けど、なぜ? 彼が突然転校してきたのだろうか。有菜は疑問に思った。人気絶頂中の人気アイドルがなぜ、転校してきたのか。
あまりに出来過ぎではないだろうか。
放課後、生徒会での活動で有菜は生徒会長である姉――隼子にその事を聞いてみた。※原作とは異なり、記憶を失っていたりはしないです。隼子は有菜の姉で、生徒会長です。三年生です。
「どうした? 有菜」
姉である隼子は読んでいた新聞紙から視線を有菜に移す。鋭い目付き。長い黒髪だった。どことなく知的であり、学園の制服を着ていなければ女子大生か社会人に見間違えても不思議ではないだろう。
「西森君の事、何か知ってない?」
姉である隼子は生徒会長であるという事以上に、学校政治に深いバイパスを持っていた。学園の影の権力者と言ってもいい存在だった。
「ああ。彼の事か――彼は――」
「あっ。いたいた。こんなところにいたんだ」
――と、その時だった。話題にしていた渦中の人物が姿を現す。金髪の美青年。染色は学園の風紀に違反しないだろうか。アイドルだからやはり特別なのだろうか。
ともかくとして、西森柚咲緒が姿を現す。
「……西森君」
「……いやいや。女子生徒を巻くのに苦労したよ。約一名、巻けなかった人がいたけど」
「スーハー! スーハー! 柚咲緒君の吐いた空気……スーハー! スーハー!」
柚咲緒の後ろにはそう言って深呼吸をしている高城さんの姿があった。
「……君、足速いんだね」
呆れたように言う。高城さんは瞬間移動能力の保持者だ。巻くのは無理というものだろう。
「……生徒会室がどこか聞きたかったんだけど、どうやらここがその生徒会室のようだね」
「……なんだよ。キザ野郎。俺達の生徒会室に何の用だ?」
どこからともなく、奈緒樹が姿を現す。恐らくは透明化の能力を使っていたのだろう。
「わっ。びっくりした。いつからいたの」
そう、有菜。
「……最初からだよ」
奈緒樹の能力は透明化能力だ。透明化能力。そんな能力、思春期の男子が得たとしたら何をしでかすかわからない。あんな事やこんな事。こんな事にも悪用できてしまうのだ。
(けど怖い。この人。私の着替え覗いてたりしないよね)
有菜はそう思った。
「心配するな。お前の着替えなんか頼まれたって覗かねーよ」
「人の心まで読めるの!」
「……そんな能力は別にねーよ。ただ顔に書いてるだけだ」
――と。そんな事を今は言っている場合ではなかった。
「それで、どうして柚咲緒君が生徒会室に」
「……僕は生徒会長に用があったんだ。乙坂隼子さん。あなたに」
「……私にか」
「もう知っているんですよね。僕がなぜ、この学園、星ノ海学園に転校してきたのか」
「……ああ。知っている」
「なら話が早いです」
「ちょっと待って。どういう事なの。全然要領がわからないんだけど」
「察しがわりーな。つまり、そこのキザ野郎は俺達と同じ能力者だって事だよ」
そう、奈緒樹は言った。
「そう。僕は能力者なんだ……いや、正確には能力者らしいという事だ」
「能力者らしい? 自覚症状がないの?」
「うん。僕の能力は「発火能力」。物を燃やしたり、炎を放てる能力――らしい。だけど、それはわかってない、人から聞いた話なんだ」
「人から聞いた話?」
「覚えてないんだ。僕は。能力を使った前後の記憶が。どこか別の人格があって、それに切り替わるような」
「二重人格だな」
そう、隼子は言った。
「二重人格!?」
「ああ。普段は眠っている人格が能力を発動した場合、人格が切り替わるのだろう。そして人格が切り替わっている時の記憶は残らない」
「人から聞いた話だと、その時の僕はすごく攻撃的で凶暴らしい。だから怖いんだ、僕は。もし仕事中にその人格が発動したら、もうこの仕事を続けていけないかもしれない」
「そ、そんな! 柚咲緒君をテレビで観れなくなるなんて! そんなのダメダメ! 花子死んじゃうわ!」
そう、花子は喚いた。熱烈なファンからすれば死活問題なのだろう。
「……それで、君は我々にどうして欲しいのだ?」と隼子。
「僕を止めて欲しいんです。可能な限りでいい。僕の人格が切り替わった時、それを押さえつけて欲しいんです。その為に、この生徒会に入れて欲しい」
「ふーん。そうか。我々生徒会は常に新しい会員を募集している。特に能力者の会員は大歓迎だ。私の名は乙坂隼子。西森君。君を歓迎しよう」
「はい……ありがとうございます」
西森君は今まで不安だったのか涙ぐんだ感じで言う。感極まるものがあったのだろう。
「有菜、ボールペンと入会用紙を。それから印鑑はないだろうから拇印でいいだろう」
「はい」
有菜は言われて用意をする。
「に、西森君と同じ生徒会で活動できるなんて、花子。まるで夢のようだわ!」
「ちっ。うざいキザ野郎が入ってくるなんて」
露骨に舌打ちをする友利。
と、その時だった。
「……誰だ!」
隼子は叫ぶ。
「ど、どうしたのお姉ちゃん! いきなり」
「……今、気配を感じた。誰かが聞き耳を立ててた気配を」
「……まさか。考えすぎじゃない」
「そうだといいんだがな」
隼子の顔付きは厳しい。それがただの杞憂であって欲しいと願うばかりだった。
「・・・・・・・対象を確認しました。西森柚咲雄です」
暗がりの中、一人の少女が独り言のように呟く。
いや、通信機のようなものを耳につけている。会話だろう。
「・・・・・・・やはり対象は星ノ海学園に移っていた様子。その他能力者数名を確認。我が機関にとって有益な実験材料(サンプル)となる事でしょう」
そう、不気味な会話が通信機越しに行われていた。