ダイブ型ゲームのスポーツ・格ゲー事情は複雑である。
何より、ダイブアバターとしてサーバー内にダイブした人間には当然人格権が認められており、
無秩序に身体的接触を行ってしまえば当然犯罪である。
プロならばライセンスにより条件付で認められるが、
当然のことながら野良での直接的暴力を伴う格闘ゲーム対戦は禁止されている。
格ゲーよりは制限は少ないが、当然スポーツにおいても接触ありのものはハードルが高い。
人格があると言うことは当然セクシャル問題もあり、
古典ゲーム時代には問題にもならなかったような一部の技がダイブ形式においては
「これやばくね?」と軒並み禁止削除判断になり、
時には古典ゲームでありながらキャラごと年齢認証あり、
はなはだしくはいなかったことになる場合もあった。
とくに締め技・下品技は悲惨であり、キャラ性能も古典時代とは全く
別物に変貌してしまっている。
そして身体能力の差。身体能力そのものはアバターの調整で何とかなるが、
それを生かす反応・適応力、身体を動かす経験による技術の差はどうしようもない。
CPUの動かすAIなら結局は攻略法で押し切れるように作られているが、
対人対戦においては純粋にリアル+バーチャル双方での身体を動かした
経験の差が出てしまい、
ライセンスの都合もあって純粋ゲーマーが連敗を重ねる特殊な環境が
成立してしまっていた。
自分たちが自らのダイブアバターでスポーツ・格闘を行うという固定観念が、
ダイブ形式ゲームのスポーツ・格ゲージャンルそのものを衰退させてしまったのだ。
だが、この春、その状況を覆そうと「枯れた技術」を使った
新環境が用意されようとしていた。
………………
「……出来てるぞ……」
我が家のメインサーバーにインストールしたドールマスター2888を、
俺の実況アカウントと接続して利用権を設定する。
その作業を行ってくれた我が家の長兄、俺のリアル兄貴、田中オッター信勝。
親日家という名の日本オタクである、我が家の母がつけたキラキラネーム(?)だが、
現代では珍しくも無い名前であるらしい。未来ぱねぇ。
「ありがとオタにぃ。これで格ゲーも実況できるよ」
「ん……ああ、休みと深夜は俺が使うから……」
これは「平日の、帰宅後から浅い夜の時間帯までは自由に使っていい」という
間接的な使用条件の承認だ。
オタにぃ語の専門家である……実際は同類だから共感して理解できる俺が言うんだから
間違いない。
口数少なく、報告だけ済ませて出勤したオタにぃを追うように、
俺ものんびりと都市交通システムを使って登校した。今夜はどれくらい集まるかな……。
………………
「わくわく7(セブン)!!」
来場者333人。前回よりも増えてくれた視聴者の前で、俺は今日のタイトルを宣言する。
『知らねぇ……』『のびちゃんらしいチョイス』
『名前は知ってるけどやったことない』『え?格ゲー大丈夫なんか?』
『オラわくわくしてきたぞ』『わくわくさん!今日は何を作るの?』
ふっふっふ、昨日の話を知らない人は
そのままフルコンタクトで格ゲーをやると思って驚いているな。
まあ格ゲーソフトに加えてドールマスター2888は小学生じゃ揃えるの無理だから
当然だが。
「何と、最新のドールマスター2888!格ゲーマー垂涎のシステム!
合法!合法ですよ!」
表面だけでなく中身まで用意された、リアル空間への3D映像の空間立体投影。
枯れた技術ではあったが、コスト問題により用途は限られ、
ゲームに利用される例はごくわずかのムービーやインターフェースの一部が
せいぜいだった。
だが、ある時点で発想の転換により普及への道が開かれた。
リアルじゃなくて、全てがデータで構成されているダイブ空間で投影すれば
いいじゃないか。
ドールマスター2888に利用されている、
ダイブ空間での入れ子構造のような立体投影技術である。
ダイブ空間を間接的に利用する立体投影映像。その発想によりコスト問題は
完全に解決し、
データとして構成されるため、全てをデータログとして管理し残すことも可能になり、
法的問題の整備も一挙に進んだのだった、という。
「それで、ですね。対戦ですけど……」
『経験ないんだよなぁ……』『名前は知ってるんだが』『ガチャプレイでもいい?』
『モニター表示の2D対戦ならやったことあるよ』
「仕方ない……じゃあ私がまずストーリーをクリアしますね。
それで皆さん誰を使うか決めて、対戦しましょう。経験のあるハマサキさんは
最初に、みんなのお手本にということで……」
わくわく7を起動し、デフォルトのダイブアカウントホームで立体投影を開始。
それを直接配信する。その管理もファジーにしてくれるのがドールマスター2888、
実際すごい。
映像には、7人の選択キャラが投影された。
『7人?』『古典にしても少なくない?』『格ゲーにしては珍しいね』
「わくわくボールが7つなので7人……ということになってるようですね」
『わくわくボール?』『何だそのまんまな名前は……』『願いがかなうとか?』
「その通り。7つ集めると願いがかなうわくわくボールをめぐっての闘い……
だけどシリアス成分は全くないですね……」
7人のキャラの中から、ティセを選択する。
『え?ティセってあのティセ?』『そうわよ』『ティセを知らないのはモグリ』
『この娘このゲームのキャラだったんだ』『ロボなの?』『オートマータだぞ』
『ナースでメイドでオートマータ(ロボではない)で……』
『性格も家事も最高なんだゾ』
『お前らそんなことだけはよく知ってるのなw』
いわゆる2次創作作品において、ごく一部のキャラは細々と命脈を保ってきた。
ティセはそのうちの一人で、目隠れメイド人形というごくごく一部に
クリティカルな属性により、
その手の陰の者たちによって受け継がれてきた……ようだ。
俺も過去のキャラが虫食い状態で2次創作に受け継がれているのを確認した時は
驚いたものだ。
最初の対戦キャラは……爆皇 雷か。
『ばくおうらい?』『ライか』『バックオーライw』
主人公(少年)をイメージして作られたキャラで、実際性能も主人公っぽくて
普通に強い。
『普通』『普通だな!』『普通に強そう』『普通って強いな!』
お前らあんまり普通って言ってやるなよ……実際普通に強いけど普通過ぎて、
あんま使う人見たこと無いけどさ……。
「性能的には強いはずです、ストーリー最初のキャラになったら
どうしようもないので……」
『ティセつええ』『ズームパンチwww』『え、こんなキャラだったの?』
『電撃www』
危なげもなく勝利。次の対戦相手があらわれる。
「次は牧原アリーナかぁ……」
『アリーナってドラクエ以外にもいたんだ』『ウサ耳は本物なの?』
『っていうか全身8割タイツ!?』『これは性的すぎるのでは?』
『あーダメダメえっち騒乱罪で通報!通報です!』
アリーナも主人公(女)、もしくはヒロインをイメージして作られたキャラ
であったはずだが、
全身の8割を覆う青タイツに髪の毛部分に生えたウサ耳。
世界観を一気にファンタジー寄りに持って行くキャラデザインをしている。
……立体になるとさらにすごいな、このデザイン。
性能的には雷と同じく主人公っぽい、こちらは突進コンボ系で普通に強い
キャラ性能なのだが……。
「はい勝ちです」
『さすのび』『ジャイアントスイングからのアレなんだ?』『ハラハラアタックだぞ』
「ハラハラアタックの……超電子イレーザーですね。ハラハラアタックは
全てガード不能技です」
『マジか』『でもあれじゃこっそり発動とか確定とかは難しそうだな』
それができるのがいるんだよなぁ……。
「まぁ次いきましょうか。次は……ダンディーJ ですね」
ダンディーJ。それはダンディーに必要なものを与えられなかった男。
『ジョセフwww』『古典洋画で見た』『女の子と猫?がいますね……』
「女の子と猫は……すぐにわかる」
『すぐに……ってああっw』『投げたwww』『人間砲弾www』
ダンディーJって名前のわりに人間砲弾使うし、基本3枚目だし……。
「とくに強いってわけじゃないんだよなぁ……」
それが一番残念。
『ないのかよwww』『これはダンディらないですね……』
そしてやってきた、ボーナスステージ。
『ん?』『ボーナスステージか』『車壊すかな……』
しかし、そこで出てくるのは車でも壁でもなく。
『なんだこいつwww』『これがほんとの棒ナス……』
『このBGM……リュウやないかwww』
『微妙に違ってるのが笑えるwww』『くっそwwwこんなんでwww』
スト2のリュウをイメージしたような、ただの太い円柱の棒。ボーナスくんである。
『意外と強いw』『ボーナスじゃなくて乱入みたいなもんw』
ここらへんから油断すると負けそうになる。気をつけて次にいこう。
中2美形キャラなのにホームレス呼ばわりされる逆勘違いキャラ、スラッシュ。
『君は人ではないなw』『www』『こういうの嫌いじゃない』『エルフなの?』
「さぁ……」
意外と強いし美形キャラなんだが、直球過ぎて埋もれてしまった感はある。
このゲーム他数名が個性的過ぎる、とも言う。
ドキドキアタック……という名の適当にぶっぱしてもよく当たる超必殺技を駆使して、
しっかり勝利。ラスボスさん1名を除いて、苦戦したりはないんだよなこのゲーム。
ラスボスさん1名を除いて!(半切れ)
ポリタンクZ。
『おいロボが出てきたぞ』『ダサい方のロボ』『かっこ悪いほうのロボだwww』
『製作者分かってるなwww』
このゲームのロボットはこれだ!と選んだのが、
ロボアニメでもまれに存在する「かっこ悪いほうのロボット」。
製作者のキャラ配置を世界観に合わせる感は半端ないと今でも思います(小並感)
ちゅーちゅーアタックを使って倒してみた。
大きな注射器での打撃投げで、ドレイン技もある。
ナースメイドたるゆえんのひとつだ。
そして、問題のまるるんである。
『幼女?』『トトロじゃねえかwww』『紫トトロwww』
その姿は、幼女を背負った紫トトロ。
「あのさぁ……」
『言いたいことはわかる』『わかるマン』『時代のせいにしたりしなかったりしろ』
『これは森の王ですね……』
「操作キャラだとハラハラアタックが怖いんですけど……
CPUだとやられる前に終わっちゃいますね」
きっちりと弧状の電撃で距離をとり、危なげなく勝利。勝利したが、
麦ちゃん(幼女)が泣くんだよね。
『泣かないで』『せんせーのびちゃんが幼女泣かしました!』
『さすのび』『魔王の片鱗が』『必要な犠牲だからしゃーない』
俺だって(今は)小学生だぞ。あ、小学生だからそう言われるのか……。
そして7人目は、影っぽいティセ。
同キャラ対戦だが、正直同キャラならCPUに負ける要素はない。
「さて……ここからが本番だ……」
『震えて待て』『のびちゃんが本気だ……』『何が始まるんです?』
運命のイベントシーンが、今始まる。
見事わくわくボールを7つ手に入れたティセは、
台座の石碑のようなものにわくわくボールをはめ込む。
そしてあらわれたのは、緑の髪の……妖精?
《ありがとう、でも……》
『フラグ』『これは何か来る』
いきなり台座の石碑のようなものが震え、壊れだした!
《大変!来るわよ!》
『大変!来るわよ!じゃねえよwww』『自演乙』『ふざけんなwww』
壊れた石碑から大きな黒い球体があらわれ、見る見るうちにビルより大きくなり……。
『何ぞ?』『でかっ!』『格ゲーだよな?』
《負けないで!こっちも巨大化よ!》
『は?』『は?』『ちょwww待て待てwww』
「はい、史上最大最強悪魔の、魔界大帝フェルナンデス様デス!」
巨大な丸に目とクチと手足がついただけのふざけたラスボス、
それが史上最大最強悪魔の魔界大帝フェルナンデスなのだ!なのデス!
『でっかwww』『落書きかよwww』『ただの丸www』『怪獣映画www』
史上最大最強悪魔の魔界大帝フェルナンデスがあらわれ、
それに対抗するために操作主人公が巨大化し、最終決戦に挑む。
今回はティセなので、巨大ナースメイドと巨大悪魔球体の一大決戦である。
「さあ、怪獣映画の始まりだぁぁぁぁ!!」
ビル街を背景に、最終決戦が始まった。
『フィールド半分www』『全部届くパンチwww』『クソキャラ過ぎるwww』
フェルナンデスはだいたいフィールド半分を占拠し、端っこまで届くパンチを繰り出し、
即時発動と言っていいハラハラアタック(ガード不能)を発動し、
当身投げまで駆使して暴れまわる。
あ、ハラハラアタックはただ転がるだけなんで安心ですね。その巨体で!
「ふざけんな!」
『お、おう』『せやな……』『ガード不能発生速過ぎるだろwww』
『もうちょっとこう、手心というか……』『あーもう無茶苦茶だよー』
「相打ちだと負けるし、正直運ゲーの所がありますね」
火力が高いので、相打ちだと負ける。的確に隙をうかがって、
とにかく相手に攻撃をさせずに一方的に叩く必要がある。
………………
結局ドキドキアタックの電撃ぶっぱ連打でなんとか勝った。
『はぁ……』『しょっぱ』『塩のび』
「無茶言わないで……言わないでよもー……」
妖精が出てきて、お礼の言葉を述べる。
『はぁ……』『つっかえ、やめたらこの仕事』『黒幕じゃねーの?』
「いやまあ、あの黒丸が強すぎるって設定なはずなので……この子妖精のくせに、
ドラゴンボールと同格のわくわくボールとかいうの作ったんです……ですよね?
あの球体が強すぎるだけで、この子本来は相当なもんなんじゃないですかね」
『マジか』『シェンロン枠とはこのリハクの目をもってしても』
『結局争いの元凶では?』
エンディングは進み、ついにティセが自分の願いをかなえることになる。
『ティセ……』『ええ娘や……』『こんな子に介護されて看取られたい』
『病気の博士を治すために集めてたんやね』『これは相当なことだと思うよ』
「病気の博士……自分を作ったロンブローゾ博士を治すためにティセは願いました。
しかし、ティセの物語はそれだけじゃ語れない」
『ん?』『何かあるんか?』『まさか……トキ!』『病んでさえいなければ……』
「ゲーム内には多分出てこないけど、
設定資料とかバックストーリーとかでは語られています」
俺は設定資料を取り出して、内容を確認した。
「ティセの好きなものと嫌いなもの。
好き:博士と6人のお姉さん。嫌い:なし(本当は人形のような自分の体)」
『(泣)』『ティセ……』『ええ娘や……(数分ぶり2度目)』
『こんな子に介護されて看取られたい』
『性格天使のパーフェクトナースメイドとか』『こんなん泣いてまうやん……』
そしてティセは自分の願いをかなえて、博士のもとへ帰っていった……。
………………
「はい対戦です!」
『わー!』『パチパチ』『やるぞー!』
「じゃあとりあえず最初にハマサキさんと対戦して……」
私はもちろんティセ、ハマサキさんはまるるんを選択したようだ。
私はズームパンチや電撃を駆使して中距離で立ち回り、
相手の技を潰し時に接近して打撃投げや通常投げを織り交ぜて対戦を作っていく。
『おー』『強い……のかどうかわからんな』『あんまこのゲーム見ないし……』
相手を追い詰めたと思ったところで、
ハマサキさんはハラハラアタックを繰り出してきた。
しかし……。
「いやまあ対人だと潰すか、避けますよね……」
『www』『wwwww』『せやな……』
まるるんの技は比較的出が早いとはいえ、避けられない潰されないわけではない。
その後も勝負を重ね、最終的に13勝4敗。
そこそこで超絶技巧を見せるってわけにはいかなかったけど、
これはそういうゲームじゃないと思うし、
私自身もコンボや対応を憶えて対人で修行して上達して……という対人格ゲーの修行は
前世の時点でとうに引退した人間なので、それで良しとする。
「それじゃ、今日ものびるの実況配信、ご来場ありがとうございました!」
格ゲーから一つ……うーんわくわく7やな!(俺得)