続くかどうか分かりませんが、とりあえず投稿してみる精神です。
よろしくお願いします。
自分には今、一つの転機が訪れようとしていた。
……が、その前に、自分の生い立ちを簡単に思い出しておきたいと思う。
その昔、日本近海に化け物が現れた。
当初それは見間違いだとされていたが、実体があり、実害があり、そしてなす術がないと分かったとたん日本は混乱の渦に飲まれた。
そんな時現れたのが艦娘であり、提督と共に海を駆け、外敵を打ち滅ぼしてきたのだという。
この話は詳しくは知らないが、日本は艦娘と協力体制にあり、化け物……深海棲艦と戦うようになったとのこと。
そのうち世界中で深海棲艦が陸地や船を襲う事件が相次ぎ、大変な混乱があったそうだ。
で、それから50年くらいして生まれたのが自分だ。
自分はいわゆる平均的な日本人の顔立ちであり、良いとは言えないが悪いとも言えない造形をしているらしい。
そんな自分には提督の才能があった。
妖精さんと呼ばれる存在を認識できるかどうか、という点である。
慢性的な提督不足が叫ばれる中、お偉いさんがわざわざ自宅まで来て説得をしに来たこともあった。
しかし、自分には能力不足であるとそれを固辞。それでもと食い下がるお偉いさんに、ならば鎮守府に一番近い憲兵という役割を目指すと約束した。
そうして、20歳となったこの日、自分はとある鎮守府の前に立っていた。
……というのが、『二つ目の記憶』にある自分の話。
実は、自分にはもう一つの記憶がある。
先程の記憶より昔、もっと平和な世界の話だ。
そこに深海棲艦という存在はなく、むしろそれは『艦これ』というゲームの中の話だった。
それなりに真面目に勉強し、することがないからと体を鍛え、迎えた20歳の誕生日。それは突如訪れた。
何もなかった。
予兆など、少しもなかった。
気づけば自分は、小さな体となり女性の腕の中に抱かれていたのだった。
その女性こそ、これから自分が母と呼び慕う女性であることなど、この時は知る由もない。
精一杯四肢を動かすも、思うように動かず、悔しく思ったそばから感情が制御できず暴れ出し、泣き叫ぶ。
こんなに自分が恥ずかしいと思ったことはない。
……そして自分は、訳も分からず二度目の人生を歩むことになったのである。
途中で艦これの世界だと気付いた時は狂喜乱舞したが、冷静に考えると酷く退廃的な世界観に背筋が凍る思いがした。
この世界はゆっくりと死に向かっている。
それでも、自分には提督をする勇気がなかった。
だから、提督のサポートをしたくて憲兵になろうと思った。お偉いさんからのアプローチは、実はナイスアシストだったのだ。
そうして、脇目も振らず、一心不乱に体を鍛えた。
学友と遊ぶこともほとんどなく、テレビやネットを見ることもほとんどなかったせいで、大変遺憾であるが両親には世間知らずの烙印を押されてしまった。
そうして、この日、一度目で転機が訪れた20歳の誕生日であるこの日、自分はとある鎮守府の前に立っていた。
自分には今、一つの転機が訪れようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆
鎮守府の門の前に立ち、中を見渡す。
「これが鎮守府、か」
実は、自分はこの世界で艦娘を見たことがない。
政府は艦娘の存在は認めていても、その姿を頑なに見せようとはしなかったからである。
それでも多少パパラッチの様な存在から写真を撮られることはある。それは遠くから演習中の様子を撮ったものであったり、船舶を護衛しているものを撮ったりと様々だ。しかし、サイバーポリスか何かがいるらしく、ネットに上がった途端に消えるという徹底っぷり。
その写真は全て口元にマスクをしている写真ばかりであり、顔全体が見えるものは決して多くない。
それについていろいろと憶測は飛び交ったが、真実は波にのまれたままだった。
「いやしかし、それでも艦娘は艦娘。期待して裏切られるということはないだろう」
ゲームは世の提督に比べればそれほどちゃんとやってはいなかったが、初期艦は電を選び、確か現状レベルが一番高いのが北上の80だったはずだ。当然のごとくケッコンカッコカリは出来ていない。
とにかく、美人揃いの艦これ世界にやって来たのだから、仲良くやっていきたいものである。
「しかし自分が憲兵か……。それなりの実績は積んできたが、やはり緊張するな」
肩掛けリュックを持ち直し、制服の襟を直して鎮守府に向かって進む。
ここは柱島第一鎮守府という場所である。
柱島、というだけあって島である。
基本的に木と海以外特に何もない。
以前はもっと人が住んでいたが、みな本土に移住してしまったせいで島民はわずかしか残っていない。それも、鎮守府とは真反対に住居区画があるので、会うこともそうそうないようだ。
簡単に手元の資料を再確認し、ふと顔を上げる。すぐ横に守衛室があるようだった。
「すいません、誰かいらっしゃいますか」
閉じられた門の横の守衛室に声をかける。
「はい、どちら様でしょうか?」
出てきたのは、40歳代くらいの男性だった。
「初めまして、本日よりこちらに憲兵として配属されました小林というものです」
「ああ、そういえば今日でしたね。命令書を見せて下さい。……はい、確認しました。ようこそ、柱島第一鎮守府へ」
「ありがとうございます」
そういって、守衛へ頭を下げる。
「しかし、珍しい事もあったもんですね」
「どういうことです?」
「こんな辺鄙な所へ、しかも艦娘と接触しなければならない職業へだなんて、物好きにもほどがあるでしょう。何かやらかして送られたとかですか?」
何故だろう。眉目秀麗美人揃いの艦娘と交流できる鎮守府なんて、こちらからしたら天国のようなものなのに。まぁ自分は眉目秀麗とは縁のない容姿だから関係ないと言えばそれまでだが。
「まぁ何か事情がおありなんでしょう。誰かに案内をお願いするので、暫く待ってて下さい」
「わかりました」
そう言われ、暫く待っていると鎮守府の建物の方から誰かが走ってくるのが見えた。
「遅くなり申し訳ございません!」
「ああ、いや全く構わないよ。こちらも正確な到着時間は伝えていなかったしね」
「あっ」
何か言いかけたが、途中で口をつぐんでしまった。
しかし、自分の口調は冷静にと努めていたが、頭の中では初めて見る艦娘に感動を覚えていた。
この娘は、瑞鶴だ。
翔鶴型正規空母の妹の方。
特徴的なツインテールが風になびいており、またその整った顔立ち、ぷっくりとした唇、さらに仄かに甘い香りがして、どうしようもないくらい感動した。ああ、ここに生きてるんだなぁ、と。
自然と頬が緩んでしまう。
「……かっこいいかも」
「ん? 何か言った?」
「はっ!? いえ、何でもありません! ご案内させていただきます!」
「ああ、よろしく頼むよ」
そういって、少しギクシャク歩く瑞鶴の後ろについて行った。
その揺れる後ろ頭に見とれていたせいで、後ろから不思議そうな顔をする守衛に、ついぞ気付くことはなかった。
すぐに建物の中へ入って、おそらくは提督のいる執務室へ案内されるのだろう。妙に静かな廊下を歩く。
と、ここで自己紹介がまだだったと気付いた。
「遅くなったが、初めまして。自分は憲兵の小林という者だが、君は?」
どうも瑞鶴という少女は背格好から高校生くらいに見えてしまい、口調が緩くなってしまう。
しかしながら、是非お近づきになりたいので話しかける。
「あ、申しわけありません! 私は翔鶴型二番艦、正規空母の瑞鶴と申します、よろしくお願いします!」
「瑞鶴だね。どうぞよろしく」
かわいいなぁと、のほほんと思いながら自然と笑みが零れる。
「……あの、小林さん」
「ん? なんだい?」
急に神妙な顔つきに代わり、瑞鶴が足を止め振り返った。
「小林さんは、なぜ私を見て笑うんです? 馬鹿にしてるんですか?」
その目には、怒りと怯えが見て取れた。
「え、いや、そんなつもりはないが……。しかし、何か不快になるようなことをしていたのならすまない。直していく努力をしたいのだが、教えてはくれないかな?」
困惑しながらもそう言うと、瑞鶴の怒りが萎んでいくのが分かった。
それと同時に、ちらちらとこちらを伺うような視線になり、何かへの怯えだけが残った。
「何か、言いづらいことかな。もし気に喰わないことがあれば自分に直接言ってもらっても構わないし、君たちの提督に陳情しても構わない。これから関わっていく中で、しこりが残っては問題だか――」
「違うの!」
少し大きめの声で制された。
目を多少見開いて、瑞鶴を見る。
「小林さんは、あの、私を見てどう思う……?」
なんともふわふわとした質問である。
ここで、世界で一番かわいいよ!と答えられれば満点なのかもしれないが、如何せん初対面である。知り合い以下でそんなこと言われては、警戒度が青天井に飛び上がるだろう。
「そう、だなぁ。まだ会って数分だから内面について述べることは出来ないけれど、それでも可愛い人だなぁとは思うよ」
これは素直な気持ちだ。
自分も男だ。可愛い女性とはお話してみたいと思うのは当然のことだろう。
「……もう一つ聞いてもいい?」
目で続きを促す。
「私の顔、醜いと思わないの……?」
んんんんん?
何でさ?
「いや、かけらも思わないけれど。なんでまた?」
「だ、だって、綺麗な人はみんなシミがあったり、太った人が多いじゃない。私、そんな体型じゃないし、どこからどう見たってブサイクそのものだもの……」
ここで、やっと違和感に気付いた。
瑞鶴が醜いわけがない。
それは自分の感覚ではあったが、そういえばテレビで俳優とか見たことがないかもしれない。なにかがずれている。
「……ちょっと待って、何かネットが見れるようなものはないか?」
「え、っと、これでいい?」
瑞鶴は小さなデバイスを取り出した。一般的にスマホと呼ばれるものだが、名前なんて今はいい。
「変なことをお願いするが、今一番かっこいい俳優は誰だろうか。写真を見せてくれないか?」
「なんでそんなことを……まぁいいわ、ちょっと待って。――はい、どうぞ」
それを見た瞬間、失礼だが口を押えてしまった。
……なんだこのクリーチャーは。クトゥルフか何かか。目とか眉とかそんなちゃちなもんじゃねぇ。パーツが全部とっ散らかってる。
そこには何とも形容しがたい生物が映っていた。
「これが、か」
「ええ、私はあまり好みじゃないけど、最近一番有名な俳優さんよ」
つまりあれか。
このクリーチャーが美しく、瑞鶴が醜いとされる世界。
やっと気付いた。20年間、自分は勘違いをしていたんだ。
この世界は艦これが混ざった世界な『だけ』じゃない!
この世界は!!
美醜が逆転している!!!!
◆◇◆◇◆◇◆
昔々、自分が生まれるよりずっと前に、のちに深海棲艦と呼ばれる化け物が自然発生した。
何が原因なのかと研究は続けられているが、今なおはっきりとした説明がつかないため、自然発生という形で教えられている。
その化け物は当初日本近海に現れ、海岸近くを攻撃していった。
壊滅的だったそうだ。
自衛隊が出動し対応に追われたが、数体現れた中で撃破は一体もできなかったのだという。
その後数回に分かれ衝突があり、そのうち人型のものが現れだした。
ソレは圧倒的な破壊力を持って日本を破壊しつくそうとした。
艦娘が現れたのはそんな時であった。
ある日、応戦していた隊員からこのような報告が入った。
水兵服を着た少女がどこからか現れ、化け物に応戦し始めた、と。
その日は歴史的な日となった。初めて、局地的にではあったが人間側が完全勝利をおさめた日となったからだ。
いつしかいつもの平静さを取り戻した海で、人は勝鬨を上げ、涙を流し勝利を称え、……振り返った少女を見て真顔になった。
とんでもないブサイクだったのである。