Rimworldみたいな世界と首だけ少女と辺境惑星サバイバル 作:空の間
そこは鬱蒼としげる木々が織り成す森だった。
木々を踏み倒し、卵のような形をした機械。ディム曰く、コールドスリープ装置の入った緊急脱出ポッドらしい。
その回りにはパラシュートのようなゴムでできたものが散らばっていた。
改めて見ると異様な現代アートのような塊が自然の中にあるのは、ある種の美しささえあった。
「これって宇宙から落ちてきたんだよな」
「そうよ、私が乗ってたのはあっちの方にあるわ。それより、アスカ、手を貸しなさい。あなたのポッドに入ってる非常用の食料とかを取り出すわよ」
「え、ああ。わかった」
ディムが、コンソールのようなものに何かしら打ち込み、俺の手をそこにつけるように指示をする。
すると、ポッドの一部が開く、中には四角いリュックのようなものが入っていた。さらに、開けて見ると銀の包みに梱包された四角形の物体がでてくる。
「携帯食料よ。せいぜい一週間分ってところね」
「今更ながら実感したんだが、俺たちって宇宙船に乗っててそれが墜落して、未知の惑星に不時着した。それで遭難してる…………で大丈夫か?」
「ええ、そうよ現状把握ができていて何よりだわ。付け加えるなら、タキオンのマザーネットワークも通ってない辺境の惑星。救助要請もそう簡単には届かないでしょうね」
「タキオン? ネットワークってインターネット?」
「あー、前提知識がないと真面目に説明しても理解するのは難しいわ。惑星間用のなんかすごいネットワークくらいとでも思ってくれればいいわよ。問題はそれが繋がっていないと機能しないシステムが多いことね」
「例えば?」
「それこそワープの安定化から、惑星フレアの磁場歪曲まで、いろいろよ。そうね、直近で言えば多言語翻訳や生態系ライブラリの参照とかも……………………」
言葉を詰まらせたディムは目を見開き驚いたようにこちらを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、なんでもないわ」
それより、とディムが近寄ってくる。
「そのカバン少し貸して貰ってもいいかしら?」
「ん、ああ。別に俺の持ち物ってわけじゃないし……」
手渡したカバンから、ディムの顔を見ると、ひどく厳しい顔を浮かべていた。
「警戒心が足りないわよ、忠告しておくわ。あなたのような、古代のコールドスリーパーはそれ自体が美術品のような価値がついたりするのよ。もし失われたDNA情報を持っていた場合、それこそ惑星単位の取引されるわ」
「……マジかよ……気を付ける。でも何に気を付けたらいいんだ……?」
「とりあえず、コールドスリープは三万年くらい前と言っておけば大戦争前の辺境惑星出身とでも思ってくれるわ。後は全てに対して警戒することね、私に言えるのはそれくらいかしら」
ディムがカバンから取り出した携帯食料をいくつか抜きだし、カバンを投げ返してくる。
「いったい、何を……」
「悪いわね、これは勉強代とでも思っておいて、私にも必須なの」
「だから何だよ…………さっきの名前のこと、まだ怒ってるなら謝る…………!」
「そうじゃないわ。でも」
「は? …………それって!?」
「お別れよ。アスカ」
そう言ってディムは振り向いて走り出した。
「ちょ……ちょっと待てよ!」
ディムの表情と言葉からうっすらとそんな予感はしていたので、走り出したのはほぼ同じだった。しかし、ディムの背中はどんどんと離れていく。
まるで自転車に乗っているかのようなスピードで森の中を走り抜けるディムを息を見出しながら必死に追いかける。
「クッ…………!」
どれくらい走っただろうか、息切れと共に全身が走る事をやめるように訴えかけてくる。
だんだんと走るフォームは崩れ、そのまま、木の根に躓きそうになり手を膝につけて立ち止まってしまった。
「待って…………くれよ…………ッ…………」
ふらふらと肩で息をしながら道なき道を掻き分ける。
ディムの背中はおろか影も形も見えなかった。
「ちく……しょう……」
何故か裏切られたかのような衝撃を受けていた。
別にディムとは数分と過ごした仲でしかない。
なのに、何故か頬に涙がこぼれ落ちていた。
近くの木に崩れ落ちるように、腰を落ち着ける。
途方にくれるとはこういうことを言うのだろう。
「十二万年前……宇宙船の墜落……なんだよそれ……SFかよ」
夢なら覚めてくれと言うように空を見上げる。
当たり前の事だが隕石なんてものはなく、どこまでも澄んだ青い空は遠かった。
どれくらいそうしていただろうか、空腹を覚えたのでカバンから携帯食料を取り出して、袋を開ける。
中に入っていたこんにゃくのようなものを、かじってみると、ほのかに甘く、なんとなく塩っぽく、炭酸のような刺激があった。
それを一言で現すなら。
「まずい」
食べれないほどでは無いにしろ、口から栄養素を突っ込んでいる気になった。
そんな食事でも食べるとそれなりに元気は出てくる。
とりあえず、じっとしているのは性に合わない。
ディムのことは忘れて、なんとか一人でやっていく術を見つけよう、最初はそう考えた。
どうせ帰える場所なんてないんだ。
そう考えれば気楽なものだ、失うものなん、てもう全て過去にしかないのだから。
「でも、帰りたい…………」
目指す場所は遠い過去。
そこに何も残っていないとしても。
故郷に帰りたい。
なんとしても、帰りたい。
その思いが足を動かしていた。ディム、彼女は自分の知らない技術を知っている。
自分の知る技術では逆立ちしたって、この惑星から一歩だって外に出ることなんてできない。
やはり、彼女の助けが必要だ。
なにより、例え救助船がきたとしても、自分一人だけだと見つけられることすらないかもしれない。
ディムの去っていった方向へ必死に歩き続けた。
歩き慣れない靴ではなかったのに、気付けは踵が擦れ、軽い靴連れのようになっていた。
足は棒のようになり、額から汗は流れ出す。
日が暮れ始め、黄昏のように黄金が森を染めあげた。
いい加減、宇宙はおろかこの森ですら遭難している事に気付き、丘になっている場所の登り安そうな木に登って周囲を見回す。森は地平線の先まで何処までも続いていた。
ふと、そう遠くない場所から煙のようなものが立ち上っているのに気付く。
「火? 人がいるのか?」
その時だった。
────ガアァアアアアアアアアアア!
それまでの静けさを切り裂くように、獣の咆哮が響き渡った。
耳を貫くほどに大きく、鳥は一斉に飛び立ち、我先にと、森にすむ動物達は逃げ出していた。
「はは…………冗談だろ」
それは遠目にも周りの木々よりも巨体だと見てとれる。
鳥の翼が生えた灰色の狼。
頭だけで、子供くらいのサイズはあり、その瞳は赤く、耳は兎のように長い。最大の特徴は巨狼の周囲には雷のような光が何本も走っていた。その光は明らかに自然に生まれた物ではない。
まるで、神話に出てくる化物。
なにより恐ろしいのは、それは怒り狂っていたのだ。
何故ならその巨体に傷をつけ、今にも殺そうとする存在がいたからだ。
巨狼に対し、二回りは小さいながらも、それは歪だった。
四つの腕のような鎌と八つの足を持つ、無機質な蜘蛛のような機械。
その刃は人口的でありながら、間接は脈打つ筋肉のような繊維に覆われている。
しかし、顔らしき部分を見ればオレンジのカメラが、それは機械なのだと訴えてくる。それだけに不気味であった。
その二つの化物達は互いの生存を賭け、殺しあっている。
「SFかと思ったら、とんだファンタジーじゃねぇか!」
機械蜘蛛が巨狼の腹に鎌を突き立て、赤い血を吹き出させ。
巨狼が機械蜘蛛の胴体を歪ませ咬み千切り、黒い液体を吹き出せる。
互いに傷つけあいながら、相手を傷つける。
その勝負がついたのは一瞬だった。
空から二頭目の巨狼が現れその脚に噛みついたのだ、機械蜘蛛は突然現れたそれに対応しようと、鎌を振り上げ、そしてその頭を巨狼に食い破られた。
先程の咆哮は仲間を呼ぶためのものだったのだ。
地面に倒れる機械蜘蛛、勝利した巨狼は再び声をあげた。
──────オォォォォォオオオオオオオ!!
次の瞬間、その首から上が消し飛んだ。
機械蜘蛛の体から光の線が空へと上がっていた。
レーザーとかレイルガンとかの類いかと。
そんな思考の間に、その余波の熱風に森が揺れる。必死に木にしがみつかないと、吹き飛ばされそうになる。
もう一頭の巨狼はその光景に呆然とし、首を失った巨狼に近寄ろうとし、無防備なその後ろから鎌でその体を貫かれた。
鎌で貫かれながら、残された巨狼は吠えた。先程のレーザーの衝撃波にも等しい音の波と共に、巨狼の周囲に漂っていた雷が意思を持ったかのように機械蜘蛛を吹き飛ばしていた。
機械蜘蛛は痙攣しながら立ち上がろうとするが、止めとばかりにもう一度、雷に吹き飛ばされ、今度こそ完全に沈黙した。
そして、生き残った巨狼はゆっくりと翼を広げ不安定に空へと去っていった。
再び、辺りに静けさが訪れる。
それまで、あまりにも現実味のない光景に目を奪われていたが、一時的に恐怖が麻痺していただけだった。
「次から次へと…………勘弁してくれよ」
あんなもの達が闊歩する森なのだと、それを知った今、恐怖で足がすくむ。
それでも、ふらふらと震える足を進ませる。一刻も早くこの場から逃げ出したかっただけだ。
「へへ…………ハヘヘヘハハ…………」
どうしようもなさすぎて、変な笑いが込み上げてきたのだ。
不安。
宇宙へと帰るとか以前に、化物が生息しているこんな星で、どうやって生きていけばいいのか。
あまりにも甘く考えすぎていた。
「誰か…………誰でもいい…………助けてくれよ…………」
どれくらい歩いただろうか。
目の前に銀色のカプセルがあった。
一目見て、それは自分の入っていたものとは違っていた。
それはあまりにも傷付き、黒煙をあげていた。
「…………ァ……………ア……………」
そこには少女がいた。
より正確に言うならば、少女だったものだ。
カプセルに張り付けにされたように動かないそれには、その胴体の頭の位置には本来あるべきものがなく。むしりとられたような跡だけが無惨に残され、ハエのような虫がたかっていた。
赤黒い液体が辺りに撒き散らされ、ゴムの焼けるような匂いと錆びた鉄のような匂いが混ざりあって、まるで、地獄のような光景。
頭がなくても、服とその背丈には見覚えがあった。あってしまった。
「嘘だろ……………」
覚束ない足取りで近づき、そして。
それと、目があった。
頭。
瓦礫の影に無惨に投げ捨てられるようにあった。
想像が、確信に変わる。
それは先程、出会った少女の姿にあまりにも酷似していて、どこまでも変わり果てていた。
「……………ディム……………リムリエス…………」
絶望。
後悔。
恐怖。
孤独。
不安。
どうしようもない負の感情に押し潰されていく。
だから。
「また、泣いているのね。アスカ」
きっと、その声が聞こえなければ。
前に進むことなんてできなかっただろう。