「ねぇねぇ良いじゃん~。」
女子生徒の肩を抱き寄せる不良生徒。
「おい。嫌がってるだろやめろ。」
そんな彼らに向けて重く沈むような声が廊下に響き渡る。
「は?うるせえな」
不良生徒が振り向くとそこには、校内で知らないものはいない程の恐怖が立っていた。
「……だから、やめろって。」
声を震わせながら恐怖……こと古河が半歩後ろに引いた。
この震え声は恐らくビビっているのではない。
これから起こる血祭りをあげる事への高ぶりなのだ。
半歩引いたのは逃げ出したいからじゃない。
その足を軸に突撃をするのだろう。
そんなことぐらい、彼ら不良生徒はわかっていた。
「ち、違うよ古河くん……。俺らちょっと彼女とお喋りしてただけじゃん。」
不良生徒は冷や汗を滴ながら古河への説得に移る。
しかし、古河がニヤリと笑いながら、「そうかそうか」といいながら右手と左手を胸の前に…いわゆる軽く拳を握ったファイティングスタイルをしている。そして近づいてくる。
「くっ……こええええええよおおおお!!!」
遂に不良生徒達は逃げたしてしまった。
「あれどういう事だ?」
一連の流れを見ていた俺ら四人。
小田が説明を求めるように俺に聞く。
「あれは不良達の恐怖という感情が産み出した、被害妄想が起こした出来事だな。古河自信のビビっている顔も声も恐ろしかっただろうし、更に震え声は戦闘への高ぶりを、半歩下がったのは戦闘への移行をスムーズにするため、二人の言葉を信じ謝罪の為に二人の肩を叩こうと寄っていったがそれがファイティングポーズに見えたのだろう。」
「めっちゃ早口だな。」
「気持ち悪!」
恩知らずな相模と小田に向け俺はファイティングポーズを構えた。
「古河くん大丈夫?」
八王子少年が心配そうな顔をしながら中腰になっている古河に近寄る。
「あぁ…怖かった………。」
足をガタガタ震わせ顔面蒼白になりながら古河はフラフラとしていた。そんな彼を八王子少年は支える。
そんな彼らのすぐ隣で少女は泣いている。
「さ、境さん………」
少女……もとい古河と同じクラスの境は不良生徒に言い寄られた恐怖で泣いていた。
しかし、境が泣いているのに気がついた古河はいつもの怖がられているのだと思った。
そして、いつもの彼なら何も言わず立ち去る。
しかし、今日の彼は怖がられないために、君を助けに来たのだと伝えるためにもう一歩踏み出すことにした。
「……境さん。」
「んすっ……ぐすっ……」
泣き止まないがこちらをちらりと見た境の手に、自分の自作した小さい犬のぬいぐるみ、口には桃味のあめ玉を入れる。
古河は泣き止まない妹をあやす為にする事を、境に実践していたのだ。
びっくりした境はぬいぐるみと古河の顔を交互に見る。
古河は恐怖など感じさせない柔らかい笑顔で境にそっと呟いた。
「怖がらせてごめんね、困ってる君を助けに来たんだ。もう、泣かないで。」
「む、終わったか。」
「終わったか……じゃねえだろ!!これほどけや!」
「喧嘩している貴様らが悪い。喧嘩両成敗だ。」
「ふざけやがって!」
「俺、最近縛られてばっかだよ……」
古河やあの子やアサヒがキラキラと青春を送っている場所から、少し離れたところで喧嘩していた俺らは突如現れたアヤノちゃんに縛られている。
キレる原、泣きそうになる相模、あのキラキラが懐かしく遠くを眺める俺。
こんな別々な時間を過ごしている俺らに、チャイムは一律で午後の授業の開始を告げる。
翌日
暖かい……というより暑くなってきた。
そんなことを考えながら学校一の恐怖は今日も一人で、周りを寄せ付けずに歩いていた。
しかし、彼にも何人か挨拶をかけてくれる者が出来た。
「ほら置いてくぞ!お!古河おはよう!」
「急に走らないでよ兄ちゃん!古河君おはよう!」
彼はぎこちない返事をする。
「あら古河様。おはようございます。」
「おはよう古河殿。今日はいい天気だな。」
こんなにも挨拶が気持ちいい物だと彼は知らなかった。
「今日もお弁当作って来たから食べてくれる…?」
「もちろん!セリカちゃんの弁当ならどんだけでも食べれるよ!」
「……バカ!!……あ、古河おはよう!」
「ぶへっ!……よお古河。悪いけどこの螺旋みたいに巻かれた首治してくれない?…あ、そうそう。よし、ありがとう。」
そして、こんなにも友人が素晴らしい物だとも知らなかった。
「~♪~♪~♪……サビは、こんな感じで……。おっす!古河!」
「古河おはよう。………いやそこは半音あげた方が…」
彼らと出会えて本当によかった。そんな当たり前の感想を遂に手に入れられた。
「やっほー!古河君!」
親友のアサヒが後ろから突進してくる。
「いて!?……もう少し優しく突進してくれ……。」
「ごめんごめん!ところでさー……」
「あの!!」
後ろから掛けられた声に反応し古河とアサヒが振り向く。
「古河君!昨日は……ごめんなさい!私、あの人達にずっと近づかれて肩とか触られて……怖くてずっと泣いてて……。」
「……俺が怖かったんじゃないのか?」
「え?違いますよ。だって、古河くん優しいです。古河くんのように優しそうな人怖がらないです!」
古河は初めて「優しそう」と言われて少し混乱する。
「俺が……優しそう?こんな顔の俺が?」
「顔とか関係ないです……!古河くん、昨日は本当にありがとうございました!」
その時ぶわっと風が吹いた。
美しい桜の花弁が宙に舞う。
これはかつて恐怖されてた心優しい少年が、皆から理解され愛されていく話。
そんな話の第一歩は、花の様に儚く美しい笑顔が似合う少女に理解されるところから始まるのであった。
境さんにはわかっている
第一部完
仕事忙しすぎて物語妄想する時間がないので不定期になります。なってます。