「ということで好きになってしまいまして……。」
「ふーん。」
翌日。昨日俺の中で起きた変化をとりあえず小田に報告した。
「自分でも気持ち悪いのはわかってるんだよ……。」
とりあえず正気を取り直してから半日程。
俺の気持ちは変わらないけれど、その過程に我ながらドン引きしてはいる。
「ま、いいんじゃない?」
「え?」
「確かに過程は母親の面影を見て惚れるって、気色悪いよ。でも、好きになるのにそんなの関係ないからね。」
「お、おう……。」
「青臭いと思ったろ?」
「………まあね。」
「うるせえこの野郎。……なんかテンション低いな?」
「そうか?」
何か胸に重く引っ掛かる物を感じながら俺はおどけた。
久々に人を好きになると予想以上の胸の痛みに驚く。
ここまで心臓がバクバクするのなんて仕事でミスした時ぐらいだ。
小田はこれからデートらしいので、家を出てなんとなくぶらぶらと歩き回っていると気まずい人と遭遇してしまった。
「裾野……。」
「………原くん。」
裾野ヤヨイ。
相模への愛情が暴発してしまいとある事件を起こしてしまった同級生である。
「私さ、あの後私なりに考えたんだ。」
近くのベンチに腰を掛けると裾野が口を開いた。
「私がやったことは最低なことだってしっかりわかっているし、反省もしてる。それであなたたちに恨みなんか持ってない。」
「そりゃ当然だ。あんなので恨まれちゃこっちの身が持たないぜ。」
「だよね。……どうしたの?暗い顔して?」
「…そんなに暗い顔してるか?」
「うん。」
流石に同じ日に二人に暗い顔と言われたら今自分がどんな顔してるのか気になる。
「それに、自分が嫌でしょうがないって感じかな?」
ここまで読まれたらもう言葉はいらないのでは無いだろうか?
なんとなく昨日のことを母性云々の所は外して話した。
「原くんが恋愛かぁ……」
裾野がポカンとする。
「似合わないだろ?」
「似合わない…何てことないと思うよ。私だってしてたんだから。」
裾野が自嘲気味に笑う。
「私ね、あの後相模くんに告白したんだ。結果はダメだったけど。」
驚きの事実に思わず目を丸くする。
と、同時に胸がチクリと来る。
「原くんの顔見てわかったよ。あなた自分が許せないんだね。」
「どういうことだ?」
「今まで相手の子の気持ちに気づいていたのに無視をして気づいてない風を装って、でも彼女の前ではカッコつけて。いざ自分が好きになるとあれしたいこれしたいが出てきて自分勝手な気持ちが嫌なんでしょ?」
「それに、私の告白した話を聞いて、自分がどんだけ恵まれた悩みを持っているのかわかって、自分がとんでもなく悪人に思えてるんでしょ?」
驚きだ。
俺の思っていたであろう事を顔色ひとつでここまで見抜かれるなんて思わなかった。
おかげで胸の突っかかりが軽くなったのを感じる。
「図星だ。」
「でしょ?私ね人の顔を見るようにしたの。よく観察するように。そしたら色んなものが見えてくるようになったんだよ?」
「すげえな。」
俺が上げた感心の言葉に裾野は微笑む。
「恋愛ってそんなに苦しむ為のものなのかな?」
今まであまりあいつを見てこなかったのを痛感する。
あいつの趣味はわかる。ただそれだけだ。この世界にいながら、俺はディスプレイの向こうのあいつを見るようにキャラという矢印しか見ていなかったのかもしれない。
そんな俺が嫌いになっていた。
偉そうに「人のことをもっと考えろ」と言いながら俺は考えず、遊び半分でこの世界を生きていたのかもしれない。
あいつの私服ってなんだっけ?あいつってどんな笑い方したっけ?あいつの好きなものってなんだっけ?
頭をフル回転させる。
カナデのことを考える。
あいつの好きな歌………
『大好き!』
『僕が僕であるために~』
そうだ、唯一知っていた。
俺が俺であるために?
俺はどんな人間だ?
確かに俺は今まで恋愛経験も少ないし、片思いは嫌な思いをした。
よく見てた漫画や小説やアニメの恋愛は必ず山あり谷ありで、辛いようなイメージも俺の中であった。
今の俺はそんな後ろ向きな俺じゃないはずだ。俺はそんなに人の事を考える綺麗な奴じゃないはずだ。
元々傲慢で我が儘な人間が普通の世界から来たはずだ。
そんな歪みを持ちながらこの綺麗な世界に順応した。
恋愛が苦しいなんてディスプレイの向こうの世界の事だ。俺はここに生きている。
あいつを今まで見てこなかった?これから見ればいいだろ。
恵まれた悩みだ?そんな悩みを持てる俺が運良いだけだ。
俺は駅前まで走り出した。
あいつがいつもライブをしている場所に着いたがいない。
それもそうか。いつもいる訳じゃない。
肩を落としていると相模から電話が来た。
『あ、もしもし?俺だけど~。今偶然お前以外の部活メンバーと一緒にいるんだけど遊ぼうぜ。』
『わー!バカ呼ぶな!』
『何でだよ~。良いじゃん。で、来る?』
俺の今の心境とこの感じに気づいている小田が奥から静止する声が聞こえる。
「もう一度聞くけど全員なんだな?」
『そうだよ。』
「よし行くわ。場所は?」
俺は再び走り出した。
「別に走ってこなくても……。はい水。」
意外と近くの小洒落た小さい喫茶店にいた相模達と合流。客はどうやら俺らだけらしい。
息をぜーはーしている俺に相模が心配そうに話しかける。
「昨日倒れてたんだってな。大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。」
息を整え周りを見回すと小田がこちらに向かって来た。
「お前桐谷ちゃんいるけど大丈夫なのかよ?」
「あぁ、もう大丈夫だ。……カナデはあそこだな。」
「お前まさか……。俺らどこか行ってようか?」
「いや、いいわ。」
カナデのいる奥のテーブルへ歩いていく。
テーブル席にいる部活の女性陣が俺に大丈夫?と投げ掛けてくるので俺は笑顔で会釈をしてカナデを見つめた。
「どうしたの?」
カナデの心配そうな声が、顔が俺の心臓の動きを早め胸がはち切れそうだ。
言おう。
告白なんかまだできないけど、俺のこれからの気持ちを考えを。
「カナデ。俺、もっとお前の事を知りたい。だから、これからはお前の事しっかり見る。お前の事をもっと考える。……いいかな?」
「……いいよ。でも、私も原の事もっと知りたいな。」
あぁ、ダメ可愛すぎる。
鼻に温かいものが登ってくるのを感じるとそれを放出した。
ブラックアウトする寸前周りの声が囃し立てるような声から一気に悲鳴に変わるのを聞いた。