兄より優れた妹しかいねえ!   作:フクブチョー

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5th shot 新妹、古妹を知る

 

 

 

 

 

 

 

コツンと固い何かがフロアにぶつかる音が響く。白帯の内側にシャトルが落ちた瞬間、羽を追いかけていた少女、志波姫唯華は大の字になって倒れた。

 

「ぷっはぁあ……」

「はは、頑張ったな」

 

バドミントン界期待の新鋭であり、先程まで唯華と試合をしていた青年、益子推は微笑する。彼女の気持ちはよくわかった。あれだけの無呼吸運動を連続で繰り返したのだ。緊張の糸が解け、ようやく大きく呼吸できる感覚は大いに共感できる。

ゲームが終わり、駆け寄ってきたコニーからタオルとドリンクを受け取る。激しい無呼吸運動を繰り返したのは推も同じだ。流石に肩で息はしていないが、身体からは湯気が上がっている。

 

「随分手こずったね。手加減し過ぎだったんじゃない?」

「してないさ。ちゃんと本気で戦った。お前の時と同じでね」

 

勝負モードではなく、教育モードでだが。

 

「唯華、大丈夫?」

 

副キャプテン及び数名の部員達は唯華に駆け寄っていた。彼女の表情はここからではわからなかったが、オッケーと指の輪を作ってみせていたのだけは見えた。

 

「…………まあまあやるわね、あのヘンタイ」

 

少し不服そうに、けれど確かにコニーは唯華を強敵と認める。テクニックやセンスだけではない。圧倒的な強者相手であろうと最後まで諦めなかったメンタルをこそ、コニーは評価していた。言葉にすれば簡単だが、諦めないというのはとても難しい。ましてや相手はあの益子推。負けて当たり前と思えるほどの相手に食らいつくのは本当に至難だ。コニーも、推も身をもって理解している。

 

「春大会の優勝者なんだ。並じゃないさ。事実上、高校女子バドミントン日本一に近いと言ってしまっても言い過ぎじゃないだろ」

 

いくら巧かろうと、身体が強かろうと、根性がなくてはその頂には辿り着けない。華麗さと泥臭さを唯華は既に兼ね備えている。それはコニーには少し足りない部分だった。

ネットをくぐり、唯華の元へと歩く。コニーから渡されたドリンクを大の字で横たわる唯華の顔の横へと置いた。

 

「唯華ちゃん」

 

ちゃん付けが戻る。相手を呼び捨てにする時は、一人のバド選手として戦っている証だとコニーだけは知っていた。

 

「疲れてるだろうけど、俺は今コーチだから、アドバイスだけはしておく。君は最初、ドロップをプッシュで叩き落とした俺を見て、俺を格上と判断……いや、多分再認識した。だからこそその後は受けに回り、俺の分析に徹した。それは勿論間違ってはいない。真っ向勝負で勝てないなら勝てる部分を探る。正攻法だ」

 

(すい)(ゆいか)では馬力が違う。言うなれば、時速300kmのバイクと150kmのバイクでレースをするようなもの。まともにやって勝てるわけがない。

だから勝てる部分を分析で探り、そこで勝負する。戦術としてはとても真っ当だ。事実、推も海外の大会ではほぼ戦術と感性で勝ってきたと言っていい。体格に恵まれているとは言えない部類である推は、ヨーロッパの選手達とくらべ、フィジカルでは圧倒的に不利なケースばかりだった。その差を埋めるためにテクニックを磨き、ディフェンスを磨き、フットワークを磨き、速攻を磨いた。相手が時速300キロに到達するのをひたすら邪魔し、それでいてこちらはマックスの馬力を出せる土俵に引きずり込んで戦った。

 

「だがこれは長丁場戦う時とか、力押しだけのパワータイプ相手なら有効なんだけど、今回みたいなたったワンセット、もしくは相手の引き出しが多過ぎてフルセット使っても分析しきれない相手の場合、最後まで後手に回ってしまい、ジリ貧のまま負けてしまう」

 

言ってて悲しくなってくる。泪相手にボロ負けした時、俺はまさにこのケースでジリ貧どころか、いいとこ一つもなしで終わってしまった。

 

「唯華ちゃん。最善手を出し続ければ勝てるというほど、バドミントンは単純じゃない。まあだからこそ面白いわけだが……悪手と分かっていても打たなければいけないショットはある。そして確実にポイントを取られてしまうようなベストショットを敵に打たせなければいけない局面も必ずある」

 

ベストショットを終盤まで封じ込めるというのは言い換えて仕舞えば得意ショットを終盤まで温存されるということになる。その場合、最後の土俵際で寄り切られるという状況を作りかねない。

 

「たまには不合理に身を委ねてみるといい。そこで120点が取れれば、きっと君にとってバドミントンはもっと面白くなる」

 

手を差し出す。柔らかく広げられた、マメだらけの手を唯華は躊躇なく掴んだ。

 

「…………私にそんなプレー、できますかね?」

「できる、というか、出来てたさ。最後の方は実に楽しかった」

「実は必死過ぎてあまり覚えてないんですけど」

「ははっ、あるある。俺の場合、気がついた時にはホールの廊下でタオル被ってた」

 

唯華の言葉を聞き、快活に笑う。極限の緊張と疲労の中で頭が真っ白になるというのはよくあることだった。

 

「監督」

「そうですね。今日の練習はここまで。皆、クールダウンして休むように」

『はい!』

 

部員達が最後のランニングを始める。ネットが取り外され、体育館が掃除され、バドミントンの形跡が無くなったのを確認すると、推は今夜の宿へと案内された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレ女女子寮。部員達の殆どが生活を送る宿泊施設。そこは寝泊まりするだけではなく、食事や入浴も行う場所でもある。寮の一階に大浴場とシャワールームがあり、栄養士が献立を管理する大きな食堂もある。部員達は練習後、ここで汗を流し、食事を摂るのが一連の流れだ。

その中のシャワールームの一室をいつもより早く使っている少女がいた。常ならば仲間達と談笑しながら行動を共にし、皆と一緒に入っているが、今日はそんな余裕はなかった。叶うならばシャワーを浴びずに寝たい程だったが、それは流石に乙女として許されない。

水音が派手に鳴り、床を濡らす中、壁に寄りかかり、座り込む。温水が志波姫唯華の全身を打ちつける。びしょ濡れになりながらも心地よい倦怠感に身を任せ、黒髪の美少女は四肢を投げ出していた。

 

「疲れた……凄く疲れた」

 

唯華が小さく呟く。たったワンセットのゲームなのに、精根尽き果てた。身体中が重い。倦怠感が全身を包み、うまく力が入らない。久しぶりのことだった。大会中など日に数試合、フルセットで行う事も珍しくない。そんなハードスケジュールを唯華は今までこなしてきた。その時でさえ、ここまで空っぽになった事などなかった。

 

でも……

 

───久々に楽しかった、かも

 

いや、絶対に楽しかった。普段の練習試合でも、手を抜いたということは一度もないと断言はできる。だがキャプテンという立場上、何もかもを曝け出すということは多分できなかった。少なくともこんなに限界ギリギリの戦いはさせてもらえなかった。仲間には使わない、いやらしいショットもふんだんに使った。そのすべてに、彼は応えてくれた。

 

───まだまだ、遠いなぁ……

 

空に向かって手を伸ばす。一年から名門校の副主将に抜擢され、そして今は主将を務めている。少なからず成長した自覚はあった。しかし、憧れた背中は近づくどころか、遠くなっていた。

 

ガラリと浴場のドアが開いた音が鳴る。恐らく、部員達がコニーを連れてシャワーを浴びに来たのだ。今から行われるのはフレ女伝統、お背中流しっこ。新入生は全員やるお約束。上級生と試合をして勝ったら洗ってもらえる。自分も一年生の頃、三年に勝って洗ってもらった。

慌てて起き上がり、背筋を伸ばす。この古き良き伝統に、主将たる唯華は積極的に参加しなければならないのだ。

 

「そ〜〜れゴシゴシゴシ〜〜〜!!」

「あばばばば!!」

 

仲間達に連れられてきたコニーを泡まみれにした時、唯華はいつもの主将の顔に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋のソファに荷物を投げ捨てる。自分の家具ではなく、ホテルの家具だ。今日1日だけ、推はフレ女から少し離れた場所を宿に決めていた。

学校側が用意してくれた職員寮でもよかったのだが、少し個人的な事情がある。

当たり前だが、職員寮には家具類など一切届いていないし、まだ人が住める環境ではない。それでも寝泊まりするだけならできなくもなかったが、まだ現地で調達しなければいけない物も結構ある。幸い、部活も明日はオフの為、自主トレ以外は特にすることもない。コーチ業とトレーニングに専念するためにも、一日も早く生活環境を整えなければならないため、日用品などの店が豊富にある仙台駅近くの宿の方が何かと都合が良い。

シャワーを浴び、ホテル備え付けの寝間着に着替える。ストレッチを済ませるとベッドに横たわった。

 

───ふぅ……

 

ようやく一つ息を吐く。思い返していたのはフレゼリシア女子バドミントン部について。目を閉じれば鮮明に浮かぶ。仲間たちと切磋琢磨し、時に支えあい、目標に向かってひたむきに努力する姿は眩しいと同時に少し羨ましかった。

 

───俺の時は、そんなことまるでしていなかったからな

 

あの頃は周りなどまるで省みてはいなかった。ただ自分が強くなる為だけに必死で身体をいじめ抜いていた。今考えれば、とんでもない新入生だったな、と思う。後悔はしていないが、間違っていたなとも感じている。

 

「…………正直、この仕事は調整くらいにしか思っていなかったが」

 

得るものは意外にあるのかもしれない。インハイ決勝を機に、段飛ばしで階段を駆け上がってきた。それは勿論悪いことではないが、早すぎる成長は選手にアンバランスをもたらしてしまうこともある。急速に成長してしまったが故に取りこぼしてしまった何かがここにはある気がしてならない。

 

「泪。お前のライバル達は、ちゃんと強いぞ」

 

いつか出会うだろう妹に想いを馳せる。おそらく彼女達は全国の舞台で戦うだろう。相手は唯華か、コニーか、綾乃か、それともまだ見ぬ強豪かはわからない。が、わかっていることもある。トーナメントとは最後の一人以外は全員敗れ、その誰もが経験する敗北は、たった一度だけだということ。

 

───その時、俺は誰を応援するのかなぁ……

 

それもその時になって見なければわからないだろう。けれど勝っても負けても、一度必ずアイツに会いに行こうと決め、推は目を瞑った。眠りに落ちるまで、意外とかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレゼリシア女子バドミントン部コーチ、益子推の朝は早い。

というか、アスリートの朝は大抵早い。早朝5時には目を覚まし、動きやすい服装に着替える。バナナを食べ、軽くストレッチした後、5〜6km走るのは幼い頃からの日課だ。

 

「あ、お兄ちゃーん」

「推さん」

 

学園の運動場、まだ薄暗い中を二人の妹分が待っているようになったのは、ここ最近の新たな日常だ。走ったまま、おはようと声を掛けると、二人とも彼に続いた。

 

「お兄ちゃん、手加減しなくていいからね」

「アップのジョギングに本気は出さん。そんな事より、お前ちゃんと学校生活送れてるのか?」

「大丈夫ですよ、部員みんなでフォローしてますから」

「手がかかるだろう。俺も苦労した」

「いえいえ、末っ子は手のかかる方が可愛いですので」

「誰が末っ子よ!私は大人よ、オ・ト・ナ!!」

 

近況報告を兼ねた雑談を交えながら、ランニングを終わらせる。シャワーを浴び、汗を流した後、早朝学習に移る。半ば強制的に海外で武者修行を始めた彼は、高校を卒業していない。今後、自由に活動するためにも高認試験を受けるべく、準備を進めている。適度に空腹で、軽く身体を動かした後は頭も良く回る。効率的に学習ができている自覚があった。

食堂で生徒達と朝食を取る。わざわざ食堂でなくてもいいのだが、部活以外でコミュニケーションが取れる貴重な場だ。可能な限り、ここで部員達と時間を共有することにしている。その甲斐あって、推とフレゼリシア女子バドミントン部員は良好な人間関係を築いている。

 

朝食後、朝練に参加する。基本的に早朝練習にコーチは参加しないのだが、現役選手である推は例外だった。

 

練習を終えた後、部員達は学生の本分へと戻る。推もこの時間は勉強に充てていた。

 

「益子君は呑み込み早いですね。この分なら今年中には試験を受けられますよ」

 

バドミントンの腕に比べ、勉強の方は特別目を見張るほどではないが、元々の地頭は悪くない推は、持ち前の勤勉さと根性を用いて順調にカリキュラムを進めていた。

 

放課後は再び部活へと参加する。ここではウエイトや体力強化メニューは共にこなすが、その後は主に球出しやノックなど、コーチとしての役割を果たす。自分のことより部員達の実力の向上へと力を尽くしていた。

 

「じゃあ今日の練習はここまで!クールダウンした後、ストレッチするのを忘れないように!推さん、お疲れ様でした」

『お疲れ様でした!!』

 

キャプテンである唯華の号令の下、体育館を掃除し、部員達が解散する。推の本格的なトレーニングはこの後から始まる。破壊と再生を繰り返すことで、筋繊維をより強くする。

 

「お兄ちゃん、打とう」

「推さん、お願いします」

 

自主練をある程度こなした後、コートに入る。対角線上にはコニーと唯華の二人がいる。彼女らをワンセットごとに交代させてゲームをするのが、推の実戦練習だった。

 

「───よし、今日はこの辺りにしておこう」

「ありがとう、ございましたっ」

「お疲れー」

「ちゃんとクールダウンしとけよ」

 

練習を終え、シャワーを浴び、ノートをつけ、高認試験の復習を行い、ストレッチした後、早めに就寝する。

コレがフレ女バド部コーチ兼現役選手としての新たな日常だった。

 

生活の場が変化することはこの2年で数え切れないほどあった為、新生活に慣れるのにそこまで時間はかからなかった。それでも飽きるということはまるでない。今が選手として伸び盛りである彼女達はたった1日、たった一つのアドバイスで別人のように変わる。日1日と成長が見て取れるこの日常は懐かしくも新鮮だ。コーチと選手と学生の兼業は想像以上にハードだったが、それすらも推は楽しんでいた。

 

そんな刺激的な日常を過ごして暫くがたったある日。

 

「神奈川遠征?」

「はい、再来週の土曜日です。推君にも勿論来てもらいますので、必要書類、用意しておいてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁーっ!運動後のスポドリのうまさったらないねぇ!」

「唯華、お父さんみたいよー」

「このため池に来てるなぁ、みたいな?」

「このために生きてるなぁ、でしょ?冗談までおじさんくさい」

 

合間の休憩時間に女子高生達の笑い声が響く。女三人寄れば姦しいと言うだけあり、これだけの人数が集まっていれば、それはもう賑やかな状態になっていた。会話は途切れることなどなく、放っておけば際限なく喋れるだろう。女性に、特に女子高生において、話題というものが尽きる事はまずない。

そしてその話題の中心に新顔であるコニーや推がなる事は必然と言える流れだった。

 

「にしても推さんがコーチしてくれるようになってから、私達絶対強くなったわよね」

「あ、それわかる!ちょっとフォーム改善してもらっただけで全然変わったもん!」

「推さん頭いいからね」

 

勉強が出来る人と賢い人は無関係とは言わないが、少し違う。難しいことをわかりやすく他者に伝えられる人こそが、頭のいい優秀な人だと唯華は考えている。

 

「推さんって一応感覚派だけど、昔から相手のことを考えてプレーするタイプの人だから、理論派のこともよくわかってる。だから私達一人一人に合わせて指導ができるのよ」

 

バドミントンプレイヤーは大きく分けて2パターン。その場でパパッと判断して行動する感覚派とデータや計画性を重視する理論派。

もちろん完全に二分することは中々出来ない。やや感覚派とかどちらかと言われると理論派など両方の素養を持つ者が殆どだ。推も例外ではない。インハイ決勝以来、今でこそ典型的な感覚派となってしまっているが、学生時代は理論派の傾向が強かった。泪に負けてから徹底的にバドミントンを変えたが、その時も理論や計算を基に鍛え直した。だから推はどちらの気持ちもよくわかる。故に経験と共感に基づき、リアルな指導ができるのだ。

 

「でも本当にうまいよね。ここ数日ほとんど二対一の状況でゲームやってもらってるけど……」

 

コニーの強打をも絶妙に殺すテクニック。特にリバースカットは絶妙。そして唯華のコントロールショットにはスピードとパワーで圧倒する。選手として恵まれているとは言えない体格でも、アレほど鋭いジャンピングスマッシュを繰り出してくる。体格やプレイスタイル諸々、唯華とよく似ている推は、ショットどころか、動き全てが参考になる。

 

「私にはテクニック。ユイカにはパワー。足りないってレベルじゃないけど、得意ではない部分を敢えて多く見せることで勉強させてるんでしょうね」

「私達みたいに直接教えて貰えないんだ」

「お兄ちゃんはいつもそうよ。手取り足取り教える事はしないの。才能のある選手には特にね」

 

唯華がその中に入っているのはちょっと気に入らないけど、と呟く。自分で見て、体感して、肌に染み込ませ、吸収する。その結果が自信となり、自分を支える背骨になる。それでなければ、本当の強さとは言えないことを推は誰よりよく知っている。

 

「ほんっと、敵わないなぁ」

「へへん♫」

「なんでコニーが嬉しそうなの」

「私の自慢のお兄ちゃんだからね」

 

豊かな胸をさらに大きく張り、心から嬉しそうに笑っている。唯華は呆れたような、共感するような、複雑な笑みを浮かべた。

 

「前から気になってたんだけど、コニーちゃんってなんで益子コーチのこと、お兄ちゃんって呼ぶの?」

「私達、義理のママにバドミントンを教わったの。だから血は繋がってないけど、バドで繋がってる兄妹なのよ」

「…………そっか」

 

血の繋がりだけを家族と呼ぶことが、間違っているとまでは思わないが、完全に正しいとも思わない。人の絆とは血ではなく、縁で結ばれる物だと唯華は信じている。だからこそ彼女は今の仲間が大切だ。

 

「他には家族いないの?」

「いるよ、そのママの本当の娘が今神奈川に。私にとってはお姉ちゃん。私はお姉ちゃんに会うために日本に来たの」

「お姉ちゃんに会うため?」

「そう、会って、戦って、ママの娘は、お兄ちゃんの妹は私一人だって証明するために」

 

『マザコンとブラコンを拗らせてる……』

 

手をワキワキさせながら、殺気を漏らすコニーを見て、フレ女バド部全員の心の声が一致する。

 

「な、仲良く出来るといいね」

 

これだけ言うのが精一杯だった。

 

「…………あれ?でも確か──」

 

小麦色の肌の少女が何かを思い出すように空を見上げる。彼女から紡がれた事実はコニーを一瞬で沸騰させた。

 

 

 

 

 

 

──ぁぁん

 

「ん?」

 

体育館にある顧問たちが使用する部屋で、推は今後のスケジュールについてまとめていた。近く行われる遠征の計画。バスや交通手段の確保。その他諸々、コーチの仕事は思ったより多い。

移動にかかる時間を考慮しつつ、練習時間やコンディションを崩さないための計画を組んでいる最中、外から何やら呼ばれたような気がして、ペンが止まったその時だった。

 

「お兄ちゃん!!」

「うわ、なんだコニーか。ノックくらいしろ。とゆーか部活中にお兄ちゃん呼ぶな。益子コーチと───」

「そんな事はどーでもいいんだよ!どーでもい・い・ん・だ・よ!!そんな事より!お兄ちゃん!」

「?」

 

「トチギに妹がいるってホントなの!?」

 

「あー。それ知っちゃったか」

「ホントなのね!アヤノといいユイカといい、お兄ちゃんは一体何人妹作れば気が済むのよ!」

 

『元々俺に妹はいなかったんだよ』という僅かな呟きは、コニーの怒号と推の胸ぐらをがしりと掴み、縦揺れさせる持ち前のパワーでかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 




時間がかかってすみません。多分年内最後の投稿です。いつのまにかお気に入り登録件数1000件超えていて驚きしかありません。ありがとうございます!さて、物語ですが、ついに隠し妹の存在が末っ子にバレました。どうする兄。それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします!
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