この世界はたまに俺の世界とは違う常識の時がある。
が、海水が目に入っても痛くならないのには驚いた。
それどころか普通に遠くまで見えるというのは未知の体験だ。
美しい海水の中で目を開けると日光が射し込み、色とりどりの魚が悠々と泳いでいる。
とても幻想的な風景がそこにあった。
「何か見つけたか?」
息継ぎのために浮上すると、相模が魚が刺さったモリを掲げながら聞いてくる。
「あぁ、ここら辺やっぱり色んな貝とかウニとかいるな。」
「魚も大量だぜ。」
そう言ってお互い大量の獲物が入っている袋を見せあうとニヤリと笑いあった。
俺らは今晩飯の食材を採っている。
実際は連絡したら花園家お抱えの料理人が持参した食材を使い様々な料理を作ってくれるらしいが、せっかくのプライベートビーチなのでバーベキューがしたい。
ということで、肉などは花園家の人に用意してもらい海の幸を俺らは遊びながら捕らえている所であった。
食べれる量だけ揃えたのでとりあえず砂浜に戻ろうと泳ぎ出す。
回りを見回すと皆の遊んでいる姿が見える。
ビーチバレーをしてる奴、パラソルの下でボーッとしてる奴、海の上を走ってるアヤノに真似して海に落ちる小田に数歩歩いて落ちるアサヒ。……アサヒやっぱり地味にポテンシャル高いな。
そんな各々が海を満喫しているといつの間にか夕方になっていた。
昔好きだったゲームで陽気な外国人が言っていた、「海と夕日が当たってジュッと音がなりそうな」日の入りだった。
それほどまでに美しく広大な水平線と夕日の情景に心奪われる。
この光景を俺はきっと忘れない。初日なのにそんなことを考えてしまう。
その後予定通り山の幸と海の幸の贅沢なバーベキューをして腹を満たし、片付けも終わらせあとは眠るまでの少しの時間を皆楽しんでいた。
俺はというと、車の中で爆睡してしまったのでまだ少し元気があった。
皆がそれぞれ風呂に入り、寝室に戻って行く中俺は釣竿を持って一人砂浜の端にある堤防にやって来ていた。
やることもないので何となく、餌を取り付け竿を投げる。
俺の呼吸の声と虫のさざめきと波の音がこの世界を覆ってるようにすら思える。
上を見上げると満点の星空だが、都会でずっと暮らしてきた俺にとってはあまりの星の量に気持ち悪いとすら思ってしまう。
最高の夏だな……。
「そうだね。」
いつの間にか横に俺のアコギを持って来ていたカナデが話しかけてきた。
「あれ?俺声出てた?」
「うん。思いっきりね。」
二人で顔を会わせて笑いあう。
また静寂が俺らを包むとカナデはギターを引き始めた。
曲は知らないがこんな夜にはピッタリの、音を一つ一つ確かめるような、とても落ち着いた曲だ。
「これなんて曲?」
「今作ってるオリジナル曲のアレンジ。歌詞も名前も付いてないよ。」
「なるほどな。………カナデ。今からちょっとビックリすることが起きると思うけど大丈夫?」
「どういう事?」
「怖かったら俺の手でも握っていいから。」
「え?」
「お兄さん達何してるの?」
こいつが歩いてくるのは見えていた。
昼間見た白い帽子に白いワンピースを着た、泣きたくなるほど儚く透明な女の子が立っていた。
「君もどうしたんだ?ここは私有地の筈だ?」
「え?ほんと?ごめんなさい。でも、私帰り道がわからないの。」
「そんなのもう少ししたら馬が迎えに来るな。」
「ふーん。お兄さん私の事分かるの?」
いたずらっぽい笑顔で訪ねてくる。
「あぁ、分かる。魚も釣れないし話でもしようぜ?」
「いいけど……隣の彼女さんは泣いてるけど大丈夫?」
「え?あら本当。」
カナデは、その大きな目から涙を流していた。
そして少女を優しく抱き締めた。どうやら触れるようだ。
「うわぁ!?どうしたの!?」
「何かわからないけど!こうやってあなたを抱き締めなきゃいけないって、そう思ったの!」
「ええ!?どうしようお兄さん?このままだと私……。」
「いいんじゃないの?……寂しかったんだろ?」
「う……うえええええええん!!」
二人のヒロインの泣き声が夜の静寂に溶け込む。
その時だけはさっきまで五月蝿く聞こえた波の音も、虫の声も聞こえなくなっていた。
「久々に泣いちゃったよ。彼女さんにもありがとうって言っておいて!それにお兄さんの友達にも会いたいな。」
「明日も俺たちここにいるから迎えに来てやるよ。」
「ありがとう。……所でお兄さんもしかして私の正体ほとんどわかってるよね?」
「何でそう思うんだ?」
「お兄さんって本当はこの世界の人じゃないっていうか………。全部知っている感じかするんだ。」
「流石、俺はこの世界の人間じゃない。ただ二つ違う点がある。一つは君の事全部は知らないさ。ある程度の事をもっと詳しい奴から聞いてるだけだ。」
「じゃあもう一つは?」
「こいつは俺の彼女じゃない。」
そう言って泣き疲れて寝たカナデを背負い、いつの間にか消えていた少女に背を向け別荘の方へ歩いていった。