ふと疑問に思うことがあった。
晴れても大丈夫、とは、本当に『晴れ』だったのだろうか。
「なぁ北上、晴れって、それは天気のことだったのか?」
「晴れ……、ああ、音は同じだけど意味が違うかもってこと?」
「ああ。例えば……そうだな、蜂に刺されて腫れる、とかの方だったりしないか?」
北上が、飲んでいたお茶を置いて腕を組む。
「そうだね、そっちは分からないや。結構艦娘ってどこで生まれたかによってアクセントが変わったりするし、浦風とかもう広島弁過ぎて何言ってるか分からないときもあるし」
浦風いたのか。まだ会ってない様な気がする。
しかしそうか、それなら少し考えようがあるかもしれない。
「今日はスリッパなんだ。いいでしょ。これで腫れても大丈夫だね」
「ちょっとニュアンス変わるね」
「そうだな。……いやこれ腫れたの方だとヤバくないか?」
字面だけ見れば、腫れてもスリッパなら脱ぎやすい、という意味にならないだろうか。先程考えた仮説にもあったが、やはり脱ぎやすいからスリッパだった、ということに……ならないだろうか?
もしそうであればどこへ向かったのか。それこそ蜂に刺されて腫れるという意味なのか。……いや、それなら警戒すべきは足元だけじゃない。黒に寄って来る性質を考えると髪の毛、ひいては顔を守らなければならない。それに、刺される前提というのもおかしな話だ。そもそも刺されないようにしなければならない。
だとすればなんだ。足元だけ、しかもたとえ靴を履いていても刺される可能性があるもの。
……いや、ある程度予想は出来ている。
「話していた子らはどこへ向かっていたか分かるか?」
「確か工廠がある方だから、まあ海の方だよね。……もしかして、浜辺?」
「その可能性が高いな」
何の用事か分からないが浜辺に向かっていて、腫れることが多かった。
それはつまり、クラゲ、なのかもしれない。
「……憲兵さん、腫れてもってクラゲに刺されて腫れてもスリッパなら脱ぎやすいとか、そういう意味?」
「……かもしれないってとこだな」
「一つ嫌な想像していい?」
「……なんだ」
「靴の隙間に入り込むくらいすごく小さいクラゲで、刺されたら腫れて、それなりに危険なやつがいるんだけど」
「その名前は?」
「キロネックス」
聞いたことはある。でもあれはオーストラリアかどこかで生息している殺人クラゲだったはず。
「そいつ自体は日本までは来ていないと思うんだけど、近縁種っていうんだっけ。似た種類のはいくつか存在して、確か日本にもいるはずだよ」
「もし、浜に行った奴がそれに当たったらやばいよな」
「当然やばいね」
「アナフィラキシーショックの可能性は」
「あるよね」
無言。
数瞬後、二人して勢いよく立ち上がる。
「北上、行くぞ」
「了解」
二人して扉を蹴破るように出ると、いつの間にか雲は消え去り、まさしく炎天下となっていた。
その膨大な光量に一瞬目が眩むが、そんなことも言ってられないと走り出す。
「念のためだぞ、念のためだ」
「分かってるよ! 念のため!」
可能性だけの問題ではあるが、念のためだ。
演習場方向に工廠があり、そのすぐそばに浜があったはずだ。おそらくそのあたりにいるのだろう。
「北上、思い出した」
「なにをー!」
「キロネックスの近縁種、確か沖縄にいるハブクラゲと、北海道まで生息してるアンドンクラゲだ」
「よく知ってるねぇ!?」
「海はもともと好きだからな」
口も動かすが、足はもっと動かしている。これだけ全力疾走したのはいつ以来だろうか。
と、走っている途中で見慣れた後ろ頭があったので、これ幸いにと声を掛ける。
「大井!」
「ん? あ、北上さん! と、憲兵さん? どうしたの?」
声を掛けたはいいものの、立ち止まって話をするか迷う。
そんな気配をいち早く察したのか、大井がそのまま並走してくれた。
「どうしたのよ、そんなに慌てて」
「すまん大井、すぐに入渠出来るように、ちょっと施設に連絡入れてくれるか」
スッと大井の顔が険しくなった。
「念のため、だけどな。何もなかったらすまない」
ほんの一瞬だけ思考する顔になったが、すぐに「分かった」とだけ残して、走る足を入渠施設に向けて去って行った。
ありゃあいい女だわ。頭の回転がとんでもねぇ。
「けんぺーさん、そろそろ着くよ! いちゃいちゃしない!」
「してないし語弊があるなそれ」
北上が言った通り、浜辺はすぐそこだった。そして、遠目ではあるが見慣れた4人組がいた。いつもの第六駆逐隊、つまりは暁、響、雷、電だろう。
そして、一人が倒れていてほかの三人が集まっているように見える。
もしかすると、もしかするかもしれない。なんでもっと早くに気付かなかった。
「おーい! どうした!」
声を張り上げるとみんなこっちに気付いたようで、電が泣きそうな顔をした。
「憲兵さん! 暁ちゃんが急に、足が腫れてて!」
「了解、暁、足を見せてくれ」
「うぐっ……、い、痛い……」
暁は必死に涙を我慢しているようだが、耐えられるような痛みでもないだろう。片足だけ裸足になった足元を見てみると、ミミズ腫れのような跡があった。ほぼ間違いなくクラゲによるものだ。
北上を見ると、雷や電のパニックをなだめているのが見えた。
「憲兵さん」
「響か」
「クラゲってことは、酢を持ってきた方がいいのかい?」
ふと話しかけてきた響が言ったことは間違いじゃない。……が、確か酢で活性化する毒があったようななかったような気がして、どうにも判断がつかない。
「ありがとう、でもそれより一番早い方法がある」
「それは?」
「入渠だ」
そういうと、暁の背と膝裏を腕で支えるように持ち上げた。
「北上! 先に入渠施設に行って、クラゲに刺されたと妖精さんに言ってみてくれないか。もしかしたら早く治せるかもしれない」
「分かった!」
「あ、私も行くわ!」
「電も行きます! です!」
「なら私は司令官に報告をしてこよう」
北上が雷と電を連れて走って行く。それに続いて、響は指令室へ、自分は北上たちを追うように走り出した。
自分はあまり揺らさないように暁を抱えて走らなければならず、流石に速度はゆっくりだ。こうしてる間にも暁は苦痛の表情をしており、当然だが急いだ方がいいだろう。
やはり北上と出した想像はあっていたのか。晴れた、ではなく、腫れた。足が腫れたら靴が脱ぎにくくなるから、スリッパで来たというわけか。なんでまたそんな無茶を。
「けんぺいさん……い、いたい……」
「大丈夫、大丈夫だからな。少しだけ辛抱だ」
周りに妹がいないせいか、隠せなくなった涙が痛々しい。抱きしめる腕に少しだけ力が入るのを自覚した。
考えることは色々あるが、とりあえず先に入渠だ。本当はクラゲの触手が残っていたら取った方がいいし、水を掛けるなり、温めるなり冷やすなりした方がいいんだろうが、何と言ったってここは鎮守府だ。入渠施設という病院に近いものだってある。ならば病院に連れて行った方がいいというのは、誰もが分かることだろう。
冷房の効いた部屋から準備運動なしで酷暑の中で短距離走をし、人ひとり抱えて砂浜ダッシュからの平地ラン。ぶっ倒れてもおかしくない運動をしている。
ふと暁の足を見ると、裸足の方には痛々しいミミズ腫れがあった。そしてもう片方の足はなんともなかったのか、―――靴を履いていた。
「……ん?」
「おーい! けんペーさん、こっち!」
「来たわね」
ふと潜りかけた思考の外から、北上と大井の声がした。
「けんぺーさん! 入渠の前にベッドに寝かせてくれってたぶん言ってる!」
「たぶんってなんだ」
「妖精さんの声は聞こえないからね!」
なぜか北上が自信満々に言っているのはなぜなんだろうか。
ともかく、入渠施設に入るとすぐに妖精さんがベッドの近くで集まっているのが見えた。おそらくそこに下ろせと言っているのだろう。そんな感じのジェスチャーをしている。
「暁、ゆっくり下ろすぞ」
「うん……」
小さな手を握り締めて、必死に痛みに耐えているのが分かる。
そして、ベッドにゆっくり横たえると、すぐに妖精さんが周りを取り囲み、特に足に集まっていた。
何をしているのかと自分も含め、北上と大井、それと雷と電が覗きこむ。すると、どうやらクラゲの針を抜いているようだった。正確に言うと刺胞というやつを除去しているようで、何をどうやってしているのか分からない。妖精さんの不思議パワーとしか言いようがないなこれ。
でも確かにこれがもし出来るのであれば、人間世界でも処置の仕方が変わるかもしれない。当然毒針を抜いてからの方が治癒は早いだろう。
妖精さんはスイスイと手を動かし、どうやらすぐに処置は終わったようだ。
じゃあな、とでも言うように手を挙げた妖精さんに同じように返すと、大井が暁を抱え、雷たちとともに奥へと去っていった。入渠の風呂にでも入れるのだろうか。
入渠自体はマッサージやら睡眠やら色々種類があるが、高速修復材がバケツであることを考えると、やはり一番修復が早いのは風呂なんだろうと思う。
「あの子たちね、今日はお休みで、浜辺で遊んでたんだってさ」
ふいに北上が話し出した。
「そしたら急に暁が足が痛いって言い出して、混乱してたら私たちが来たって感じらしいね」
「そうか、それなら丁度いいタイミングだったのかな」
それならよかった。クラゲ毒は呼吸困難になったり筋肉が動かなくなったりするから、海にいたら溺れてしまう可能性があった。それに発見も早かったから、処置も早く終わるだろう。
「さて、これで一件落着だな」
「そうだねぇ」
「結局、さっきの推察通りになったわけだ」
「え?」
……えっ、てなんだ。これで解決したんだよな?
そんな思いとともに北上を見ると、眉間にしわを寄せ何とも言えない顔をしていた。
「ごめん、けんぺーさん。一つ思い出したことがある」
「……なんだ」
「たぶん、言ってたのは暁じゃない。なんなら、そもそも駆逐艦じゃなかったと思う」
……は?
ということは、なんだ。推察は間違っていた、ということか。そう考えるよりほかにないようだ。
「そもそも一人はスリッパで来てるはずだよね」
「……そうだな。スリッパでいいだろと言っていたわけだし」
「誰もスリッパ履いてないよ?」
――……。
言われてみればそうだ。あの4人は誰もスリッパなんか履いていなかった。刺された暁だって、刺された方は処置のために裸足になっていたが、もう片方は靴だったじゃないか。
どういうことだ。どこから間違えていたんだ。
推察から導き出した答えが間違いだったにせよ、急を要することになっていた。なぜか嫌な予感がする。
「小林さん!」
と、そこに響とともに立花提督が走ってきた。
「小林さん、暁ちゃんは大丈夫!?」
「ああ、おそらく問題ないだろう。いま入渠に行ったし、どうやってかは分からないが毒針も妖精さんが取ってくれたしな」
「そっか……、良かった。ありがとう小林さん、北上ちゃんも」
立花提督は安心したように、そっと胸をなでおろした。
まだ息が整ってないあたり、かなり走ってきたのだろう。
「響ちゃん、妖精さんに高速修復材使っていいよって言ってきてもらえる?」
「了解だよ、司令官」
響はこちらに黙礼だけして、中に入っていった。
「いや、ありがとね。まさかクラゲがいるなんて考えてなかったよ」
「クラゲ自体はいるが、被害が出ている所を実際に見かけることはあまりないだろうさ」
それはいわゆるバイアスと呼ばれることかもしれない。だからこそ事前準備と訓練が必要なわけだが。
「しっかし今日は暑いねぇ。小林さんと北上ちゃんはなんで浜辺なんかにいたの?」
「ああ、ちょっと北上と休憩がてら暇つぶしに推理ごっこしてたら、いつのまにかこんなことに」
「なにそれ、面白そうね。あーあ、私も仕事が無ければのんびりしたかったんだけどなぁ」
そういうと、立花提督は大きく両手を上げて伸びをした。デスクワークが多いから、肩も凝るだろう。
「最近ずっと欲しい装備が出なくてさ、調整が大変なんだよね」
――ん?
ふと急に頭の中が整理されているような、不思議な感覚がした。
『猛暑日』
『高い湿度』
『疲労度の高い秘書艦』
『最近不機嫌な提督』
『晴れても大丈夫』
『今日はスリッパ』
『複数人でローテーション』
『装備』
あと二つピースが足りない。
「立花提督、ちなみに装備って何を開発しようとしてたんだ?」
「えっと、流星と彩雲だね」
ということは艦載機。
開発で出る装備は、当然ながらその日の秘書艦によって可能性が変わる。艦載機ということは、つまり空母が秘書艦である可能性が高い。
つまり。
「北上、もしかして例の話をしていたのって、瑞鶴か?」
「え、ああ、そういえばそうかも」
「なるほど、ついてきてくれ」
早足で歩き出すと、不思議そうな顔をした北上と立花提督が付いて来た。
「どこに行くの?」
「工廠だ。……やっぱり最初に北上が言っていたことが正しかったんだ」
「え?」
「暑いからスリッパだったってことだよ」
そう、最初に破棄した第一案。暑いからスリッパだった、ということだ。
「最初から間違ってたんだ。雨の方がいいんだからなんとなく屋外であるということを前提に話していたけど、これはおそらく屋内の話だ」
「屋内? でも屋内でスリッパを履く意味なんてなくない?」
「だから、暑いからだ。汗をかくから、スリッパの方がいいんだ。そしてそれは冷房もかけられない場所であると」
簡単な話だ。最初から答えなんて出ていたようなもんだ。ただ、それを認識できていなかっただけで。
「つまり、工廠」
足の向く先は、当然、工廠だ。
「立花提督、おそらく最近ずっと装備開発をしていたんだろう?」
「う、うん、そうだね。どうしても艦載機が足りなくて、瑞鶴ちゃんに工廠に行ってもらってたけど……」
「それで最近ピリピリしてたんだねー」
北上が、なるほどと言わんばかりに頷く。それに対し、不機嫌であったことがバレバレだったのが申し訳ないというかのように、立花提督は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「そして工廠は当然開発を行っているから暑いし、あそこは冷房なんてかけられないだろう。それでも開発を行うのだから、せめてもとスリッパを履いた」
「あ、なるほど、ローテーションっていうのも、開発が日ごと別の人が行っていたからなのかな」
「そういうことだろう。それに、雨が降った方がいいような言い回しも、当然雨が降れば気温も少しは下がるだろうし、そういう意味だったんじゃないか」
『今日はスリッパなんだ、いいでしょ。これで晴れても大丈夫だね』
細かく言い換えるとしたらこうだ。
『(工廠へ行くのに)いつもは靴を履いているけれど、今日はスリッパを履いている。(暑いから)できれば雨であってほしいし晴れてほしくないけれど、最悪晴れてもスリッパを履いていれば(暑さはまぎれるから)問題ない。そして、雨であれば(そんなに暑くならないから)靴でもよかった』
そんな感じになるだろうか。
「それでなんだけど、一つどうしても気になることがあるんだ」
「どうしたの? これで完全に解決だよね?」
「ああ、解釈はこれで正解だ。ただ、念のため、だ」
先程も使った『念のため』。
この言葉のおかげで暁のもとへ駆けつけられた実績があるが、今日に限ってはある意味曰くつきの言葉だ。
当然、北上の顔に真剣みが帯びる。
工廠へ向かう足も、徐々に早足よりもスピードが上がっていた。
「いくつか条件が揃ってしまっていてね。猛暑日、一番暑い14時という時間帯、高い湿度、雲が晴れて急激に上がった気温と熱、海からの照り返し、開発という熱作業の近くでしかも熱が逃げにくい屋内、そして瑞鶴本人の疲労」
「もしかして……」
「これらすべて、熱中症の要因だ」
最後にはほぼ走るようにしてたどり着いた工廠に駆け込むと、妖精さんがわらわらと集まっていた。そして、その中心に、瑞鶴が倒れていた。
「瑞鶴!」
「瑞鶴ちゃん!?」
嫌な予感っていうのは当たってほしくないときに限って当たるんだよな!
駆け寄ると、工廠内の熱気が押し寄せてくるようだった。こんなところにいたら、すぐに茹だってしまいそうだ。
瑞鶴の意識はあるが、呼吸がやっとで話すことは難しいようだった。しかし、よく見ると妖精さんがうちわで必死に煽いでくれているのが分かった。
「北上! 先に行っててくれ!」
「了解!」
瑞鶴に声を掛けていた北上が跳ね起き、そのまま全速力で出て行った。おそらくそのまま入渠施設に行ったはずだ。
そんな瑞鶴のそばでは立花提督が応急処置をしている。呼吸の確認と、袴の胸元を大きく開いて通気をよくしていた。あと背中をごそごそしていたから、下着のホックも外したのだろう。
「行こう、立花提督。その方が早い」
「ちょっと待って。よし、これで多少熱は発散するはず」
服のことを言っているのだろう。そちらはあまり見ないようにして、瑞鶴を自分の背にのせる。やはり、体に熱がたまっているのか、火傷しそうなほどの熱と汗をかいていた。
まだ汗を掛けるだけ水分が体に残っているのは、不幸中の幸いかもしれない。
「ありがとう妖精さん、うちわ助かった。また今度お礼に来るよ」
そういうと、瑞鶴を心配そうにしながらも音の出るような敬礼をしてくれた。素早く返礼し、立花提督と共に工廠を飛び出す。
「立花提督は自分の前を走ってくれないか。先導を頼む」
「おっけー!」
「すまない、助かる」
必要ないかもしれないが、先導として道を開ける役をお願いする。
そうして走っていると、背中の瑞鶴が少し動いたような気がした。
「けん、ぺ、さ……」
「ああ、自分だ。もうすぐ入渠施設につくから、ちょっとの間だけ我慢してくれ」
「わたし……汗臭いから……おろ、して……」
女子か。女子だわ。
分からないではないが、承服しかねるなぁ。
「大丈夫、いい匂いだよ」
「へん、たいぃ……」
……………対応間違えた。
先導しているはずの提督もすごい形相でこちらを見ている。
そんな感じで急に精神が病みかけた自分の目に、先程と同じように大きく手を振る北上と、どこか呆れるような大井が見えた。
◆◇◆◇◆◇◆
結果的に瑞鶴も暁も特に異常なく、快方に向かっているようだ。二人とも高速修復材を使ったそうだが、暁はいいにしても瑞鶴は何日か療養するとのこと。とはいえ、流石に暁も次の日は休みにされていたが。
本人曰く、
「私は大丈夫って言ってるのに、みんな心配しすぎなのよ!」
とのことだが、響以下3人の妹から泣きつかれては、抵抗も出来なかっただろう。あの時冷静に見えた響でさえそうだったのだから、暁も諦めるよりほかない。
そして瑞鶴だが、その後見舞いに行ったら顔を真っ赤にして追い出された。まあ、そうなるだろうな。
ぶっ倒れてるわおんぶされるわ汗でぐちゃぐちゃになってるわ服も緩められてなんなら上の下着のホックも外されて、あまついい匂いとか言う変態がいたら、そうなるわ。それに関してはただただ申し訳ないわ。
しかし、丸一日あとくらいに会いに来てくれて、感謝の言葉は受け取った。
その際に、
「……あの、これがお礼になるか分からないんだけど……また汗かいたら抱き着いた方が……いい……?」
と言われた。
ぶっちゃけ刹那だけ迷ったが、自分はそういった類の変態ではないし、またそういう精神的負担を強いるために助けたわけではないと説明し、丁寧にお断りした。
……が、それから時折訓練や任務終わりの瑞鶴が近くに来るようになった。果たしてこれは何を意味するのか。
立花提督に関しても、瑞鶴の疲労に気付けなかったことを自戒し、きちんとしたローテーションと健康管理を徹底すると言っていた。ちなみに艦載機だが、その後無事開発されたようだ。
また瑞鶴に対する発言に関しても、
「まぁ、趣味嗜好は人それぞれだからね……そもそも小林さんは感覚バグってるし……大丈夫だよ……」
と、私理解ありますよアピールをされた。いや、必要ないから。
大井はというと、あのすぐ後に感謝を述べると、
「や、私は北上さんとほかの子のために動いただけですし、あんたのためじゃないわよ。……でもそうね、それでも感謝したいというなら、またコーヒーでも頂きに行くわ」
と言って颯爽と去って行った。なんだあのいい女。
――そして、全ての渦中にいた自分と北上はというと。
「けんぺーさぁん……」
「なんだ」
「それたのしい?」
「だから、楽しい楽しくないでするものじゃないんだよ」
再び憲兵居室でまったりしていた。
あの日聞いたことをほぼそのまま言ってくる北上に、ほぼそのままのことを返す。
当然、自分はパソコンで報告書を作っていて、北上は対面で机にほっぺたをつけたままどろりと溶けている。こやつもしや軟体生物なのでは。
「なんか、ずいぶん前のような気がするねぇ」
「ん? クラゲやら瑞鶴やらの日か」
「そー。まだ一週間くらいしかたってないのに、濃い一日だったせいで時間の感覚がおかしくなっちゃうよ」
確かになぁ。あの日もこんな感じだっただろうか。
そう、暇になった北上がこう言い出すのだ。
「ねー、憲兵さん、休憩しない?」
「どうした急に」
「暇」
「自由か」
そう言って、仕方ないなと思いながらお茶でも入れようかと立ち上がった瞬間、北上がこちらを見ているのに気付いた。
しばし見つめ合う。
そして、北上がにやりと笑った。
「さっき誰かが言ってたんだけど、あれなんだったんだろう」
……あの時自分はなんと言って返したか。
そう、確かこんな感じだ。
「ほう、何か変な事でも言っていたのか?」
それを聞いた北上は笑みを深くして、こう言った。
「『今日はナタにしましょう。硬いのがあったし、まだ間に合うかな』」
ナタ? 伐採でもするのか? そもそもナタは硬いだろうし、間に合うってことはどこかに行くのか?
そんなことを考えながら思案する自分を見て、北上が提案した。
「今日の休憩は、これを推察することにしない?」
「……」
してやったりな顔の北上に、毒気を抜かれたようにため息をつく。
「分かった、そうしよう。……さて、まずは文章を分解してみようか」
くっそ長くなって申し訳ない。
米澤穂信氏リスペクト。さらに言うならH・ケメルマン氏リスペクト。
いわゆる「九マイルは遠すぎる」という小説があり、これは安楽椅子探偵の代表作とまで言われています。
氷菓(もしくは古典部シリーズ)の短編の一つ「心あたりのあるものは」と同じ構成です。
結論としては、くっそむずい。私ではまだ文章力と構成力が到底足りない。
ので、まあ関係性だけでも楽しんでいただければ幸いです。
あと最後の一文は、分かる人には分かると思いますが、かなりマニアですね。ナタで硬いのはヤバいです。
それではまた次回。
※この辺にアンケートがあると思いますが、その他の提案があればメッセージなどでお願いします。感想で書いてしまうと違反になってしまうので。
次の話アンケート2
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響の話
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川内の話
-
鈴谷の話
-
赤城の話
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大和の話