Rimworldみたいな世界と首だけ少女と辺境惑星サバイバル 作:空の間
その日、天より幾つもの流星が降り注いだ。
夕焼けの空を切り裂くように。
それは凶星として。
それは命として。
それは運命として。
全ては空へと至る道の出来事。
ーーー
目が覚めた時、そこは闇の中だった。
まるで凍りついた時間が少しずつ動くように、血が全身に巡りだし、やがて脳が自分のおかれた状況を理解させようとする。
「なんだ……これ」
じたばたと手足を動かそうとするが、締め付けられているように自由がきかない。
「クソッ……ッ…………ァ! ゴホッ!」
息をしようとすると、肺が空気を拒絶するように咳き込み、視界が歪む。
棺桶の中にでもいれられたような閉鎖間、壁に体が打ち付けられる。
体が段々と熱を帯び、思考が溶けるようにぐちゃぐちゃになっていく。
自分と世界の輪郭が薄れ消えていく感覚。
そんな中、今の自分を確立させるために、ゆっくりと過去を求めた。
一番古い記憶は、母と共に赤い傘をさしていた。
なんでそこにいたのかまでは思い出せない幼稚園くらいの記憶だ。
仕事で遅くまで帰らない父を二人で待っていたのは覚えている。
記憶は次々と流れていく。
普通に過ごしてきた学生時代、夢も持てず惰性の果てにいった大学で共に過ごした相手の顔。
彼女を好きではなかったけれど、一緒にいて心地よかった。
そして、最後の記憶は空から星が堕ちてくる光景だった。
遠近間を無視したように空を覆い尽くす巨大な赤い塊。
絶望の象徴。
そこで記憶は終わっていた。
「……ここは地獄ってことかよ……」
幾分か落ち着いたというのに、なぜか無性に涙が溢れ出す。
「クソッ…………ちくしょう…………」
どれほどそうしていただろうか。
次第に脱力感に苛まれ、時間という感覚が鈍くなっていた。
そんなとき、
小さな振動と音が響いた。
暗闇が溶けだし、目映い光が視界をやくようににじみだす。
それまでの無機質な空気とは違う、土の匂いと煙のような匂いがあふれでた。
突然のことであまりに現実感のない現象に脳の理解が追い付いていない。
光を遮るように、そこに立っていたのは少女だった。
「生きてるかしら?」
どこか生気の感じられない鈴のような声。
赤い髪と瞳に起伏の少ない体は機械的なボディスーツに包まれ、その上に白衣を軽く着ていた。
「なに? …………泣いてるの?」
口から声をだそうとするが、異常に空気が肺に入り、全身の倦怠感が一気に溢れ出す。
その様子をみていた少女はやれやれと、いった具合に手を伸ばした。その手には円柱のようなものがあり、それはおもむろに俺の首筋に叩きつけられた。
感電したかのような痛みが全身へと行き渡る。
「なにっを…………!」
「コールドスリープ病ってやつよ、気付けには少し刺激が強いけど。体は楽になるはずよ」
不思議と体に力が入るようになり、意識が一気に覚醒していく。
「あんたは……っ」
「私? あまり相手より先に名を名乗るなんてことはないのだけれどね。いいわ、私の名はディム・リムリエス・ヴィ・ラクアイン・ティ・ラーツ・ダイアグラム4世。まぁ、初対面で覚えられたら大したものだけど、そんな期待してないからディムと呼んでくれればいいわ」
あまりにも自分の理解から離れた名前。
「な、何を……言ってるんだ? そんな冗談を聞きたいんじゃなくて……」
そう言ってからそれが失言だったことをディムの顔を見て思い知らされる。
抑揚のない瞳は冷徹にこちらを見下ろしていた。
「冗談ですって? ……我がリムリエスの名を冗談などと言われたのは流石に経験がなかったわ。あなた、名を名乗り返しなさい」
「いや、その悪い……。凪七……飛鳥……だ」
ばつが悪く目を背けながらそう言うのがやっとだった。
「ナギシチ……アスカ……アジア系統の名かしら。まぁ、それなら馴染みがないのも仕方ない、ということにしておきましょうか。いいわ、こんな状況だし、一度だけ、一度だけ聞き流してあげる」
「…………すまない」
「私は聞き流すと言ったのよ、謝罪も不要。それよりアスカに、そろそろ歩けるかしら?」
「歩くって、ど、どこに? いや…………そ、そうだ! ここはどこなんだ!? あの隕石はどうなったんだ!? 俺は生きてるのか!?」
「落ち着きなさい」
ディムはそう言って俺の頭を手で無理やり挟み、真っ直ぐにこちらを見つめながら続けた。
「隕石ってのは何の事かは知らないけれど、少なくともあなたの生命維持について、バイタルは正常値に近いわ」
自分が生きているという実感がわかない。
記憶が幾重にも途切れているような歪さ。
「あなたも含めて私たちの乗っていた宇宙船は船団から外れてこの惑星に墜落したのよ。コールドスリープ状態だった私たちは緊急脱出用のポッドでコールドスリープ装置ごとバラバラに不時着した」
「コールド……スリープ………? 惑星に墜落? なんだよそれ……やっぱ夢か? だっておかしいだろ! そんなの、コールドスリープなんて今の医学じゃ治せない重病人が一縷の希望に縋るようなもんだだって!? 解凍なんて今の技術じゃ……」
「…………あなた……いったい時いつの時代の人間よ」
慌てる俺にたいして、ディムは胡散臭そうな目でただ当たり前の事と言った風に続ける。
「コールドスリープの解凍技術なんて5千年は前に一般化してるわ」
「は?」
意味がわからない訳ではないのに、理解ができなかった。
「な………なぁ………今って西暦何年だよ」
「西暦? 宙暦のことなら、さっき確認したら十二万飛んで4023年だったわ。……それで、あなたはいつ、コールドスリープしたの」
「あの日は……2021年の3月だ」
「…………なるほど西暦、西暦か……それが妄想や虚言でないのだとしたら、噛み合わない訳ね……。ほとんど記録にも残っていないわよ、その時代」
両手を広げ茶化すようにディムは笑いながらこそう言った。
「そっちこそ、出鱈目を言うならもう少しマシなのにしてほしい…………」
「出鱈目…………西暦生まれというのが本当なら、そう感じるのも無理ないのでしょうね」
「信じるのか? ……こんな事話してる俺自信、何も信じられないのに……」
「私は信じるといのは人間性に対してのみ使われるべきだと思うの、事実は自ら検証すれば確信できるのだから。解らないのなら自分の目で見て調べ、学べばいい」
「……そうだな、そうかもしれない」
心臓に手を当てると血液が流れているのを感じた。
生きている、少なくとも自分は今を生きているという事実。
それだけは確信を持てた。十二万年前とか、墜落したとか、少しずつ確信していけばいい。
ゆっくりと立ち上がる。
倒れそうになる体をディムが支えてくれた。
「グッモニーン、アンティークアイスマン……ようこそ、未来へ」
芝居じみた口調でディムは微笑んだ。
「なにそれ」
「映画の真似よ。一度、言ってみたかったの」