「くしゅん」
有菜はくしゃみをした。
「なんだ? 風邪か?」
「う、うん。昨日寒かったからかな」
そう、生徒会室で有菜は言った。
「へー・・・・・・馬鹿は風邪を引かないって嘘だったんだな」
「・・・・・・くっ誰が馬鹿よ。誰が」
イケメンでも言って良い事と悪い事があろうに。
「どうせお前は能力使ってカンニングしてるから良い点とってただけなんだろ」
「う、うるさい」
の、能力を使ってカンニングなんて、たまにしかしてないわよ。たまにしか。
って、あるんかい、と突っ込みが飛んできそうだった。
本当。友利奈緒希という人間は顔は良いが嫌みな奴だった。
ともかく、現役のアイドルである西森柚咲雄がこの星ノ海学園に入学してきて、そして我らが生徒会に入会したという、激動の一日が終わろうとしていた。
「ねぇ」
その日の事だった。有菜は生徒会で仲の良い高城と一緒にいる事が多い。
その女子生徒の名は三嶋遙といった。気さくで話しやすく、誰とでも仲良くなれそうな、人当たりの良い少女だった。
「高城さん、乙坂さん。この近くにおいしいパフェ屋さんができたのってしってる?」
「・・・・・・・へー。そうなんだ」
学校の通り道になにやら人だかりのできていた店ができていた事を思い出す。
「それで、パフェが一品無料になるクーポン券を持っていて、もしよかったら一緒にいかない?」
「・・・・・・無料」
タダ。無料。素晴らしい言葉の響きだ。勿論、タダより高いものはないとも言うが。
その日は生徒会の活動もなく、断るだけの理由は存在しなかった。勿論、女子高生からすればスタイルの維持をする上で甘いものは天敵ではあるが、それと同時に甘いものの誘惑というものはいかんともしがたいものがあった。
「高城さん、どうする?」
「いいじゃない。パフェ。私、甘いモノは大好物よ」
高城は満面の笑みでいった。乗り気なようだった。
断るだけの理由を二人は持ち合わせていなかった。
「いらっしゃいませ」
女性店員、煌びやかな制服に身を包んだウエイトレスが多く待ちかまえていた。店内は学校帰りとおぼしき学生で多く賑わっていた。勿論回転間もないという事により物珍しさというのも一因ではあると思うが、大変繁盛している様子。
「ご注文は何にしましょうか?」
ウエイトレスがそう聞いてきた。
初めて入った店だ。何を頼めばいいのか皆目見当もつかない。とはいえ、わかりやすく、おすすめだとか、人気ナンバーワンとか、メニューに書いてあった。無難にそのメニューを注文する事となるう。
「はい。デラックスチョコレートパフェを三つですね、少々お待ちください」
しばらくしてチョコレートパフェが三つテーブル席に届く事になる。
「お待たせしました。デラックスチョコレートパフェ三つになります」
ウエイトレスが次々とパフェを並べる。
「わー。おいしそー」
と、有菜。
早速、一口、口に運ぶ。おいしそうではない。実際においしかった。
「おいしいー!」
口の中に甘みが広がる。甘みは確かにダイエットの天敵かもしれないが、刹那の快楽に酔いしれる。
ーーしかしである。
「あれ?」
突如、世界が暗転する。意識が朦朧とした。
意識を失う寸前に見えたのは、普段見せていた表情ではない。どす黒い表情。別人のような表情をした三嶋咲子(なんて名前したっけ?)の表情だった。
「・・・・・・・おかしい」
生徒会室で怪訝な表情をする隼子の姿があった。貧乏ゆすりのように足踏みをしている。
「どうかしたんですか?」
西森が聞く。(どうでもいいんですが作中で本名黒羽で芸名は西森にする意味はほとんどないと思うので西森で統合します。後、隼子の能力はタイムリープだといちいち戻って時間軸を戻してまた書くとなると大変手間ですので適宜に能力変更します。視力を失う設定も同様)
「昨日有菜が帰ってこなかった」
「有菜ちゃんが、どうして?」
「わからん。なんの連絡もなしだ。LINEで連絡をしても既読もつかない」
流石今時の女子高生だ。当然のように情報通信機器を使いこなしている。LINEとか具体名を出すのはどうかと思うがこのまま続ける。
「それから高城はどうした?」
「ああ・・・・・・あいつならきてねーよ。学校にもきてないみたいだ。今日、朝礼の時に仲良く欠席してたからな。なにかあったのかもな」
普段と変わらない口調で言った友利ではあったが、その表情には若干の陰りが見えた。態度にはあまり表さないが、彼なりに何かを感じ、心配している様子だった。
ーーと、その時だった。軽快なリズム音が聞こえる。スマートフォンの着信だった。
「私のだ」
見ると、そこには妹である有菜の名前が書いてった。
「妹からだ」
当然のように出るに決まっていた。
「私だ」
(貴様が乙坂隼子か)
「誰だ!?」
機械的な音声。ボイスチェンジャーで変声したかのような不気味な声だ。
(貴様の妹ーーそれから眼鏡の女は私たちが預かっている)
「なんだと!?」
「どうしたんですか!? 会長」
「・・・・・・なんでもない」
否定するが、表情の深刻さから何らかの緊急事態である事が容易く汲み取れた。
「要求はなんだ?」
(そこに西森柚咲緒がいるだろう。代われ)
「なっ!?」
(要求を断った場合、貴様の妹のこの眼鏡の女の無事は保証できないと思え)
「くっ」
圧倒的に不利な立場だ。誘拐をするような卑劣漢の言いなりになるしかないという状況に屈辱を覚えるが、従わざるを得ない。
「西森、代われ」
「はい・・・・・・・もしもし、え? は、はい。わかりました」
しばらくして、スマホの通信を切る。
「・・・・・・・どういう内容だった?」
「残念ながら、それは言えません」
西森は表情を暗くし、首を横に振った。
「そうか・・・・・・・」
その表情からもはや会話の内容は汲み取れた。
『一人で来い。誰にも会話の内容を話すな。さもなくば・・・・・・・』
といったところだろう。
「すみません、僕は行きます」
「待て! 一人で行く気か!」
そうなれば敵の思う壷だった。
「僕は僕のことで、誰かが巻き込まれるのを黙って見ていられないんです」
「西森!」
西森は走り出す。
生徒会室には二人だけが取り残されていた。