心臓が破れそうだ。
今まで学園内の見てきた場所、見たことない場所をひたすらに走りまくる。
伊勢の傀儡に追われ続けて何分たった?
あのまま捕まったら俺はたぶん殺される。
人生初めての死への恐怖から、ひたすらに逃げていた。
また見つかった。
既に棒のようになった足を何とか動かす。
息も整える時間が無いほど追われる。
窓から校舎の外を見ても、たくさんの生徒が見張っている。
完璧にこの校舎に閉じ込められたようだ。
あいつは言っていた。俺に絶望の中で死んでもらうと。
つまり、すぐには捕まえないのだろう。
じわりじわりと追い詰めて、捕まえる。
俺が出来るのは何とか逃げ道を探すことのみだ。
誰が味方かわからない。
とある空き教室に入ると後ろから何かの薬品を嗅がされた。
そして俺は気を失った。
目が覚めると無機質な白い天井が広がっている。
どうやら二人掛けソファーの上で寝かされているようだ。
「目が覚めたかい?すまないね。ああしないと君の声で周りに居場所が気づかれてしまう。」
体を起こすと机を挟んだ向こうの同じようなソファーに座っていた女が呟いた。
「大丈夫。ここは安全だ。私も味方だ。信じてくれ。」
「これが夏休み明けから起きた俺が体験した全てだ。」
「……ありがとう。」
俺は生徒会長の言うことを信じて、女神から聞いたこの世界の危機と伊勢の存在。そして実際に体験した今日までの話をすると、机の上に置かれたお茶のペットボトルを一気に飲み込む。
「俺の話は終わりだ。次は質問させてくれ。ここは何だ?補佐部の連中は無事か?」
「……一つずつ答えさせてもらおうか。ここは学校の地下にとある人物に作らせた隠し部屋さ。私とそいつ以外知らない部屋さ。」
「次に補佐部の面々だが。」
生徒会長が指差した方を見ると大きなモニターが壁に埋め込まれてあった。
モニターに電気が点るとそこには補佐部部長、相模が写し出された。
とても久々に感じる彼の顔を見つめると相模が神妙な顔で口を開いた。
「一つ聞かせてくれ、本当に殺そうとしてないんだよな?」
「殺そうとなんかするものか!あいつに嵌められたんだ!信じてくれ!」
「……わかった。信じるよ。」
女神との最後の言葉を思い出した。
「それに…相模君の主人公としての力は現状あなたに吸われていっています。つまり、潜在的な力では侵入者よりも上にいきます。あなたがこの世界を守ろうと願うのならどんな状況でも、あなたの築き上げてきたものは消えません。消せません。」
俺はちゃんと築けていた……。
俺が築いた物は消えてなかった……。
「ありがとう……。」
ポツリと出た言葉に相模は笑顔で返事をした。
「さっきの伊勢が来てからの話は聞かせて貰ってた。お前に辛い思いをさせていたんだな。申し訳ない。」
「いいんだ。それより現状を教えてくれ。お前はどこにいるんだ。他の部員の奴等は無事なのか。」
「俺は今、会長が作った隠れ教室からこれを発信している。他の部員達もとりあえずは無事だ。先にそちらに向かっている。」
「お前は?」
「俺はこれからこの隠れ教室の中にお前や俺らが籠城しているように見せかける工作をしたらそちらに向かう。」
「一人で大丈夫なのか!?」
「あぁ。……だがここがバレたあとは手がどん詰まりだ。何か考えないとな……。……一度通信終了する。」
プチりとモニターが切れる。
すると、今度は私の番と言いたげに目の前に会長が現れた。
「はっきり言って現状は最悪だ。学園内のほぼ全生徒が殺人未遂犯である君や匿っている補佐部の面々を探している。」
「教師とか警察とかは……出てるわけないよな?」
「あぁ、先程の話通り何故か大人達がいなくなっている。ついでにそれを気付いてる奴もいない。」
「気付いてる奴もほぼいない…。あれ?そういえばみんなどうやって気付いたんだろう」
「補佐部の面々は君の殺人未遂の話を聞いたときに一斉に違和感を覚えだしていたよ。ちょうど私は彼女と一緒に補佐部にいてね。もしあるのなら、君の加護が私達にも伝播したのだろう。本当によかった。」
そう言っていたずらっぽくウインクして見せた。
意外とこんなところがあるんだな。
「さて、原くん。これからどうする、このまま隠れ続けるか?それとも伊勢君をどうにかするか?」
「俺は主人公の力と言うのをあいつから奪ってやりたいです。」
「なるほど……。それじゃあ、私と彼女はその計画に賛成し協力させていただこうかな。」
「ありがとう!…ところで、さっきから言ってる彼女というのは……?」
「そろそろ出て来るだろう。」
すると、足元のタイルがいきなりパカリと開くと頭がニュッと出てきた。
「話は聞かせて貰ってたよ原くん!」
「高井戸先輩!」
いつもの調子で喋る高井戸先輩はそのままの姿勢で話を続けた。
「私の発明品は全てこの下に移送されてある。君の計画に力添え出来る物があるんじゃないのかな?」
そういうと着いてこいと手招きしながらまた、タイルの下に頭を戻したので俺もそれについていく。
下はガレージのようになっており、大きいものから小さいものまで様々な発明品が置かれていた。
「へぇ~。凄いっすね。」
「君の身の上は勝手に聞かせて貰ってたよ。私にもそんな言葉使わなくてOKだよね。」
「わかったよ。じゃあ例えばこの発明品は?」
布が薄いホットカーペットのような物を手に取る。
「それはなんてことない透明になれるマントだよ。その付いてる機械で透明度も調整できるんだ。」
「凄いじゃん!」
「いや、実際は周りに会わせてカメレオンみたいに色を変えて透明に見せるだけだからそんなでもないさ。」
「意外と現実的だな……。これは?」
今度は先端が柔らかい材質で出来たタッチペンの様なものを手渡す。
「これで顔や身体などにタッチするとリアルな痣や傷が出来る。特殊メイクを簡単にする道具だな。」
「なるほど……。」
その後何点か紹介してもらっていたが、ふと目についた腰の高さ程の四角い箱を指差す。
「これはかつて補佐部に実験を手伝って貰ったバーチャル的な体感RPGゲームの進化版。対人戦ができるようになり、更にプレイ人数もこの学園の生徒ならば余裕かな。」
「……!これはもしかしたら……。」
「お気に召して頂いたようだね。」
「あぁ、結構ね。」