美醜逆転した艦これ世界を憲兵さんがゆく   作:雪猫

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030 - とある騒乱について

■夕立の場合

 それは、北上が自分の居室でちびちびカクテルを飲んで、そのままソファーで寝たのでどうしようかと立ち尽くしている時だった。

 不意に自分の端末に連絡が入った。

 

「はい、小林です」

『小林さん!? 今すぐ指令室に来て!』

「立花提督か? すぐ行くけど、何があった?」

『夕立ちゃんがどっかに行っちゃったの!』

 

 ……なんで?

 とりあえず制服の上着だけ脱いでいたのでそれだけ手に持って居室を走り出た。

 何かあったのだろうか。何かあったから呼ばれたのだろうが、それこそ、艦娘の誰かが襲われたとかであれば本質としての憲兵たる自分の失態だ。

 

「クソ、なんだってんだ」

 

 柄にもなく悪態が漏れる。

 とりあえず急がねば。残暑とはいえまだ9月。たまに涼しくもなるが、まだまだ夏と言って差し支えない時期に走るのはやはり堪える。

 おそらく最速で指令室まで駆け抜け、辿りついた先に立花提督が見えた。他には龍驤と赤城がいるが、わりと珍しい光景だ。そして、幾多に並んだディスプレイの一つに夕立の姿があった。

 ……なんか普通に海の上滑ってるんだけど。どっか行ったって、もう捕捉出来てるじゃん。なにが問題なんだろうか。

 

「あ、小林さん! ちょっと早速で悪いんだけど、夕立ちゃんに呼びかけてくれる?」

「え、ああ、いいけど……」

 

 立花提督に小型マイクのようなものを持たされて、ディスプレイに映る夕立を見る。

 ……ふむ。

 

「夕立、夕立、こちら柱島第一鎮守府所属小林、どうぞ」

『ぽい? こちら夕立っぽいー。どしたの?』

「どうしたんだろうなぁ、夕立は何してるんだ?」

『んー、ちょっと散歩? あ、それよりも憲兵さん!』

 

 ぷんすこ怒ったように、ディスプレイから睨んでくる夕立。何したって可愛いから意味ないけどな。

 そういえばこのディスプレイは艦載機から妖精さんが映像を飛ばしているんだっけ。なるほど、だから空母の龍驤と赤城がいるのか。

 

「どうした?」

『憲兵さんが鎮守府からどっかに行くって噂が流れてるっぽい!』

「え、そうなのか。……全部デマだから安心していいよ。立花提督が悪いやつだな」

『……そうなの?』

「まあいろいろあってな、帰ってきたら説明するよ。今どこにいるんだ?」

『んーと……? 結構遠くっぽい?』

「分からないのか?」

『帰る方向は分かるから大丈夫っぽい! ……憲兵さん、いなくならないよね?』

「ん? 今のところ予定はないし、ここは居心地がいいから異動はしたくないとは思っているよ。ちょっと公私混同しすぎかもしれないけど」

『そっか……』

「ま、暗くなるから早めに帰ってきなよ。できれば晩御飯までには帰って来たほうがいい。鳳翔がやる気だったから、きっといつもより美味しい料理が待ってるぞ」

『りょーかい! すぐ帰るっぽい!』

「安全にね。じゃあ切るよ、以上」

 

 ふぅ、と息をついて立花提督を見る。

 親指をぐっと上げて、やるじゃんみたいな顔をしていた。

 

「これで良かったのかい?」

「ばっちりだよ小林さん! ありがとね!」

「……結局何があったんだ?」

「えっと、……あはは?」

 

 それは誤魔化そうとしてるのか。だとしたら下手とかそんなレベルじゃないぞ。

 目は泳ぎまくってるし、挙動不審だし……なんなら今口笛吹き始めたぞ。しかも下手くそ。……なんだこれ。誤魔化そうとしてバレバレなやつのフルコースかよ。

 

「……まぁいいか」

「! そうだよ! まあいいんだよ!!」

 

 ……うん、まぁいいか。

 

「それじゃあこれで失礼するよ」

「うん! ほんとにありがと!!」

「はいはい」

 

 立花提督が小さく手を振り、一言もしゃべらなかった龍驤と赤城もこちらを見て、龍驤は少しだけ手を振って、赤城は手を揃えて会釈してくれた。

 結局なんだったんだろうか。ここに留まる理由もなく、少し後ろ髪をひかれる思いもありながら、指令室を出る。相も変わらず粘度の高い空気だ。

 あまり細かく聞いても、それが軍事機密で教えられない場合もあるだろう。そうなると間違いなく微妙な空気になるし、ここらで引いておくのがベターだろう。

 もし本当に困っていたら自分に連絡してくれるだろうし、そういう意味で信頼もしている。

 ――と、そこで気付いた。

 

「もしかして、それが今だったのか……?」

 

 もしかしてどうにもならなくなって、自分を呼んだのか?

 振り返って出てきたばかりの指令室の扉を見やる。いくら見つめたところで無機質な扉は何も応えることはない。

 もしかしたら夕立が何か、ヤバいことに首を突っ込んでいた……?

 少しだけ考えを巡らすも、ふむ、と一息漏らして歩き出す。今考えたって仕方のない話か。きっと今自分に出来る一番のことは、帰ってきた夕立を目いっぱい甘やかしてやることだろう。

 廊下から外を見ると、斜陽が目を焼いた。

 

「まぶしっ……」

 

 とりあえず目下の解決すべき問題は、居室に置いてきたスーパー寝ぼけ北上さまをどうするか、だな。そろそろ起きないと夜眠れなくなるだろうし。

 

「はてさて、夕立はいつ帰ってくるのやら」

 

 見上げた空はまだ青く、ひぐらしが鳴くまでもう少し。

 

 

■夕立、その裏で

 3人だけになった指令室で、ふー……っ、と深く息を吐き、同じくらい息を吸いこむ。3度ほど繰り返し、ようやく頭が回ってきた。

 近くにあった椅子にどっかと倒れるように座りこみ、背もたれに全身を預けた。知らず流れていた汗にようやく気付き、袖口で拭う。

 

「なんとかなったよね……?」

「そうやなぁ……なんとかなったんやろなぁ……」

「なんだかすごく疲れました……」

 

 私が口を開くと、そちらもようやく一息つけたのか、龍驤と赤城も疲れた様子を隠さずに続いた。

 先程小林さんが出て行った扉を何気なく見つめる。

 小林さんがいて良かった。このままだと夕立が……、もしかしたら最悪の事態になっていたかもしれない。

 

「せやけど提督、こんなんはこれっきりにしてや、ホンマに」

「いやまさかこんなことになるなんて、ちょっと想像出来なかったかなぁ」

 

 龍驤の言葉に苦笑ながら応える。

 

◆◇◆

 

 ――まさか、だったのだ。

 それは小林さんと北上が出て行ってすぐのことだった。緊急連絡回線で報告が入り、誰かと思えば天龍だった。

 

「こちら立花」

『提督! 夕立がどこにもいねぇ!』

「は?」

 

 あっけにとられるとはこういうことなんだろう。

 確か夕立は今日は午後から出撃予定で、内容自体は哨戒任務だったはず。

 一瞬で色々なことが思い浮かんだ。もしかしたら何者かが入り込んで、夕立を攫ったのではないか、それとも一人で町に行って酷い目にあったのではないだろうか、それとも――

 

『おそらくだが、装備がないから海に出てんぞ!』

 

 ――それとも、たった一人で海に出たか。

 それからすぐに、龍驤と赤城を呼んだ。状況が読めない以上、数は少ない方がいい。この事案を握り潰さなければならなくなったときのことを考えて、口外されるリスクは最小限にしたい。

 つまりこの二人を呼んだのは、この鎮守府の中でも古参で信頼も厚く、空母である彼女たちであれば発見も早いだろうと思ったからだ。

 果たして、夕立は見つかった。海上を、ある方向に向かって進んでいた。

 ……生きていた。一人で海上に出て一番怖いのは、深海棲艦との遭遇だ。いくら夕立が熟練した腕の持ち主だとはいえ、駆逐艦一隻で対応できる量は高が知れている。

 しかし、生きていること、それを喜ばしく思うと同時、よぎったのは『脱柵』の二文字。つまり、脱走。

 

「夕立! 今すぐ帰って来なさい!」

『提督さん!』

 

 艤装の通信装置を切られていたので妖精さんを通じて呼びかけると同時、夕立から妙に弾んだ声が返ってきた。

 

「……どうしたの、夕立」

『憲兵さんどっかに行っちゃうんだってね』

 

 ……この時、不思議と夕立の行動に合点がいった。

 思い出されるのは瑞鶴をからかった時のこと。いなくなるからどうにかしたいと冗談で言ったことが、どこからか噂として漏れたのだろう。

 そしてもう一つ、不知火のこと。小林さんは良くも悪くも、柱島鎮守府の深いところに根付いてしまっている。それこそ、不知火のように執着してしまう子が出てくるほどに。

 全て、身から出た錆だった。

 

「夕立、それは勘違いだよ、だから――」

『だから? だからなに? とりあえずよくわかんないけど呉鎮守府潰してくるっぽい!』

 

 何故。

 駄目だ。そこまでしたら脱柵どころじゃない、内乱罪だ。

 

「……提督」

「赤城?」

「最悪の場合は、私にご命令下さいね」

 

 最悪の場合。

 本当の本当に最低最悪。

 その汚名を赤城は被ろうというのか。

 

「あー、提督。……とりあえず、憲兵さん呼ばん?」

 

 今度は横から龍驤が口を開いた。

 そしてそれが、今回の銀の弾丸となる。

 

◆◇◆

 

「なんにしても、とりあえず何もなくて良かったね」

「なんもなかったわけやないけど、大きなことにならんで良かったわ……」

 

 私も冗談で大本営にちょっかいかけるみたいな発言をしたことがあるが、実際そうなると内乱罪であり、一種の革命だ。もっとも犯罪らしい犯罪とまで言われている。

 夕立の場合、呉鎮守府は大きいし日本の要ともなる一つとはいえ、仕掛けていたら内乱罪というよりは騒乱罪あたりが妥当かもしれない。……しかし怖いのは、艦娘に対する法律がまだ整備されきっていない点だ。……最悪、その場で終了処理される可能性すらある。

 夕立は、その一歩目を踏み込んでいたのだ。

 

「でも、赤城」

「はい?」

「最悪の場合を被ろうとするのは不甲斐ない私が悪いわけで、命令を出すのも私。もし本当にそうなってても、赤城は命令されて汚名を被らされただけってことをよく覚えておいて」

「……了解です」

「一番悪いのは、私よ」

 

 あー、もうやだー。楽してだらりと日々を過ごしていきたい。提督として、上司部下の関係で艦娘と会話することのなんとストレスの溜まることか。

 もちろん公私を分けなければならないし、それが出来ない人間はそもそも上に立つ資格がない。……とは思うけどさー。やっぱさー、しんどいよなー。

 

「……とりあえず、提督はもう休んだ方がええんちゃう? 赤城と交替で見とくし、もうそんな警戒せんでもええやろ」

「……そうだね、ごめんだけど龍驤、赤城、あとお願いね」

「まかせときー」

「了解です、ゆっくり休んでください」

 

 二人の声に押されて、指令室を出る。

 確かに、あとは夕立が帰ってくるのを待つだけだ。それに、昔は2人とも秘書艦として動いてくれていたことも多く、ある程度の裁量権が与えられている。

 指令室から出る直前に聞こえた、念のため夕立の代わりに時雨を入れた哨戒部隊を夕立方向に向かわせようか、といった内容を聞いて安心する。もちろん夕立には命令違反で何かしらの罰は与えないといけないが、それよりも姉妹からの言葉の方が、夕立には響くだろう。

 

「……ふぅ」

 

 とはいえ、今日のはちょっと疲れた。

 

「はぁ……、だらっと生きてたいなぁ」

「おお、ついに司令官もその境地に」

 

 突然聞こえた声に視線を向けると、だらだらの女王、望月がいた。

 

「司令官、顔色が悪いね。よければ一緒にだらだらするかい?」

 

 少し考え、こくりと首肯した。

 

「おおう、珍しい。本当にまいっているようだ。よろしい、のんびりの真髄を教えよう」

 

 たまには自分の意思ではなく、ただ流されるまま、誰かに師事するのもいいかもしれない。

 そんなことを思う、ある晩夏の夕暮れであった。




「憲兵さんがここからいなくなっちゃうっぽい?」
「一番近いから憲兵さん呉鎮守府にいくっぽい?」
「なら呉鎮守府潰さなきゃ(使命感)」

 ???
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