「くっそせっかくの休日にやっちまった。」
今日は土曜日。
一週間の中でも一番素晴らしい日なのだが、そんな日に限り俺は思いっきり熱を出してしまった。
体はだるいし、頭がガンガンするし、吐き気もする。
一応買っていた市販の薬を飲むヨーグルトと共に飲みあとはひたすらベッドで横になっている。
何度か起きて寝てを繰り返したが、まだ日も高い。
もしかしたら半日以上寝てしまったのかとスマホを付けるが記憶にある最後の時間から三時間程しか立っておらず頭がおかしくなりそうになりながら今に至る。
とりあえずテレビを付ける。
土曜の昼にテレビを見るなんて前の世界でも長らくしてなかった。なんか俺が見たいバラエティーとは、微妙に違うやつしかないんだよなぁ……。
また寝ていた。テレビの時計を見るとちょうど12時になった所だ。
頭の痛みは大分収まったが、頭がボーッとするし体は相変わらずだるいし喉は痛い。この地獄は永遠に終わらないのでは?
「おーーはようごさいまーす!」
俺の体調不良何て知らずに小田が合鍵で部屋に入ってきた。
「よーう!お前いつまで寝てるんだ~。……ってどうした?」
流石に俺の姿を見て様子がわかったのか一気に素のトーンになった。
「ダメだ体調崩した。」
「薬のんだのかよ?今何度?」
「薬は飲んだ。何度かは体温計無いからわからない。」
「飯は?」
「飲むヨーグルト」
「オッケー。熱冷まシートと体温計と飯だな。」
「お粥じゃなくてうどんが食べたい。」
「はいはい。わかったよ。」
小田がそれだけ残して家を出ていった。
こういう時に短い問答で必要なものを確認してくるあいつは親友として最高だと思う。
元の世界でも俺は親友と言えるやつがいた。
高校の三年間一緒だっただけだが、高校生活といえばあいつとの日々が一番に出てくる。
そんな奴とも、卒業後はろくに連絡も取らず気付いたら疎遠になっていた。
あいつともう一度会いたいな。そして、またあのときみたいに笑いながら話したいな。
次に今まで忘れていた初恋の子を思い出した。
あれは、小6の時だ。いつも気さくに話しかけてくれて本当に嬉しかった。大好きだった。
中学に上がり少ししたら、ちょっとヤンチャなカッコいい先輩と付き合ったと噂で聞いたときはとてつもなくショックだった。
付き合っているからショックだったのではない。
彼女は俺の中で特別だった。それが結局は、みんなと同じものを欲しがっていたのかと思うと俺は何故か怒りがわき出ていた。
今にして思えばその感情は、ひどく傲慢で我が儘で童貞臭くて青臭い考えだった。
ちなみにその子は、成人式に大きなお腹を抱えて誇らしげに歩いていた。
俺とその子はもう他人だった。
そういえば俺は熱を出した時は必ず母さんにうどんを作ってとお願いしたっけ。
母さんが冷たい手を首筋に置いてくれのが好きだった。
あの優しさをもう一度……もう一度会いたい。
あの時捨てた筈の想いが、大人になったときに忘れた筈の想いが溢れてくる。
もう一度あいつと放課後の夕焼けの教室で話したい。もう一度あの子を見てドキドキしたい。
もう一度母さんの優しさに甘えたい。
もう一度、もう一度。
いつの間にか寝ていた。
窓から差し込む光は赤く夕焼けということを告げていた。
寝ている間に泣いていたようだ。目の回りが涙が渇いてパリパリとしている。
「あ、起きた?」
キッチンの方から声がする。
カナデが料理をしていた。
「あれ?どういうこと?」
ひたすら寝たからなのか大分楽になったことを実感しながら、とりあえず訳がわからないので質問した。
「小田に頼まれてね。『原が熱出して大変だから看病してやってくれ!』って。全く自分でやりなさいよ。ま、私は別にいいけど。」
「ありがとう…。」
「はいこれ。料理得意じゃないから市販の茹でてネギと卵乗せただけだけど」
カナデは机の上に青ネギを乗せたお月見うどんを運んできた。
「とにかく栄養付けないと。」
俺は言われるがまま、うどんに口を付けた。
旨い。そういえば腹も減ってるな。俺は熱さなど気にせずただただひたすらにうどんを食べ続けた。
汁まで飲み干し手をあわせてご馳走様をした。
「ありがとう。元気になったかも。」
「それならよかった。」
食器を片付けながらカナデは微笑んだ。
「食器まで片付けてもらうのは悪いよ。」
「ここ入れるだけでいいから別にいいよ。」
そういうとカナデは食器洗浄機に器と箸を入れボタンを押した。
すると食器洗浄機の中で水が噴射されてる音が響く。
ピローン
小田からラインが来た。
『必要なもの全部揃ったろ?(笑)』
あのバカ……
「熱計った?」
洗った手を拭きながらカナデが俺に聞いてくる。
「いや、飯食べたばかりだから……。」
「ふーん。」
そういうと俺の首筋にひんやりと冷たい手を着けてきた。
「やっぱりまだ結構熱いね。」
大抵の男はマザコンだとよく言われる。
きっとそれは大抵の男が初めて出会う優しさが母親だからなのだろう。そして男はいくつになってもそれを求める。
俺の母親の優しさはこれだった。
思わずカナデを抱き締めた。
「え?えええええ!?ちょっと………」
「ありがとう。」
いい歳こいたおっさんがJKを抱き締め涙を流しながら感謝をしていた。今日の俺はおかしい。きっとこれは風邪のせいだ。
カナデが無言で背中を擦ってくれる。
しばらくするとカナデがはっとして、俺を引き剥がす。
「わ、私このあと用事あるんだった!じゃあね原!鍵は小田に返しておくから!お大事に!」
真っ赤な顔したカナデは慌ててギターケースを持って家を出ていった。
胸のドキドキが止まらない。
どうやらいい歳こいたおっさんが、JKに本気で恋をしてしまったらしい。
こんな酷い話があるかよ。
俺は笑いながら夕焼けに包まれたこの部屋で小田にラインを返した。
『ありがとよ。』