視界が滲む。周りがよく見えない。もう自分がどこにいるのかもわからない。いや、たとえ世界が涙で埋め尽くされていなくても、もうここがどこかなんてわからないだろう。それはそうだ。地図も、目的地さえよくわからず、兄が向かった道を覚えている限りで適当に辿っただけなのだから。
「あっ」
何かにつまづき、すっ転ぶ。膝が焼けるように熱くなったが、あまり気にはならなかった。すぐに立ち上がり、涙を拭うと、走り始める。ラケットケースを握りしめて。道もわからず、ここがどこかさえわからないが、今の自分には走るしかできないから。
でも、涙は止まらない。不安で、寂しくてたまらない。だってあの家に、あの人がいないあの家に、私の味方は一人もいない。
───1人は嫌だよ
「おい、家出娘」
よく知った音が、大好きな人の声が聞こえた。慌てて振り返る。一瞬幻かと本気で思った。
「お兄……ちゃん。どうして……」
「ここがわかったって?バカ、わかってねえよ。母さんからお前の行方不明を聞いて駅までの道しらみつぶしに探したんだよ。お前携帯持ってないし、手がかり殆ど無かったからな。もっと遠くにいたら大事だったぞ」
「そんな事聞いてるんじゃない!お兄ちゃん、今日試合でしょ!全国に繋がる大切な大会だったんでしょ!なんで……」
「んなもんとっくにデフォ負けしたに決まってるだろ。そんなことよりお前、コケたな?あーあ、膝すりむいちまって。まあそんな程度で済んで良かったけど。走りながらもっと悪いパターン山ほど想像してたからな──ああ、母さん?泪確保。派手な怪我はしてないけど転んだみたいでちょっと擦りむいてる。うん、大丈夫。歩いて帰れる」
会話しながら携帯で義母に連絡を取る兄を見て、現状をようやく理解する。本来出場する筈だった大会をすっぽかして、探しに来てくれたのだ。息を弾ませ、汗だくになって、走り回ってくれたのだ。
「………」
「ああ、じゃあ宜しく。泪、歩けるか?近くの駅まで───」
「ごめんなさい」
「わっ、ビックリした。泣くなよ泪。俺がいじめたみたいに見られるだろうが」
「ごめんなさいお兄ちゃん。私一人は不安で、お兄ちゃんと一緒にいたくて……ごめんなざいぃいいい……」
「あー、はいはい。お兄ちゃんべつに怒ってないから。デカい大会なんてこれから嫌というほどあるし。やる事ちゃんとやってりゃ、幾らでも取り返しはつくからさ。泪が無事な方がずっと大事だよ」
「ごめんなざいぃいいい、うわぁああああ!」
「だから泣かないでくれよー泪ぃ。俺が泣かせたみたいじゃねえか」
間違いなく推が泣かせているのだが、本人に自覚はない。泪も兄の腕の中で何度も何度も首を横に振った。
「ほら、おんぶしてやるから。もう泣くな」
「ゔん」
背中に背負われ、肩に顔を埋め、しばらく泣きじゃくる。兄の肩を涙でぐしょぐしょにして、ようやく落ち着きを見せ始めた。
「………お兄ちゃん」
「んー?」
「ごめんね」
「さっき聞いた」
「そうじゃなくて……お兄ちゃんの前でばっかり私、泣いたり、不安がったりして……面倒ばっかりかけちゃってるから」
そう、泪は母親の前では勿論、義父の前ですら泣いたことなど推が知る限りなかった。多少感情表現は乏しいが、年齢以上に我慢が得意な子だった。
「…………めんどくさい子ほど可愛い、か」
「?」
「いや俺だってまだガキだからよくわかんないけどさ。そうやって積み重ねていくのが当たり前なんじゃねーの?」
「当たり前って、なんの?」
「家族の」
一瞬呼吸が止まる。単純だが、泪にとって、他の誰に言われるより重く、刺さる言葉だった。
「血の繋がりとかも大事だけど、それでも俺は、家族って生まれてすぐなれるものじゃないと思う。時間をかけて少しずつ成って行くもんなんだよ、きっと」
一緒に暮らして、今まで知らなかったその人の側面を知って、気づいて、それを積み重ねる。弱さも脆さも全て受け止め、支えてくれる存在。それが家族だと推は思う。
「間違った時はごめんなさいって言って、感謝する時はありがとうと言う。怖い時は助けてって言えるのが、家族のいいところなんじゃね?」
「お兄ちゃんも、怖い時とかあるの?」
「当たり前だ。今はカッコつけてるけど、俺だって泪に情けない姿を見せることがあるかもしれない」
「お、お兄ちゃんはどんな時もカッコいいよ!」
「ありがとう。でももし俺がそうなった時は、今度は泪が俺を支えてくれよな」
コレは遠い昔の記憶。10年以上前の、兄妹になり始めていた頃の話。この約束を、数年後の兄が憶えていたなら、彼らの未来も少し変わったかもしれない。
▼
「───とまあ、そういう訳で泪は俺の義理の父親の連れ子なんだよ」
顧問などの指導者が使用する一室に踏み込んできた青い瞳の妹分に、家族構成を大まかに説明する。流石に話を聞いている間は大人しくしていたコニーだったが、終わった途端、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「そいつ、強いの?」
「強いよ。センスの塊という言葉があいつほど似合う選手を、俺はほかに知らん」
「それって私より!?」
「表現の違いだがな。才能には種類がある。お前はセンスの塊というよりは、王道プレイヤーって呼び方の方が合う」
一口にセンスといっても色々ある。日本では一瞬のひらめきや感性を才能と呼称することが多いが、体格だって天性だ。コニー最大の武器はまさに後者。高身長から繰り出されるテクニックに裏打ちされたパワーショット。スペックで圧倒するタイプの選手。まさに王道プレイヤー。無論センスもズバ抜けてるが、調子に乗るので言わない。
「私より強いの!?」
「全てが劣ってるとは思わないが……まあ実際やるとなれば苦戦はするだろうな」
「お兄ちゃんはどっちが好き?」
「は?……まあ、どっちかというならお前の方が好きかな」
泪もコニーも万能型だが、プレイスタイルは少し違う。それも当然だ。一口に万能といっても得意不得意は多かれ少なかれある。どちらかといえば俺や泪はテクニックよりのオールラウンダーで、コニーはパワーより。高身長+センスの塊である泪のバドスタイルはコニーと少しタイプが違う。
鍛えれば鍛えるほど、強くなればなるほど脳裏に深く刻み込まれたアイツのスタイルに似通っていってしまった今の自分が俺はあまり好きではない。世界を回って色んなスタイルを見てきたが、未だ憧れを捨てきれないのはインハイ決勝で戦ったあの人の戦い方だった。高身長+パワーのコニーは立花さんとよく似た万能型。俺や泪の万能型とどちらが強いかと言われれば答えは簡単に出ないが、好き嫌いかで言えば確実にコニーだ。
「…………よしっ」
試合でもみせないようなガッツポーズをとるコニー。そんなに嬉しいことだろうか?まあなんでも一番がいいコイツらしいといえばらしいが。
「ま、お兄ちゃんに何人妹がいても関係ないもんねー!そいつもお兄ちゃんとは血とか繋がってないんだし!ぶっ飛ばすヤツリストに名前が一つ増えただけよ!」
血はお前も繋がってねえだろ、という余計なツッコミはやめておく。おそらく話が10倍めんどくさくなる。機嫌が直ったんだからこのままがベストだ。
「でもなんでそいつトチギなんかに行ったの?」
「それは俺も知らん。宇都宮も一応強豪校だけどな」
それでもフレ女や栄枝高などと比べれば格付けは劣る。アイツならどんなとこだろうと選り取りだったろうに。強豪の体育会系が嫌で一般の高校に行く天才もいなくはないが、それにしては中途半端だ。泪の高校も全国区なのだから。
───遠慮?それとも両親と俺への当てつけ?理由としては後者の方が可能性高そうだが、それなら栄枝行った方がより効果的だったはず……いやまあ今更アイツがどこ高行こうとノーダメージだが。少なくとも俺は
「お兄ちゃん?」
「ああ、ごめん。何でもないよ」
これ以上考えても詮無いか、と頭を切り替える。
「話が終わったんなら出てけ。書類まとめなきゃならないんだから」
「書類?お兄ちゃんにバドのコーチ以外の仕事なんてあるの?」
「残念なことにあるんだなコレが。俺もそろそろラケットを持っているだけでいい身分ではなくなってきてる」
それも当然か。ついこの間まで自分の事しか考えていなかったとんでもないガキが今や人にモノを教えている立場になってるんだから。
「ほら、気が済んだなら練習戻りな。お前はまだ、ラケット持ってりゃいいんだから」
「うん、邪魔してごめんね。お兄ちゃん」
「…………いいって」
こういう所はコニーのいい所だと思う。「ありがとう」と「ごめんね」と「助けて」を素直に言える人は強い人だ。少なくとも俺と泪には無理だった。
「この子はどうなんだろうな」
コニーが出て行った後、手元の書類にある名前を2、3回ペンで叩く。そこには1年前、偶然見に行った全日本ジュニアで、再会した少女、羽咲綾乃の名前があった。
▼
「………今日は随分と気合入ってたな」
日もとっくに暮れ、体育館のライトが煌々と照らされる中、肩で息をして両手を膝に着くコニーに歩み寄る。通常練習後に行われる推の自主練。昨日までも、もちろん気が入っていなかったとは言わない。寧ろ部活の練習よりもノってやっていたくらいだ。だが今日のは俺との打ち合いを楽しんでいるというだけではない。何かに追い込まれているかのような、そんな感じがした。
「日本に来た目的の一つが果たせそうだからね。気合も入るよ」
「日本に来た理由?」
「来週、神奈川遠征があるって教えちゃって……」
「…………あぁ」
唯華の説明で得心がいく。事情の概ねは呑み込めた。
「それにしてもちょっと飛ばしすぎじゃない?」
「大丈夫、身体は今までにないほど充実してるから。お兄ちゃん、もうワンセット」
「いや、今日はもう終わり」
「なんで?調子は良いよ。この感覚が残ってるうちに」
「ハイになってる時の自覚症状はアテにならん。今日はもう休め。唯華ちゃん、監視よろしく」
「ラジャーです」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
まだ何か言っていたが、全て無視。ラケットを片付け、シューズを脱ぐ。
「大体、遠征合宿って言っても、北小町が来るとは限らないんだぞ?神奈川行ったからって綾乃ちゃんとやれるかはまた別でだな」
「その時は合宿抜け出して会いに行く!」
「バカ、街中で何かあったらどうする。団体行動できない奴は連れて行かないぞ」
「大丈夫よ、何が起きても責任は私が取るから」
「コニー」
声音が変わる。口調自体は変わっていない。いつもの穏やかな彼のままだ。だが明らかに声に重さが増した。
「あまり図に乗るな。お前が自分をプロだと言うのも、一人で生きてると勘違いするのも勝手だがな、それでもお前はまだ15〜6のガキなんだよ。お前程度のかぶれる責任なんざ、たかが知れてる」
まあ俺もそれを知ったのは旅に出てからだったが。
「誰がなんと言おうと、お前がなんと思おうと、今のお前はフレゼリシア女子バドミントン部の一員だ。お前が起こす問題はそのまま部員全員への迷惑になる。お前の振る舞いがフレ女バド部の振る舞いになるんだ。自分が団体に所属していることを自覚しろ。どれだけの人に支えられてバドが出来てるのか、少しは考えろ」
イヤホンを耳にかけ、ラケットバッグを背負う。これ以上話すことはもうなかった。
「…………推さんって、怒るんだねぇ」
出て行った先を唯華はしばらく見つめていた。決して怒鳴られたりしたわけではないが、明らかに怒っていた。叱られたと思わされた。キャプテンを務めるようになった唯華は言葉の重みというものについて勉強したつもりだったが、まだまだだと痛感させられる。
───諭すような口調だったのに、あのコニーを問答無用で黙らせる威力があった。私ではまだまだああはいかない。ああいう『格』みたいなのは経験積まないと身につかないだろうな
「ユイカ」
「なに?」
「ゲーム、付き合って」
「は?まだやるの?推さん休めって言ってたよね」
「いいのよ、お兄ちゃんも昔ママの言いつけ守らず、ハードワークしまくってたから」
「…………」
コーチの言いつけを無視してオーバーワーク。あの人にもそんな時期があったんだなぁ、と変な感心をしてしまう。いつも冷静で聡明な彼しか知らなかったから、尚更だ。
「──うん、だからって貴方が真似して良い理由にはならないの。人のふり見て我がふり直せって言葉がこの国にはあってね。悪いことは真似しちゃダメ。フラれて悲しいのはわかるけどね」
「…………」
「それにもしバレたら私まで推さんに怒られちゃうじゃない。私それイヤ」
「私だってお兄ちゃんに怒られるのはイヤよ」
「じゃあ大人しく上がりなさい。心配しなくても、合宿は逃げないよ」
ラケットバッグを背負い、自分も体育館を後にする。一人になっても、しばらく電気は消えなかった。
「で、結局このザマか」
合宿前日。倒れたという報告を唯華から聞いた推はコニーの元へと訪れていた。目の前には真っ赤な顔をして眠っているバカな妹分がいる。うなされる彼女を見て、推は大きく溜息を吐いた。
「推さん、ごめんなさい。ちゃんと見ておけって言われてたのに」
「唯華ちゃんが謝る必要はないよ。言ってわかるバカならこんな事になってない。体調管理も仕事だと口を酸っぱくして言ってんのに。まったくプロが聞いて呆れる」
正論だが、辛辣だ。オーバーワークは黒髪の少女にも覚えがある。それが元で去年自分も怪我をしたし、少し耳が痛かった。
───ったく。変なところばかり泪に似てるんだから
昔を思い出す。子供の頃、俺が出る大会に一緒に出場すると張り切っていた泪が、大会前日に熱を出した事があった。その後、目を覚ました泪の行動により、少し警察沙汰にまで発展したのだが、そこまでは思い出さなかった。
「無理するなって言っただろ、バカ妹が」
熱冷ましの上に手を添える。表現とは裏腹に言葉の中に愛情を感じる。なんの夢を見てるのか、エヘヘと呑気に笑った金髪の少女が唯華は少し羨ましかった。
「行くのは無理そうですか」
「無理に決まってるだろ」
「でもあんなに楽しみにしてたのに」
「俺の言うことを聞かなかった罰だ。少しはクスリになるだろう。ほら、みんなは支度して。ここにいると感染るぞ」
部屋の外で様子を見ていた部員たちに向けて手を叩く。全員この小生意気な可愛くない後輩を心から心配し、可哀想に思っていた。
───良い子たちだな。俺などより余程人間というものができている。
実力のある生意気な後輩に怒らず、心から心配するというのは簡単に見えて難しい。少なくとも俺には無理だった。生意気な
「推さんは明日遅れてくるんですよね」
「ああ、お前たちを見送った後、雑誌の取材を受ける予定になってる。でも必ず合流するから」
「その時、コニー元気だったら……」
「連れて行かない。罰だ」
「ですよねー」
部屋を後にし、二人でしばらく廊下を歩く。その姿はバカな末っ子に苦労する兄と姉そのものだった。
▼
ああ、夢だとわかる。
夢というのは基本的に眠りから覚めて初めてわかる物だ。それが例えどんなに現実的でなくても、眠っている時に夢だと気づくことはほとんどない。
しかし、その中にも例外はある。自分が繰り返し同じ内容の夢を見ている時だ。
私が今夢だと眠りながらわかってしまうコレもその一つ。
まだあどけなさが残る未成熟な暗闇の中で一人座っている。そのあまりに儚い姿を見て、私は思わず声をかけてしまう。
返事はない。代わりに向けられるゾッとするほど冷たい目。あれだけ穏やかで優しく、頭の良い少年だった彼が、自身の昏い感情をぶつけてきたのは、後にも先にもあの時だけだ。
何も言えない自分に、彼は呆れたような視線を向け、立ち上がる。未発達な背中が闇の中へと消えていく。
その背中は、とても寂しそうで、せつなくて、辛そうで、悲しくて……
どうしようもなく愛しかった。
「推っ!!」
意識が覚醒する。視界に広がるのは見慣れた天井。そして思い出す本日の予定。もう一度目を瞑り、大きく息を吐いた。
「…………会いたくないなぁ」
自分の息子ほども年齢差のある相手に萎縮している。情けないとまでは思わないが、恥ずかしい。
けれど私はバドミントン雑誌のライター。仕事はしなければならない。
「よし、頑張ろう」
起き上がり、身支度を整える。今日を示す松川明美のカレンダーには益子推選手単独取材と書かれていた。
▼
フレゼリシア女子短大付属高等学校の一室。あらゆるスポーツの名門校であるこの学校には、時折校外の人間が訪れることがある。
今日はそんなたまにある日常が訪れていた。バドミントン雑誌のライターが取材のためにこの学校を訪ねている。いつもと少し違うのは、取材対象が生徒ではなく、コーチを務めている人間だったことくらいだろう。
そして、その記者と取材対象は旧知の仲だった。
自分が元選手だった、もしくは経験者だったということはスポーツ記者にはよくあること。自身の経験に基づいて書かれた記事の方がリアリティがあるし、読者の共感も得やすいからだ。バドミントンラッシュ記者、松川明美もその一人。一時はナショナルチームに所属していたほどの実力をもつ選手で、かつて推が通っていたバドミントン教室の先生でもあった。
才能があり、努力し続ける推とは教室をやめても常にコンタクトを取っており、明美は推の事を年の離れた弟のように可愛がっていた。そして推も家族に相談できないような悩みを彼女にだけは話したりしていたこともあった。
しかし、そんな二人の交流が一切なくなってしまった時期があった。高校進学前、泪にボロ負けした直後。あまりに早熟なバドをする故、懐疑的だった泪の才能をバドミントン界がようやく認め始めた時、泪への取材が急増し、推の周りからは誰もいなくなったあの頃だ。
明美も仕事の為、泪への取材はしていた。その事を推も知っており、推が知っている事を明美は知っていた。だから彼女は推に会いにくくなり、推も明美が悩みを打ち明けられる相手ではなくなった。
あれから数年。緊張と不安で張り裂けそうになりながら、扉の前に立つ亜麻色の髪をサイドに纏めている妙齢の美女はこの日、代表選考会のため、帰国している期待の新鋭、益子推の取材に訪れていた。
扉の前で大きく息を吐く。顔を上げ、閉じていた目をしっかりと開いた。
「───?」
意を決して行ったノックには返事がない。もう一度ドアを叩くが、変わらず無反応。時間を間違えたか、と時計を見たが、ジャスト10分前だ。予定は間違えていない。
「ああ!すみません!雑誌記者の方ですか!?」
「は、はい。バドミントンラッシュ記者の松川と申します」
どうしよう、入ってしまおうかと途方に暮れていたところに一人の女性が走ってくる。恐らく用務員のおばさんだろう。自己紹介し、頭を下げた。
「すみません、実は益子さん、今日来られなくなりまして」
「えっ……」
背筋が凍る。取材記者が自分だと知って断ったのだろうか、という不安が胸の中を満たした。
しかし、その心配は杞憂に終わる。
「実はコニー……バドミントン部の子が脱走しちゃいまして!彼血相変えて探しに行っちゃったんです!」
「…………ぇえ」
一世一代の決心で臨んだ再会は思わぬ肩透かしを食らわされ、明美は膝から崩れ落ちそうになった。
後書きです。原作最新話はインハイセミファイナル佳境ですね。あの辺りも是非書きたいです。因みに松川明美と推が出会ったのは引っ越す前の一人っ子だった時。まだ泪とさえ兄妹になっていなかった頃です。その教室で、推は有千夏や綾乃と出会っています。それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします!