それからはまさに悪夢のようだった
この学園は全てあいつが中心に動き始めたのだ。。
退治した不良達は筋も通せないようなタチの悪い奴等で、皆から大層嫌われていたらしい。
そんなのを倒したのだから伊勢すげえムードは学年全体に広がっていった。
そして、伊勢は様々な偉業を連ねていく。
仲間を呼んで学校を荒らそうとする不良達相手に一歩も引くことなく退治してみせたり、女子生徒にセクハラをしていた教師を警察に差し出したり、校舎の屋上から飛び降り自殺を図った女子生徒を助けたり、その行動一つずつに「別に普通のことだよな?」「俺また何か変なことした?」「俺は平穏に過ごしたいだけなのに。」と悲観しながらもその名声を轟かせていた。
変なこと?平穏?
ただ助けて感謝されて終わりでいいじゃないか。
まるで自慢のようにその場で言う必要もないと思う。
そんな僻みのような感情がムクムクと心の中で育んでいった。
更に数日、今や俺の知る人物達も伊勢を誉めちぎっている有り様だ。
いくら鼻に付くからと言って一人だけ罵倒するわけにはいかない、俺は周りにあわせてあいつを称賛していた。
そして、人生最悪の時が来た。
放課後、窓から見える空は曇天だった。
俺が廊下を歩いていると、伊勢とヒロインが前から迫っていた。
何気なくすれ違う。
すると、伊勢達の後ろから不良の一人が走ってくるのが見えた。
その手にはナイフが握られていた。
「伊勢死ねやぁ!」
「あぶねぇ!」
思わずそのナイフを横からはたき落とす。
恐らく不良達の報復だろう。
落ちたナイフを慌てて確保する。
これで、刺されることは……。
あれ?周りの人間が止まって………
「君がイレギュラーかぁ!」
何かに胸ぐらを掴まれるとそのまま壁に押し込まれた。
「くっ…。何で……!?」
俺の胸ぐらを掴む伊勢に問いかける。
「何でも何もないよ……!!君みたいな思い通りにならないゴミは排除しなきゃねえ!」
「どういうことだ!?」
「とぼけても無駄だよ…。俺が不良の凶刃にも負けず奴等を退散させて、看病イベントを発生させようとシナリオをメイクしたのに邪魔したのは……いや、出来たのは君が俺の影響を受けないイレギュラーだからなんだよ!神様が言ってたイレギュラーとか言うのがこんな奴だとはなぁ!どんな力があるのか知らないけど、あの部活に唯一いるモブかと思ったさ!」
伊勢の力がギリギリと強くなる。
俺は思わず悲鳴をあげるが、伊勢を除いて周りの人間はまるで蝋人形のようにピタリと止まったままだ。
「モブでもなんでもいいさ!その力でこの世界を塗り替えるのはやめてくれ!普通に俺と俺達と日常を送ろう!」
俺の必死の説得に、伊勢はイラついたようにもう片方の手で髪をかきむしる。
「あのなぁ、俺は前の世界ではこの力で、腹立つ奴等を正統的に殺し、魔王も殺し、無敗のまま王にまで登り詰めてヒロイン何人も孕ませたんだ!そんな俺がてめえみたいな平々凡々な生活を送れだと!?舐めたこと言ってるんじゃねえ!俺はなぁ!この世界でもヒーローになって!ハーレム作って!ヤりまくるんだよ!!そんな世界にお前は邪魔なんだよ!!」
「く、狂ってる……。」
「ほざけ!」
地面に思いっきり叩きつけられる。
こいつはこの世界をおもちゃか何かと考えているのか?
こんな自分勝手な人間本当にいるのか……?
何て自分勝手なんだ……。
俺はこんな奴と話し合いをしようとしてたのか……?
俺はこんな奴からこの世界を守らなきゃ…。
あまりのリミッターが外れた屑さ加減に頭が追い付かず、叩きつけられた形のまま動けない。
「ただこいつを殺すだけじゃつまらねえなぁ。あぁ決まった!絶望の中で死んで貰おう。とりあえずお前は黒幕になって貰おうかな。それを俺らがぶっ飛ばす!大人は邪魔だから消しておくか。」
「は?」
伊勢は指をパチンと鳴らす。
そして世界は動き出す。
「お前そのナイフ……。お前が俺を殺そうとしてた犯人か!原!!」
「嘘……。まさか生徒会補佐部に真犯人がいたなんて……。」
伊勢が先程とは違う、被害者側の怒り声を上げると隣にいたヒロインが驚嘆の声を上げる。
俺の手にはいつの間にか先程のナイフが握られていた。
「ち、違……!」
「何でこんなことしたんだ!!」
「俺はやってなんか……!」
「おい!伊勢どうした!!」
伊勢の仲間達が続々と集まってくる。
相棒の赤髪が俺の姿を見るなり状況を察したらしく大声で叫んだ。
「伊勢を殺そうとしてたのはこいつだ!!全員捕まえろ!!」