魔女集会で会いましょう   作:Kcl_g3

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一人の魔法使いと魔女

 王国お抱えの魔法使いであるキナは悩んでいた。とても、悩んでいた。

 

『どうかこの子を育ててください』

 

それは数分前の事……

 

 家に帰ったキナは玄関横に見慣れない籠があるのに気づき足を止めた。

 

「…………『どうかこの子を――』こんな捨て子は初めてだな……しかし……俺にどうしろと……」

 

 投げ出す方法ならいくらでもある。例えばそう、殺す。簡単だ。まさに赤子の手をひねる様に。しかしこれはキナのなけなしの心が許さない。

 では王城に持っていき適当な者に渡す。

 これはこれで後々が気になりまくる。却下。

 

 そんな風に苦悩しながら籠を抱えていると、中に居た赤ん坊が起きた。

 

 目が合う。

 目が潤みだす。

 キナ慌てる。

 赤ん坊、泣きだす。

 

「ちょ!待て!言ってもわかんねぇだろうが待て!クッソどうすりゃ良いんだ!ああクソ!」

 

 半ばヤケクソになりながら赤ん坊を魔法を駆使したり人生初かもしれない変顔で泣き止ませる。

 

「…………マジでどうすんだよ……」

 

 結局赤ん坊にはコトハと言う名前を付けて育てることにした。

 

 

「あぁ待て!そっちは行くな!うわっ落ちる!」

「そんなとこ入んな!待てって!ああクソ!」

「飲むな!触んな!待て!行くな!あぁ……クッソがぁぁああああ!!!」

 

 

 キナの慣れない育児でも元気にすくすくと育ったコトハは、今年で十二歳を迎える。

 

「父さま!お話ってなんですか!」

「…………コトハ、引っ越しだ。誕生日は新しいお家で迎えような」

「お引越しですか!やったー!」

 

 王が退位し、一人では靴も履けないような王子(ボン)が王位に就いた段階でキナはこの国を捨てることを決めた。

 すでに新しい家もある。そこはこの家に比べて大きく、周囲には精霊も多く、コトハに魔法を教えるには最適だった。

 

 それからまた時は過ぎ、コトハが十八になった頃だった。

 

「先生!見てください!これでどうでしょうか!」

 

 自分の事情を知り、そして年頃と言うことも相まって父と呼べなくなったコトハはいつしかキナを先生と呼んでいた。

 コトハの目の前には三メートル程もある氷像が立っており、それを見据えるキナは大きく頷いた。

 

「うん。いい出来だ。細部の装飾もきれいだし上手にできてる」

「これならば!」

「だが、まだまだだな。氷像で獲ろうものならこのあたり一帯を装飾するのもプラスしないとな」

 

 コトハは魔法の天才だった。スポンジのように吸収し、それを使いこなす技量も持っていた。

 その才能を伸ばすために、キナは全力を注いだ。その一つとして、年に二度試験を行い、合格したら杖を授けると言うものを行っていた。

 そして今年は最後の試験。氷属性魔法の試験だった。

 

「それでは試験を開始する。精霊よ、力を」

 

 精霊の出す課題を次々にクリアし、四人の精霊の最後の試練をこなそうとした時だった。

 

「居たぞー!」

 

 森の奥深くにあるこの家やその周りは、何日も歩かないと人里もなく、普段は風や鳥の声、精霊たちの静かな会話程度しか聞こえない。

 そんな場所に、明らかに人間のものと思しき怒号が飛んだ。

 

「来ちゃったかー……」

「何呑気なこと言ってるんですか!逃げるか迎え撃つかしましょう!」

「もう手は打ったからねぇ」

「え?」

 

 火炎瓶が家に投げられた。しかしその火炎瓶は空中で消えた。

 

「結界を張った。後は諦めて帰るのを待つだけだ。俺らの姿も見えないようにしてある。展開する前に姿見られちまったから引っ越しだな……」

 

 キナも永く生きている。魔女狩りや魔法使い狩りは何度もあった。その時に一度、大切な人も亡くしている。だからこういった「狩り」の風習を嫌っている。

 

「さて、じゃあ早いこと逃げようか」

「え…でも……」

「仕方ないさ。これから四、五年は引っ越しが増えるけど構わないね?」

「構いませんが……」

「じゃあ明日の三時に出るから準備!はい急いで!」

「は、はい!」

 

 それからはキナの宣言通り一年に二、三回引っ越しする慌ただしい年が続いた。

 

 

 四年がたった頃、その当時もっとも大きな帝国の西のはずれにひっそりと暮らしていたキナたちのもとに、ある手紙が舞い込んだ。

 

『貴殿を稀代の大魔導士とお見受けして一つ頼まれて頂きたい』

 

「差出人は?……げっ……」

「師匠?どういたしたのでしょうか?」

「いや……昔の友達から手紙が……」

 

 このころにはコトハは成長と共に老化も止まり、立派…とまでは行かずとも、それなりに腕の立つ魔女となっていた。

 

「良いじゃないですか。行ってくれば。留守番していますよ?」

「そうか……じゃあ、行ってくるわ」

 

 内心は途轍もなく行きたくなかったが、コトハに言われるまま翌日には王都に向けて発った。

 

 発ったとは言ったものの、王都の前までは当然ながら飛んで行くため半日もかからない。

 朝に出て、翌朝には戻る算段だったので早く済まそうと若干急ぎ足になっていた。

 王都を歩き、王城の目の前まで来たところで手紙を忘れていたことに気付いた。

 戻ろうとも思ったが、それはそれで時間がかかりそうなのでやめた。キナは面倒なことは雑に省く癖がある。

 

 王城の門には当然ながら門番が立っていたが、姿を消せば問題ない。手紙を持っていればこんな風にこそこそと――堂々とはしているが――姿を隠す必要などなく入れたものを。

 

 ぼちぼちと王城を歩き、目当ての人物の部屋を探す。

 歩き始めて十五分ほどで飽きて結局魔法で探すことにした。

 一分も経たずに目当ての人物は見つかり、その部屋に向かう。

 

 開けた扉に凭れる様に立ち、中の人物に声を掛ける。

 

「おい、何の用だ」

「お?もう来たのか。早いな」

「呼び出した張本人が何言ってんだか」

「それもそうだ。まぁ入れ。久々の再開だ。酒でも飲んで昔ばなしでもしようじゃないか」

「明日の朝までに帰れるのならそれでも良いぞ」

 

 中の優男はキナを手招き、中のソファに座る様に促す。

 

「で、改まった手紙なんて寄越してどうした?ディル帝国元首サマ」

「そんな言い方無いじゃないか。昔のようにギナンと呼んでくれ」

「王サマにそう言われたらしょうがないな」

「それもやめてくれよ……」

「話戻すが、なんであんな手紙を?」

 

 あの手紙を出したこの男は、ディル帝国初代国家元首のディル・ギナン・メルクリウスだ。

 この男とキナは旧い友人で、ギナンがまだ年端もいかない少年だった頃に王宮で暫く共に過ごしたのである。

 

「いやぁ、ゴルボ山の麓に魔女の生き残りが居るって噂があって、確認に行った調査団が君を見たと言ってね。試しに手紙を寄越したんだ」

「それだけか。たいそうな手紙を出して中身がないなら居る理由もない。帰らせてもらうぞ」

 

 そう言ってソファから立ち上がろうとした時だった。

 

 ガチャン。と聞きなれない音を立ててソファから鉄と思しき素材でできた拘束具に身体を拘束された。

 

「……一体どういうつもりだ……?」

「言っただろう?魔女の生き残りの噂が立っていて民が不安に駆られているのだ。この場で殺して首を晒せば民の不安は払拭できるとは思わないかね?」

「……それは俺と戦争すると言う事でいいな?」

「勘違いしないでほしい。私はただ民の安全が欲しいのだ」

「もういい。死ね」

 

 涼しい顔で言うギナンに呆れ、怒り、一言だけ言って魔法を爆発させる。

 もともと居た部屋は跡形もなく吹き飛び、城の一角に大きな穴が開いた。

 

 立ち込める砂煙の中で一つ溜息を吐いて飛び去ろうとした時

 

「ふふっ、ははっ、あははは!」

 

 砂煙の中からあの優男の笑い声が聞こえた。

 

「驚いたかい?その昔君が作った魔法を無効化する盾さ!君の残した魔法兵器のお陰でここまで国が拡大したことの礼を言うのを忘れていたよ……」

「魔法……兵器?」 

「あぁ、そうだった。君は自分の研究が何に使われているのか知らなかったんだよね。まぁいいや。とにかくありがとう。じゃあ次は、死んでくれるかい?」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。自分の研究が何に使われていたかなんざ知ってる。なんで残ってんのかが知りてぇんだよ」

「あぁ、僕が憶えていた。こう見えても僕は天才でね。君が僕に秘密で教えてくれた研究施設から頂いたよ」

「そうだったな。ガキだからって油断してた。じゃあ、死ね」

 

 の理論の弱点はその理論を完成させたキナが一番よく理解している。

 力魔法を一点に集中させて盾の要である宝玉部分にぶつける。

 一瞬で盾は砕け、ギナンが無防備になる。

 その瞬間にギナンの座標にピンポイントで爆破魔法を撃つ。

 刹那、口の中に鉄の味が広がった。それから数瞬遅れて背中に大きな痛みが広がった。

 

「ッ!ぐぁ!」

「ははは……情けないなぁ。稀代の大魔導士様ぁ」

「ッはぁ…はぁ……」

 

 切られた。そう理解するまで数秒を要した。

 背中を切られるのなんて何時ぶりだろうか。あぁ懐かしい。百年前、このガキ(ギナン)のいくらか前の王の時は馬鹿やったものだ。

 懐かしい感覚が背中を走り、本能を呼び覚ます。

 

「あぁ……懐かしい……数百年ぶりのこの感覚……」

 

 口に出すと自然と笑みがこぼれた。醜悪で、歪んだ笑みが。

 

「最高だ……あぁ最高だ……さぁもう一度最初からやろうじゃないか」

 

 目に見えてギナンが狼狽えている。先程の一太刀で殺すつもりだったのだろう。無理なことは分かっているだろうに……いや、分かっていなかったのか。

 だがそんなことは今のキナには些細な問題でしかない。

 

「さぁ、殺し合いだ」

 

 言って、手元に氷で剣を作り出しながら吶喊する。

 流そうと剣の側面で受けられたので剣を分解し、破片を飛ばし、刺す。

 蹲り、呻くガキを蹴り飛ばし、壁が崩れる。

 飛んだ先で寝ているガキの髪を掴み、顔を上げさせる。

 

「ほら、どうした。殺すんじゃないのか?殺さないと民が安心できないんじゃないのか?」

 

 言って頭を揺さぶる。

 

「無視か。じゃあいい」

 

 軽く上に投げ、落ちてきたところに合わせて腹を抉る様に蹴る。

 気持ちいい程に飛び、庭まで落ちた。

 上から眺めていると、片腕を抱えて走って行った。

 

「逃げるなよ楽しくない」

 

 ギナンの目の前に移動し、走りくるギナンに合わせて右の上段を入れる。顔に綺麗に入った。

 

「殺すんじゃないのか?アレはただのハッタリか?あ?」

「ゆ……許し」

「断る」

 

 ギナンの言葉を遮り拳骨を入れる。

 

「痛いか?苦しいか?辛いか?」

 

 返事どころか反応もなくなったギナンから興味がなくなったキナは、周囲を取り囲む兵士たちに初めて気が付いた。

 

「あれ?君主がタコにされてんのに見てるだけ?俺が自信もって作った魔法兵器持ってるのに?面白くないなぁ」

 

 そう言って醜悪に笑うキナは、自分の背中の傷が開き、悪化していることに気付くことが出来なかった。

 

 

 焦土と化した王都。もともと城のあった場所で高笑いを上げる一つの影があった。

 

「くっ、ははははははははは!あぁ……あぁ……久しいなぁ……あぁ……ここまでの気分の高揚なんて百と数余年ぶりだ……見ているか……王よ……あぁ……」

 

 そうして笑い、笑いつかれたようにその場に転がり、それからその焦土には、風の音しか残らなかった。

 

 

 夜が明ける少し前。毎朝の日課である散歩に出かけようとしたコトハに、いやな風が吹いた。

 

「……?王都の方角?」

 

 コトハの脳裏を一瞬嫌な想像がよぎった。

 

 断頭台に登り、今にもその命の灯が吹き消されそうなキナの姿が。

 

 大きく頭を振ってそんな想像を振り払う。

 あの人は強い。きっと大丈夫だ。

 

 しかし、一度膨らんだ想像は、大きくなってコトハを包んでいった。

 そして結局不安になって王都に飛んだ。

 

「大丈夫……来るななんて言われてないし……ただちょっと寂しくなっただけだから……」

 

 ぼそぼそと口に出して自分に言い訳をしながら向かっていた。

 

 王都の少し前に位置する丘を越えたところでコトハは言葉を失った。

 

 一週間ほど前に見た時のような活気あふれる王都の姿はどこにもなく、音が一切合切消え、王都の中心地にあった大きな城は、もともとそんなものは無かったように綺麗に更地になっていた。

 

「お…お父様……」

 

 幼いころに辞めたはずの呼び方に戻っていることにも気付かず、泣きそうになるのを堪え、焦土と化した王都に向かった。

 

 家々の瓦礫がかろうじてここに街があったことを示しているものの、もともとこの場所に街があったとは到底思えない。

 

 首の無い女性の死体。腹に大穴の開いた子供の死体。下半身の無い兵士。街の至る所にその街で生活していた人々の死体が散らばっていた。

 

 風の音しかしない。そんな静寂の中に、かすかな笑い声が聞こえた。

 

 その声はコトハのよく知る、最愛の人の声で間違いない。と、コトハ自身は感じたのに、感じたはずなのに、行かねばならないはずなのに、本能が、生き物であるが故の潜在的な意識が、その場所に行くことを強く拒否した。

 

「私は……私はお父様のところに行かないと……いかないと……」

 

 声に出し、歩を進める。一歩、また一歩と進むごとに、本能が強く、強く拒否していく。

 

 もともと王城があったであろう場所で、目当ての人物は笑っていた。

 

「お父様……?」

「あ?コトハ?なんでここに?」

「お……お父様が心配になって……」

「あっはは!コトハは心配性だなぁ……ほら、俺はこんな、に……あ?」

 

 自分が正常であることを示そうと手を広げてコトハを迎えようとして、大きくよろけて瓦礫の上に倒れこんだ。

 

「あ、れ?な、んで?え?」

 

 コトハは静かに、倒れたキナを抱きかかえた。

 

「お父様…?これは全部お父様が?」

「あぁ。何時かぶりに本気で暴れたんだ。すごい気持ち良かった」

「そう……この傷は?」

「この……傷?」

「そう。背中の大きな傷」

「あぁ、これは最初に不意打ち食らっちゃってね」

「そう……お父様?お父様は助かるよね?死んじゃわないよね?大丈夫だよね?」

 

 あふれそうになる涙を堪えながらコトハが聞く。

 

「……多分もう無理だなぁ……」

 

 コトハの頬を撫でながらキナが言った。

 

「なんで?なんで?なんで?だって、今、普通に、お話、できてる、のに」

「…………ごめんな」

「なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで……」

 静かに言ったキナの言葉で、コトハの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

「なんで、お父様が、なんで」

「コトハ。聞いてくれ」

「……」

「どうか。どうかこの国の人たちを恨まないであげてくれ。誰も悪くないんだ。誰も。誰も……」

「じゃあ、じゃあなんでお父様は……お父様は死ななきゃいけないの?誰も悪くないなら……なんで……なんで……」

「……ごめんな……」

 

 歯を食いしばり、顔を歪めて静かに泣きながらキナは何度目かの謝罪をして、コトハを抱きしめた。

 

「これで終わりだ。何もかも」

 

 抱き締めたままにキナが言う。

 

「コトハ。どうか幸せに生きてくれ」

 

 

 最後にそう残して、キナは灰となった。

 

 

 

 

 一夜にして消えた幻の帝国があったその土地の。西の果ての深い森の中で、稀代の魔女はひっそりと生きていた。

 

「……そろそろ時間ね」

 

 かつて栄えたその国は、たった一人の魔法使いの手によって消えたと伝えられている。

 そしてその魔法使いには、娘がいたという。

 

「お父様。行ってきます」

 

 かつての師であり、たった一人の父に祈りを捧げ、魔女は初めての集会へ向かった。

 

 すべてを終わらせた魔法使いの娘が命を創り出す魔法を見つけたというのは一種の運命なのかもしれない。

 




ドーモ、ミナ=サン。Mattakaです。
お久しぶりの投稿なのですが、死ぬ前に書き残したものが残っていたので軽く見直して投稿します。
もしかしたら再編集するカモ。
ではではお久しぶりに読んでいただきありがとうございました。
また次も読んでいただけると幸いです。ではでは~
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