくる。いつもより、早く大きく鳴っている。こんなにドキドキするのはいつ以来だろう。全国ベスト8を決めた試合でも、ここまでソワソワはしなかった。
───でも、それもしょうがないか
なにせあの総体決勝以来の再会だ。しかもあの時、彼が優勝した後、声を掛けに行ったけど、どこか上の空で、しっかり話せた気はまるでしない。周りに人も多くいたし、あの試合の後だ。推さんも話どころじゃなかったんだろう。
こんなに近くで、しっかりと会えるなんて本当に何年振りかわからなかった。大丈夫と言い聞かせても不安は募る。ちゃんと立派な主将に見えるだろうか?成長したと言ってもらえるだろうか?そもそも、彼は私を憶えているだろうか?不安に思い始めたらキリがない。
「……ねえ、さき。私、変なところないかな?」
毛先を弄りながら尋ねる。今日この日のためにしっかりと準備はして来たし、朝にはしっかりシャワーも浴びてきた。汗臭いという事は絶対ないはずだ。下着も黒でバッチリ勝負に出てきている。しかし、自分の目ではわからない何かがあるかもしれない。
「さっきから様子は変だと思ってるけど」
「そうじゃなくて、不恰好なところはないかってこと」
「唯華はいつも可愛いよ」
「髪型とか崩れてない?クマとかシミとかないよね?大丈夫だよね?」
「う、うん。少なくとも今日は」
バドミントンに青春を捧げているスポーツ女子なのだから、髪型が崩れることなど、ザラにある。だから美里は『今日は』という表現を使った。そして唯華にとってはその一言が最も重要だった。
今日、最低でもこの瞬間だけは綺麗でいたい。人間第一印象で八割が決まる。数年振りに再会して、だらしない女だなどと、絶対に彼に思われたくない。
「おー、来た来た」
色黒スポーツ少女、多賀城ヒナがブロンド髪の女の子の腕をとって元気よく歩いていた。その少し後ろから、二人分のバドミントンバッグを背負って眼鏡をかけた美青年がいた。
───ホントに、いる!
まだ顔がはっきりと見えるほどの距離ではないが、わかる。服の上からでもわかるすらっとした長い手足。身長は自分の記憶より少し高い。しかし、陽の光に煌めく黄金色の髪に知性を感じさせるあの瞳と眼鏡は変わっていない。歩きながら周囲を見渡している。
「コニー・クリステンセンさん!無事に連れて来ましたー!!」
「ご苦労様。あらあら、早速仲良くなって」
「別に、仲良くなんか…」
馴れ馴れしく近寄っていた多賀城をコニーが引き剥がす。その間に金髪の青年が二人に追いついた。
「日本語、喋れるのね。私はキャプテンの志波姫唯華」
「副キャプテンの美里さきです」
コニーへの挨拶を終えると、唯華は一歩前に出る。顔は努めて平静を装っているが、心臓は早鐘を打っていた。
唯華と推の目が合う。眼鏡を掛けたくすんだ金髪の青年は耳からイヤホンを外し、ウォークマンと共にポケットにしまうと、懐かしさを滲ませた笑みを見せた。
唯華の胸にズクッと痛みが走る。大袈裟な表現かも知れないが、少なくとも唯華にとっては、久しぶりに見る大人になった推の笑顔はそれほど強力で魅力的だった。
一度軽く咳払いし、目を瞑る。顔を上げた時、唯華はいつもの堂々とした笑顔で推に応えた。
「お久しぶりです、推さん」
「覚えていてくれたか、唯華ちゃん。わざわざ出迎えに来てくれてありがとう」
手が差し出される。柔らかく広げたられた手は記憶しているものとはまるで違う。節くれだったスラリと長い指は否が応でも異性を感じさせる。
しかし、変わっていないものもある。こちらを見つめる優しい目と手にできたマメの位置は、初めて握手を交わしたあの頃と全く同じだった。
「君は初めましてだね。君たちの臨時コーチを務めることになった、益子推です。こちらこそよろしく」
微笑を浮かべ、美里にも握手を求める推に、初対面の副主将は思わず見惚れた。若い男のコーチが来るとは聞いていたが、こんな貴公子然とした王子系美男子が来るとは思っていなかったのだろう。最近のテレビで量産されてるなんちゃって雰囲気イケメンとは格が違う。彼に見惚れる気持ちはわかる。
わかるが、看過できるかはまた別の話だ。肘で軽くさきを小突く。すると我に返ってようやく握手に応じた。
「しかし本当に久しぶりだな、唯華ちゃん。しばらく見ない間に、随分綺麗になった」
「ありがとうございます。推さんもかっこよくなってますよ」
「……お兄ちゃん」
少し暗い声がブロンドの少女から上がる。『ああ、ごめんごめん』と推は慌てて謝った。
「彼女が今日から君たちのチームメイトになるコニー・クリステンセン」
「お兄ちゃん、わざわざ紹介とかしなくていーよ。私は部活動頑張るために来たわけじゃ──イタッ」
余計なことを言おうとしたコニーを小突く。無駄に火種を撒こうとするなと注意した。
「いったいな。お兄ちゃんだってそうでしょ?私達プロなんだから」
「お前はともかく、俺は違う。というか、日本にバドのプロはないから」
会話を聞いたフレ女バド部員は憧れの視線を彼らに向ける。二人のやりとりはどうみても大人のやりとりだ。青春真っ盛りの彼女らは大人に憧れる。クールとか、カッコいいとかは非常に魅力的だ。
増して相手はスタイル抜群のブロンド美少女、コニー・クリステンセンと知的王子系イケメン、益子推。高身長のコニーが少し見上げるこの構図は非常に画になる。二人ともクールでカッコいい。少なくとも、見た目は。
「ま、いっか。今日はもう長旅で疲れちゃったし。お兄ちゃん、部屋どこか知ってる?」
「知るわけないだろう。来たばっかだぞ」
「それもそうね。ならえっと…誰だっけ、そこのアナタ」
迎えに来ていた副主将に案内を求めようとする。それ自体は構わないが、流石に数秒前に聞いた名前すら忘れているその態度に問題があると感じた推は注意しようと一歩踏み出す。
「───?」
胸に優しく触れられ、軽く押される。推の行動を唯華が止めていた。シーっと、人差し指を立てると一度ウィンクし、イタズラな笑みを浮かべた。
「ほー。案外可愛いの履いてるんだなー」
唯華は堂々とスカートの中を覗き込んでいた。慌てて推は視線を伏せる。コニーは羞恥で真っ赤になり、声にならない叫び声を上げていた。
いくら同性とはいえ、こんな屋外で堂々とスカートをめくられては堪ったものではない。もし男がやったなら……いや、女でも充分セクハラだが、男なら即逮捕だろう。訴えられたらほぼ間違いなく負ける。
「ちなみに私…今日は黒。特別な人と会う予定だったからね」
流石にこれはコニーにしか聞こえない程度の小声で言う。万が一でも、推に聞かれてはいけない内容だ。
「一応もう一度言っとくけど、私、主将だから。よく覚えておいてね、お嬢ちゃん」
「なっ、馴れ馴れしくしないで!私は大人で!一人で生きていってるんだからねー!!」
唯華がコニーの首根っこを引っ掴んで連れていく。人間関係の構築において、唯華は完全にあのコニーからマウントを取っていた。
───心理戦が得意な子だとは知ってたけど…
「何というか…強かになったなぁ、唯華ちゃん」
「名門フレ女のキャプテンですから。地元じゃ負け無しだった鼻っ柱の強い一年生とかもいますからね。益子コーチはこちらへ。体育館に案内します。お住まいに関しては先生から伺ってください」
「えっ、お兄ちゃんもこっちに住むんじゃないの?」
「そんなわけないだろう。女子校だぞここ。俺はアパート借りるんだよ」
「じゃあ私もそっちに…」
「はいはい、貴方はこっち。ちなみに私と同室」
「ノン!嘘でしょ!こんなヘンタイとなんてイヤ!お兄ちゃん助けて!」
「諦めろ、規則だ」
「なにコニー、寂しいの?大丈夫よ、ベッドに来てくれれば、いつでも私が抱きしめてあげるから」
「行かない!」
コニーと唯華のやり取りを横目で見る。案外良いコンビになるかも、と思いつつ、推は体育館へと向かった。
あとがきです。リハビリで書いた小説だったので、酷評も覚悟していたのですが、評価が赤くなっててびっくりでした。まだ一話目だと言うのにお気に入り登録件数も100件を超えていて、驚きと感謝ばかりです。というわけで連載していく事にしました。これから感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でもいただければ幸いです。時間がかかっても、頂いたコメントには必ず返信します。