目が覚めたらヒロアカの世界に転生していた。
きっかけはやはりあの交通事故だろう。俺は普通にルールを守っていたのだが信号を無視した車に轢かれ死んだのだ。
とてつもない激痛の中で俺は気を失い、自らの死を自覚した。
なのに、再び目を覚ました俺は不思議なことに生きていた。それどころか赤ちゃんになっていたのである。
最初はリアルな夢かと思ったがどうにも夢が終わる気配がない。というかいくらなんでもリアルすぎる。
次の日になればいい加減俺も現実を受け入れていた。これから第二の人生を歩む覚悟を決めたのだ。二周目ということもあって高校の前半くらいまでは余裕だろう。高校の後半になってくると勉強し始めなければならないかも、なんて呑気に考えていた。
だが、そんな適当な人生設計は速攻で壊れることになる。
それは生まれてから何ヶ月か経った頃、両親が見ていたニュースを俺も見ていたときだ。
テレビの画面の中でニュースキャスターがなにやら変なことを言っている。
やれ
最初は何かの間違いかと思った。今の俺は目やら耳が完全に発達していない。とんでもない見間違いや聞き間違いをすることもあるだろうと。
だが、違った。似たようなニュースが連日報道されているのだ。人気ヒーロー特集、かっこいい個性ランキングなどのバラエティ番組も多々見かけた。
なかでも俺がこの世界がヒロアカの世界であると確信したのは一人のヒーローを見たからだ。
そのヒーローはオールマイト。現在名実ともにNo.1とされている人気ヒーローである。
ここまできたらいくら現実から目を逸らしていてもどうしようもない。俺は『僕のヒーローアカデミア』の世界に転生したのだ。
ならばやることは一つしかないだろう。
そう、それはヒーローになること、ではなく。
雄英高校の可愛い女の子と仲良くなること……!
ヒロアカファンとしてこれだけは譲れない。別にエッチなことがしたいのではない。ただただ友達として仲良くしてみたいのだ。
そうと決まれば話は早い。作中でも難関とされている雄英高校に入るため体と個性、それに判断力なんかも鍛えようか。
幸い転生したことによる知識のアドバンテージがある。入試において筆記はともかく実技は内容がわかるのだ。しかも筆記だって俺には前世分の学力がある。もともと頭はそこそこ良い方だ。落ちる理由なんてないと言ってもいいだろう。
あとはどのような個性か判明するのを待つだけだ。轟くんやかっちゃんみたいな強個性なら嬉しいのだが。両親の個性はわからないし予想がつかないが楽しみだ。
無個性だった。
かんっっっぜんなまでに無個性だった。
終わった。俺の第二の人生終わった。無個性で活躍できる奴なんて主人公であるデクくらいのものだ。俺がワン・フォー・オール受け取る訳にはいかないし。
もちろん個性がなくても雄英高校には入学出来なくもない。だが俺はヒーロー科に入りたいのだ。ヒーロー科において無個性で入った奴は歴史上いなかったはずだ、たしか。
正直めっちゃショックだ。かっこいい個性で色々したかったのに。俺もかっこいい戦闘をしたかったのに。
俺はもともと少年漫画がとても好きなのだ。ヒロアカはもちろん、ワンピースやらドラゴンボールやらブリーチやらのジャンプ系にはとてもお世話になった。
が、流石にこれはない。例えるなら覇気や悪魔の実もなしでワンピ世界に放り込まれるようなものだ。スーパーサイヤ人になれなかったり卍解が使えないのも致命的だろう。
ヒロアカはこれらに比べてインフレが激しくないのがまだ救いだが————いや、やっぱダメだ。無個性じゃどうしようもない。
せめて個性がなくても戦っているようなキャラが原作に出ていれば……。
ん?待て、いるぞ。能力がなくても戦ってる奴。
ヒロアカにはいない。ドラゴンボールにもブリーチにもいないが…………ワンピースにはいる。
能力者に対抗するため、身体能力と技術だけで強くなった奴らが。
それはCP9。
六式と呼ばれる武術を身につけた超人集団である。
そもそも六式とは悪魔の実の能力者に能力なしで対抗するための技だった……はずだ。
ヒロアカとワンピじゃ色々違うだろうが、ヒロアカだってジャンプ漫画。現実や有り得ない科学や身体能力など、個性以外の部分にもぶっ飛んだ要素がある。
つまり、この世界なら————六式マスターできるんじゃないか?
そこで、まだ身体が未熟である俺は特訓の方法を考えることにした。この世界は個性によって様々な研究が前世より進んでいる。運動機能や身体能力、個性について学べば六式を身につける為のトレーニング方法を編み出せるのではないだろうか。
しかし、大事なのは実戦だ。いくら特訓しようと実戦をしなければどうにもならない。実際にヒロアカの登場人物だって実戦を通して成長している。だが俺の両親はヒーローでもなんでもないので相手をしてもらうことは不可能だ。どうしようか。
そこで、ふと思いつく。そうだ。この世界にはいくらボコボコにしようが問題ない奴らがいるじゃないか。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
呼吸が荒い。胸も苦しい。脚がもう動かなくなってきた。
「クソっ!どうしてこんなことに……!」
思わず漏らした声は泣き出しそうな、どうしようもなく情けない声だった。
街灯の明かりも届かない裏路地を必死に駆けていく。
いつも通りの予定だった。ここらへんは人通りもなく街灯も少ない。たまに通った奴から金目のものを奪って逃げる。それだけの、既に慣れた作業のはずだった。
なのに……なのに!
「逃げても無駄だ。お前は俺から逃れることはできない」
「ひっ…!」
上から聞こえてきた声に顔を向けると、真っ黒な服に身を包んだ男が
「くそぉ!なんだよその個性!ちくしょう、ナメやがって……!」
俺は生まれつき個性が弱かった。そのことでよくバカにされ、悔しかった。
「個性が良い奴にはわかんねえんだ!俺たちの気持ちなんてっ!」
俺は個性によって鋭く伸ばした爪を構える。俺の個性は爪が少しだけ伸びて尖るだけだ。別段硬くなるわけでもないからそこらへんの奴でも爪を伸ばしてから形を整えれば俺と同じことができる。要はただの弱個性だ。
地面に降りてきた謎の男に向かって突っ込む。
「うおおおおおおぉぉおお!」
そして手を振りかぶり、爪を突き立てようとした瞬間。
「
「……は?」
何かを呟くと、目の前から男が消えた。まるで最初からそこにいなかったかのように。
「な、どこに…………」
「
後ろから何か聞こえた瞬間、右肩に激痛が走る。
「ぐあぁああぁぁっ……!」
あまりの痛みにそのまま倒れ込んでしまう。痛い、痛い痛い痛いっ!
「くそお……なんなんだよお前……!」
俺を見下ろす影に思わず問いかける。その顔は覆面によって見えなかったが、かろうじて見える目はとてつもなく冷たいものだった。
「俺か?そうだな、俺は……」
「サイファーポールNo.9、自称ヒーローさ」
振り下ろされる脚を最後に、俺は意識を失った。
主人公はヴィランが嫌い。